孤帆の遠影碧空に尽き

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イラン  改革派ペゼシュキアン氏が新大統領に 改革の実現を阻む保守派の厚い壁も

2024-07-06 22:26:40 | イラン

(テヘランのダウンタウンを歩く、ヒジャブを着用しない女性【6月26日 ARAB NEWS】
こうした国民の現体制への不満をペゼシュキアン氏が具体的改革で解消していくことができるか・・・)

【改革派のペゼシュキアン氏が当選 変化を求める国民の受け皿に】
イギリス総選挙での労働党の地滑り的圧勝・政権交代、イラン大統領選挙の改革派勝利、フランス総選挙の決選投票に向けた動き、更にはアメリカ大統領選挙でのバイデン大統領の去就・・・選挙絡みの情報が溢れていますが、イギリスは予想通り、フランス・アメリカは不確定要素が多いということで、今回はイランの大統領選挙。

選挙戦開始当時は保守強硬派が優位と見られていましたが、多くの報道で周知のように、結局、国民の変化への希望の受け皿になった改革派ペゼシュキアン氏が当選しました。

****イラン大統領選、改革派のペゼシュキアン氏が当選…改革派大統領の政権は19年ぶり****
イラン内務省は6日、5日に行われた大統領選決選投票の結果、改革派で元保健相のマスード・ペゼシュキアン氏(69)が当選したと発表した。任期は4年。改革派大統領の政権は19年ぶりとなる。

米国の制裁に伴う経済低迷や抑圧的な政権運営に対する不満が噴出した形だ。ペゼシュキアン氏は対話を重視する国際協調路線で、核交渉による制裁解除を目指すが、保守強硬派の抵抗で難しいかじ取りを迫られるとみられる。

大統領選は、エブラヒム・ライシ大統領がヘリコプター墜落で死亡したのを受けて行われた。6月28日の第1回投票で過半数を得た候補がおらず、首位のペゼシュキアン氏と2位だった保守強硬派で元核交渉責任者のサイード・ジャリリ氏(58)による19年ぶりの決選投票となった。

内務省の発表によると、ペゼシュキアン氏は1638万票以上を獲得し、ジャリリ氏に284万票余りの差をつけた。投票率は49・8%で、過去最低だった第1回投票の40%を大きく上回った。

改革派大統領は、1997〜2005年の任期中に「文明間の対話」を提唱し、積極外交を展開したモハンマド・ハタミ師以来となる。

ペゼシュキアン氏は当初、強力な候補とはみなされなかったが、米国の制裁解除の重要性を訴え、支持を拡大した。制裁は、国民生活を圧迫している40%程度の物価上昇率の要因となっていた。

しかし、イランの重要施策は最高指導者のアリ・ハメネイ師が最終決定権を握っている。ハメネイ師は、対米強硬姿勢を貫いたライシ師を高く評価しており、急激な方針転換は困難だ。

イランは米国の制裁再開後、対抗措置として核合意で制限されていた核開発活動を再開し、核兵器のレベルに近い60%濃縮ウランを生産・貯蔵してきた。国際原子力機関(IAEA)の一部査察官の受け入れも拒否するなど国際的な孤立を深めている。

イランは中国やロシアが主導する上海協力機構(SCO)や新興国グループ「BRICS」に加盟し、中露に急接近している。パレスチナ自治区ガザでの戦闘では反米・反イスラエル勢力を支援しており、今後も変化はないとみられる。【7月6日 読売】
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【争点の一つなった抑圧体制の象徴“ヒジャブ問題”】
国際協調を重視して、核合意を再建し、経済制裁解除を目指す・・・・改革派のペゼシュキアン氏の路線が経済低迷・インフレで生活に苦しむ国民が求める変化の受け皿になった形ですが、ヒジャブに象徴される抑圧的・強権的政治への国民不満もペゼシュキアン氏を押し上げることになりました。

ペゼシュキアン氏は、ヒジャブの未着用を取り締まるため街頭で活動する風紀警察に反対する姿勢を表明し、SNSなどで支持が広がりました。一方、保守強硬派のジャリリ氏は着用の取り締まりに賛成し、選挙戦の争点の一つになりました。

