孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国のメコン川ダム建設をめぐる流域国との対立 南シナ海同様の「分断」の構図も

2019-08-03 22:17:45 | 東南アジア

(ラオス・ルアンパバンの「プーシーの丘」から眺める夕暮れのメコン川(2003年5月撮影))

 

【アメリカも中国のメコン川「支配」を批判】

東南アジアの大河メコン川のように複数国を流域とする国際河川の場合、その水資源の利用、とりわけ上流国のダム建設が下流国に及ぼす影響が関係国間の深刻な問題を惹起します。

 

そのあたりについては、これまでも何度か取り上げてきました。(2018年9月30日ブログ“メコン川水資源をめぐる流域国の争い 日本も関与している流域開発”など)

 

上記ブログでも指摘したように、メコン川をめぐる問題は各国入り乱れての利害関係になっており、一人中国だけの問題ではありませんが、最近、再びメコン川の最上流国である中国のダム建設に関する記事をいくつか目にしました。

 

“一帯一路”による共存共栄をを掲げる中国外交の姿勢にも関する問題ですので、再度、中国のダム建設の影響を中心に取り上げます。

 

****中国がメコン川を「支配」へ、ダム建設ラッシュに米が警鐘****

マイク・ポンペオ米国務長官は7月31日、中国がダム建設ラッシュを通じて、東南アジアで最も重要な河川メコン川の流れを支配しようとしていると警鐘を鳴らした。

 

有名なメコン川は中国に源を発し、タイとラオス、ミャンマー、カンボジア、ベトナムを流れ、流域に暮らす約6000万人の生活を支えているが、水位は記録的な低さを記録している。

 

環境保護団体らは中国の支援を受けてメコン川上流に建設中のダムについて、水産資源を損ない、中国による水の流れの操作を可能にするものと懸念している。

 

ポンぺオ氏はタイの首都バンコクで開かれた東南アジア諸国連合の関連会合で、「下流の水の流れを一手にコントロールするダム」の建設ラッシュが上流で起きていると指摘した。

 

今年は、米国が資金を拠出したメコン川下流域開発が発足して10年の節目になる。

 

ポンペオ氏は、中国が国外の川でパトロール活動を行い、メコン川流域の建設活動を監視する政府間グループ「メコン川委員会」を弱体化させかねない新ルールを押しつけていると非難した。 【8月2日 AFP】AFPBB News

*****************

 

【流域国への配慮を欠く中国のダム建設 足並みがそろわない関係国】

今この時期にアメリカがメコン川の問題を取り上げるのは、ホットな米中対立の一環でしょう。

それはともかく、中国のダム建設が下流域に大きな影響を与えることは間違いない事実です。

 

****メコン川に映るべトナム、カンボジア、中国の“悪縁”****

(中略)

中国のダムがもたらす破壊的影響

現在のプノンペンは、中国資本をはじめとした海外資本の流入によって急激に変貌している。中国が主導する「一帯一路」の重要な拠点と位置づけられているからだ。(中略)

 

 

メコン川の流域に位置するカンボジアにもたらされた変化は、首都プノンペンの急激な変貌だけではない。上流域の中国で次々と建設されるダム(現在すでに6つのダムが稼働中で、さらに21基が計画中)が、環境破壊をもたらし、人々の生活や生態系に悪影響を与えているのである。

 

コラムの冒頭で、メコン川は「利根川と異なり基本的に人間の手が入っていない」と書いたが、正確に言うとそうではない。2000年代に入ってから急ピッチでダム建設が進んでいるだけでなく、水運として利用するため、航行の邪魔となる岩盤をダイナマイトで破壊するなど、中国が上流域でメコン川の改造を行っているのだ。

 

雨期の洪水が下流域に豊富な水産資源をもたらしてきたメコン川だが、ダムによる水量調整のため肝心の雨期に増水がない。

 

このため、(カンボジアの)トンレサップ湖では水産資源の激減が報告されており、カンボジア人の生活にきわめて大きな悪影響を及ぼしている。状況は、中流域のラオスやタイでも同様だ。しかも、中流域でもダム建設が進んでいる。

 

もちろん、ダム建設のメリットはある。雨期の洪水期の貯水機能だけでなく、乾期には水門を開くことで、下流域のベトナム南部のメコンデルタの干ばつ被害の緩和に寄与したこともある。中国は下流域のベトナムに恩を売っているのだ。

 

だが、裏返しに見れば、下流域のラオスやカンボジアといった貧しい小国の経済の生命線を中国が握っていることを意味している。中国による実質的な「植民地化」が進行しているのだ。この状況は、一帯一路が政策として実行される以前から始まっている。

 

「流域」という発想も、「サステイナビリティ」(持続性)という観点も、いちじるしく欠いた中国の開発至上主義と拝金主義。かつての日本の高度成長時代を何十倍にも拡大したような中国の姿勢に危惧を覚えるのは私だけではないだろう。

 

「森は海の恋人」というフレーズがある。宮城県のカキ養殖業者の畠山重篤氏が提唱しているものだ。豊かな森で生まれた栄養分が、上流から中流域を通って河口に流れ込み、カキを成長させるという循環のことを指している。植樹運動を通じて「流域」全体の環境保全に貢献しようという運動のキャッチフレーズである。

