孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  与党は極右にダブルスコア敗北 マクロン大統領の解散総選挙という「賭け」の背景

2024-06-11 22:38:56 | 欧州情勢

(第二次世界大戦の記念式典に参加するマクロン仏大統領=仏中部チュールで2024年6月10日、ロイター【6月10日 毎日】)

【予想どおりの右派・極右伸長 ただ、親EU派は過半数確保】
注目された欧州議会選挙は、予想されていたように「反EU」や「反移民」を掲げる右派・極右勢力が伸長しましたが、想定内の数字でもあり、親EU派全体では過半数を確保するということで、“劇的な変化”は避けられたようです。

右派・極右勢力が伸長した背景としては、ロシアによるウクライナ侵攻で、欧州では食料やエネルギー価格が上昇、更に、住宅の高騰もあって市民生活が圧迫されていること、また、移民・難民の流入規模は約10年前の「欧州難民危機」に並ぶ水準にまで達しており、各国の右派・極右勢力の「自国民を優先すべきだ」という主張が有権者の共感を得たことがあります。

****極右伸長、リベラル後退 親EU派が過半数確保―欧州議会選****
欧州連合(EU)欧州議会選挙(定数720)の大勢が10日、判明した。暫定集計結果によると、「反EU」や「反移民」を掲げる極右・右派が勢力を拡大し、ロイター通信によれば、計146議席程度を獲得するもよう。

欧州統合推進勢力のうちリベラル派は後退したが、中道右派・中道左派の主流2会派を中心とする親EU派全体では過半数を確保する見込みだ。

欧州委員長、続投に不安要素 親EU派過半数も極右伸長
親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」(ドイツ・キリスト教民主同盟、フォンデアライエン委員長など)は185議席(改選前176議席)と、事前予想を上回り、最大会派の座を維持する公算となった。同じく親EUで中道左派「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」(ドイツ・社会民主党、ショルツ首相など)は137議席(同139議席)になる見通し。

極右会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」(フランス・国民連合、ルペン氏など)は58議席(同49議席)、右派「欧州保守改革(ECR)」(イタリア・イタリアの同胞、メローニ首相など)は73議席(同69議席)にそれぞれ伸長。IDが選挙2週間前に除籍したドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、6議席前後増やすとみられている。

極右・右派の勢力拡大で割を食ったのは、2019年の前回選挙で主流派の受け皿となった親EUのリベラル派や環境派だ。暫定結果によると、中道リベラル会派「欧州刷新」(フランス・再生、マクロン大統領など)は79議席(同102議席)、「緑の党・欧州自由連盟」は52議席(同72議席)に後退する。

特に欧州刷新は、中核を担うフランスのマクロン政権の与党連合が極右政党「国民連合」に大敗。マクロン大統領は自国の国民議会(下院)解散・総選挙を表明した。

欧州議会選は6~9日に加盟各国で投票が行われた。暫定投票率は51%で、前回選挙の50.66%並みだった。【6月11日 時事】
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右派・極右の伸長はありましたが、親EUの中道右派「欧州人民党(EPP)」が善戦して最大会派を維持したこと、親EU派全体では過半数を確保することで、フォンデアライエン欧州委員長続投の可能性も(未だ不透明ながらも)強まっています。

****欧州委委員長が続投へ「支持固め」開始、右派躍進の欧州議会選踏まえ****
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、右派勢力が躍進した欧州議会選の結果を踏まえ、早速2期目の続投を視野に「支持固め」へ動き始めている。

欧州議会選では、フォンデアライエン氏を支えてきた中道系の親EU会派が過半数を維持したものの、議席数は減少。このため同氏が欧州議会で続投を確実に承認してもらうには、より幅広い勢力に働きかけて安定的な多数派を形成する必要がある。

こうした中でフォンデアライエン氏は、緑の党や、右派ながらこれまで緊密な関係を保ってきたイタリアのメローニ首相が率いる会派などとの連携を模索するかもしれない。

ただ中道左派の「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」、中道リベラルの「欧州刷新」、緑の党はいずれも極右と手を組むことを拒否しており、フォンデアライエン氏にとって政治的な調整は極めて難しくなりそうだ。

