(写真は移民のための就職説明会。1月にベルリンで撮影【8月30日 ロイター】
8月29日、独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えるなど、移民への意識が改善する傾向にあることが明らかになった。)
【危ういメルケル後継禅譲】
これまでEUを牽引してきたドイツ・メルケル政権に関しては、このところはあまり“いいニュース”は見聞きしません。
メルケル首相の求心力低下、与党キリスト教民主同盟(CDU)の支持率低下や後継者問題、連立埋没で低迷する社会民主党の連立離脱の動き、極右勢力の台頭など、あまり芳しくない話題が多くなっています。
****メルケル独首相、後継禅譲へ「危険な賭け」*****
ドイツのメルケル首相の有力後継候補である保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の女性党首、アンネグレート・クランプカレンバウアー氏が試練に直面している。
指導力の弱さや失言で国民の支持が低下。巻き返しのため兼務することになった国防相は、不祥事の多い“鬼門”ポストとされる。メルケル氏が描く円滑な禅譲には「危険な賭け」(メディア)となりそうだ。
(中略)国防相を兼務することになったのは、前任のフォンデアライエン氏が欧州連合(EU)の次期欧州委員長に決まり、後任が必要になったからだ。それまでクランプカレンバウアー氏は入閣をきっぱり否定していため、この人選に国内では大きな驚きが広がった。
■「前方への逃避」
「状況が変わった」。自身は方針転換の理由をこう語る。政権は今、連立相手の中道左派、社会民主党が離脱する懸念が高まり、大きく揺れる。このためCDUとして、党首入閣で政権維持への意思を明確するのが適切との判断に「メルケル氏と私は至った」のだという。
だが、理由はそればかりでなさそうだ。独メディアはこの決断をクランプカレンバウアー氏の「前方への逃走」(経済紙ハンデルスブラット)だと指摘する。
クランプカレンバウアー氏は昨年2月、メルケル氏が意中に置く後継候補として地方の州首相から党幹事長に大抜擢。昨年12月には寛容な難民政策など「メルケル路線」に反対する保守派の対抗候補と大接戦の末、党首選を制した。
その後、党内の分断克服と党勢回復を担ったが、5月のEU欧州議会選で党は過去最低の結果に低迷。選挙前に若者がCDUの気候変動対策を批判したネットの投稿動画について、「世論操作」と反論して大きな批判を浴びるなど、誤解を招く発言でしばしば物議も醸した。
この結果、独メディアの政治家人気ランキングでクランプカレンバウアー氏は党首就任当時の2位(支持率58%)から、6月には12位(同33%)に転落。首相に「ふさわしくない」との回答が71%に上る世論調査の結果も報じられた。
「このままでは首相への野心にサヨナラすることになると気づいた」。CDU幹部はメルケル氏とクランプカレンバウアー氏の判断についてこう語る。重職の国防相として政府の経験を積みながら、新たなスポットを浴びることで支持回復を図る−との狙いだ。
■国防省は「地雷原」
だが、この人事には「冒険」(独紙フランクフルター・アルゲマイネ)との見方がもっぱら。国防省は連邦軍も含め、かねて不祥事が多く、歴代国防相が政治家としての将来を傷つけられた事例が少なくない。首相に上り詰めた国防相経験者は戦後1人だけだ。(中略)
党首としても修羅場が続く。9月1日には東部2州の議会選挙が行われるが、世論調査では移民・難民危機で台頭した右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)にCDUが敗北する可能性もあり、その場合、今後の首相候補を決める党内議論で保守派のライバルらに追い落とされる懸念も否定しきれない。【8月26日 産経】
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【反移民右派政党の台頭と極右暴力の横行】
記事最後に触れられている東部2州の議会選挙における反移民を掲げるAfD台頭の可能性については、以下のようにも。
