孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リトアニア  ロシア飛び地をめぐり、ロシアとの間で新たな火種  欧米は対ロシア制裁を維持できるか?

2022-06-21 23:15:51 | 欧州情勢
(【2017年4月3日 毎日】)

【「リトアニア国民が痛みを感じる形で対応する」】
欧州でロシアをめぐり新たな火種になりそうな事案が。

ロシアはバルト3国のひとつリトアニアとポーランドにはさまれバルト海に面した「カリーニングラード」という飛び地を有しています。

面積は15,000㎢ということで、四国(18,800㎢)より一回り小さいぐらいですから、広大なロシア本土に比較すると極めて微小な地域。

ただ、ソ連時代は巨大な軍事施設があって完全に封鎖されていた閉鎖都市でしたが、現在もロシアの対NATO軍事戦略にとって非常に重要な位置にあります。NATO側のミサイル防衛構想への対抗策として短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を配備する計画が度々表明されています。ロシアにすれば、欧州の喉元に突きつけたナイフのような存在でししょうか。

ロシアからその飛び地カリーニングラードへ向かう貨物輸送はリトアニアを経由していますが、欧州にあって対ロシア強硬派の筆頭格のリトアニアがEU制裁対象の貨物を積んだ列車の国内通過を禁じ、ロシアが猛反発しています。

****ロシアがリトアニアに抗議、飛び地への列車通過拒否で****
リトアニアが、ロシア本土から同国西部の飛び地・カリーニングラード市に向けた欧州連合(EU)制裁対象の貨物を積んだ列車の国内通過を禁じた問題で、ロシア政府は20日、貨物輸送が速やかに再開されなければ、ロシアは国益を守るために措置を講じると警告した。

ロシア外務省は、リトアニア特使を呼んで抗議を伝えた。「公然たる敵対行為」であり、直ちに撤回するようリトアニア政府に要求した。

一方、リトアニアのランズベルギス外相は記者団に対して、輸送制限は、EUの制裁に沿った対応だと反論。「欧州委員会と協議し、そのガイドラインに基づいて行われている」と語った。

ランズベルギス外相は、リトアニア鉄道は17日から鉄鋼製品などEUの制裁対象の商品を輸送しないよう顧客に通知したと説明した。【6月21日 ロイター】
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****ロシア、EU大使呼び出しへ 飛び地の列車通過拒否巡り****
ロシア西部の飛び地カリーニングラード州のアリハノフ知事は20日、リトアニアによる欧州連合(EU)制裁対象品の国内通過拒否を巡り、駐モスクワEU大使を21日に呼び出すと明らかにした。

アリハノフ氏はロシアのテレビ局に「もちろん外交手段により解決できる状況だ。マルクス・エデラー駐ロシアEU大使があす外務省に呼ばれ、この件に関する適切な条件を伝えられる」と述べた。

EU大使呼び出しについてロシア外務省からの確認は取れていない。

ロシア政府は20日、貨物輸送が速やかに再開されなければ、ロシアは国益を守るために措置を講じると警告した。【6月21日 ロイター】
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「もちろん外交手段により解決できる状況だ」というのは、裏を返せば、「もしロシアの要求が満たされない場合は、痛い目にあわせるぞ」ということでしょう。

****ロシア、リトアニアに警告 飛び地への貨物列車通過禁止で****
ロシア西部の飛び地カリーニングラード州に接するリトアニアが、欧州連合の制裁対象となっている貨物を積んだ列車の国内通過を禁止したのを受けて、ロシア安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は21日、リトアニアに対し、深刻な結果を伴うことになると警告した。
 
ロシアの通信社が報じたところによると、パトルシェフ氏はカリーニングラード州で開かれた地域安保会議で、「ロシアはこうした敵対行為には必ず対応する」と述べ、「適切な措置が近いうちに講じられる」予定であり、「その結果はリトアニア国民に深刻な負の影響を及ぼす」と強調した。

同日にはロシア外務省も、マルクス・エデラー駐モスクワEU大使を呼び出し、本土とカリーニングラード州間の貨物輸送に対する「反ロシア的な制限」に抗議した。

ロシアはリトアニアに対し、制限の即時解除を要求している。これに対し、EUおよび北大西洋条約機構に加盟しているリトアニアは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたEU制裁の一環だと説明している。(後略)【6月21日 AFP】
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パトルシェフ書記は“リトアニア国民が痛みを感じる形で対応すると警告した”【6月21日 ロイター】とも。

“深刻な結果を伴うことになる”“リトアニア国民が痛みを感じる形で対応”というのがどういうものか・・・・。
EU、NATO加盟国であるリトアニアと軍事的に問題を起こせば、ロシア対NATOという極めて深刻な事態になりますので、ウクライナで手一杯のロシアがそこまでやるとは思いませんが・・・・。

