孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  過激化する「逃亡犯条例」改正案への抗議行動 「第2次天安門事件」への懸念も

2019-08-10 23:07:55 | 東アジア

(会見場に向かう香港の林鄭行政長官(5日)【87日 WSJ】 デモ隊と中国指導部の間で板挟み状態 当事者能力もなく、辞任も許されないというつらい立場です。)

 

【過激化する香港デモ 「彼らの一部はこの運動のために死ぬ覚悟ができている」】

当事者能力のない香港政府、絶対に後には引けない中国指導部、「一国二制度」を守る最後の戦いと位置付ける若者ら・・・出口の見えない香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐるせめぎあいですが、治安当局の鎮圧行動に対し、これに反発する若者らの抵抗が更にエスカレートするという形の悪循環が続いています。

 

****香港で数千人規模のデモ 道路を封鎖、警官と対峙****

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡り、香港の新界地区で10日、数千人規模の抗議デモが行われ、一部の若者がバリケードを築くなどして道路を封鎖、警官隊と一時対峙した。警察は安全上の問題があるとしてデモを許可しなかったが、決行された。

 

抗議活動の開始から2カ月たち、香港政府は過激デモへの取り締まりを強化。警察の強制排除に反発した若者が、さらに抗議をエスカレートさせる悪循環に陥っている。

 

10日は香港国際空港のロビーでも、数百人が改正案反対を訴える座り込みを行った。同様の抗議は9日に続き2日目。【810日 共同】

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香港ではデモは、従来より民意を反映しない議会に代わる民意の表現手段でしたが、おおむね平和的におこなわれ、一部で過激化した「雨傘運動」は住民の支持を失い急速に失速するということにもなりましたが、今回の抗議行動は明らかに様相が異なります。

 

中国側は、暴動鎮圧訓練の様子や市街戦の模擬訓練を紹介する動画を公開する形で、我慢の限界に来ていること、これ以上の混乱は座視しないことを示しています。

 

****「死ぬ覚悟」の香港デモ、暴力化する反中運動 ****

2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘運動」は、幹線道路を79日間にわたって占拠した。同デモに参加していたクロエさんは当時、路上に野営しながらスローガンを唱え、「希望の種」をまいた。だが結局、民主化要求は無視された。

 

今夏、20代になった公務員のクロエさんは金属製のフェンスを結束バンドでつないで道路を封鎖し、警官に投げつけるためのレンガを歩道から掘り起こした。彼女の主な役割は「逮捕者支援」だ。拘束されたデモ参加者のために弁護士を雇う準備を整え、その家族が緊急事態プランに沿って行動する手助けをすることだ。

 

「彼らの一部はこの運動のために死ぬ覚悟ができている」。クロエさんはこう話す。「私も死ぬことはいとわない」

 

中国政府による締めつけ強化に抗議する運動は、過去の民主化要求運動に比べて大規模かつ頻繁に発生し、より暴力的になっている。

 

2014年の雨傘運動では学生がデモを主導していたが、現在の抗議運動は香港社会の幅広い層にまたがり、公務員や有名歌手、医師、商店主などが年齢を問わず参加している。また、過激な方法で市民的不服従を示す活動家への支持も前回より広がっている。

 

現在のデモの強硬派は、ベテランリーダーの戦略に従わないことが多い。過去のやり方は失敗したとみなしているからだ。今は少人数グループの匿名のリーダーが組織して行動を起こす。2014年当時は運動を率いる学生リーダーが著名人となった。

 

香港の抵抗は今や、2012年に習近平国家主席が権力を握って以降で最大規模の公然とした反体制運動に発展した。

 

「他に選択肢がないという感覚が多くの人々の間にある。香港市民の声に耳を傾けさせるには、物理的な衝突が唯一の方法だという感覚だ」。

 

民主化グループ「香港衆志(デモシスト)」のジェフリー・ゴー氏はこう話す。ゴー氏は自ら暴力を使うことはないが、一部の参加者がなぜそうした手段に訴えるのかは理解できると語った。

