孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  トランプ前大統領は民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」

2022-06-22 23:16:17 | アメリカ
(2021年1月6日 議事堂襲撃事件 【2021年1月8日 CNN】)

【トランプ前大統領 中間選挙で影響力を示す再選戦略】
アメリカでは11月に行われる中間選挙に向けて、民主・共和両党の候補者を選ぶ予備選挙が行われています。

この共和党予備選挙にトランプ前大統領が早い段階から推薦候補を指名し、その候補者が勝利することによって、自身の存在感・影響力を党内外に誇示し、ひいては再選を目指す・・・という再選戦略を展開していることは以前にも取り上げたことがあります。

****米アラバマ州の共和予備選、トランプ氏が支持に転じた候補が勝利****
11月の米中間選挙に向けたアラバマ州の連邦上院議員選を巡る共和党予備選で21日、トランプ前大統領が今月に入ってから支持したケイティ・ブリット氏が勝利した。エジソン・リサーチの予測によると、トランプ氏が当初支持していたモー・ブルックス連邦下院議員を破った。

トランプ氏はもともと、2020年の大統領選挙が不正であったという自らの虚偽の主張に共鳴するブルックス氏を支持。しかし、同氏が集会で同選挙を過去のものとするよう共和党員に求めたため、支持を撤回した経緯がある。

また、ジョージア州では、トランプ氏が支持する2人の連邦下院議員候補が共和党予備選で敗れた。同州では、1カ月前にもトランプ氏が支持した知事候補と州務長官候補が敗北を喫している。【6月22日 ロイター】
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結果はトランプ推薦候補が“勝ったり、負けたり”といったところですが、勝った場合は上記のように大きく報じられたりもしますので、トランプ前大統領にとってはそれなりの効果をあげているのかも。
勝ちそうな候補に推薦を出しているという指摘もありますが。

【連邦議会議事堂襲撃事件 トランプ前大統領は民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」】
トランプ前大統領に関しては、昨年1月に起きた支持者による連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会が行われています。

今更ながら、トランプ前大統領の“常軌を逸した”勝利への執着が感じられる話が語られています。

****トランプ氏、激戦州に圧力、恫喝、違法行為要求 下院特別委公聴会、州務長官ら証言****
米国で昨年1月に起きたトランプ大統領(当時)の支持者による連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会に21日、2020年大統領選の勝敗を左右した南部ジョージア州と西部アリゾナ州の高官らが出席した。

高官らは、両州で大規模な不正があったとするトランプ氏や側近たちから選挙結果を違法に覆すために執拗(しつよう)な圧力や恫喝(どうかつ)があったと証言。

同委には、事件につながったトランプ氏の不正主張に根拠がないことを示すとともに、これまでの公聴会の内容と合わせ、トランプ氏自身が積極的に違法行為を働きかけていたことを明らかにする狙いがある。

大統領選でジョージア州は、民主党のバイデン現大統領が1万2千票弱の僅差でトランプ氏を下す激戦州となった。トランプ陣営は、州都アトランタ周辺の開票所にひそかに大量の不正票が持ち込まれたり、死亡者約5千人分の票が利用されたりしたなどと主張。同委はトランプ氏が当時、同州のラフェンスパーガー州務長官(共和党)に電話で、自身が勝つのに必要な票数を探し出すよう要求した音声なども公開した。

この日の公聴会でラフェンスパーガー氏が行った証言や公開された通話記録によると、同氏はトランプ氏に、当落を左右する不正や犯罪の証拠はなく、探し出せる票もないと指摘。トランプ氏は「犯罪性がないと述べることは君(ラフェンスパーガー氏)にとって非常に危険だ」と述べた。

同様に激戦州となったアリゾナからは、州議会のバウザーズ議長(共和党)が出席。バウザーズ氏は、トランプ氏やその顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長から繰り返し連絡を受け、バイデン氏の当選確定に必要な手続きを妨害するために議長権限を違法に行使するよう求められたと明らかにした。

証言によると、トランプ、ジュリアーニ両氏はバウザーズ氏に「不正の証拠となる名簿を持っている」と説明。バウザーズ氏が提供を求めるとその場では了承したものの、「結局、(名簿は)送られてこなかった」。バウザーズ氏はその後、トランプ氏に「あなたのために法を破るつもりはない」と伝えたという。

一方、トランプ氏はこの日、公聴会に先立って声明を出し、「(バウザーズ氏は)選挙は盗まれたと言っていた」と主張した。証言の信憑性(しんぴょうせい)をおとしめる狙いがあるとみられるが、同氏は「(トランプ氏は)間違っている」と一蹴した。