ロシアが有する対欧州戦略の切り札である天然ガスについては、リトアニアはすでにロシアからの購入を停止しています。他の欧州諸国にも脱ロシアを働きかけています。

****ロシア産ガス輸入を停止 リトアニア、他国にも要請****
バルト3国の一つであるリトアニアはロシア産ガスの輸入を2日に停止した。3日までに発表した。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、エネルギーのロシア依存脱却を目指していた。

ナウセーダ大統領は「今月からリトアニアにロシア産ガスは存在しない。われわれができるなら、残りの欧州もできる」とツイッターに投稿し、他の欧州諸国も輸入をやめるよう要請した。
 
リトアニアのエネルギー省は声明で「ロシアのガス大手ガスプロムから供給を受ける欧州連合(EU)加盟国で初めて、ロシア産ガスからの『独立』を果たした」と強調した。

リトアニアは、旧ソ連から独立した国家。【4月3日 共同】
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リトアニアにすれば、ガスの問題でのロシア依存を断ち切ったので、強気に出ているということでしょうか。

【ロシアの脅威を切実に感じ、対ロシア強硬策を求めるリトアニア】
旧ソ連によって併合された歴史を持つリトアニアは、ソ連・ロシアとは“遺恨”ある関係で、旧ソ連が揺らぎ始めたとき、いち早く独立回復を宣言し、旧KGB特殊部隊がリトアニア市民を殺害する事件も起きています。

それだけにロシアへの警戒感は極めて強く、ロシアのウクライナ侵攻前からロシアの脅威を訴えていました。

****リトアニア、米軍の常駐を要請へ=大統領***
リトアニアのナウセーダ大統領は(2月)9日、米国に対し部隊をリトアニアに常駐させるよう要請すると述べた。

米国は2019年以降、リトアニアに約500人の部隊と装備をローテーション方式で配備。ナウセーダ大統領はルクラの軍事基地で行った記者会見で「米国がリトアニアに部隊を常駐させることについて協議する」とし、「北大西洋条約機構(NATO)がリトアニアだけでなくこの地域全体に提供している安全保障と抑止力を高める最善の方法になる」と述べた。

ウクライナを巡るロシアと西側諸国の間の緊張が高まる中、NATO加盟国である米国はポーランドとルーマニアに3000人の部隊を派遣した。【2月10日 ロイター】
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ウクライナ侵攻後も、対ロシア強硬策の旗振り役ともなっています。

****対ロでより強硬姿勢を リトアニア、米に要請****
リトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は(3月)7日、同国を訪問中のアントニー・ブリンケン米国務長官に対し、ウクライナに侵攻するロシアが攻勢をさらに強めた場合、同国をウクライナで制止するため、より強硬な姿勢で臨むよう要請した。

ナウセーダ氏はブリンケン氏に対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「ウクライナでは止まらない」との考えを示した。

さらに、あらゆる手段でウクライナ国民を支援するのが「われわれの共通の義務および責任」であり、万策を尽くさなければ「第3次世界大戦に向かうことになる」と警告した。

リトアニアは北大西洋条約機構加盟国で、バルト海に面する旧ソ連構成国。ロシアおよびベラルーシと国境を接している。(後略)【3月7日 AFP】
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それだけにロシア・プーチン大統領にすれば、何かとうるさい存在、「小国のくせに・・・」といったところでしょう。

【EU内部の温度差】
EU内部では、歴史的・地理的にロシアの脅威をより強く意識するリトアニアなどバルト3国やポーランドなどがロシアに対しより強い対応を求めているのに対し、独仏などは自国経済への影響や、ウクライナ問題後の対ロシア関係を考えて慎重な姿勢を示しており、温度差が生じています。

****対ロ追加制裁、EU加盟国3分の1が支持 北・東欧など=外交筋****
欧州連合(EU)の一部の加盟国は、ロシアとベラルーシに対する追加制裁措置に着手し、ウクライナにさらなる軍事支援を行うことを支持している。外交筋の話や関連資料で明らかになった。

外交筋によると、北・東欧諸国を中心に約3分の1の加盟国は、欧州委員会が7回目となる制裁措置向けた作業を開始することを望んでいる。

23─24日に開催されるEU首脳会議の関連資料には追加制裁への言及はないが、外交筋によると20日夜のEU特使会合後に微調整される可能性が高いという。

ドイツなどは、追加制裁合意に向けた複雑な作業に着手するよりも、現行制裁の徹底と抜け穴を塞ぐことに注力すべきとの考えだという。

首脳会議の草案は、EUはロシアの侵攻に対するウクライナの自衛権行使に向けた軍事支援に引き続き強くコミットするとしている。

スウェーデンとポーランドを中心に北・東欧諸国は、追加支援に向けた早期の追加資金提供を訴えている。

EUはこれまで「欧州平和ファシリティー」と呼ばれる基金から20億ユーロ(21億ドル)のウクライナ向け軍事支援を行っている。

一方、ドイツなどは他の危機が起きた場合に十分対応できなくなるとして、同基金の活用に慎重な立場という。【6月21日 ロイター】
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一応のところ、北欧や東欧諸国とドイツなど慎重派の間で一定の歩み寄りがあったようです。(玉虫色にも見えますが)

