孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル自治区へのバチェレ国連人権高等弁務官訪問 中国に利用されただけに終わる懸念

2022-06-20 23:36:12 | 中国
(国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR) のバチェレ代表(左)が訪れても、中国共産党は全く異なる「人権」概念を掲げる【5月30日 WEDGE】)

【人権弾圧の実態を明らかにした「新疆公安ファイル」】
中国の新疆ウイグル自治区における少数民族の人権弾圧に関して、先月(5月)大きな出来事が二つありました。

一つは中国当局から流出した新疆ウイグル自治区に関する数万点の内部資料が5月24日、米団体により公開されたこと。資料には数千枚の写真や公文書が含まれ、同自治区でウイグル人などの少数民族が暴力的な手段で収容された実態が改めて浮き彫りとなりました。

資料は、匿名の人物が新疆の公式データベースをハッキングして入手し、米NPO「共産主義犠牲者記念財団」に所属するドイツ人研究者アドリアン・ツェンツ氏に提供したもので、後述する二つ目の大きな出来事であるミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問中に公開されました。【5月25日 AFPより】

****流出した「新疆公安ファイル」独自の人権概念掲げる中国****
近年日本でも注目されるようになった中国・新疆ウイグル自治区における人権抑圧の問題は、当面ロシアのウクライナ侵略の陰に隠れた感があるものの、依然として深刻である。

このような中、5月23日から28日まで、国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR) のバチェレ代表が中国を訪れたが、それと前後するかたちで日米欧のメディア連合から「新疆公安ファイル」が公表され、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族への弾圧の生々しい実態が改めて示された。

果たして中国は、人権抑圧の証拠を前にして自らの問題を認め、自発的に少数民族や国際社会との関係を改善する方向に動くのだろうか。結論から言えば、少なくとも現在の中国共産党(以下中共と略す)政権が続く限り、それは決してあり得ない。何故なら中共は今や、全く異なる「人権」概念を掲げ、外界との合意可能性がかつてなく薄れているからである。

改めて明らかになる凄惨な弾圧
今回公表された「新疆公安ファイル」(中略)の中では、例えば2016年8月から昨年末まで中共新疆ウイグル自治区委員会書記(=新疆の最高権力者)を務めた陳全国が17年5月に放った「海外からの帰国者は片っ端から拘束せよ」「(拘束対象者が)数歩でも逃げれば射殺せよ」といった発言が強く目を惹く。

また、趙克志・国務委員兼公安相が「過激な宗教思想の浸透が深刻なグループは、新疆に200万人いる」と認識していた点が注目される(毎日新聞、22年5月24日)。

17年以後、新疆で明らかに異常な事態が起こっていることは、米国ラジオ自由アジア(RFA ) やBBCを中心としたメディアが辛うじて現地から入手していた情報、そして国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ) 及び米国ニューヨーク・タイムズが19年11月16日にスクープした新疆秘密文書から明らかになっており、筆者(平野)のみたところ、今回明るみになった内容は必ずしも目新しいものではない。

とはいえ、大量の被害者の写真データや個人情報、そして弾圧に関わった指導者の具体的な発言によって、弾圧の経緯や実態をより詳細に補強できるようになったという点で大きな意味がある。(後略)【5月30日 WEDGE】
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この件に関しては5月24日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 「発砲しろ」・・・「再教育施設」の戦慄の実態 「新疆公安ファイル」公開”でも取り上げていますので、今回は詳細はパスします。

中国側は、「嘘やデマの流布では世の中の人を欺くことはできない」(中国外務省 汪文斌報道官)と無視する姿勢です。

【バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問 「調査が目的ではなかった」とするも中国のプロパガンダに利用されただけとの批判も】
この「新疆公安ファイル」の公開は、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問中に行われました。

バチェレ氏の訪問について中国政府は「交流と協力推進が目的」であり、米欧などが指摘する人権問題に対する「調査」ではないと強調しており、バチェレ氏の訪中は中国側のプロパガンダに利用されるだけに終わるのでは・・・という懸念が強くありました。

アメリカ国務省のプライス報道官は「中国が新疆ウイグル自治区の人権状況について、完全かつ操作されていない検証を行うために必要なアクセスを認めるとは思っていない」として「深く懸念している」と語り、そうした懸念を中国とバチェレ氏側に伝えたとのこと。【5月21日 ロイター】