****右派ポピュリズム政党、首位うかがう 独東部2州で1日議会選挙****
ドイツの東部2州で9月1日に実施される州議会選挙で、右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が首位をうかがうなど大躍進する勢いを見せている。
メルケル首相の保守系政党、キリスト教民主同盟(CDU)、国政で連立を組む中道左派の社会民主党はともに苦戦。結果が連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。
選挙が行われるのはブランデンブルクとザクセンの2州。公共放送ARDの最新の政党支持率によると、AfDはブランデンブルクで22%となり、第1党の社民党と同率トップ。ザクセンでは24%で、前回選の得票率9・7%を大きく上回り、CDU(30%)に次ぐ第2党になる可能性が高い。
排外主義的な主張を掲げるAfDはメルケル氏の寛容な難民・移民受け入れ策への批判票を集め、これまで支持を拡大してきた。国内16州・特別市ですでに議会進出を果たしているが、第1党になれば初めて。
AfDは特に旧東独地域の東部州で強く、5月に行われた欧州連合(EU)欧州議会選では今回選挙のある両州ともに首位だった。
旧東独地域ではドイツ統一から29年を迎える現在も、旧西独地域との経済格差が残り、既存政治に不満を抱える市民がAfDに引き寄せられている形だ。
一方、CDU、社民党ともに両州で得票を多く減少させると予測される。特に党勢低迷が深刻な社民党は10月に新党首を選出後、年内に連立政権の成果を中間評価する予定。今回選挙で大敗すれば党内の連立懐疑派が勢いを増し、政局が不安定化する可能性がある。
社民党が政権を離脱すれば、2021年の任期終了まで首相続投を目指すメルケル氏の方針も危うくなる。CDUではクランプカレンバウアー党首が国防相を兼務しながら選挙戦を展開するが、結果次第ではメルケル氏の有力後継候補としての手腕に党内で疑問が強まる可能性もある。【8月30日 産経】
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メルケル首相・政権がこのような苦境に陥っている原因は、寛容な難民・移民受け入れ策によって洪水のような大量の難民・移民がおしよせたことへの国民不満にあるとされています。
その不満の受け皿として上記の反移民政党AfDの台頭もある訳ですが、より過激な暴力的極右勢力の動きにも懸念が深まっています。
****ドイツ、極右過激化へ懸念深まる 政治家殺害や脅迫行為****
ドイツの極右勢力が難民や移民の大量流入への抗議をエスカレートさせている。
難民支援を訴えた政治家が殺害されたほか、政界や言論界を標的にした脅迫行為が横行している。
排他主義的な動機による銃乱射事件が米国で相次いだこともあり、ドイツでも憎悪犯罪が誘発されることに、警戒感が広がっている。
ドイツではメルケル首相が2015年から、難民や移民に寛容な受け入れ策を進めているが、一方で反移民感情も高まっていた。
今年6月には、メルケル氏の政策を支持した中部ヘッセン州の政治家、ワルター・リュプケ氏(65)が、自宅で極右活動家に射殺される事件が起きた。
戦後ドイツで、政治家が極右に殺害されたのは初めてとされ、衝撃が走った。
当局は、かつて極右活動に参加していた地元の男(45)を逮捕。政治的動機による犯行として、捜査中だ。男は欧州で相次いだイスラム過激派テロも背景に、憎悪の矛先をリュプケ氏に向けたようだ。
「民主主義を破壊しようとする風潮に立ちはだかるのはわれわれの義務だ」
メルケル首相は7月中旬、第2次世界大戦末期のナチス・ドイツで起きたヒトラー暗殺未遂事件の75周年式典でこう述べた。さらにリュプケ氏の殺害事件にも触れ、極右勢力の過激化に強い警鐘を鳴らした。
ドイツ内務省が6月に公表した報告書では、国内の「極右過激派」は近年増加傾向にあり、総数は2万4100人に上るとしている。このうち暴力的な行為を志向する者が、半分以上を占めるという。
捜査当局はイスラム過激派への対応に追われ、極右勢力の抗議活動を甘く見ていたとの批判も強い。
さらに、リュプケ氏の殺害事件に対する一部の「反応」も懸念材料だ。
容疑者の逮捕後、難民支援に積極的な西部ケルンの市長ら自治体関係者、大手企業トップ、公共放送のジャーナリストといった難民支援に積極的な人物も標的となり、「第2のリュプケにする」などとした殺害脅迫が届き始めた。
