孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・モディ首相のロシア訪問  インドの思惑 ロ印関係の変化

2024-07-10 23:08:43 | 国際情勢

(インドのモディ首相(左)を電動カートに乗せて運転するロシアのプーチン大統領=モスクワ郊外で2024年7月8日、スプートニク通信【7月9日 毎日】)

【孤立イメージを払拭したいロシアはモディ首相を歓待】
インド・モディ首相がロシアを訪問、プーチン大統領と会談。
ロシアとしてはウクライナ問題で欧米からの制裁を受ける中、決して国際的に孤立はしていない・・・ということをアピールする場になります。インド・モディ首相としてはグローバルサウスを代表する国としての存在感を示すことにもなります。

ただ、インドの思惑は他にも・・・という話は後ほど。

****インド首相、5年ぶり訪ロ プーチン大統領公邸で非公式会談****
ロシアのプーチン大統領は8日、モスクワ郊外の公邸でインドのモディ首相を迎え、非公式に会談した。9日に大統領府(クレムリン)で公式会談に臨む。モディ氏のロシア訪問は5年ぶり。

国営タス通信によると、プーチン氏はモディ氏を抱擁して迎え、「親愛なる友人」と呼んであいさつを交わし、会えて「とても嬉しい」と語った。

また「公式会談は明日だが、きょうはこの快適で心地良い環境で、同じ問題について非公式に話し合うことができる」と述べた。プーチン氏はモディ氏にお茶などを振る舞い、邸内を案内した。

米国務省はロシアがウクライナ侵攻を続ける中でのモディ氏の訪ロと印ロ関係は懸念を抱かせると述べた。
ロシアと長年緊密な関係を維持してきたインドはウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することを控え、対話と外交を通じた紛争終結を求めている。

インド政府高官が先週明らかにしたところによると、モディ氏は今回の訪ロで両国の貿易不均衡是正や、だまされるなどしてウクライナ戦争に加わったインド国民の帰国などを働きかける見通し。【7月9日 ロイター】
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ロシア・プーチン大統領は、前述のように欧米の制裁を受ける中で、来てくれたモディ首相に感謝・・・というところでしょう。なかなかの歓迎ぶりだったようです。

****印モディ首相にロシア最高位勲章 プーチン大統領が授与、習近平氏に続き外国人で4人目****
ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワでインドのモディ首相と会談後にロシア最高位の聖アンドレイ勲章を授与した。プーチン氏はクレムリンで行われた式典で「われわれの国家や国民の間の友好や相互理解を強化してくれた」と演説した。

モディ氏は「この勲章は私一人のものではなく、インド国民14億人に与えられた栄誉だ」と謝意を示した。

タス通信によると、同勲章はピョートル大帝時代の1698年に創設され、1917年のロシア革命後に廃止されたが、98年に復活した。外国人の受章者は、アゼルバイジャンの故アリエフ前大統領、カザフスタンのナザルバエフ前大統領、中国の習近平国家主席に続きモディ氏が4人目という。【7月10日 共同】
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もとよりインドは武器輸入などでロシアと関係が深く、ウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することを控え、欧米とは一線を画した対応をとっています。また、制裁下でロシア産石油を格安で入手できているという実利も。

そうしたことでロシア訪問は不思議ではありませんが、やはりウクライナやアメリカとしては不愉快。

****ウクライナ大統領、インド首相に「大きな失望」 ミサイル攻撃と同日のロシア訪問めぐり****
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、インドのモディ首相がロシアを訪問したことについて「大きな失望であり、平和への取り組みに対する壊滅的な打撃」と批判した。ロシアは同日、首都キーウの小児病院などへのミサイル攻撃を仕掛け、少なくとも37人が死亡、170人が負傷している。

モディ氏は8日、モスクワ郊外のノボオガリョボにあるプーチン・ロシア大統領の公邸で会談した。

モディ氏の2日間の訪問は、ロシアが約2年半前にウクライナへの侵攻を開始して以降初めて。公開された写真や動画には両首脳が抱き合ったり、お茶を飲みながら会話をしたり、電気自動車(EV)に乗ったりする様子が映っていた。