「新疆公安ファイル」の公開は、中国側の意に沿う形で行われるバチェレ国連人権高等弁務官訪中を牽制する意図もあったようにも思えます。

常識的に考えても、中国側が完全にコントロールする状況での訪中で中国側に不都合な事実が明らかにされることは期待できません。

バチェレ氏は訪中後の記者会見で、中国政府に対し対テロ政策を国際的な人権基準に基づいて見直すよう促したこと、また、中国政府との間で高官による定期的な戦略対話を設置することも明らかにしています。
しかし、中国の人権侵害を糾弾する発言はなく、「新疆公安ファイル」に触れることもありませんでした。

****国連人権弁務官、新疆訪問「調査ではない」 人権団体は批判****
国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官は28日、物議を醸している新疆ウイグル自治区訪問について「調査ではなかった」と説明した。中国当局に対しては「恣意(しい)的で無差別な」取り締まりを回避するよう求めた。

国連人権高等弁務官の訪中は17年ぶり。中国の馬朝旭外務次官は「前向きで具体的な成果」があったと主張した。これに対し、人権活動家やNGOは、バチェレ氏の発言は中国にプロパガンダ上の大きな勝利をもたらしたと反発している。(中略)

今週訪中したバチェレ氏は、かねて計画していたウイグル自治区訪問を実現。日程最終日のこの日、中国国内で記者会見し、中国当局や市民団体、学者と「率直」に話す機会を得たと述べた。

中国政府に対しては、新疆での取り締まりにおいて「恣意的で無差別な手段」を用いないよう強く求めた。同時に「過激主義に基づく暴力行為」により被害がもたらされていることも認識していると語った。

その上で「今回の訪問は調査ではない」と強調。新疆では、国連が手配した面会相手に「当局の監視を受けずに」会えたと説明した。

バチェレ氏は、自治区の区都ウルムチとカシュガルで刑務所やかつての再教育施設、観光地のカシュガル旧市街、テロ対策の展示施設、綿花畑などを視察。カシュガル刑務所では受刑者に面会し、控訴審が行われる刑務所内の法廷も見学したとし、「非常に開放的で透明性が保たれた」視察だったと評した。

人権団体から強制再教育施設だと指摘されていた「職業訓練施設」について、自治区政府はバチェレ氏に対し「解体された」と語ったという。ただ、同氏としては「全面的な評価はできなかった」と述べた。

中国政府は2019年、「職業訓練施設」から全訓練生が卒業したと発表した。これに対し人権団体は、収容者の多くが工場に移されて強制労働をさせられたり、自治区内の他の刑務所に再収容されたりしているとの見方を示している。

バチェレ氏は記者会見で、自治区内の人権侵害に関する国連報告書の公表が遅れていることについては言及しなかった。

記者会見を受け、バチェレ氏を批判する声が相次いだ。
亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」の広報担当者ディルシャット・ラシット氏は「国連人権理事会のためにバチェレ氏が唯一できる意味ある行動は、辞任することだ」と主張。米国在住のウイグル人活動家ライハン・アサット氏は「完全な裏切りだ」とツイッターに投稿した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのアニェス・カラマール事務総長は「国連人権高等弁務官の訪問に関しては、政府高官との写真撮影や中国国営メディアによる発言の操作が特徴的だ。容易に予想できたにもかかわらず中国政府のプロパガンダにまんまとはまってしまった印象がある」とする声明を発表した。 【5月29日 AFP】
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【国連内部からも批判 報告書は発表前に中国政府と共有とのことで懸念も】
中国の意に沿うような言動のバチェレ氏への批判は国連内部からも。
各国の人権状況を調べる40人余りの国連の特別報告者らが6月10日、「(中国当局には)懸念にこたえようとする姿勢が見えない」と批判する声明を出し、少数民族が強制収容されているとされる施設への訪問も含めて、透明かつ完全な調査の受け入れを求めました。

声明は、中国政府との対話の意義を認めつつも、「ウイグルやチベット自治区、香港などの状況を至急調べる必要性を代替するものではない。深い懸念は拭えない」とし、国連の調査への全面的な協力を要求しています。

バチェレ国連人権高等弁務官がまとめている自治区の人権状況に関する報告書をめぐっても懸念が。

****発表前に中国政府と共有か 不安広がるウイグル国連報告書****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区を視察したバチェレ国連人権高等弁務官がまとめている自治区の人権状況に関する報告書をめぐり、専門家らが内容を不安視している。