一方、フォンデアライエン氏の続投には、EU諸国首脳の後押しも欠かせない。

2人の関係者がロイターに明かしたところでは、フランスのマクロン大統領はフォンデアライエン氏の続投支持に傾きつつある。欧州議会選で与党が敗北したとはいえ、マクロン氏の存在感は欧州首脳間において依然として大きい。

ドイツのショルツ首相は、フォンデアライエン氏の続投支持を公表していないが、同国も支持に回るとの見方が広がっている。ショルツ氏は10日、EU首脳ポストは早急に決定するのが望ましいとの見解を示した。

これに対してイタリアのメローニ氏は、フォンデアライエン氏の続投を決めるのはまだ尚早だとくぎを刺し、自身が影響力を行使する余地を残そうとする気配が見受けられた。【6月11日 ロイター】
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【今後のEU政治のカギを握るイタリア・メローニ首相】
フォンデアライエン氏の続投については、今回選挙で勝利したイタリア・極右のメローニ首相の意向がカギとなりそうです。

****イタリア:首相の人気投票に****
イタリアではジョルジャ・メローニ首相が、国内政治での支配力を確実なものにした。

極右政党「イタリアの同胞」を率いるメローニ氏は、投票用紙の同党の欄の一番上に自身の名前を記載。今回の選挙を利用して、自らの人気上昇を狙った。そのギャンブルは結果的に成功。得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。

ただ、成功を収めたのは同党だけではない。中道左派の野党「民主党(PD)」も期待されていた以上の健闘をみせ、得票率は2014年以降で最も高い24%に達したのだ。(後略)【6月11日 BBC】
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【各国の様々な結果】
一方、ドイツでは、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大勝し、難民排斥を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が2位に。ショルツ首相の社会民主党(SPD)や環境保護政党「緑の党」などの連立与党は敗北しました。

****ドイツ:連立政権が敗北も解散総選挙はなし****
ドイツの3党連立政権にとっては残念な結果となった。だがオラフ・ショルツ首相は、マクロン仏大統領のように総選挙を求めることはしないとしている。

「社会民主党(SPD)」、「緑の党」、リベラル派の政党による連立は、前々から危ういものだった。ロシアがウクライナを侵攻すると、ドイツは経済およびエネルギー面でロシアと関係を断ち、かつての平和主義的な感情は国民の間から無くなった。

こうした状況が、一部のコアな与党支持者の熱を奪い、政党間の亀裂を生み、全体的に有権者を動揺させた。移民の急増も地方議会の財源を圧迫した。

政府は軍事費を増やし、安価なロシア産エネルギーからの脱却に成功した。だが、財政は行き詰まっている。

そこに、平和と繁栄を早期に取り戻すと約束する、ポピュリストの極右と極左が割って入った。「プーチン(ロシア大統領)と交渉し、ロシアのガスをまた買おう」。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はそう訴えた。

結果、今回の選挙で「AfD」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ氏のSPDは同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」だった。

「私たちは戦争を終わらせたい。ウクライナへの武器提供をやめ、移民が来るのを止めろ」。元共産主義者で扇動的な政治家ザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が率いる、ポピュリストの極左新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」はそう主張する。

国内の有権者や政治家のほとんどは、ロシアや移民への対処が簡単ではないと考えている。半数以上はウクライナを支持している。しかし、不安と不確実性の時代には、単純なメッセージのほうが魅力的だ。【6月11日 BBC】
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ハンガリーではオルバン首相の与党に対抗して3カ月前に設立されたばかりの中道右派の政党「ティサ」が大健闘、オーストリアでは極右の「自由党」がトップに、スペインではサンチェス首相率いる中道左派が勝利・・・と、子国ごとに見ると、各国事情を反映して様々な結果に。

【フランス・マクロン大統領の「危険な賭け」】
そのなかで注目されているのはフランス。予想されていたようにマクロン与党は大敗し、極右「国民連合」が躍進しましたが、この結果を受けてマクロン大統領は下院を解散して総選挙に打って出るという「賭け」にチャレンジ。