****イラン大統領選投票間近、スカーフ弾圧再燃で緊張高まる****
イランの首都では毎日午後になると、警察のバンがテヘランの主要な広場や交差点に急行し、ゆるいスカーフをかぶった女性や、あえてスカーフをかぶらない女性を捜索している。

当局の意に沿わないスカーフを着用したために拘束されたマフサ・アミニさんの死をめぐる大規模な抗議デモからまだ2年も経っていないのに、新たな弾圧が始まった。国連の委員会は、この22歳の女性が国家による「肉体的暴力」の結果死亡したと認定した。

アミニさんの死は、数カ月にわたる騒乱を引き起こし、血なまぐさい弾圧に終わった。しかし今、議員たちが厳罰化を求め続けるなか、女性たちが警察によって身体的にバンに押し込められる動画が出回っている。

その一方で、当局は女性が髪を隠していないことを理由に何千台もの車を押収し、女性にサービスを提供する企業も標的にしている。

イブラヒム・ライシ大統領がヘリコプター事故で亡くなる前から、警察が「ヌール(光)計画」と呼んでいる新たなヒジャブ推進は始まっており、金曜日に強硬派の聖職者の後任を決める投票に誰が勝つかは、それがどの程度激しくなるか、そしてイランがさらなる騒乱にどう対応するかに影響を与えるだろう。

「ヌール計画に基づく介入は……われわれを暗闇に引きずり込むだろう」と、改革派の大統領候補マスード・ペゼシュキアン氏は最近、女性支持者のグループに語った。

取り締まりは4月から強化され、制服警察官とともに、全身を黒いチャドルに包んだ女性取締官と暴力的な対峙をする女性たちを映した動画がネット上で拡散した。

警察はこの取り締まりに関する逮捕者数を公表しておらず、メディアも大きくは取り上げていないが、イランでは広く議論されている。しかし、それでも多くの女性がテヘラン市内を歩くとき、ヒジャブをゆるく着用したり、肩にかけたままにしたりしている。

テヘラン北部のある日の午後、女性たちはカフェやその他の公共の場所に座っていた: 50台の警官が「女性のみなさん、服を着てください: まったく、こんなことを繰り返しても聞き入れないのだから、うんざり」とつぶやく姿があった。

34歳の数学教師ファテメは、報復を恐れて下の名前しか言わなかった。「遅かれ早かれ、当局は手を引いたほうが自分たちの利益になると気づくでしょう」

イランと隣国のタリバン支配下のアフガニスタンは、ヒジャブが義務化されている唯一の国である。

イランでは女性は学校に通い、働き、自分の生活を管理することができるが、強硬派はヒジャブを強制しなければならないと主張している。

イランでは長い間、この衣服は政治と結びついてきた。前統治者レザー・シャー・パーレビーは1936年、西欧を反映させる努力の一環としてヒジャブを禁止した。この禁止令はわずか5年しか続かなかったが、イランの中流階級や上流階級の女性の多くは着ないことを選んだ。

1979年のイスラム革命後、国王打倒に貢献した女性たちの一部は、より保守的なチャドルを着用した。しかし、ルホラ・ホメイニ師が女性に公の場でのヒジャブ着用を命じたことに抗議する女性もいた。1983年、これは法律となり、罰金や2ヶ月以下の懲役などの罰則が科せられるようになった。

2022年9月のアミニさんの死は、数カ月にわたる抗議活動と治安弾圧を引き起こし、500人以上が死亡、22,000人以上が拘束された。しかし、それから2年も経たないうちに、イラン神権内部の強硬派は弾圧を強行した。

政府がヒジャブの強制に固執するのも、陰謀論的な世界観を反映している。イランの国家警察長官であるアフマド・レザ・ラダン将軍は、イランの敵が女性にベールを避けるよう促すことで国の文化を変えようと計画していると、証拠も示さずに主張している。