 

政府が一歩も譲らず、警察がデモ隊の強制排除に乗り出すなか、住民側の不満はますます高まっている。最前線では警察が住宅地であっても催涙ガスを使い始めた。

 

警官はデモ参加者を警棒で殴打したり、ショッピングモールや地下鉄の駅に突入してデモ参加者を力ずくで排除している。69日以降すでに420人を逮捕。一部は最長10年の禁錮刑に処される罪に問われている。

 

中国政府は警察の対応を支持し、今回の騒動が我慢の限界を超えつつあるとのシグナルを送っている。人民解放軍の香港駐留部隊は先週、兵士による暴動鎮圧訓練の様子や市街戦の模擬訓練を紹介する動画を公開した。

 

香港全域に広がったデモや集会は、先週末で9週連続となっており、一部では暴徒化もあった。5日には地下鉄や空港で大規模なストライキが行われ、数千人が出勤できずに自宅にとどまった。

 

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は5日、2週間ぶりに公式コメントを発表。香港が危険かつ不安定になっていると述べ、暴力的な抗議デモを非難した。同長官はデモ参加者の要求には一切応じなかった。

 

中国の想定超える

抗議デモは6月上旬、犯罪容疑者の中国本土移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する形で始まった。この法案は棚上げとなったが、正式に撤回されたわけではない。そして抗議デモは、中国の独裁体制から香港市民の権利を守るという一段と広範なイデオロギーの戦いへと発展した。

 

それに拍車をかけているのが、中国本土からの移住者や観光客へのいら立ちだ。例えば、大学の定員を巡る競争激化や不動産の高騰、整列して並ぶ香港市民のマナーが乱されたことなどへの不満だ。抗議デモは観光や経済活動に影を落とし、企業の景況感や金融市場への打撃となっている。

 

抗議行動の激しさは中国政府を驚かせた。香港を担当する中国当局者は非難を表明するとともに、香港の指導者に暴力的なデモ参加者を処罰するよう促し、香港の法と秩序を取り戻すのが「最も喫緊の課題」だと述べた。

 

人民解放軍の将校らは、必要ならば介入する用意があると述べた。一方、香港政府は軍隊を動員する可能性を否定している。もしそうなれば、数百人が犠牲となった1989年の天安門事件を想起させることになる。中国当局は折に触れ、同事件は外国の影響を受けたせいだとしてきた。

 

今回のデモは、中国共産党を弱体化させる拠点として香港を利用させてはならないとする中国政府の立場にとって試金石となる。林鄭長官は5日のコメントで、一部の過激主義者による革命の呼びかけ――ここ数週間、路上でよく聞かれるスローガン――が抗議そのものの性質を変化させたとし、これは中国の主権に対する挑発だと述べた。

 

香港政府の戦略を知る関係者によると、同長官は騒ぎが過ぎ去るのを待つ思惑だという。9月になって学生が授業に戻れば、危機は収束すると見込んでいるのだ。同長官はデモに参加する多種多様なグループとの正式な対話には乗り出していない。

 

デモ参加者はそうしたスケジュールを否定し、政府がきちんと対応しない限り、撤退はしないと主張する。

 

デモで暴力もいとわないという考えは5年前までは異端だった。香港返還以降、抗議デモといえば、日没と同時に終了する平和的な行進か、ろうそくをともして整然と行われる徹夜の祈りだった。2014年に起きた雨傘運動は大規模かつ長く持続する抗議デモへと発展した。だが警察と数回衝突しただけで、たちまち各方面から非難を浴びた。催涙ガスが使われたのは1度きりだ。

 

「香港を取り戻せ」

急進主義へのシフトは2016年に起きた抗議デモに端を発する。移動式屋台に対する警察の取り締まりをきっかけに、デモ隊と警察が激しく衝突。当時は「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」と呼ばれた。