このように特定の人間を名指しで標的にするのもトランプ氏の常套(じょうとう)手段だ。ジョージア州では当時、開票作業員だった黒人女性とその母親がトランプ氏支持者から不正の疑いをかけられて脅迫などの被害を受け、トランプ氏自身もラフェンスパーガー氏との電話で女性らの名前を挙げて「ペテン師だ」などと繰り返し非難している。この日の公聴会に出席した女性らは、トランプ陣営からの根拠のない非難で「人生がめちゃくちゃになった」と語った。【6月22日 産経】
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かつて、ヒトラーが権力奪取を目論んで企てたミュンヘン一揆を引き合いに、トランプ前大統領の議事堂襲撃事件関与を糾弾する指摘も。

****トランプから「大統領立候補資格をはく奪せよ」専門家****
<「アメリカを守る」ためには起訴だけでは足りないと指摘>
アメリカはドナルド・トランプ前大統領を訴追し、彼が今後の大統領選に立候補することを禁じるべきだ――ハーバード大学の名誉教授(憲法学)であるローレンス・トライブは主張した。

トランプの側近だったマイケル・ラティグ元判事が6月16日、トランプは民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」と語った言葉を引用、連邦議事堂襲撃を煽った罪で刑事訴追するだけでは不十分だと示唆した。6月20日に行われた、2021年1月6日の議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会でのことだ。

トライブはロサンゼルス・タイムズ紙への寄稿の中でも、トランプが再び大統領選に立候補することを禁止すべきだと主張。彼が合衆国憲法修正第14条の第3項に違反した証拠は、十分にあると指摘した。

修正第14条の第3項は、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後合衆国に対する「暴動や反乱に加わった」者は、大統領の職に就くことはできないと定めている。トライブは、トランプが議事堂襲撃事件の前後および最中に、これに違反したとの考えを示した。

ペンスを危険にさらしたツイート
「直接暴動に加わった罪に問われなくても、共謀してアメリカを騙し取ろうとした罪、正式な手続きを妨害した罪、あるいは治安妨害の共謀罪で起訴されて有罪となれば、憲法修正第14条違反と認められるのに十分かだろう」と彼は書き、さらにこう続けた。

「トランプに責任を取らせ、彼が今後大統領になる権利をはく奪することは、党派的な措置ではなく、共和国を守るために必要な措置だ」

トライブはこう主張すると、トランプが暴動の成功を望んでいたことを示す、数多くの証拠を挙げた。事件当日、(議会襲撃に参加した)支持者たちに「家に帰る」よう呼びかけるまで3時間もかかったことや、暴徒たちが議事堂に押し寄せるなか、トランプが負けた大統領選の結果を覆せというトランプの要求を拒んだマイク・ペンス前副大統領について、「復讐心に満ちたツイート」を行ったことなどだ。

トランプは事件当日、ジョー・バイデンを次期大統領と公式認定する上院での手続きを行なったペンスに対し、「やるべきことをやる勇気がなかった」とツイートで非難した。

選挙不正についてのトランプの嘘の主張を信じ、またペンスが選挙結果の公式認定手続きを阻止できる立場にあったという誤った思い込みを植え付けられた暴徒たちは、「ペンスをつるし首にしろ」と叫びながら、上院本会議場に乱入した。議事堂襲撃事件の調査を行っている下院特別委員会は、1月6日の事件当日、ペンスの命が危機にさらされていたと示唆した。

トライブはまた、トランプが議事堂襲撃事件に関連して起訴されなかった場合に起こり得る「3つの専制主義的なシナリオ」についても詳しく説明した。

1つ目は、「選挙で有権者の過半数の票を獲得した指導者が選出される時代が終わり、再び大統領になったトランプが、アメリカ市民に対して武力の行使も辞さない」ようになること。
2つ目は、(再び大統領になった)トランプが自分の言いなりになる複数の人物を司法省に送り込み、「自分と敵対する者たちを訴追させる」こと。
3つ目は、トランプが議事堂襲撃に参加した者たちに(実際にそうするつもりだと示唆していたとおり)恩赦を与えることだ。

トライブはかつてヒトラーが率いたミュンヘン一揆を引き合いに出し、「もしもトランプが再び大統領になった場合、予想されるのは第2次世界大戦前のドイツのような状況だ。1923年のクーデターの失敗から学んだヒトラーは、9年後に選挙という正当な手段で権力を握り、独裁体制を敷いた」と述べ、さらにこう続けた。
「歴史を繰り返す者は、その教訓を身をもって知り、痛い目に遭うことになる」【6月21日 Newsweek】
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ちなみに、ミュンヘン一揆とは・・・

****ミュンヘン一揆****
フランスなどのルール占領の危機に、極右勢力をミュンヘンで決起させ、ベルリンに進撃してヴァイマル共和国政府を倒そうとしたヒトラーの実行したクーデター。期待された国防軍の協力がなく失敗し、ヒトラーは捕らえられた。この失敗後、ヒトラーは議会に進出して政権を取る方向に向かう。
 
1923年1月、フランスとベルギーがドイツの賠償金不払いを口実にルール占領を強行すると、ドイツ共和国(ヴァイマル共和国)は武力抵抗をせず、消極的抵抗策をとった。労働者のゼネストによって生産はストップし、ドイツは急激なインフレが進行し、国民生活は大きな打撃を受けた。

そのような状況の中で、ミュンヘンで右翼活動を展開していたヒトラーは共和国政府に対する批判を強めていた。当時、バイエルンの都ミュンヘンは右翼活動が活発でバイエルン政府のカール首相も右派の指導者であり、ベルリンに進撃し共和国政府を倒すことを考えていた。

ヒトラーは主導権を握ろうと、当時ミュンヘンにいた第一次世界大戦のドイツ軍の大立て者ルーデンドルフ将軍に近づき、その協力を得て、1923年11月8日夜、クーデターを決行した。ベルリンに行進して権力を握るというアイデアは、前年のイタリアでムッソリーニがローマ進軍を成功させ、ファシズム政権を成立させたことを真似たものであった。

ヒトラー、クーデターに失敗
(引用)カール独裁政権(ミュンヘン政府)からはつき離されて服従を強いられ、部下の大衆からは突き上げられたヒトラーたちは、1923年11月8日の夜、一揆を起こした。カールたちを一揆に巻き込んで、一緒にベルリン進軍をさせようというわけである。

ぐずぐずしていてはカールに圧倒されて自分らの負けになるというあせりもあったが、また一方では極右系民間国防団体の実力を過信した結果の行動でもあった。

市民たちは一揆に対して同情的であったにもかかわらず、バイエルン官僚と軍部と警察に反対されて一揆は失敗し、翌11月9日鎮定された。ヒトラーは、一旦は南バイエルンのシュタッフェル湖畔ウフィングにあるハンフシュテングル家の別荘にのがれたが、11月11日に捕らえられた。<村瀬興雄『アドルフ=ヒトラー』1977 中公新書 p.220>

ヒトラーの路線転換
クーデター失敗後、ナチスはドイツでの活動を禁止され、翌24年2~3月、ミュンヘンで裁判が開かれた。4月1日に判決が下され、ヒトラーは5年の禁固刑に処せられたが、実際には12月20日までミュンヘン西方のランツベルク要塞で、面会も文通も、同志との会合、会食も自由という形だけのものであった。

この間、ヒトラーは『わが闘争』の第一部を口述筆記し、ナチズム運動を方向付ける時期とした。ヒトラーはこの失敗から学び、偶然に左右される一揆という手段ではなく、選挙という正当な手続きで議会に多数を占め、権力を握るという路線に転換し、そのためには宣伝と行動によって大衆の心をつかむことをめざすようになった。【世界史の窓】
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【反知性主義】
なぜ、ルールを無視し、嘘を並べ立てるようなトランプ前大統領が未だに多くの熱狂的支持者を維持しているのか・・・山ほどの議論・考察があるところでしょうが、今日目にした記事は、トランプ支持者の反知性主義とも言える学歴を有するエリートへの反感を指摘するもの。

****「高学歴者は自分を見下している」──典型的なトランプ支持者の弟に伝えたいこと****
カーメン・プレスティ(マイアミ大学助教、ジャクソン記念病院非常勤看護師)
<温厚だった弟は熱烈なトランプ支持者になり、私をイデオロギー上の敵と見なすようになった。アメリカにはびこる、反知性主義について。そして、今こそ対話が必要なこととは?>

(中略)弟は温厚な性格で、政治にあまり関心を示さなかったが、2016年を境にドナルド・トランプの熱烈な支持者に変わった。大きなトランプの旗を飾ったり、トランプのTシャツを着たり、携帯電話の着信音をトランプの声にしたり。
一方の私は、10代の頃から筋金入りのリベラル派。共和党支持の保守派が多い家族と意見が合わないのは今に始まったことではないが、口論になることはなかった。