難民や移民に反発する反イスラム団体のデモ参加者は、「(殺害は)人道的反応だ」などとテレビのインタビューで発言してい。
こうした動きに対し、シュタインマイヤー大統領は「危険は極右の暴力だけではなく、その行為を正当化する雰囲気だ」と戒めている。【8月26日 産経】
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【移民受け入れによる労働人口増大】
大量の移民・難民はこうした深刻な問題を惹起し、メルケル政権を揺さぶる形になっていますが、一面では移民増加によってドイツの人口は増大し、人口減少による国力低下が懸念される日本とは異なる可能性も見せています。
****2018年のドイツの人口が過去最高、東欧などの移民が押し上げ****
ドイツ連邦統計庁の16日発表によると、ドイツの人口が昨年、東欧を中心とする諸国からの移民により、過去最高の8300万人超を記録した。
移民の純流入数は前年の41万6000から40万人に減少。主な出身国は依然欧州連合(EU)域内で、合わせて20万2000人だった。内訳はルーマニアの6万8000人を筆頭に、クロアチアの2万9000人、ブルガリアの2万7000人、ポーランドの2万人などとなった。
ドイツでは、高齢化と出生率低下で今後数十年に労働力が縮小する公算が大きいことから、増加する定年退職者を年金で支えていく企業にとって、移民は人材確保に不可欠な存在とみなされている。
一方、戦争で荒廃した国からの移民は減少しているもようで、純流入数はシリアが2017年の6万人から18年には3万4000人に、アフリカは同3万5000人から3万4000人に減少した。【7月17日 ロイター】
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【大量移民への拒否感を示したドイツ社会にも変化の兆し】
いくら労働人口が移民によって補充されても、そのことによって社会が不安定化しては元も子もありませんが、大量移民に拒否感を示したドイツ社会も、ここにきてようやく流入した移民をうまく“のみ込める”ようになっている・・・そんな気配もあります。
****ドイツ国民、移民への意識が改善、経済に貢献と評価=調査****
独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えていることが明らかになった。2015年の大規模な移民流入で高まった反移民感情が和らいでいることが示された。
調査では、移民受け入れに比較的積極的な旧西ドイツ出身者と、より消極的な旧東ドイツ出身者の間の溝が埋まりつつあることも明らかになった。ただ、経済への影響については、依然見解の相違がみられる。
移民がドイツ経済に貢献するとの回答は3分の2近くに達した。また、生活や人生が移民の人達によって興味深いものになると考えている人は67%だった。若い人達の間で特に移民対する肯定的な意見が目立った。
同財団の理事会メンバー、Joerg Draeger氏は「ドイツは移民が大量に流入した2015年のストレステストに合格し、実質的な移民受け入れ国としての立場を安定させた」と指摘した。
移民の受け入れ負担を訴える人は49%で、2017年の54%から低下した。
移民を歓迎するとした西ドイツ出身者の割合は59%で、2017年の65%から低下。東ドイツ出身者ではこの割合は33%から42%に上昇し、双方の差が縮小した。
一方、東部では、移民が社会保障制度などの負担になるとの回答は83%に達した。【8月30日 ロイター】
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今回の東部2州の選挙結果はともかく、将来的には、上記のような東独地域での反移民感情緩和の傾向が全国的に進めば、移民に関する諸問題の解消にも道筋が開け、労働人口増大による果実も手にすることが可能となります。
現在は移民受け入れに失敗した・・・との評価が大きいメルケル政権ですが、社会の移民受入れが進めば、30年後には「あれがドイツの沈下を救う契機となった」という異なる評価に変わるかも。