 

権利拡大を要求したこのグループの2人の指導者、インテリアデザイナーのレイ・ウォン氏(25)と大学生のエドワード・リャン氏が逮捕され、暴動を扇動した罪に問われた。(中略)

 

ウォン氏とリャン氏は「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、われわれの時代の革命だ)」というスローガンを掲げた。最近のデモ参加者も再びこの言葉を唱えている。(中略)

 

当局と対峙(たいじ)するなか、自主的に組織された急進的な抗議グループの多くは予測不能な動きをし、注目を集めるのを避けようとした。デモや集会は暗号化されたメッセージアプリを通じて、あるいは路上の群衆の間から瞬く間に出現した。参加者は時には1ブロック先で何が起きているかも知らない。1万人規模の群衆がすぐに集まり、何時間も道路を占拠したと思えば、機動隊と対決するや一瞬で姿を消すこともある。

 

「彼らはスポンジのようだ。互いに情報を吸収し合っている」。ブライアン・リャン氏はこう語る。デモ隊とともに71日に立法会(議会)に突入し、議場を占拠した際にマスクを外した人物だ。「ここにはピラミッド構造の指揮系統はない。あるのはノード(結節点)だけ。ソーシャルネットワークと同じだ」【87日 WSJ】

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【「中央政府は決して座視しない」とは言うものの、「第2次天安門事件」は避けたい中国】

****制御不能になれば介入=香港デモに警告―中国****

中国国務院香港マカオ事務弁公室の張暁明主任は7日、広東省深セン市で開いた香港情勢に関する会議で、「情勢がさらに悪化し香港政府が制御できない動乱が出現すれば、中央政府は決して座視しない」と述べ、軍の投入を含む介入の可能性に言及した。中国国営中央テレビが伝えた。

 

香港では、中国本土への容疑者移送を可能にする逃亡犯条例改正に反対する大規模なデモが続いている。張主任の発言は、現時点で「制御不能」とは見なしていないが、今後の情勢次第では介入する姿勢を示し、過激化する反対派に警告を発したものだ。

 

張主任は「香港は(1997年の)返還以来最も厳しい局面にある」との認識を表明。その上で「香港基本法に基づき、中央政府は各種動乱を迅速に平定できる十分な手段と強大な力を有している」と強調した。

 

同法は、第14条で香港政府の要請に基づく人民解放軍の治安維持出動を容認。さらに第18条では、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が「制御不能の動乱」と判断し「緊急事態入り」を決定すれば、「中央政府が全国の法律を実施できる」と規定している。【87日 時事】

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武力介入も辞さない強い姿勢を繰り返し示す中国ですが、アメリカとの覇権争いのただなかにある今、国際批判の集中砲火にさらされることが明らかな「第二の天安門事件」が香港で起きることは極力避けたいのが本音でしょう。

 

“中国政府は今回の香港情勢が「第二の天安門事件」となることを危惧している。それだけに、習近平政権は海外からの反応に神経質になっており、できるだけ目立たないようにしているのだ。もし、人民解放軍が投入されれば、間違いなく天安門事件の再来となる。” 【810日 舛添 要一氏 JBPress

 

【アメリカ政権内部には「第2次天安門事件」に追い込みたい思惑も?】

一方、アメリカ側には、逆に中国を「第二の天安門事件」に追い込みたいとの思惑があるのかも・・・という指摘も。

 

****香港デモを焚きつける米国が引き起こしたい「第2次天安門事件」****

アメリカは、外国の革命勢力を支援する

 

これ、どうなんでしょうか?考えられる可能性は二つです。一つは、中国政府が、香港デモ弾圧の口実に使いたい。「デモ参加者は、アメリカの手先だから厳しく弾圧せよ!と。

 

もう一つは、実際にアメリカが香港デモを支援している。つまり中国政府は、事実を述べている。

 