****EU首脳会議、ロシアへの圧力維持へ 制裁対象に金が浮上****
欧州連合(EU)は23─24日に開催される定例首脳会議で、ロシアに対する制裁を続け、強力な圧力を維持する方針を表明する見通し。金を次の制裁対象とすることが検討されている。

ロイターが入手した20日付の声明案は「実施強化策や回避防止策など制裁に関する作業を継続する」としている。

声明で制裁第7弾に言及したい北欧や東欧諸国と、既存の措置を徹底することに焦点を当てたいドイツやオランダなどが歩み寄った。最新案には制裁を巡る作業が盛り込まれたが、制裁第7弾にはっきりとは触れていない。

関係筋は、新たな制裁措置は現時点で準備されていないが、制裁対象となり得る分野を特定する作業は進行中と説明した。金がターゲットとなる可能性があると話した。

関係筋によると、EUの欧州委員会は次の制裁措置に金を加える方向で取り組んでいるが、ロシア向け金輸出、同国からの金輸入、または両方を禁止できるかはまだ明らかでないという。【6月21日 ロイター】
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【エネルギー・食料品価格の高騰という“痛み”の中で欧米はウクライナ支援・ロシア制裁を続けていけるか】
もっとも、今後欧州、アメリカが足並みをそろえウクライナ支援、ロシア制裁を続けていけるかは微妙な問題もあります。一番はエネルギー・食料品価格の高騰といった自国経済に及ぶ“痛み”に耐えられるか、克服できるかという問題です。

すでに混乱、不満の噴出も起きています。

****ベルギーで7万人がデモ、物価高対策要求 ストで交通網ほぼ停止****
ベルギーの首都・ブリュッセルで20日、約7万人の労働者が生活費高騰への対策を求めてデモ行進した。また、ブリュッセル空港や国内各地の公共交通網は「1日ストライキ」でほぼ停止状態に陥った。

デモ参加者は賃上げや消費税停止などを求める横断幕を掲げ、政府に対策強化を要求。企業に賃金や労働環境の改善を求める声も聞かれた。

労働組合によると、デモには約8万人が参加した。警察は7万人としている。

一方、ブリュッセル空港は、ストが保安検査員にも及んでいるため旅客機の出発ができないとし、到着便も大部分が欠航になったと明らかにした。

国内各地の公共交通機関は、デモ参加者がブリュッセルに移動することなどを考慮して一部の鉄道路線が運行しているものの、大半は運休となっている。

ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーン(供給網)やエネルギー・商品価格への影響を背景に各国で物価が高騰する中、ベルギーでも今月、インフレ率が9%に達した。【6月21日 ロイター】
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イギリスの賃金引上げを求めるストも、背景にあるのはインフレによる生活苦でしょう。

****英国各地で鉄道スト、賃上げ要求 「過去30年で最大規模」****
英国各地で21日、鉄道労働者らが賃上げなどを要求し、ストライキを実施した。ストは23日と25日も予定され、政府や鉄道管理当局は混乱を避けるために、できるだけ利用を控えるよう呼びかけた。英メディアによると、ストには5万人以上が参加し「過去30年で最大規模」になる。
 
期間中、全国の鉄道網の運行は通常の5分の1に制限される見通し。21日はロンドンの地下鉄でもストが実施され、交通機関の混乱が当面続くことが予想される。通勤や通学への影響のほか、観光やビジネス、レジャーなど幅広い分野に経済的な損失が及ぶとの懸念が広がっている。【6月21日 共同】
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インフレに対する国民の不満増大に並行して、各国政権の基盤は弱体化しています。

ドイツ・ショルツ政権はウクライナ侵攻への腰が引けた対応で迷走し、支持率が急落しています。
フランス・マクロン大統領は19日の議会選挙で過半数を失いました。
イギリス・ジョンソン首相はコロナ禍のパーティー問題などで政権を維持するのに苦労しています。
アメリカ・バイデン大統領はガソリン価格高騰で中間選挙惨敗の恐れが。

ウクライナ・ロシアへの対応で国民に“痛みを伴う”対応を求めるには政治のリーダーシップが必要ですが、現状はなかなか・・・。
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