ゼレンスキー氏は同日、X(旧ツイッター)に「世界最大の民主主義国の指導者がこのような日にモスクワで、世界で最も残虐な犯罪者を抱きしめるのを見るのは大きな失望であり、平和への取り組みに対する壊滅的な打撃だ」と投稿した。

モディ氏はXで、公邸に招いてくれたプーチン氏に謝意を示し、「明日の会談も楽しみにしている。会談はインドとロシアの友好関係をさらに強固にする上で明らかに役立つだろう」と投稿した。公式の首脳会談は9日に行われる見通し。

ロシアによるウクライナへの攻撃は、米ワシントンで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を翌日に控える中で起きた。同会議ではウクライナに対する軍事、政治、財政面での支援について新たな発表があるとみられている。【7月9日 CNN】
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【インド 平和的解決を求める立場でグローバルサウスリーダーの立場をアピール 実利も重視】
モディ首相としても、中国のようにロシアの言動を事実上容認している訳ではなく、ロシアの軍事行動にはこれまでも一定に批判を行っています。今回訪問も平和的解決を求める立場でロシアをいさめるような形をとっています。(実際のプーチン大統領との会談のなかで、どういうやり取りがなされたかは別として)

そのような、アメリカに追随はしないが、ロシアに対しても言うべきことは言う・・・という立場をとることで、グローバルサウスのリーダーとしてのインドをアピールしたいのでしょう。

****ロシア、モディ氏訪露で伝統的友好を強調 「孤立」否定も実利重視のインドと温度差も****
ロシアのプーチン大統領はインドのモディ首相との9日の会談で、両国の伝統的な友好を強調した。ウクライナ戦争を巡り欧米と対立する中、新興国の代表格であるインド首脳を迎え、ロシアは国際的に孤立していないと誇示している。

ただインドは「解決策は戦場では見つからない」(同国外交筋)として中立外交を貫き、欧米と中露の対立に巻き込まれるのも避けたい構え。露印には抜きがたい温度差が残っている。

モディ氏はプーチン氏の招待を受け訪露。プーチン氏はモスクワ到着後のモディ氏を、まず露大統領公邸に招いて厚遇した。米ワシントンでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせてモディ氏と会談し、国際的な孤立イメージを払拭したい思惑もあった。

ロシアはウクライナ侵略後、グローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)との関係を強化し、国際的孤立や欧米主導の対露制裁の打撃を緩和させようとしてきた。グローバルサウスの筆頭格とされるインドとの関係強化もこうした外交戦略に基づくものだ。

一方、モディ氏はウクライナ侵略の平和的解決を求める立場を露側に訴えたとみられる。同氏は2022年9月、ウズベキスタンでプーチン氏と会談し、「今は戦争の時代ではない」と言及。今回も改めて説得を試みた形だ。ただ、インドはこれまで、国連総会などの場で民主主義陣営主導のロシア非難にも加わってこなかった。

インドは対中牽制も念頭に日米豪との協力枠組み「クアッド」に参画。領土問題で中国と対立する中、最近の中露接近への警戒を強めており、ロシアとインドの関係強化にはハードルがある。【7月9日 産経】
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****プーチン大統領と会談 長期化する侵攻に改めて懸念示す****
インドのモディ首相は訪問先のロシアでプーチン大統領と会談し、ウクライナ侵攻をめぐり「戦争による解決はない、対話が必要だ」と述べ、外交的解決を改めて呼びかけました。

プーチン大統領  「ウクライナ危機の平和的な解決方法を探す努力をしていただいていることに感謝する」

プーチン大統領とモディ首相は9日、モスクワのクレムリンで会談し、モディ氏は冒頭で「明るい未来のために平和が必要だ」と指摘。そのうえで「戦争は解決策にならない。対話こそが必要なことだ」と述べ、ウクライナ侵攻を続けるロシアに外交的解決を呼びかけました。

モディ氏はおととしの会談の際にも「今は戦争のときではない」と述べていて、長期化する侵攻に改めて懸念を示した形です。

一方、インドメディアによりますと、ロシア軍に入隊させられ、ウクライナに派遣されたインド人の問題をめぐり、プーチン氏はモディ氏の要請に応じ、全員を除隊させる方針を示したということです。【7月9日 TBS NEWS DIG】
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【インドの真の狙いはロ中接近の牽制】
上記のような表向きの話とは別に、モディ首相ロシア訪問の狙いは、国境紛争を抱える中国とロシアの接近を牽制することにある・・・と指摘されています。

****ロ印首脳会談 モディ首相の真の狙いとは****
ロシアのプーチン大統領は、インドのモディ首相と会談しました。ロシア側は経済から軍事面まで関係強化につながったとアピールしました。

プーチン大統領は、モディ首相を公邸に招くなど歓待しました。しかし、笑顔の下には深い悩みが隠されています。中国です。インドと中国は対立関係にあります。クレムリンに近い関係者は「モディ首相の真の狙いは、中国との関係にくぎを刺すことだ」と述べています。

これまでプーチン大統領は、中国とインドの対立を利用して影響力を発揮してきました。しかし、ウクライナ侵攻の長期化でロシアの影響力は減り、中国とインドに対する立場は逆転しました。

モディ首相はプーチン大統領に「今は戦争の時代ではない」と直接苦言を呈したこともあり、ウクライナ侵攻には厳しい立場です。

モディ首相は中国の関係強化が不可欠なプーチン大統領の弱い立場を理解したうえで、原油の割引など強かな交渉を迫っているとみられます。【7月10日 ABEMA TIMES】
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中国への接近を牽制しつつ、原油の割引など実利はしっかり確保する・・・したたかな外交です。

【進むインドのロシア武器離れ】
一方で、ロシアはインドにとって重要な武器輸入国でしたが、ロシアは現在ウクライナで手一杯。北朝鮮の手も借りようかという状況。

****ロシア、大規模攻勢の弾薬不足 国外調達の必要── NATO当局者****
北大西洋条約機構(NATO)当局者は9日、ロシアはウクライナで大規模な攻勢を開始するための弾薬と兵力が不足しており、他の国から大量の弾薬を確保する必要があるとの見方を示した。

NATO当局者は匿名を条件に記者団に対し、ロシア軍は小規模な領土獲得に苦戦する中、大規模な攻勢を仕掛ける兵士と弾薬が不足しており、「極めて大きな」損失を被っていると指摘。「人員が不足し、かつ経験不足の部隊に非現実的な目的を達成するよう命令せざるを得なくなっている」と述べた。

その上で「ロシアが本格的な攻撃作戦を継続するには、イランと北朝鮮からすでに得ている弾薬に加え、その他の国から相当量の弾薬の供給を確保する必要がある」と言及。ロシアは新たな大規模動員を実施する必要にも迫られるとの見方を示した。

同時に、ロシアのプーチン大統領は「時間はロシア側の味方だと考えている」とし、「驚異的な数の兵士の犠牲」に耐える用意ができていると指摘。あと3─4年は戦時経済を維持できるとの見方を示した。

ウクライナについては、かなりの兵力損失が出ているとしながらも、防衛力は大幅に向上したと指摘。ただ、新たな大規模攻勢をかけるために必要な弾薬と人員を調達するまで「しばらく時間がかかる」との見方を示した。

NATOは米ワシントンで9─11日に首脳会議を開催。ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する。【7月10日 Newsweek】
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そうした状況では、これまでのようなロシア・インドのつながりは維持できないかも。インド側には「ロシア離れ」が起きているとも。

****インドのロシア武器離れで貴重な「命綱」を失うプーチン****
<世界最大の武器輸入国インドは、ロシアがウクライナに本格侵攻しても武器を買い続けてくれる重要なスポンサーだったのだが>

インド軍がロシアの武器離れを起こしている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に残された経済的「命綱」の一つが切れかかっているということだ。

