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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ケニア  財政難対策の増税案で議会突入、死者20人超の混乱 マイクロファイナンスの問題も

2024-07-02 22:39:03 | アフリカ

(ケニア・ナイロビで、増税案に抗議して警察と対峙(たいじ)するデモ参加者(2024年6月25日撮影)【6月26日 AFP】)

【財政難対策の増税案で混乱】
東アフリカのケニアは民主主義政治においても、経済成長においても、“アフリカの優等生”と評されるような順調な状況にありましたが、その評価に綻びが生じたのが2007年の大統領選挙結果をめぐる暴動でした。

不正疑惑を感じさせる集計結果を受けて、候補者の出身部族の対立が絡んだ暴動に発展、1100人を超える死者を出す混乱となりました。

その後も、2017年8月の大統領選挙結果を最高裁が無効にし、やり直し選挙では野党候補がボイコットするなど混乱が続いています。

現大統領のルト氏は2022年選挙で当選しましたが、こときも野党対立候補は、選管委員の半数が疑義を呈しているなどとして、委員長が発表した選挙結果の受け入れを拒否しました。

このように政治的には不安定な面を抱えています。

経済的には、独立以来、資本主義体制を堅持し、東アフリカでは最も経済の発達した国とされています。工業化は他のアフリカ諸国と比べると進んでいる方で、特に製造業の発展が著しいとも。【ウィキペディアより】
2015年には中所得国入りを果たしています。

ただ、コロナの影響も受け、財政赤字額は依然として高いレベルにあり、公的債務の対GDP比は拡大し続けているという問題も。

****ケニア、全方位外交で債務不履行回避 経済・安保の要衝****
ケニアのルト大統領は日本経済新聞のインタビューで「デフォルト(債務不履行)はありえない」と強調した。

積極的な外交活動で知られるルト氏は財政面で依存度の高い中国だけでなく、西側諸国とも関係を構築する「全方位外交」でデフォルトを回避する狙い。ケニアは安全保障上の要衝で、西側諸国も不安定化を避けたい考えだ。

ケニアを巡ってはかねてデフォルトリスクがささやかれていた。国際通貨基金(IMF)は2020年、同国の債務リスクを「高い」に分類した。

ケニア国家統計局によると同国の公的債務は22年に約8兆ケニアシリング(7兆円超)。18年の2倍弱に膨らんだ。国内総生産(GDP)に占める比率は7割に上る。前政権下でのインフラ整備や、新型コロナウイルス禍での経済対策が財政を圧迫している。

高水準にあるエネルギー価格や通貨安、対外債務の増加などにより、足元では多くの新興国でデフォルトのリスクが高まっている。ルト氏は「私たちは他のすべての国と同じような場所にいる」と述べ、財政危機がケニアだけの問題ではないと訴えた。

懸念されているのが中国依存の高さだ。統計局によると、ケニアの2国間債務に占める中国の割合は22年に73%に上る。

首都ナイロビと東アフリカ最大規模の港湾都市モンバサをつなぐ鉄道が象徴的だ。中国から数十億ドルの融資を受けて建設したものの想定ほど利用が伸びなかった。過剰な債務を負わせてインフラの使用権を中国が握る「債務のワナ」だとの指摘が出ている。

1月には中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟を閣議決定した。日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐藤丈治ナイロビ事務所長は「デフォルトリスクが意識され資金調達の手段が狭まる中、中国は最後の頼りどころになってしまった」と分析する。

危機感もにじむ。ルト氏は「1つの借入先に依存するのは良くない」と強調する。「資金調達の手段を多様化する必要がある」と繰り返し、様々な国と関係を築く「全方位外交」で財政の立て直しを図る姿勢を示した。

実際にルト氏は22年9月の就任以降、欧米を中心に積極的な外交を展開してきた。ジェトロによると、外遊はこれまでに約50回に上るという。ルト氏は「IMFや世界銀行と素晴らしい関係を築いている」とも語る。

今回の訪日もこうした外交活動の一環だ。滞在中には岸田文雄首相と会談し、円建て債券「サムライ債」に関する覚書を交わした。

IMFによると、23年の実質GDP成長率は5%と比較的高水準にある。農業や観光が回復し前の年より0.2ポイント上昇した。

西側諸国にとってもケニアと中国の接近は避けたいものとみられる。

ルト氏自身が「私たちは多くの国と素晴らしい関係にある」という通り、アフリカの中では比較的民主的なケニアはもともと西側とのつながりが深く、企業のアフリカ進出の足がかりになってきた。欧州やアジアからのアクセスがいいモンバサ港を有すことから「東アフリカの玄関口」とも称され、安全保障上の重要性も高い。

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進する日本もインド太平洋とアフリカをつなぐ場所あるケニアを重要なパートナーと位置づける。今回の首脳会談で日本とケニアは防衛協力でも合意した。

ケニア情勢に詳しい京都大大学院の高橋基樹教授(アフリカ経済・開発援助)は「イエメンの親イラン武装組織フーシによる紅海での商船攻撃やスーダンの内戦など周辺の情勢が不安定になる中、ケニアの安保上の重要性はさらに増している」と指摘する。【2月11日 日経】
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財政問題に加えて、他国同様に物価高(前年比5%超)も進行しています。

上記のような厳しい財政事情を受けて、ルト大統領は増税案を発表しましたが、これが生活に苦しむ国民の怒りに火をつけました。

****ケニアでデモ隊が議会に突入、10人死亡か 火災発生で議員避難****
ケニアの首都ナイロビで25日、新たな税金を導入する法案に反対する数千人規模のデモ隊が議会に突入し、治安部隊と衝突した。

AP通信などによると、治安部隊は実弾を発砲し、これまでに少なくとも10人が死亡、50人が負傷したとの情報がある。議会の建物は一部で火災が起き、中にいた議員はトンネルを通じて避難したという。

英BBCなどによると、法案は日用品に新たに課税する内容で、当初はパンに16%、料理油に25%――などの税金を課す計画だった。生理用品や子供用のおむつなども値上がりが見込まれており、反発が強まっていた。

抗議デモを受け、議会は25日、パンへの課税を削除した法案を可決したが、デモはおさまっていない。施行にはルト大統領の署名が必要だという。

デモに参加した男性はロイター通信に対し「議会を閉鎖し、議員は全員、辞職するよう求める。新たな政府を樹立すべきだ」と話した。【6月25日 毎日】
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更に混乱は拡大。

****ケニアのデモ、死者23人に 国会突入、治安部隊発砲****
ケニアの首都ナイロビなどで25日に起きた反増税デモで、地元医師会は26日、治安部隊の発砲による死者が少なくとも23人に上り、約30人が負傷したと明らかにした。ロイター通信が報じた。ケニアでは市民が物価高騰にあえぎ、財政改善を目的とする政府の増税策に対する抗議活動が各地に広がった。

ナイロビでは暴徒化した若者が封鎖を突破して国会に突入。敷地内の建物が燃えて議員らが避難を余儀なくされた。抗議活動は、ルト大統領の地盤を含む大半の自治体で起きた。

アフリカでは比較的政情が安定しているケニアでの国会突入は異例。米国を始めとする各国が相次いで懸念を表明した。【6月26日 共同】
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混乱を受けて、ルト大統領は増税案を撤回することを明らかにしています。

****ケニア大統領、抗議拡大で増税法案撤回へ****
ケニアのルト大統領は26日、全国的な抗議活動の拡大を受け、議会で可決された増税法案に署名しないと明らかにした。法案は撤回される見通し。【6月26日 共同】
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ルト大統領が増税法案を撤回した後も混乱はおさまらず、27日も首都ナイロビ近郊ではデモ隊と警察との衝突で少なくとも2人が死亡したほか、ケニア西部ホマベイでは警察がデモ隊に発砲する事態となっています。

その後は混乱のニュースは目にしていませんので、それなりにおさまってきているのでしょう。

【生活苦の若者らを更に追い込むマイクロファイナンスの実態】
この混乱の背景にある若者らの生活苦を、銀行ローンを使えないような貧困層向けの無担保小口融資“マイクロファイナンス”という別視点からとらえたのが下記記事。

****ケニアで若者の怒りが爆発 反増税デモの背景「マイクロファイナンスの闇」とは?****
<貧困層に公正な「成功の機会」を与えるはずのマイクロファイナンスが、民間業者によって短期・高金利の「略奪的な貸し付け」に。若者たちの首を絞めている──>