すでに「何万人もの女性が、イランのベール着用法に背いた罰として、恣意的に車を没収されている」とアムネスティ・インターナショナルは3月に発表した。また、起訴され、鞭打ち刑や懲役刑を言い渡されたり、罰金や『道徳』授業への出席を強制されるなどの刑罰に直面する女性もいる」(中略)

ニューヨークを拠点とするイラン人権センターのハディ・ゲーミ事務局長は、「イスラム共和国は大統領選という目くらましを利用して、女性活動家たちを追い詰め、投獄や虐待によって沈黙させようとしている」と述べた。同センターによれば、ライシ氏の死後、少なくとも12人の女性活動家がその活動に対して実刑判決を受けたという。

しかし、イラン政府と85歳の最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ師は、強制執行をエスカレートさせることにリスクがあることを知っているようだ。イラン議会で可決された、ヒジャブ違反に10年の実刑判決を科す可能性のある法案は、まだ同国のガーディアン評議会(ハメネイ師が最終的に監督する聖職者と法学者で構成される委員会)で承認されていない。

これまでのところ、大統領候補の中でヒジャブ法を批判しているのはペゼシュキアン氏だけだ。現国会議長のモハマド・バガー・カリバフ氏を含む他の候補者は、この法律をよりソフトな方法で実施するよう求めている。

シーア派の聖職者であるモスタファ・プルモハマディ候補は、女性に対する暴力の行使を批判し、警察は警棒ではなく「信頼と感謝の言葉」を使うべきだと述べた。

一方、投獄中のノーベル平和賞受賞者ナルゲス・モハマディ氏は、著名な女性の権利活動家だが、獄中から大統領選投票のボイコットを促す呼びかけを行い、”弾圧、テロ、暴力を信奉する政権 “を支持するだけだと述べた。

最近テヘランで行われた金曜礼拝では、女性はいつものように一様にチャドルを着用して参加した。
「すべての女性はベールをかぶるべきです。これはアッラーの命令です」と49歳の主婦、マスウメ・アフマディさんは語った。

しかし、敬虔な人々の間でも意見が分かれることがある。
「そう、これは神の命令なのですが、私が知る限り、すべての女性がそうしなければならないわけではありません」と、アフマディさんの37歳の友人、ザーラ・カシャニさんは言う。【6月26日 ARAB NEWS】
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【ペゼシュキアン氏を取り巻く厳しい環境 国内保守強硬派の壁、アメリカ・トランプ氏の復権 改革が進まなければ国民離反も】
ペゼシュキアン氏の当選で、風紀警察によるヒジャブ取締りは、保守強硬派当選の場合に比べたらやや緩和されることも期待されますが、根本的な変化は難しいでしょう。

更に、ペゼシュキアン氏が目指す核合意再建・制裁解除は極めて困難というのが大方の見方です。
何より、こうした外交問題での最終的決定権を持つ最高指導者ハメネイ師が保守強硬路線を支持していますので。

****保守強硬路線継続勧めるとイラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は6日、大統領選で当選した改革派ペゼシュキアン氏に対して欧米との対立を深めたライシ大統領の保守強硬路線の継続を勧める声明を発表した。【7月6日 共同】
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ペゼシュキアン氏にとってタイミングが悪いのは、交渉の相手方であるアメリカで、以前核合意から離脱してイランへの制裁を行ったトランプ前大統領が復権しそうなことです。

保守強硬派が多数を占める議会の支持は得られず、最高指導者の後押しもなく、相手方のアメリカ・トランプ氏からも圧力をかけられる・・・これでは身動きできないでしょう。

制裁解除が進まなければ経済も好転せず、変化を求めた国民の支持もペゼシュキアン氏から離れ、政権は「死に体」化する・・・というのがありそうな予測です。

もっとも、最高指導者ハメネイ師・保守強硬派も今回選挙で示された国民の意思を全く無視することもできません。体制批判が膨らんでヒジャブ騒動のような体制が揺らぐ混乱に繋がる恐れもありますので。

****国民の不信感があらわになったイラン大統領選 改革派勝利の意味は****
イラン大統領選の決選投票(5日実施)は6日、開票が行われ、イラン内務省によると、米欧との対話に前向きな改革派のペゼシュキアン元保健相(69)が初当選を決めた。識者に話を聞いた。