****極右旋風に追い込まれた仏大統領、議会解散で危険な賭け パリ五輪前に政局混迷****
フランスのマクロン大統領は9日、欧州連合(EU)欧州議会選での与党大敗を受けて国民議会(下院)解散を宣言した。

厳しい移民規制を訴える極右「国民連合」の躍進に押され、大統領は政権基盤立て直しに向けて危険な賭けに出た。7月26日のパリ五輪開幕を前に、政局は一気に流動化した。

大統領はテレビ演説で、政治の安定を取り戻すため「フランスには明確な多数派が必要だ」と有権者に訴えた。下院選は6月30日に第1回投票、7月7日に決戦投票が行われる。

仏公共放送の推計によると、欧州議会選で国民連合の得票率は32%。フランスで1勢力の得票率が30%を超えたのは、1979年に欧州議会選が始まって以降2度目で、歴史的な快挙となった。マクロン氏の与党連合の得票率は15%で、ダブルスコアの差をつけられた。

国民連合は移民強硬策が看板。子育て支援など社会保障手当支給で国民と移民の間に格差を設けるよう主張し、フランス生まれの移民2世への国籍付与は制限せよと訴えている。

28歳の若さのバルデラ党首の人気もあって、今回の欧州議会選はマクロン政権に対する信任投票の様相を帯びた。推計投票率は51〜53%で、過去25年間の欧州議会選では最高になる見通し。

フランスで58年に現在の大統領制が始まって以降、大統領が下院を解散するのは6度目となる。前回は97年だった。このときの下院選で当時のシラク大統領の中道右派与党は惨敗した。大統領は左派のジョスパン首相とのコアビタシオン(保革共存政権)を迫られ、政局運営の手を縛られた。

マクロン大統領は22年の大統領選で勝利し、2期目に入った。だが、この年の下院選で与党は議席の過半数を割り込んだ。政府は予算などの重要法案を可決させるため、20回以上、憲法で認められた強権の発動を余儀なくされた。【6月10日 産経】
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****マクロン仏大統領、国民議会解散で「大きな賭け」…「極右」国民連合に過半数明け渡しのリスクも****
(中略)
フランスで大統領が下院解散に踏み切ったのは1997年のシラク大統領(当時)以来だ。電撃解散には、マクロン氏の残り任期が3年を切る中、対立構図を改めて鮮明にして局面打開を図る意図も指摘されている。
 
ただ、マクロン政権に対する支持は長期低迷しており、短期間での立て直しは容易ではない。
 
マクロン政権は、2期目始動後の2022年6月に行われた国民議会選で与党の過半数を失った。各種世論調査でマクロン政権の支持率は20%台が続いている。

27年春の次期大統領選に向けて4月にフィガロが報じた世論調査結果では、RNを実質的に率い、マクロン氏と2度大統領選で決選投票を戦ったマリーヌ・ルペン氏の支持率がマクロン氏の中道勢力の有力者を上回った。マクロン氏は憲法上の規定で出馬できない。

RNは元々、欧州議会選で勝利した場合、国民議会を解散するようマクロン氏に迫っていた。ルペン氏は9日、「準備はできている」と述べた。仏紙「レゼコー」(電子版)は9日、「マクロン氏が勝利する可能性は低い」と分析し「RNが過半数を得るリスクを背負っている」と評した。【6月10日 読売】
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【思い付きではなく、熟慮したうえでの決断・・・ではあるものの・・・】
「危険な賭け」「大きな賭け」と評されていますが、マクロン大統領は選挙結果を受けて急遽思い立ったのではなく。敗北は事前に予想されているなかで、長い期間熟慮した結果としての選択でしょう。

今回ダブルスコアで負けたのに勝算があるのか?・・・という点では、マクロン大統領が期待するのは「決選投票」制度というフランスの選挙制度です。そこで国民の「反極右」感情が国民連合躍進を阻止することへの期待があるのでしょう。

****フランスの国民議会選挙について****
フランスの議会下院にあたる国民議会は定数が577議席ですべてが小選挙区となっていて、選挙は、場合によって2回にわたって投票が行われる仕組みになっています。

1回目の投票では、過半数を得票し、かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。1回目の投票で、当選した候補者がいない場合は1週間後に決選投票が行われます。

決選投票では、1回目の投票の上位2人と、1回目の投票で有権者の12.5%以上の票を獲得した候補者が進み、最も多くの票を獲得した候補者が当選することになります。

前回・2022年の選挙では1回目の投票で当選した候補者は5人だけで99%は決選投票で決まっています。

そして前回の決選投票での全体の得票率をみるとマクロン大統領の与党連合や、左派連合などは1回目の投票に比べて上がったのに対し、極右政党の「国民連合」は1回目の投票に比べやや下げています。