現時点で、「どっちがホント」か断言することはできません。しかし、皆さんに知っておいて欲しいのは、「そういうことがある」ということです。(後略)【87日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】

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北野氏は、アメリカが画策した事例として、20003年にジョージア(旧グルジア)で起きた革命などを列挙しています。

 

もちろん、世界各地の混乱にアメリカがいろんな形で関与してきたことは事実ですが、仮に香港の混乱に乗じようとしているなら、それはディールと再選にしか関心がないトランプ大統領というより、政権内部の根っからの対中国強硬派の勢力の発想でしょう。

 

“もし、アメリカが香港デモをオーガナイズしているのなら、以前にも書きましたが、「第2次天安門事件」が起こり、それを口実に、米欧日・対中経済制裁にもっていきたいのでしょう。クリミア併合後の対ロシアのように。

そうなると、アメリカ企業も相当な損害が出ますが、「覇権にはかえられない!」と決意している勢力が、今のアメリカを牛耳っている。それは、トランプさんというより、昨年10月、中国に「宣戦布告演説」をしたペンスさんのグループなのでしょう。”【同上】

 

もっとも、現段階では、少なくともアメリカが“香港デモをオーガナイズしている”というほどの影響力を行使しているようには見えません。もちろん支援はしているでしょうが。

 

中国とアメリカの「内政干渉」あるいは「正当な情報収集」をめぐる非難合戦は周知のとおり。

 

****米報道官、中国は「暴力政権」=米外交官の個人情報流出と非難****

米国務省のオルタガス報道官は8日の記者会見で、中国本土への容疑者移送を可能にする逃亡犯条例改正に反対する香港での抗議デモに絡み、中国政府が、香港の民主派と接触した米外交官の写真や個人情報などを流出させたと指摘し、「暴力的な政権のやることだ」と非難した。その上で「個人情報の公表はまったく受け入れられない」と訴えた。

 

8日付の中国系香港紙・大公報は、香港の米総領事館員が、黄之鋒氏ら民主活動家とホテルのロビーで面会している写真や、この館員の名前、家族の情報を掲載した。また、中国外務省の香港出先機関は8日、米側に面会について説明を求めたという。

 

これに対し、オルタガス氏は「中国や香港に限らず、米外交官は政府当局者とも会うし、反対勢力とも会う」と述べ、この外交官の行動に問題はなかったと強調した。【89日 時事】

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【香港経済への影響深刻化 抗議行動が支持を保てるかどうかは不透明】

若者らの暴力も辞さない過激な行動を含めて、抗議行動に理解を示す人々が多い香港市民ですが、混乱が長期化するにつれ経済への影響も深刻になってきています。

 

中国の武力介入への懸念も現実問題となります。

 

今後とも、若者らの抗議行動がこれまでのように一定に支持を保てるかどうかは不透明です。

 

****混乱長引き観光客数が減少 飲食店売り上げも下落 香港デモ****

香港各地で10日、「逃亡犯条例」改正案に反対するデモや集会が開かれ、これで週末の抗議運動は10週連続となった。長引く混乱で、レストランの売り上げや観光客数は軒並み下落し、経済界からは苦境を訴える声が上がる。

 

「デモが始まってから客は減り続けている。客足はいつ戻るのか先が見えない」。香港島中心部のホテル従業員の女性はため息をつく。空室が増え、宿泊料金をデモ前に比べ2割近く下げた。

 

香港政府トップの林鄭月娥(りんていげつが)行政長官は9日の記者会見で、「経済の勢いは急速に落ち込み、『津波が来た』とも称される」と発言。2000年代前半の新型肺炎SARSがもたらした経済不況より深刻だとして強い危機感を示した。

 

10日付の香港紙によると、デモが始まる前に比べ、飲食・運輸業などの業績は20〜50%、衣類や靴などの販売は20〜25%、観光客は30%ほど落ち込んだ。中小企業の幹部からは「状況が悪化すれば倒産する」といった声が出ている。 【810日 毎日】

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