しばらく前の家族の集まりで、新型コロナワクチンの接種率をめぐる議論になった。看護師としてコロナ病棟で働く私は、支持政党によって接種率に大きな差があることを指摘し、コロナの悲劇から身を守るためにも、もっと多くの人に接種を受けてほしいと言った。

すると弟は、支持政党による接種率の違いなどないと言い、私がデータをでっち上げていると反論した。さらに、私が受けてきた教育をあざ笑い、私がこの2年余りの間、数々の悲しい症例を目の当たりにして心を痛めていることまで物笑いにした。その攻撃的な姿勢は、子供の頃に戻ったかのようだった。

学歴をめぐる憎悪の感情
それから数カ月。弟から謝罪の言葉はまだなく、それ以降、私たちは言葉を交わしていない。憎しみにゆがんだ弟の顔が今でも目に浮かぶ。

どうして、弟は変わってしまったのか。1つ思い当たることがある。あの晩、私にかみついたとき、弟はしきりに学歴にこだわっていた。

弟に言わせれば、5人きょうだいで1人だけ大学に進学し、大学院でも学んだ私が学歴を理由に弟たちを見下しているというのだ。私自身は、たたき上げの技術者として成功している弟のことをずっと誇りに思ってきたのだが。
このような学歴をめぐる怒りの感情は、右派に典型的な態度だ。右派の人たちはしばしば、左派の人間が尊大なエリートだと批判する。

これまでは、政治的な考え方は違っても、弟は私の職業に敬意を払ってくれていた。私たちは愛情を持ち、互いの成功を喜んでいた。しかしあの晩、弟は私のことを姉や1人の看護師としてではなく、イデオロギー上の敵として見ているように感じられた。

トランプ支持者たちに言いたいのは、身近な女性たちへの愛情と敬意に基づいて行動し、大切な女性たちの権利を守るために闘ってほしいということだ。人工妊娠中絶の権利を認めた最高裁判決を破棄しても、中絶はなくならない。安全性の乏しい中絶を受ける女性が増えるだけだ。この点は、米国医師会など多くの医療関連団体が指摘している。

弟には、トランプ支持者に対するのと同じことを伝えたい。極端な思想をもとに、対話や人間関係を築くことをやめたりしないでほしい。政治よりも女性の権利と体の安全を大切にしよう、と言いたい。
それができなければ、待っているのは悲劇だ。【6月22日 Newsweek】
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日本の近年のネット世論の動向、例えば“上級国民批判”などにも通じるものがあるようにも。

ちなみに、“反知性主義”については、日本でこの言葉が広がるきっかけともなった本を(トランプ以前に)書かれた森本あんり氏(神学者、アメリカ学者)は以下のようにも。

****「反知性主義は、社会が変わるチャンスかもしれません」****
森本:日本で反知性主義というと、「おまえは、知性がないな」と非難する言葉。相手をやっつける言葉として使われます。もちろん、そういう使われ方もまちがいではありませんが、一方で、反知性主義にはアメリカの長い歴史があります。
 
アメリカの戦後のマッカーシズムは出口さんもよくご存じだと思いますが、反知性主義というのは、そのころ使われ始めた言葉です。要するに、知性が権力と結びついて自己再生産をしていく。エリートというのは、インテリの連中がいい学校に行き、いい仕事について、いい収入を得るから、子どももいい教育を受けられるんですね。逆に、それに乗っかれない人は、いつまでも上昇できない。下降スパイラルになっていくんです。

出口:上昇スパイラルと下降スパイラルの二極化した悪循環ですね。

森本:ええ。反知性主義は、そういうものを批判しています。トランプもそうですが、権力と知性が手をつないで固定化することに対する反発が起きる。ということは、反知性主義が出てくると、社会が揺さぶられ、新しい価値観に向かうチャンスとなります。トランプは明らかに行き過ぎていますが、歴史的にはそういうこともあるんです。

出口:なるほど。
森本:ですから、社会が変わっていくチャンスかもしれないと思っています。(後略)【2017年4月24日 WEDGE】
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その他、トランプ支持者の拠点ともなっているテキサス州について、テキサス州の共和党員たちは、「テキサス州がアメリカ合衆国から脱退すべきか否かを決める住民投票」の実施を要求している・・・という記事も。
(“テキサス共和党、アメリカからの独立を問う住民投票を要求”【6月21日 Newswee】)

内容紹介は長くなるので割愛します。


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