バチェレ氏が視察中、同自治区で拘束されたウイグル族らから話を聞けなかった上、発表前の報告書を中国政府と共有する方針も判明。中国側の圧力を受け、報告書が中国の意向に沿った内容になることが懸念されている。

バチェレ氏は5月23〜28日に訪中し、滞在中に同自治区の刑務所や多数のウイグル族らを収容した「職業技能教育訓練センター」だった施設を訪れた。だが、同氏は訪中最終日の28日のオンライン記者会見で、調査よりも中国との交流を重んじる姿勢を強調し「中国側に融和的」(欧州メディア)などと非難された。

そんな中、バチェレ氏は今月13日、視察内容を踏まえて作成している報告書について「自治区での人権状況に関する評価を進めている」とし「事実関係のコメントを得るために(報告書を)発表の前に(中国)政府と共有する」と述べた。

この発言を受け、一部の人権専門家は中国が同国の意向に沿うように報告書の修正をバチェレ氏に求める恐れを指摘。ウイグル人の人権専門家、アジズ・イーサ・エルクン氏は「中国の利益にかなう報告書になる可能性があり、信頼性が低く偏った内容になるだろう」との見解を示した。

懸念が強まっているのは、国連機関主導の報告書が「中国寄り」の内容になった前例があるためだ。
世界保健機関(WHO)は昨年3月、新型コロナウイルスの起源解明のため中国湖北省武漢市で調査を行った国際調査団の報告書を公表したが、「武漢起源」説を否定したい中国の考えを尊重する見解が目立った。発表前に中国当局と報告書の内容を調整したため、中国側の主張に押し切られたとみられている。

また、バチェレ氏は視察中、中国の人権侵害を証明するだけの証拠を集められておらず、中国の主張に逆らえない恐れがある。英紙ガーディアン(電子版)は16日、同氏が同自治区を訪問中、政府の役人の監督下にあり、拘束されたウイグル族やその家族らと話せなかったと報じた。

自治区の人権問題を調査するウイグル人研究者は「バチェレ氏本人が報告書で踏み込んだ内容を書けないことを自覚している」と推察した。(中略)

一方、中国はバチェレ氏の訪中を積極的に宣伝工作で活用している。中国共産党の理論誌、求是(同)は今月15日の記事で、習近平国家主席が訪中したバチェレ氏とのオンライン会談で「中国が、人権の全方位的な擁護と保障に力を尽くしているという原則的な立場を表明した」と訴えた。

報告書への警戒も強めており、中国紙の中国青年報(同)は16日、「バチェレ氏に米英などが頻繁に圧力を加え、できるだけ早く新疆の人権報告を出すように求めている」と指摘。「一部の西側諸国と政治屋は新たな『新疆カード』を切ったようだ」と非難した。【6月18日 産経】
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“バチェレ氏は13日、1期目の任期が終了する8月末で退任する意向を表明。報告書は退任までに公表するとした。退任は「個人的理由」としたが「報告書の内容を非難される前に退く姿勢を見せた」(英人権専門家)との見方もある。”【同上】とも。

バチェレ氏は南米チリの政治家で、世界史上初の自由選挙による社会主義政権を樹立し、軍事クーデターに倒れたアジェンデ元大統領の党でもあるチリ社会党に属し、2006年からと2014年からの2回、チリ大統領を務めています。チリ史上初の女性大統領でもあります。

また、2010年には国連の新組織国際連合女性機関の初代事務局長に任命され、2期目の大統領復帰をはさんで、2018年8月、グテレス国連事務総長より国際連合人権高等弁務官に指名されています。

****「中国は人権基準を満たしている」──プロパガンダに加担した「人権の守護者」****
<元チリ大統領で、国連人権高等弁務官のミシェル・バチェレ。中国・新疆ウイグル自治区を訪れ、習近平の喜ぶ発言だけを残して、8月末での退任を表明。なぜ最後に汚点を残したのか?>

国連人権高等弁務官と言えば、世界における正義と市民的自由の守護者の1人だ。
ナバネセム・ピレイ(在任2008~14年)は、北朝鮮による「人道に対する罪」に関する国連調査の道筋をつけた。ザイド・ラード・アル・フセイン(同14~18年)は、ミャンマーのロヒンギャへの残虐行為について国際刑事裁判所に付託することを求めた。