この決選投票では、「国民連合」よりそれ以外の政党の候補者にやや有利だった傾向がうかがえます。

現在の国民議会では、マクロン大統領の与党会派が250議席で過半数の289議席に届かず少数与党になっています。また「国民連合」は88議席となっています。【6月10日 NHK】
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実際、これまでの大統領選挙などでは、決選投票で候補者が絞られると、極右への抵抗感から極右候補は伸び悩み、対抗候補に票が集まり、極右候補は敗退することが多々ありました。マクロン大統領としてはその再現を狙っているのでしょう。

また、そうした中で左派勢力の穏健派を急進派から引き離して、中道勢力との連携にへ取り込もうという狙いも。

更に、「有権者が(欧州議会選の)選択の衝撃におそれをなし、投票行動を国民議会選で修正することを計算している」との見方も。

しかし国民連合(RN)が掲げる「反移民」は、かつては人種差別的ともみなされていましたが、今では社会全体に見られる「普通」の声にもなっています。 右傾化した社会全体と極右政党の垣根は非常に低くなっています。

また、国民連合も「反移民」などを除くと、国民受けのするポピュリズム的主張をしており、マリーヌ・ルペン氏が進めてきた脱極右イメージが一定に奏功しています。

そうした状況で、これまでのように「反極右」で乗り切れるか・・・非常に「危うい賭け」でもあります。

【マクロン大統領にとって「本丸」は次期大統領選挙】
現状での予測は・・・

****仏総選挙、極右優勢も過半数届かない公算 与党連合半減か=世論調査****
欧州議会選挙でフランス与党勢力が極右政党に大敗したことを受けマクロン仏大統領が国民議会(下院、定数577)の解散総選挙を急きょ決めたが、10日に公表された総選挙発表後初の世論調査ではマリーヌ・ルペン氏の極右「国民連合(RN)」の勝利が予想されている。ただ、過半数には届かない見通しだ。

トルナ・ハリス・インタラクティブがシャランジュ、M6、RTL向けに行った調査によると、EU懐疑派で反移民を掲げるRNは235─265議席を獲得し、現在の88から大きく躍進するものの、過半数の289は下回るとみられる。

一方、マクロン氏の中道連合は125─155議席と、現在の250から半減する可能性がある。左派政党は合わせて115─145議席となる見通し。

RNが政権を獲得するかどうかは定かでなく、主要政党による幅広い連立や、完全なハングパーラメント(宙づり議会)というシナリオもある。

RNが過半数を獲得しても、マクロン氏は大統領にとどまり、国防・外交政策を担う。ただ、経済や財政など国内政策の決定権を失い、そうなれば議会の予算承認が必要なウクライナ支援など他の政策にも影響が及ぶことになる。

解散総選挙の決定を受け、フランスの株式と国債が売られたほか、通貨ユーロも下落するなど影響が広がった。

大統領に近い関係者は、2年前に議会で絶対多数を失って影響力が低下していたマクロン氏にとっては、サプライズと言える総選挙に踏み切ることで議会で過半数を回復できるとの計算があると指摘した。

しかし、RNが過半数を獲得すれば政権運営が今後3年機能不全を起こし、2027年大統領選への逆風となるとの見方も出ている。

ルメール経済・財務相はRTLラジオで、解散総選挙は「フランスとフランス国民にとって第5共和制以降で、最も重要な議会選挙となる」と述べた。【6月11日 ロイター】
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マクロン大統領しては、前述のように単なる思い付きではなく熟慮した結果としての戦略ですので、当然にRN(国民連合)が過半数を得た場合、主要政党による幅広い連立で政権担当する場合、政権運営が今後3年機能不全を起こす混乱・・・なども考慮しての決断でしょう。

いずれにしても、マクロン大統領にとっては総選挙結果がどうなろうと、「本丸」は今度の総選挙ではなく次期大統領選挙です。ここで手をうたないと極右ルペン大統領実現が現実味を増す・・・どうやって極右ルペン大統領実現を阻止するかです。そこを見据えての決断がどういう展開を生むのか・・・。

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