孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジョージア  ロシアに宥和的な与党 ロシア同様「外国の代理人(スパイ)」法案可決を強行

2024-05-24 23:42:22 | 欧州情勢

(ジョージアと欧州連合(EU)の旗を身にまとって警官と対峙するデモ参加者=14日【5月15日 CNN】)

【与党「ジョージアの夢」 表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされるが反欧米・対ロシア宥和路線が目立つ】
ロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアを抱える旧ソ連のグルジア(現在の国名はジョージア)とロシアの関係は、多くの旧ソ連構成国同様に微妙です。

この国が国際的に注目されたのは、2008年に起きたロシアとの軍事衝突でした。

プーチン首相(当時)が北京オリンピック開会式に出席していた8月(メドヴェージェフ大統領は休暇中)、ジョージア側の暴発気味の行動で始まった戦争でしたが、(待ち構えていた)ロシアは親ロシア系住民を守る目的でロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアに軍を投入し圧勝、ジョージア(グルジア)は完敗。「5日間戦争」の別称が示すように超短期で終わりました。

おそらくウクライナ侵攻を企てたプーチン大統領の頭の中には、この2008年の成功体験があったのではないでしょうか。

ジョージアにとって、この戦争によってロシアとの関係はますます重要・複雑なものになっています。

上記2008年のロシア・グルジア戦争を引き起こしたサアカシュヴィリ大統領(当時)の「統一国民運動」を破り、政権を獲得した現在の与党「ジョージアの夢」は、表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政策をとっています。

その“親欧米路線”の方は、かなり色褪せてきているようにも。

*****与党「ジョージアの夢」と欧米の関係*****
2022年、欧州連合加盟を申請したウクライナ、ジョージア、モルドバのうち、ジョージアのみ報道の自由など人権上の問題を理由に加盟候補入りを留保されたこと、欧州連合が拘束力のない決議ながらこれらの問題の解決を求めたこと、そして(実質的オーナーである大富豪)イヴァニシヴィリ初代党首の制裁を欧州理事会に求めたことなどに「ジョージアの夢」は反発。

さらに、西側諸国のNGOがジョージア政府への抗議活動を行ったことを受け、スバリら9名の議員は戦術上の相違を理由にグルジアの夢を離党して「人民の力」を結成。(中略)

同党はアメリカなどの「グルジアへの干渉」を非難するとともに「ジョージアの夢」と政策上連携しており、2023年に一度撤回した外国のエージェント登録法案を2024年に共同で提出して5月15日に成立させ[14]、国民の反発を招いている【ウィキペディア】
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“親欧米路線”というよりは、欧米との刺々しい関係の方がめだちます。

【23年に抗議行動を受けていったん撤回された「外国人代理人」法案】
そうした反欧米的な感情がしみ込んだ“国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す「外国の代理人」に関する法案”(ロシアにもそっくりの法律があり、政権に敵対的なNGO弾圧に活用されています)は、2023年3月に一度撤回されました。

****ジョージア与党、「外国人代理人」法案を撤回 抗議デモ受け****
旧ソ連構成国ジョージアの与党は9日、2日間にわたる激しい抗議デモを引き起こした「外国の代理人」に関する法案を撤回すると発表した。

与党「ジョージアの夢」は声明で、社会における「対立」を緩和する必要があるとして、同法案を無条件で取り下げると表明した。その一方で、「過激な野党」が法案について「うそ」を広めたと非難した。

同法案は国外から20%以上の資金提供を受けている団体に外国の代理人としての登録を義務付け、未登録の団体には多額の罰金を科す内容だった。

欧州連合(EU)の代表団は法案の撤回を歓迎し「ジョージアの全ての政治指導者が包括的かつ建設的な方法で親EU路線の改革を再開するよう働きかける」とツイッターに投稿した。

ジョージア議会は7日に法案可決の第1段階のプロセスを終えたが、反発する多数の市民が議会の外に集まり一部が警察と激しく衝突した。治安当局によると77人が拘束された。【2023年3月9日 ロイター】
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反対派は、この法案が2012年にロシアで制定され言論弾圧に使用された法律に類似していると批判。将来的な目標であるEU加盟が遠のくと懸念していました。

【今年4月 与党再提出 抗議を振り切って可決 大統領は拒否権行使も議会で覆すことが可能】
2023年5月、ウクライナとロシアの戦争のさなか、ジョージアはロシア行き直行便の再開を許可。これにウクライナは激しく反発しましたが、ロシア・プーチン大統領は・・・

****プーチン氏、ジョージアでの反ロデモに「頭がおかしい」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は26日、同国とジョージア間の直行便の再開を受けてジョージアで反ロシアデモが起きたことに驚かされたと述べた。

ジョージアの首都トビリシの空港には先週、2019年以来初めてロシアからの直行便が着陸した。しかし、空港前では数十人が抗議デモを実施。「お呼びでない」「ロシアはテロ国家」と書かれたプラカードを掲げた。

プーチン氏はテレビ中継された財界人との会合で、「正直に言って、この反応には非常に驚かされた」「皆に『ありがとう、いいね』と言われると思っていたが、この件をめぐる騒ぎは理解し難い」「ここから見ると、彼らは頭がおかしいとしか思えない」と語った。

ロシアは2008年、ジョージアに軍事介入し、親ロシア派地域の南オセチアとアブハジアの「独立」を承認した。このためジョージアでは反ロシア感情が今も根強い。 【2023年5月27日 AFP】AFPBB News
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そして今年4月、「外国人代理人」法案の第2ラウンド。政府は「外国の代理人」の呼称を「外国の利益のため活動する組織」と修正して議会に再提出。

*****ジョージアで「反スパイ法案」巡り再び抗議デモ 「ロシア化」を危惧 治安部隊と衝突****
欧州連合(EU)加盟を目指す旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)の議会で4月30日、スパイ活動の抑止を名目とした「外国の影響の透明性に関する法案」の第2読会(3段階審議の2番目)が始まった。首都トビリシでは同日、法案に反対する国民が第1読会の際に続いて抗議デモを実施。治安部隊が放水や催涙ガスを使った鎮圧に乗り出した。タス通信などが伝えた。

SNS(交流サイト)には、治安部隊がデモ隊に暴力を振るう様子を撮影したとする動画が投稿された。

法案は、外国から資金提供を受けて活動する団体を事実上のスパイとみなして当局への財務報告を義務付け、違反した場合は2万5千ラリ(約147万円)の罰金を科すとする内容。4月上旬にコバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が議会に提出していた。

ただ、類似の法律「外国の代理人法」が施行されているロシアでは、プーチン政権側が反体制派勢力や人権団体、独立系メディアなどを弾圧するための道具として同法を活用。ジョージアの法案に対しては、米国やEUも「人権侵害や言論の自由の悪化につながる」と可決に反対している。

このためデモ隊は、与党がロシアのように法律を恣意(しい)的に運用し、政治弾圧に使う恐れがあると反発。「EU加盟が遠のく」とも主張してきた。

一方、与党は「法案は外国勢力の活動を監視するために不可欠で、EUとジョージアをむしろ近づける」と反論。欧米の批判やデモ隊の主張には根拠がないとして法案を断固成立させる構えで、4月17日の第1読会で法案を可決した。

ジョージアの夢は親欧米派政党だが、ロシアとの対立回避も重視。野党勢力からは「親露的」「強権的」だと批判されてきた。【5月1日 産経】
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法案は5月14日に可決されました。

*****ジョージア議会で“スパイ法案”可決 議場で乱闘、大規模デモも*****
旧ソ連のジョージア議会で14日、外国から資金提供を受ける団体を事実上「スパイ」とみなす法案が可決されました。議場で乱闘が起きたほか、大規模な抗議デモも行われました。

ジョージア議会で可決された「外国の代理人」法案は、外国から資金提供を受けている団体を事実上「スパイ」とみなして規制するもので、ロシアでも同様の法律が市民の抑圧に使われていることから、「ロシア法」などと呼ばれ批判されています。

ロシアメディアによりますと、法案は14日、与党「ジョージアの夢」などの賛成多数で可決しましたが、議場では野党議員との間でもみ合いとなりました。また、法案に反対するデモ隊が集まり、議会への突入を試みるなど激しい抗議デモに発展しました。

法案はズラビシビリ大統領の署名によって成立しますが、大統領は「EU=ヨーロッパ連合加盟への道を閉ざす」として拒否権の行使を表明していて、混乱が続いています。【5月15日 日テレNEWS】
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ズラビシビリ大統領は拒否権を行使していますが、議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができます。

****ジョージアでスパイ法案に拒否権 親EUのズラビシビリ大統領****
旧ソ連ジョージア(グルジア)のズラビシビリ大統領は18日、外国から資金提供を受ける団体を事実上スパイと見なす法案に拒否権を発動したと明らかにした。タス通信が伝えた。議会は過半数の賛成で拒否権を覆すことができる。
 
ズラビシビリ氏は親欧州連合(EU)の立場。議会が14日採択した法案はロシアのプーチン政権が反対派排除に使う法律に類似しているとして、野党側は抗議デモを継続。ジョージアが加盟を目指すEUや米国も懸念を示している。

法案は予算の20%以上を外国の資金に頼る組織やメディアを法務省に登録させる内容。【5月19日 共同】
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ズラビシビリ大統領はブリーフィングで「私は今日、ロシアの法律に拒否権を発動した。この法律は本質的にも精神的にもロシア的なものだ」とした上で「わが国の憲法と欧州の全規範に反するものであり、わが国の欧州への道を阻むものである」と主張しました。

【背後には、与党創設者であるイヴァニシヴィリ氏の、更にはロシア・プーチン大統領の思惑も】
一連の動きを見ると、与党「ジョージアの夢」こそがロシアの代理人ではないか・・・とも思えます。

*****【裏でロシアが手を引いている?】ジョージア新法案へ大規模デモ、プーチンがEU加盟阻止を図る地政学的理由*****
ジョージアは、ロシアと同様の「外国の代理人」を取り締まる法案を推進し、5月14日同法案を可決した。首都トビリシでは抗議運動が大規模なデモに発展している。

法案が審議入りした際の4月17日付けワシントン・ポスト紙は、国内で大きな反発が生じていることを報じるとともに、同国の欧州連合(EU)加盟の障害となるのではないかと指摘する解説記事‘Georgia pushes Russian-style ‘foreign agent’ law, putting E.U. bid at risk’を掲載している。概要は次の通り。

ジョージアの法案にロシアのプーチン大統領の関与はあるのか?(代表撮影/AP/アフロ)
ジョージアの議会は、4月17日、非常に異論の多い「外国の代理人」を取り締まる法案を前進させた。この法案は、ロシアにおいて、政治的反対勢力をつぶすために用いられてきた法律と同様の内容のものである。

ジョージアでは、この法案は、大規模の街頭デモと非難を引き起こしたが、サロメ・ズラビシヴィリ大統領も同法案を非難している一人である。同大統領は、ジョージアの議会と政府を支配している政党「ジョージアの夢」には所属していない。

ズラビシヴィリ大統領をはじめとする同法案の批判者は、この法案自体、ロシアが背後にいて、外国の介入の手段となるものであり、ジョージアが申請しているEU加盟を困難にさせる狙いのものだとしている。「国民の意思に反してこの法案を進めようとすること自体が直接の挑発であり、ジョージアを不安定化させるロシアの戦略だ」と同大統領はXに投稿した。

同法案が成立すると、資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められる。ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれた。それには、2022年のノーベル平和賞を受賞した人権団体「メモリアル」も含まれる。
 
ジョージア政府は、同法案はジョージアの政治から外国の影響力を排除するために必要だと主張している。一方、同法案については、親露派のオリガルヒであり、元首相で与党「ジョージアの夢」の実際上の指導者であるビジナ・イヴァニシヴィリの方針によって、政府がロシアの勢力圏に逆戻りしつつあり、EU加盟の計画を壊そうとしていることの現れではないかとの懸念が持たれている。

ジョージアは、昨年、EU加盟候補国の地位を得たが、ブリュッセルでは、ジョージアが民主化に逆行するのではないかとの懸念がある。
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(論評)
大国間競争の中でのジョージアの存在
 ロシア・ウクライナ戦争が進行する中、その先の地域情勢を考えると、ジョージアは、バルト三国、モルドバなどとともに要注目の国である。(中略)

プーチンの西側への姿勢の変化をもたらしたのは、北大西洋条約機構(NATO)拡大、ミサイル防衛もさることながら、いくつかの旧ソ連諸国における、いわゆるカラー革命の影響が大きいと思われる。  

特に、03年のジョージアのバラ革命、04年のウクライナのオレンジ革命によって、国境を接する隣国において、民衆の街頭行動によって政権が倒され、親西欧の政権が誕生したことは、プーチンに深刻な危機感を呼び起こしたであろう。  

それだけに、ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止することは、プーチンにとっては至上命題となった。08年、それが議題となったブカレストで開催されたNATO首脳会議には、プーチンが自ら赴き、反対論をぶった。
 
賛否両論がぶつかり合った結果、同首脳会議の共同声明は「いつ」「どのように」は棚上げした上で、ウクライナとジョージアは「将来加盟国となるであろう」と記す玉虫色の決着となった。NATO加盟を目指したジョージアは不満であったが、これを阻止しようとしたロシアも不満であった。ロシア・ジョージア戦争が勃発したのはその4カ月後のことであった。

続く欧州とロシアとの複雑な関係
ジョージアはロシア・ジョージア戦争で敗北し、ロシアは「凍結された紛争」の南オセチアとアブハジアの独立を承認した。

ジョージアでは、南オセチアに攻め込むことでロシアに介入の機会を与えたサーカシュヴィリ大統領が率いた「統一国民運動」は12年に政権を失い、政党「ジョージアの夢」が政権の座に就いた。「ジョージアの夢」は、ロシアと関係の深いオルガルヒのビジナ・イヴァニシヴィリが創設した政党である。  

ジョージアでは、一方では欧米への接近、他方ではロシアとの宥和という二つの力学が複雑にぶつかり合っている。08年の戦争以来、ロシアとの外交関係は断絶しており、国民の多くが親欧米路線を支持している。

「ジョージアの夢」の下、ジョージアはEUとNATOへの加盟を目指す一方で、ウクライナ侵攻についての制裁などの対応においては、ロシアを刺激しすぎないように注意を払ってきている。  

そうした中での今回の「外国の代理人」法の可決である。ジョージアでは、同法の背後に「ジョージアの夢」の創設者であるイヴァニシヴィリの影を見ての懸念が持たれている。すなわち、同法は、ロシアへの宥和でありEU加盟を挫折させようとする試みであるとの懸念であり、民主主義の圧殺に繋がるとの懸念である。  

ジョージアでは、今年10月に総選挙を控えている。「ジョージアの夢」においては、前記の対ロシア関係、対EU関係からの考慮に加え、選挙戦を有利にしたいとの考慮も働いているのであろう。  

NGO、メディアなどの影響力を考えると、外国からの資金は、政権与党の行動を監視する方向に使われることが多いと考えられる。

ジョージアは、12年に総選挙によって政権交代が行われた国であるが、「外国の代理人」法の可決は、同国で民主主義が実質的に機能し続けるのかどうかに大きく関わるものとして注視される。【5月22日 WEDGE】
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旧ソ連の国ではロシアに対する感情は微妙です。ロシア語を使い、ロシアに協調的な国民もいます。また、ロシアへの恐怖からロシアを刺激することを回避する国民もいます。

今年10月に行われる総選挙で、「ジョージアの夢」の対ロシア宥和路線が国民によってどのように評価されるのか。
ただ、2020年10月31日の総選挙では野党勢力は選挙不正があったと主張し、11月21日の第2回目投票をボイコットしたといった経緯もありますので、「公正な選挙」が行われるのかも注目されるところです。
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