孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベルギー  「ブルカ」「ニカブ」を公共の場で着用することを禁じる法案可決

2010-04-02 22:28:12 | 世相

(“flickr”より By s_sultana06
http://www.flickr.com/photos/41509536@N04/3959783872/)

【「美しいところは人に見せぬよう」】
イスラム女性の「ブルカ」「ニカブ」、あるいは髪を覆うスカーフという衣装は、ひと目見て誰にでもわかるだけに、イスラムという宗教を象徴するもの、西欧社会とは異質なものとして、しばしば社会問題の焦点となります。

アフガニスタン女性が着用する、テント状の布で全身を覆い目の部分のみ前が見えるように網状になっているものを「ブルカ」、眼の部分のみ銃眼のように残して、他を頭からすっぽり覆う形ものを「ニカブ」と称していることが多いようですが、正確なところは私にはよくわかりません。
なお、「ブルカ」あるいは「チャードリー」については、
“「ブルカ」三つの謎(http://www003.upp.so-net.ne.jp/fuimei/Afghan-fashion-1.htm)”に、その歴史的経緯、アフガニスタン社会における意味合いなども含めて詳しく解説されています。

こうした顔や髪を覆うべール(ヘジャブ)が着用されるのは、イスラム教の聖典コーランに「美しいところは人に見せぬよう。胸にはおおいをかぶせるよう」と書かれているからと言われています。
同時に、男性側の、女性を家の中に留まらせたりし、行動を厳しく制限・管理しようとする意図とも重複し、それは、女性側からすれば、ヘジャブで顔・髪あるいは全身を覆うことは貞節の証ともみなされるようにもなります。
一方では、こうしたヘジャブは、女性の権利を抑圧するもの、女性隷属の象徴とみなされることもあります。

【イスラム世界での問題】
イスラム教徒が大半を占めるものの、政教分離の世俗主義を国是としてきたトルコでは、イスラム主義の拡大とともに、公の場でのスカーフ着用がこの世俗主義を揺るがすものの象徴として問題視されています。
髪を覆うヘジャブが一般的なエジプトでは、ニカブ着用女性の増加が、イスラム原理主義の台頭の風潮を反映あるいは助長するものとして問題視されています。

【欧州での問題】
イスラム移民が増加している欧州でも、「ブルカ」「ニカブ」についての議論が表面化しています。

****ベルギー:「ブルカ」禁止 欧州初、法案成立へ******
イスラム教徒の女性が顔を覆う衣装「ブルカ」や「ニカブ」を公共の場で着用することを禁じる法案が先月31日、ベルギー下院内務委員会で可決された。22日にも開かれる本会議で可決、成立すれば、ベルギーは欧州で初の着用禁止国となる。欧州では「女性隷属の象徴」としてフランスなどでも禁止法案提出の動きがある。背景には、中東からのイスラム原理主義の浸食への危機感があるが、「個人の自由」とどう折り合うのか、欧州は解答を迫られている。
法案はブルカやニカブを名指しはしていないが、路上や公園、文化施設や公共機関などの「公共の場」で「顔をすべて、または、ほとんど隠す衣装」の着用を禁じている。違反者には15~25ユーロ(約1900~3200円)の罰金または禁固1~7日の刑罰を定めている。顔の見えるイスラムのスカーフ(ヘジャブ)などは対象外。

禁止派のジョルジュ・ダルマーニュ議員は毎日新聞の取材に「自動車は右側通行と定めた交通規則と同じで、往来の自由には制限がある」と説明。ブルカなど顔を隠す行為は「公共の場で誰か分からなければならないという共生の考えとの断絶を生み、社会不安を呼んでいる」として禁止の正当性を強調する。
禁止法制化の背景にはブルカなどで顔を隠すイスラム教徒女性が欧州で目につき始めた事情がある。約40万~50万人とされるベルギー在住イスラム教徒のうち、ブルカやニカブの着用者は推定数百人。既に首長権限で着用を禁じている自治体もある。
ヘジャブ姿の女性の中にも「ブルカはイスラムとは関係がない」(マリカ・ハミディ欧州ムスリム・ネットワーク事務局長)とのブルカ反対論がある。
一方、「ベルギー・イスラム教徒執行機関」副議長はAFP通信に「着用は個人の自由」と主張、「明日はヘジャブ、あさってはシーク教徒のターバンとなり、いずれミニスカートも禁止されかねない」と警鐘を鳴らす。