統計調査委会社スタティスタによれば、インドは世界最大の武器輸入国だ。2019〜2023年までの世界の全武器輸入に占める割合は9.8%に上る。

インド国防省は2023年3月、今後5〜10年の武器輸入予算として1000億ドルを投じると発表している。
ロシアは以前から、インドの主要な武器供給国だった。

しかしここへきて、ロシアがウクライナ戦争を継続しつつ、インドの軍備にも寄与するのは困難であることが明らかになってきた。

未確認だが、インドは旧式のロシア製戦車や大砲、軍艦、ヘリコプターなどの使用を最小限に抑えるようにし始めているという報道もある。 軍用機や最先端の軍備品の大量発注も停止した。

本誌は、インド国防省にメールでコメントを求めている。

ウクライナ戦争が始まった当初、インドは、プーチンのありがたいスポンサーだった。
ウクライナ侵攻後も、インドはロシアから武器を輸入し続けた。2019〜2023年にかけて、ロシアの武器輸出の36%はインド向けだった。

しかし、ロシアが武器不足で次第にインドの注文に応じ切れなくなり、両国の関係はぎくしゃくし始めた。

米軍と兵器を共同生産も
インド空軍は2023年3月、ロシアに発注していた防空ミサイルシステム「S400」が期日まで納入されないことに不満を表明。2024年のロシアからの調達予算を減額した。

ロシアからの武器輸入を減らした後、インドは、自国の軍事需要を満たすべく他国に目を向け始めた。

インドの英字紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」が2024年6月半ばに報じたところによると、インドはアメリカと組み、米軍の装甲車ストライカーの共同生産を検討しているという。

ストライカーは、老朽化するロシア製BMP-2の代わりの歩兵戦闘車として、インドと中国の国境係争地帯に配備される可能性が高い。

だがインドのロシア製兵器離れが報道されるさなか、モディはモスクワを訪問しプーチンと会談している。

モディがロシアを訪問するのは、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来、初めてだ。地政学的な同盟国であり続けてきた両国の関係は、間違いなく岐路にある。【7月9日 Newsweek】
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こうした状況を考えると、インド・モディ首相はかなり強い姿勢でロシアに話ができるように思われます。

ロシアは中国依存を強め、インドはロシア離れを加速する・・・・ロシアと中国・インドとの力関係は後者の側に有利に変化しているようです。

【ロシアが“見解の相違は一切なかった”と説明しないといけないあたりに逆に感じられる「温度差」】
なお、モディ首相の平和的解決を求める立場や、中国を意識した真の狙いといった指摘がなされるなかで、ロシアもそのあたりを意識はしているようです。

****ロ印首脳会談、見解の相違「一切ない」=ロシア大統領府***
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、今週モスクワで行われたプーチン大統領とインドのモディ首相の会談について、見解の相違は一切なかったと述べた。

モディ氏は9日、プーチン氏との会談で、罪のない子どもたちの死は非常に痛ましいと発言。ウクライナの首都キーウ(キエフ)では8日に小児病院がミサイル攻撃を受けた。

ペスコフ報道官は記者団に対し、ロシアとインドの代表団による会談の中止は日程上の都合と、全ての議題がすでに協議されていたことが理由だとし「見解の相違や問題のある状況とは一切関係がない」と述べた。【7月10日 ロイター】
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“見解の相違は一切なかった”と説明しないといけないあたりで、逆に見解の相違があったのでは・・・と思えたりもします。

ロシアとインドの代表団による会談の中止については、以下のように説明されています。

****印ロ首脳会談の一部キャンセル プーチン氏が日程乱す****
9日にモスクワで行われた印ロ首脳会談で、閣僚を交えた少人数会合は予定通り実施されたが、昼食を伴う拡大会合が急きょキャンセルされた。

ロシアのプーチン大統領が会談直前、インドのモディ首相が視察した博覧会場に飛び入りで合流し、日程が乱れたことが原因とみられる。

ペスコフ大統領報道官は10日、拡大会合の中止は「意見の不一致」に起因するものではないと説明。「モディ氏は次の訪問国オーストリアに出発しなければならなかった」とも述べた。【7月10日 時事】
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