 

おそらく、中国共産党はそんなメッセージには、いっさい耳を貸さないのだろうが、「流域」という観点から、現在進行形の環境破壊問題について国際的に注視し続ける必要がある。チベットやウイグルなどの人権問題や、一帯一路にまつわる債務問題だけが問題ではないのだ。【7月2日 佐藤 けんいち氏 JB Press】

*****************

 

(自国民の生活に関係する場合は)必ずしも近年の中国が環境保全に対する認識を欠いているという訳でもないでしょうが、流域関係国への配慮にかける「中国第一主義」で行動しているという指摘はあたっているようにも。

 

むしろ、積極的に流域国への影響力を強める観点から、そのような行動に出ているのかも。

 

****中国のダム放水で深刻な水害****

 

東南アジア最大の河川で、チベット高原に源を発し中国雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの国境地帯を流れて南シナ海に注ぐ全長4200キロの大河メコン川は、漁業や農業、水運などでその流域に暮らす人々の生活を昔から支えてきた。

 

その伝統的な生活が今脅かされる事態に直面している。原因は中国が自国領内のメコン川上流に建設した複数のダムで、貯水量の調節のためとして大量の水を放流することによるメコン川下流域での水位上昇、水流の激化などが自然環境や農業、漁業に従事する周辺住民に様々な問題を引き起こしているのだ。

 

ダムの放水は危険を伴うことから中国は事前に下流関係国に連絡することになっているが、実際は連絡が大幅に遅れたり、連絡がなかったりというケースが大半で、メコン流域各国は中国に抗議しているものの、事態は一向に改善していないという。

 

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が7月3日に伝えたところなどによると、メコン川上流、中国雲南省にある景洪ダム(発電量1750MW=2010年完成)による放水の影響でラオス北部ボーケオ県の流域住民200家族以上が7月までに水位上昇による洪水で田畑や家屋が被害を受けているという。

 

さらにタイでも流域の20カ村に住む約300家族が景洪ダムなどの放水による突然の水位上昇が生活の糧であるメコン川での漁業に深刻な影響を与えているという。

 

放水は水位の上昇に加えて水流の速さも変え、水生植物や生息魚類などの環境を破壊してしまうことや増水や川底の状況変化でフェリーなどの生活に関わる水運にも影響が及んでおり、流域住民は生活困難に直面しているとRFAは伝えている。


こうした状況にタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムからなる「メコン川委員会(MRC)」は将来の被害軽減に向けた検討協議を始めるとともに、環境保護団体などと連携して中国政府に善処を求めている。

 

7月中にはバンコクの中国大使館に深刻な事態を訴えるとともに「これまで被害を受けた流域農民などへの被害補償を求めていく」としている。

 

タイのメコン川環境監視団体などによると、2019年になって過去37年間で最高となる3.7メートルの川の水位上昇が一部流域で観測されたという。このためメコン川にある中州や島では畑などが水没し、農作物が甚大な被害を受けたといわれている。

 

事態を重視したバンコクの米大使館関係者も被害を受けたタイ農民からの事情聴取に乗り出そうとしているとの報道もある。

 

さらに中国は領土内のメコン川で浅い川底を浚渫したり、川中や沿岸の岩石を破砕したりして船舶が航行できるような河川工事も実施しているとされ、下流域の環境汚染問題も新たに浮上していると環境団体は指摘する。

 

「MRC」は中国に対してダム建設の中止をこれまでも求めてきたが、中国側は聞く耳持たずの状況で、事態は悪化の一途をたどっており、国際社会での問題提起の必要性が高まっている。

 

ただMRCの内部でも多額の経済援助などから親中国の姿勢を明確にしているカンボジアでは流域農民や漁民の被害の実態があまり明らかになっておらず、対中姿勢を巡ってメンバー国の間に温度差が存在することも事実。

 

中国がメコン下流域の深刻な問題を認識しようとしない背景には、こうした東南アジア側の事情もあると指摘されており、今後の課題となっている。

 

世界的にも豊かな生物環境とされるメコン川は環境面だけでなく周辺住民の生活にも直結した生活河川でもあるだけに、関係国並びに国際社会の早急な対応が求められている。【7月14日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

********************

 

連絡もなしに大量放流するのは、ほとんど犯罪的行為でもありますが・・・上記のようにカンボジアなど親中国の立場の国もあるなかで、流域国の足並みがそろわない状況にあります。

 

下記記事も大塚智彦氏による、上記のような状況を受けての、中国主張とそれへの反論です。

 

****タイとラオス住民が猛反発、メコン川上流の中国ダム****

(中略)

英字紙上での中国主張に反論掲載

そうした中でバンコク・ポスト紙上に発表されたのが、前述の署名記事だ。7月12日の同紙に、在タイ中国大使館のYang Yang報道官による「誤った報道はメコン川での協力を阻害する」とする署名記事が掲載されたのだ。

 