政教分離を国是とする仏でのブルカ禁止の動きが「イスラム教対国家」の構図を浮かび上がらせているのに対して、ベルギーでの議論は公共秩序・安全の維持や、女性の権利保護に集中している。
ベルギー国会では着用禁止が多数派のため本会議で可決、成立の公算が大きいが、行政裁判所にあたる国務院が留保を付ける可能性もある。フランスでは国務院が先月30日、ブルカ着用の全面禁止は憲法違反の危険性があると判断した。【4月1日 毎日】
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「ブルカは女性の隷属の象徴だ」と主張するサルコジ大統領のフランスでは、国民議会(下院)の調査委員会が1月26日、イスラム教徒の女性が顔を覆う「ブルカ」などの着用を公共の場で禁止する法制度を整備するよう議長に提言しました。
学校などの公の場でのスカーフ着用禁止が、政教分離を国是とする“国家”と、イスラムの信仰を重視する“宗教”の対立を呼び起こしていますが、そうした理念的な問題とは別に、イスラム移民増加に伴う社会不安・摩擦の増大が、保守派のサルコジ政権の「フランス人を定義し、国民の誇りを再確認しよう」との呼びかけや、「ブルカ」着用禁止への流れを加速させているように見受けられます。
なお、前出毎日記事にもあるように、フランスでの「ブルカ」着用禁止法案については、国務院が「違憲」の危険性があるとの判断を下しています。

****フランス:ブルカ全面禁止は「違憲」 国務院、首相に伝達*****
イスラム教徒の女性が顔や全身を覆う衣服「ブルカ」などについて、フランスでの法的禁止の是非を審議していた同国の「国務院」(行政最高裁判所)は30日、道路などを含む公共の場所での全面禁止は、憲法違反の危険性がある、との判断をフィヨン首相に伝えた。
同院は政府の諮問機関で行政訴訟の最高裁判所の役割を兼ねるほか、新法の是非などを助言できる。ブルカ禁止法案を検討するフィヨン首相が1月、同院に判断を求めていた。

判断で同院は、ブルカの全面禁止は人権侵害の可能性があると指摘。一方、治安上・本人確認上の観点から、学校や裁判所、病院、銀行、スポーツ大会など一部の場所では顔の露出を要求できるとして、部分禁止への同意も示唆した。だが同時にその場合も、違反者には罰則を与えるべきではなく、女性団体に相談するなど、柔軟な対応を行うべきだとも主張した。
仏では保守派のサルコジ大統領が「ブルカは女性隷属の象徴だ」と主張。一部の保守派議員は、ブルカ全面禁止の法案を検討中だった。これら議員は30日、「国務院の判断に関係なく(全面禁止)法案は提出する」とも主張している。【3月31日 毎日】
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【共存・統合に向けて】
様々な議論が可能な問題ではありますが、常識的な見方からすれば、顔を隠すという行為は非イスラム国にあっては極めて不自然な行為です。
顔が見えないことは、周囲の人を不安にさせることもあります。
何より、コミュニケーションを拒絶しているようにもとられ、お互いの理解を困難にします。

イスラム移民が欧米社会で生活するうえでは、その社会の価値観を一定に尊重し、共存・統合に向けてお互いの理解が可能になるように努めるべきでしょう。
「ブルカ」や「ニカブ」という、ことさらに“壁”をつくるような衣装は、共存・統合を阻害します。
移民排斥的な流れからの「ブルカ」「ニカブ」反対ではなく、逆に移民・イスラム教徒と社会の間に壁をつくらないために、イスラム教徒の側に自粛を求めたいところです。

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