経済不安に揺れるケニアで6月25日、増税を含む財政法案に抗議して数千人のデモ隊が議会を襲撃。ウィリアム・ルト大統領は法案を撤回した。

しかし、今回の騒動の根本的な原因は、しばらく前からくすぶっていた。ケニアの若者は、自分たちに不利な経済的・金融的インフラの中で生きていくのに必死なのだ。

その顕著な例が、貧困層向けの小口融資であるマイクロファイナンスだ。

ケニア南部の海岸の町ウクンダでは、安定した仕事はなかなか望めない。29歳で独身のサミュエルはボダボダ(バイクタクシー)で勝負しようと決めた。

4カ月をかけて資金をため、2022年7月に中国製バイクを購入した。1058ドルのうち10%の頭金を払い、残りはフィンテック(IT技術を使った金融サービス)業者でローンを組んだ。手数料が170ドル。12カ月払いで月利4%、年利にすると48%。利息だけで450ドルを超えた。

ボダボダの運転手の収入は1日4~8ドル。1年間、休みなしで働いた。週29ドルの返済に加えて、家賃、食費、電話代、ガソリン代、さらには家族への仕送り。何とか食いつないでローンを完済し、バイクは自分のものになった。

サミュエルのように幸運な人は決して多くない。34歳で3児の父のジュマは、23年2月にサミュエルと同じフィンテック業者と契約して同じ種類のバイクを購入した。

生活費がかかるジュマは、月利6.6%、年利79.2%の18カ月ローンを組まざるを得なかった。返済総額はバイクの価格の2倍近くになる。家計が重くのしかかり、すぐに返済が滞りそうになった。

ケニアでは近年、民間業者のマイクロファイナンスが普及しており、貧困者の多くが似たような苦境に直面している。

若者の失業率は67%と高く、このような融資は、生活費を稼ぐために小規模ビジネスに参入する際の、簡単だがリスクの高い手法になっている。

そして、略奪的な貸し付けを含む金融システムに対する不満が、生活費の高騰で大きな打撃を受けている若者をデモへと駆り立てた。

経済の安定を目指すグローバルサウス全域に、こうした融資の罠が張り巡らされている。マイクロファイナンスの慣行は、かつて多くの慈善家や投資家が期待したように個人に力を与えるどころか、略奪的になっていった。

略奪される社会の弱者
1990年代にマイクロファイナンスが広まり始めた当初は、少額を低金利で貸し出す仕組みだった。しかし近年は、広く利用できるマイクロクレジットの大半が、民間のフィンテック業者による短期で高金利の融資だ。

経済的に安定していない個人に融資することで負うリスクにより、貸し手は高い金利を正当化できると主張する。だが、借り手は莫大な利息が上積みされ、返済が追い付かずに破綻してもローンが残る。

これは必然的な結果ではない。ケニア政府も国際社会も、略奪的な貸し付けを取り締まる手段を持っている。適切な政策によって、マイクロファイナンスの本来の目的どおり、公正な成功の機会を与えられれば経済発展の原動力になり得る人々を保護できるはずだ。

グローバルサウスでは多くの民間のマイクロファイナンスが、イタリアの経済学者リサ・クロサトとルチア・ダッラ・ペッレグリナの言う「理不尽な高利貸し」になっている。「高利貸し契約の本質を知らない借り手に、過大な金利を課している」のだ。

ただし、ケニアの貧困者が契約の結末を理解しているとしても、選択肢はほとんどない。全額を前払いすることは不可能だ。

また、ケニアは近隣諸国に比べて金融セクターが発展しているとはいえ、多くの人にとって銀行融資は手が届かない。銀行口座を持っているのは全成人の半数、クレジットカード保有者は6%、デビットカード保有者は22%、住宅ローンを組めるのはわずか11%だ(いずれも推定)。

略奪的な融資に対し、ケニア政府が辛うじて手綱を締めたと言えるのは、22年3月にデジタル融資市場の規制を強化する新しい法律を可決したことだ。業界はケニア中央銀行の管轄下に置かれ、デジタル金融業者とその商品の認可と登録を標準化する枠組みが導入された。

正しい方向に一歩進んだのは確かだが、この法律には金利や手数料の規制がなく、略奪的なデジタル融資の抑制にはつながらなかった。高利貸しの具体的な防止策を導入できなかったのは、個人だけでなく国の中長期的成長と安定にとっても問題だ。

略奪的貸し付けの影響は懐具合を超えて、広範に及ぶ。最低限の生活もままならない状況に借り手を閉じ込め、ひいては教育、結婚、子育ての機会や健康を奪いかねない。

さらにケニア中央銀行は昨年12月、一部の金融業者が新法の抜け穴を悪用し、適切な監督を受けずに無許可で営業していると述べた。そうした業者の中には、バイク用ローンや資産担保融資を提供する大手5社も含まれていた。
民間に代わって融資を行おうと、政府も努力している。