だが、18年9月に就任した現職のミチェル・バチェレは違う。彼女は中国が新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧している問題を不問に付した。
バチェレは先頃、再選は目指さず、1期目が終わる8月末で退任すると表明した。

国連人権高等弁務官は道徳的なリーダーであることを期待される。世界各地の人権侵害を白日の下にさらし、外交官や政治家に政策面での交渉をさせることが責務とされる。

だがチリの元大統領であるバチェレには、その役割がのみ込めなかったようだ。彼女は自ら中国政府との交渉役となり、国連機関における告発者および道徳的良心の中核としての責任を忘れてしまった。

バチェレは就任以来の4年間を、訪中実現のための交渉に費やした。今年5月に訪中が実現したことには、中国に批判的な活動家も文句は言えない。中国政府によるジェノサイドへの批判が高まる新疆ウイグル自治区を訪れたのだから、それなりの意義はある。

だが問題は、訪問の時期と性格、そして結果だ。これらはバチェレの任期の最終盤に大きな汚点を残した。

まるで習政権の広告塔
バチェレが訪中最終日に行った記者会見は驚くべきものだった。彼女は「反テロリズム」や「脱過激化」など中国政府が使う表現をそのまま口にし、「多国間主義」のために中国が担う役割をたたえ、貧困撲滅策の成果を大げさに述べた。彼女は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に操られる「役に立つ愚か者」になっていた。

記者会見で彼女は、中国の医療の国民皆保険や「ほぼ皆保険」である失業保険、男女平等の推進策を持ち上げた。だが蔓延する性暴力、強制される不妊手術や人工妊娠中絶、人身売買に拷問、そしてジェノサイド疑惑などには一切触れなかった。奴隷労働の横行についても何も言わず、それどころか強制労働を続けている中国企業を「人権基準を満たしている」と称賛した。

最も奇妙だったのは、中国で「市民社会の各団体、学者、地域社会や宗教界の指導者」と会ったという発言だ。誰のことを指しているのか。中国の市民団体は大半が閉鎖され、大半の学者が黙らされ、地域社会や宗教界の指導者は多数が獄中にいるというのに。

訪中のタイミングは、中国で新型コロナ対策が改めて強化された時期に重なった。中国はバチェレの行動を制限する口実を手にし、最終日の記者会見もリモートで行われた。

仮にタイミングがよかったとしても、バチェレが新疆ウイグル自治区の強制収容所に自由にアクセスできるとは思えない。コロナ対策の下では残虐行為の実態に触れる機会は、ほぼなかっただろう。

今回の訪中は「調査が目的ではなかった」と、バチェレは言い続けている。これが腑に落ちない。バチェレは4年前から調査の実現を訴えていた。それなのに、今回は調査が目的ではないとわざわざ主張するのはなぜか。国連人権高等弁務官事務所による新疆ウイグル自治区の人権状況に関する報告書の公表を遅らせたのはなぜか。それこそが「調査」報告書ではないのか。

人権専門家が総出で非難
(中略)
バチェレの訪中は「新疆公安ファイル」の流出と重なった。これは、新疆ウイグル自治区の収容所の内幕を伝える文書や発言、写真や動画から成る大量のデータだ。バチェレはこのファイルについて全く触れなかった。

国連の40人余りの特別報告者は6月10日、中国に対し、「国連の人権システムに全面的に協力」することと、「中国における重大な人権侵害と基本的自由の弾圧の申し立てを受けた独立した専門家」による完全な調査の受け入れを求めた。バチェレの身内である国連の人権専門家が、彼女を暗に批判したことになる。

この声明の前に、世界各国の学者40人がバチェレの中国訪問を非難し、記者会見での発言に「極めて困惑した」と述べ、報告書の発表を求めた。6月8日には、ウイグル、チベット、香港などの人権保護活動を代表する230以上の人権団体が、バチェレの辞任を求める共同声明を出した。

バチェレの信用は地に落ち、取り返しのつかない汚点を任期にもたらした。彼女も就任後しばらくは、香港での警察の横暴やミャンマーでの残虐行為について明確に発言していたのだが、今回の訪中の大失敗で全てを台無しにした。

もしかするとバチェレはそれに気付き、周囲から押し出される前に、自ら飛び降りたのかもしれない。【6月20日 Newsweek】
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バチェレ氏としては、先ずは対話の糸口をつくることに意義を見出したのか・・・そのあたりの心境はよくわかりません。

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