日本エネルギー経済研究所・中東研究センター長の坂梨祥氏
イランの指導部は、大統領選での投票率をもって国民の体制への支持率とみなしている。最高指導者ハメネイ師らが繰り返し投票を呼びかける中、国民がどう反応するか注目していた。そして、第1回投票の投票率は約40%で、革命以来、史上最低となった。

今のイランでは、米欧の経済制裁や国際社会における孤立で社会不安が高まり、女性に対するヘジャブ(スカーフ)着用の強制などで抗議行動も見られる。「票を投じないことで抗議の意思を示そう」との呼びかけもネット交流サービス(SNS)で見られた。

決選投票では投票率が50%近くに上昇したものの、体制への不信感が全面に現れる結果となった。改革派のペゼシュキアン氏は経済立て直しには「制裁の解除が不可欠」と主張して当選した。現状路線の維持を訴える保守強硬派との違いを明確にし、変化を望む国民の支持を得た形だ。

イランでは国の方針を最高指導者が決めるため、大統領の権限は限られる。そのため、ペゼシュキアン氏の主張が実現されるのか懐疑的な見方もある。だが、選挙結果を受けて、イラン指導部は国民の抗議の意思を感じているはずだ。制裁解除を目指すとの主張を頭ごなしに否定するわけにはいかないだろう。

ペゼシュキアン氏は「最高指導者の意向は重要だ」とも訴えてきた。最高指導者や保守強硬派が納得する形で、核合意の再建に関する米国との協議を模索するとみられる。【7月6日 毎日】
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ペゼシュキアン氏を取り巻く環境が厳しいことは同氏自身が一番承知しているところでしょう。

“ペゼシュキアン氏はX(旧ツイッター)で「我々の共同作業は始まったばかりだ。あなた方の協力がなくては道のりは困難だ」と国民に協力を呼びかけた。”【7月6日 読売】

ペゼシュキアン氏としては国民支持を背景に、議会・最高指導者などの保守強硬派の了解も引き出してなんとか改革を現実のものにしていきたいところです。

さしあたり、最初のハードルは組閣でしょうか。
イランでは閣僚の選任には国会の過半数の賛成が必要ですが、議席の7割近くはハメネイ最高指導者の影響力が大きい保守派で占められています。

【予想される次期最高指導者問題】
将来の話については、当然ながら何が起こるかわからない不確定要素も。ライシ大統領が事故死してペゼシュキアン氏が後継を担うことになったこと自体、想像もされなかたことです。

イランの抱える大きな不確定要素は次期最高指導者の問題でしょう。

****イラン大統領選 改革派政権が誕生 最大の難問は最高指導者の後継か****
(中略)イランの新政権は今後、最高指導者の交代というイスラム体制にとって重大な事態に直面する可能性がある。現職の最高指導者ハメネイ師は84歳と高齢だからだ。有力な後継候補とみられていたライシ前大統領が事故死しただけに、跡目争いで体制内が混乱する可能性もある。

イランの最高指導者は、国教であるイスラム教シーア派の高位のイスラム法学者(聖職者)から選ばれ、終身制だ。軍事や外交など国政全般で最終決定権を握るほか、軍や精鋭軍事組織「イラン革命防衛隊」も従える。

1979年のイラン革命後、初代の最高指導者に就任したホメイニ師は89年に死亡した。その際に大統領だったハメネイ師が2代目となった。

憲法では、最高指導者はイスラム法学者であると同時に、政治的・社会的な洞察力を持つことなどが資格とされる。選挙で選ばれた聖職者による「専門家会議」(定数88、任期8年)で選出する。

後継候補としては、ハメネイ師の息子であるモジュタバ・ハメネイ師など複数の名前がささやかれているものの、いずれも決め手にかけると言われる。また、指導者交代に伴い、革命防衛隊が政治的な権力を増すとの観測もある。【7月6日 毎日】
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次期最高指導者問題がペゼシュキアン氏にとって“難問”となるのか、“改革の契機”となるのか・・・今後の話です。
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