ルトは22年の大統領選で、野心はあるが仕事に恵まれない若者を支援すると公約。大統領に就任すると速やかに、経済を底辺から刺激するという触れ込みで「ハスラー・ファンド」を設立した。今後5年間で約3億8700万ドルを個人や中小企業の経営者に融資するプログラムだ。

ルトの取り組みを一部のアナリストは高く評価し、民間業者は金利の引き下げを迫られるはずだと予想する。一方で若者層にはメリットが少なく、経済刺激策としての効果は限定的だとする声もある。

取り組みがケニア経済に与える影響はまだ見えない。だが返済期間が短く、対象が正式に登録された事業に限られるなどの制約があるため、若者にとってハスラーの小規模事業者向けローンは民間業者の代わりにはなりにくい。

公式サイトによれば、ハスラーの融資実績は約5万4000件の事業に総額およそ138万ドルと伸び悩んでいる。利用者の大半が選ぶのは個人向け融資で、こちらは約4億800万ドルをおよそ2300万人に貸し、借り手は急な出費や生活費に役立てている。

バイクタクシー業を営むサミュエルとジュマにとって、ハスラーの小規模事業者向け融資は選択肢になかった。彼らは多くのケニア人と同様に、金利は格段に高いが返済期間の長い民間業者を利用した。

2人が金を借りたフィンテック企業ワトゥ・クレジットは2015年の創業で、ウェブサイトにはアフリカ7カ国で「融資実績150万件以上」の文字が躍る。ワトゥも、同じくバイク用ローンを提供するモゴも、融資の条件は似たり寄ったりだ。

どちらもケニア中央銀行に名指しで無許可営業を批判された大手。借り手に無理のない借り入れを促すツールやトレーニングを提供しているが、効果の程は不明だ。

求められるのは法整備
マイクロファイナンスには人々に本物のチャンスを与える力がある。金融セクターが未発達のグローバルサウスで個人事業主をサポートするのがマイクロファイナンスのコンセプトであり、政策次第では経済成長の原動力になる。

政府と国際社会は略奪的貸し付けで身動きが取れなくなった人々を保護するために、規制を設ける必要がある。
国内法が功を奏した例もある。アメリカでは45の州と首都ワシントンが反略奪的貸し付け法を導入し、金利に上限を定めた。

国際レベルでは民間の融資が開発目標を損なうのを防ぐため、世界銀行や米国際開発金融公社(DFC)がもっと積極的に動くべきだ。

例えば世界銀行グループの国際金融公社(IFC)はマイクロファイナンスに数十億ドルを拠出してきた。出資先はハイリスクなプロジェクトを支えるマイクロファイナンスだが、そうしたサービスが悪質な融資を行っていないかどうかの確認には一層の努力が求められる。

高利貸しを取り締まる法律は、経済をより持続可能な形で成長させ、より公正で安定した社会を実現するために必要な保護をケニアに与える。

法整備が整わない限り、サミュエルやジュマのような若者は苦境から抜け出せない。彼らは金融業者、つまりは市場に運命を委ねた。政府や国際機関、銀行はそうした人々の信頼にそろそろ行動で応えるベきだろう。
必要なのは貧困層への増税ではなく市民の成功を後押しする公正な環境づくりだ。【7月2日 Newsweek】
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本来、マイクロファイナンスはバングラデシュのユヌス氏(ノーベル賞受賞)がグラミン銀行として広めた取組です。「施しは貧困の解決にはならない」とする同氏は、農村の主婦などに牛を飼ったり、小売り店舗を営む少額資金を貸付けて起業をうながすことで貧困からの脱出を支援しました。

単に貸すだけでなく、経営観念を教え、確実な返済を促し、そのためには連帯責任制度も。

ユヌシ氏のような明確な目的意識がある指導者や組織が行っている状況では、貧困からの脱出手段として機能するマイクロファイナンスですが、仕組みが拡散するなかで、ケニアのような単なる貧困層向けの「理不尽な高利貸し」と化す危険も。

この問題は、以前から、各地で見られる現象で、2012年3月19日ブログ“アフガニスタン 米兵住民殺害事件による情勢流動化 女性教育とマイクロファイナンス”でも取り上げました。

ユヌス氏とは政治的対立もあったバングラデシュのハシナ首相はマイクロファイナンスを「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」と批判しています。 活かすも殺すも運用・管理次第でしょう。
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