この記事の中で中国側はタイ国内でのメコン川に関する中国ダムの批判的な影響に関する報道について「報道は中国への誤った批判に満ち、メコン川流域の住民に資するために水資源を有効に利用しようとする中国、タイ及び関係国による共同の努力を無視するものである」と批判。

 

その上で「中国は以下の事実を改めて確認したい」として

①  メコン川の環境保護は関係国の人々の生命の保護でもある、

②  関係国による環境アセスメントを実施して環境に与える被害を最小限にしようと努力している、

③  最近のメコン川の洪水や干ばつは地球的規模の気候変動によるものであり、中国のダム建設はこうした気候変動に対応するもので、乾季には水を流し、雨期には貯水することで水流を調整して下流域の経済的損失を軽減している、

④  中国は下流域各国に配慮し、緊密な意思疎通を保ちながら水力発電ダムのデータを共有しメコン川を友好の川、協力と繁栄の川とするため共に努力している、などと持論を展開した。

 

これに対し同じバンコク・ポスト紙は7月17日紙面にタイの環境保護団体「チャンコン保護グループ」共同創設者でメコン流域8地方の関係者でつくる「タイ住民メコンネットワーク」のニワット・ロイゲオ氏の反論記事を掲載した。

 

「中国はメコン問題に真摯に向き合え」と見出しを打たれた記事の中でニワット氏は「中国大使館報道官が紙面で主張したような中国がメコン川の資源を活用して地域住民のために協力しているという趣旨には同意することができない」と反論。

「いかに美辞麗句を並べても中国が実際に行っていることはメコン川の環境を破壊し、損害を与えているだけである」「中国の上流のダムははっきり言って、下流住民の生活や自然環境になんの利益にもなっていない」とタイの立場から手厳しく中国側の主張に反論している。

 

そしてメコン川の洪水や干ばつは「季節の変化によるもので、長年周辺国の流域住民約6000万人はそのサイクルの中で生活を営んできた」として自然と共存してきたことを強調し、「上流ダムの放水がそのサイクルを変化させた」と人為的な環境変化が中国によってもたらされ、それが生活環境、自然環境を破壊し、損害を与えているとの認識を改めて示した。

 

その上で「我々は同じメコン川の水を飲んでいるという中国の主張は必ずしも同じ理解と協力関係を保障するものではない」と中国側の一方的主張に釘を刺した。

 

周辺国の間でも対中国で温度差

中国のこうした「独善的」な主張に基づく水力発電ダムの建設で大きな被害を被っているメコン川流域の各国だが、タイやラオスは中国との外交関係に一定の配慮を示しながらも「流域住民の生存権に関わる」としてメコン川問題に関しては厳しい姿勢を貫こうとしている。

 

しかしその一方で同じ下流域にあるカンボジアはMRCのメンバーでありながらフン・セン政権が中国からの多額の経済援助のため「対中弱腰外交」と周辺国から批判を浴びる外交戦略を展開しているため、メコン川問題でも、被害や影響の細かい情報が不明で、特にことを荒立てる構えもみせていない。

 

こうしたMRC内部の足並みの乱れも中国側に付け入る隙を与える結果となっているとの見方も強く、「母なるメコンの危機」をどのように回避して、メコンとともに生きる東南アジアの人々の生活と自然環境をどこまで守ることができるのか、流域関係国のみならず、東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の問題として対処することが急務となっている。【7月24日 大塚 智彦氏 JB Press】

*****************

 

景洪ダムの問題に関しては“メコン川異常渇水の中国原因説に反論、流域諸国をダム視察に招待―中国【2010年3月13日 レコードチャイナ】といった記事もあるように、昨日今日に始まった問題ではありません。

 

メコン流域国はASEANメンバーになりますが、ASEANの対中国姿勢は南シナ海問題でも、メコン川同様に中国による分断工作およびその影響力の大きさによって腰が引けた対応に終始しています。

 

【東南アジアの主要河川流域開発で日本がパートナー国に】

ASEANメンバーだけでは限界もあります。

そのあたりに、日本が存在感を示せる余地もあると思うのですが・・・。

 

****主要河川の流域開発で連携確認、河野外相 メコン川流域5カ国と合意****

河野太郎外相は3日、タイの首都バンコクで、東南アジアのメコン川流域のタイ、ベトナムなど5カ国との外相級会談を約1時間行った。

 

東南アジアの主要河川流域の発展を目指す「エーヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略(ACMECS)」で、日本がパートナー国になることで合意。今秋の日メコン首脳会議に向け、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための共同文書を採択する準備を進める方針も確認した。

 

河野氏は、昨年の日メコン首脳会議で採択した「東京戦略2018」に基づき、東南アジア諸国をまたぐ東西経済回廊の改修や港湾開発を進めていることを強調。

 

インフラ開発やエネルギー、環境・都市問題などに重点を置く方針を示した。

 

中国主導の開発で途上国が過剰な債務を負う事例を踏まえ、河野氏は「持続可能性や経済合理性のある質の高いインフラ開発」の重要性を強調した。

 

会談にはほかにカンボジア、ラオス、ミャンマーの外相らが出席した。【8月3日 毎日】

******************

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする