孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  多様性を認める寛容さ旨とする国家に広がる不寛容

2019-08-02 22:41:47 | 東南アジア

(インドネシア・アチェ州の州都バンダアチェで、公開むち打ち刑を受ける女性(201981日撮影)【81日 AFP】)

 

【世界中で対立・いがみ合いが目立った一日】

世の中は対立・いがみ合い・チキンレースばかりですが、今日はいつにもましてそうした流れが目に着く日でした。

 

米ロの二大核保有国については、“INF全廃条約が失効 米が離脱、新たな軍拡競争発展か”【82日 朝日】

予定されていたことではありますが、歯止めを失い「核兵器なき世界」を目指す国際的な軍縮の機運がさらに後退するのは避けられない情勢にも。

 

米中間のチキンレースも“トランプ大統領 中国へ追加関税表明 ほぼ全輸入品に対象拡大へ”【82日 NHK】と、更にヒートアップ。当然に中国は対抗措置を検討。

 

こうした力比べに日本も参戦。“日本が韓国に経済報復第2弾 半導体から全産業へ対象拡大”【82日 聯合ニュース】 韓国では、「われわれは再び日本に負けることはない」(文大統領)、“韓国ソウルで1日、72歳の男性が焼身自殺を図り、現場からは「日本は貿易報復を撤回せよ」とするメモが見つかった”【82日 レコードチャイナ】と“戦争”状態のような騒ぎ。

 

一方、韓国に対しては交渉の余地はないとの強気の姿勢の日本ですが、北方領土では立場は逆転。日本の抗議を無視してロシア・メドベージェフ首相(最近、名前を目にする機会があまりありませんが、まだ首相をやっているんですね)が択捉島訪問を強行。「ここはわれわれの土地であり、主権はロシアにある。何を心配することがあるのか」【82日 共同】と、日本の抗議を意に介さない考えを表明。

 

各国国内情勢も剣呑な雰囲気。

ロシアでは反政府運動を当局が力で弾圧、拘束中の野党指導者が薬物を盛られたのでは・・・との騒ぎも、香港では若者らのデモ隊と警察の衝突が続くなか、中国人民解放軍の香港駐留部隊は香港出動を示唆する動画を公開、香港警察は香港独立を訴える「香港民族党」の創設者ら8人を逮捕。

 

【インドネシア 大統領選挙で高まった対立・わだかまりを解消する「和解」のセレモニー】

国内外に争い・対立・いがみ合いの種がつきないなかで、今日はインドネシアの話。

 

****ジョコ大統領が野党党首と和解 インドネシア、4月の選挙で対立***

インドネシアのジョコ大統領が13日、4月の大統領選で争った最大野党グリンドラ党のプラボウォ党首と選挙後初めてジャカルタで会い、和解したことを強調した。

 

2人は日本が支援して開業したインドネシア初の地下鉄を含む都市高速鉄道に乗車し、その後に駅構内で記者会見した。ジョコ氏は「愛する国を共に発展させよう」と呼び掛けた。

 

プラボウォ氏は祝意を述べた上で「必要があれば手伝う用意がある」と語り、連立与党に入る可能性も示唆。政府関係者によると、プラボウォ陣営の副大統領候補だったサンディアガ氏は最近、ジョコ氏と面会し、大臣ポストを求めたという。【713日 共同】

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【不寛容さが目立つようになったインドネシア社会】

対立・争いが目立つ中で“和解”というのは結構な話ですが、あくまでも政治レベルの話。

 

インドネシア社会全体についていえば、多数派イスラム教徒の価値観を前面にだした不寛容の風潮が拡散していることは、これまでも度々してきたところですが、その不寛容の流れがとどまる兆しはないようです。

 

****イスラム法違反で男女3人にむち打ち刑、インドネシア・アチェ州****

インドネシア・アチェ州で731日、シャリア(イスラム法)に違反したとして男女3人に対する公開むち打ち刑が執行された。3人はそれぞれ100回ずつ打たれ、女性が痛みに耐えられないと覆面の執行官にやめるよう懇願する一幕もあった。

 

州都バンダアチェから約274キロ離れたロスマウェの競技場には、数十人が見物するために集まった。

 

受刑者のうち2人は22歳のカップルで、婚前交渉しているところを見つかった。

 

むち打ち刑の間、女性は痛みに耐えかねて数回泣き崩れたため、執行官は中断し、医師により続行しても問題ないと確認されるまで待たなければならなかった。

 

もう1人の少年は、未成年と性交したとして刑を受けた。AFP記者によると、刑が終わるころには、少年の白いシャツは血で染まっていたという。

 

カップルはこの後、自由の身となるが、少年は禁錮5年の刑に服すことが決まっている。

 

地元検察当局によると、今回のむち打ち刑は、子どもの目に触れないように競技場の中で行われたという。 【81日 AFP】

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****愛情表現は犯罪、インドネシアで公開むち打ち 19歳女性が泣き崩れる****

インドネシア・アチェ州で1日、地元で施行されているシャリア(イスラム法)に違反したとされる男女計11人に対し、公開むち打ち刑が執行された。うち1人は仏教徒だった。中には慈悲を乞うたり、こらえきれずに泣いたりする受刑者もいた。

 

刑は州都バンダアチェにあるモスク(イスラム礼拝所)の外で、数十人が見つめる中で執行された。

 

覆面姿の執行官が、異性と一緒にいるところを捕らえられたという受刑者らの背中に、とうのつえを832回にわたって振り下ろした。

 

受刑者は男性が6人、女性が5人で、いずれも20歳前後。地元の法律で犯罪とみなされる愛情表現が見とがめられ、宗教当局者らに拘束された。

 

当局は詳細を明かしていないが、これまでにも公の場で抱擁を交わしたり手をつないだりしたという理由で、カップルがむち打ちに処されている。 

 

男性1人と建物の中に一緒にいたところを拘束された19歳の女性は、むち打ちが始まると泣き崩れ、別の女性は執行をやめるよう懇願した。

 

また女性とホテルの一室にいて拘束されたという仏教徒の男性は、20回以上むち打たれた。 【81日 AFP】*****************

 

上記二つの公開むち打ち刑は、731日と81日ということで、別々のものでしょうか。(内容も微妙に異なるよう)

だとすると、連日の執行ということでしょうか?

 

刑の執行自体もおぞましいものですが、それを見物に人が集まるというのも・・・。

 

スマトラ島北部のアチェ州はイスラム法の限定的施行が許されている特別な地域ですが、インドネシア全体の空気を反映していているようにも見えます。

 

なお、観光で日本人が多数訪れるバリ島は、バリ・ヒンズーというインドネシアにあっては例外的な存在で、社会の雰囲気も国際観光地ということで特殊なものがあります。

 

本来は、インドネシアは多様性を認める寛容さ重視する国家でしたが、最近は様相が変わってきたようです。

 

****寛容の国インドネシアで過熱するLGBTへの不寛容****

インドネシアでいま、地方都市や人権団体、そしてマスコミから注目されている「市条例」がある。ジャカルタ南郊にある西ジャワ州デポック市が市議会で成立を目指している条例だ。

 

性的少数者である「LGBT」の権利を制限する内容で、人権団体からは「差別条例だ」「人権侵害だ」と厳しい反対の声が上がっているが、条例案を7月議会の本会議に提出した野党「グリンドラ党」に対する市民の支持は強く、同党デポック支部は他政党の支持を取り付けて条例案の議会での賛成多数による成立を目指している。

 

インドネシアは、世界第4位の人口(約26000万人)の88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教人口を擁する国である。

 

建国の父スカルノ初代大統領の英断でインドネシアはイスラム教を国教とはせず、キリスト教、ヒンズー教、仏教など他宗教をも認めることで多種多様な民族による国家の統一維持を目指したことから、国是は「多様性の中の統一」であり、「寛容」こそがそのキーワード、と言われている。

 

しかし、実際のところ最近のインドネシアを覆っている空気は、圧倒的多数のイスラム教徒による「暗黙のイスラム優先の押し付けと他宗教による忖度」で、性的少数者のみならず民族的少数者、宗教的少数者など「少数者」への偏見と差別、人権侵害が堂々とまかり通る深刻な状況に陥っているのが現状なのだ。

 

デポック市でLGBT差別条例が議会に提出されて成立を目指す動きが真剣に検討される背景にも、そうしたインドネシア全体を暗雲のように覆う重苦しい空気が影響しているのは確実だ。

 

LGBTとエイズを関連付けた条例案

条例を提案したグリンドラ党デポック支部のハムザ氏は、地元紙の取材に対し725日、「デポック市ではHIVの感染者が急増していることに関連してLGBTの人達の行動に対する市民からの苦情が届いている」と提案の理由について説明している。

 

デポック市保健局によると、同市のHIV感染者は2014年に49人だったが、2015年には146人に増加、2016年に278人、2017年に372人と増加の一途をたどっているという。特に2017年の374人の感染者のうち、62%に当たる232人は年齢が25歳から49歳としている。

 

ただし、保健当局はHIV感染が同性愛行為によるものかどうかなど、感染源や感染者の性別に関しては明らかにしていない。

 

ハムザ氏によれば、デポック市議会の全政党がこの条例案を本会議で議論することには賛成しているという。「議会の全会派、政党が議題として取り上げることに賛成しており、市内の各宗教関係者からの支持も取り付けている」と主張している。

 

デポック市ではすでに2012年に市条例16号で「公の場所での不道徳な行為」を禁じている。しかし「具体的にLGBTの人々の行為を禁じているわけではない。例えばカフェに同性の者同士が繰り出し、公衆の面前で抱き合う様子などは見たくない。デポックは住民にとって気持ちよく、そして宗教的に暮らしやすいところなのだから」と説明している。

 

条例案では「LGBTによる公の場での同性愛を思わせる、キスや抱擁などの行為の規制や住民による監視、通報」などが盛り込まれているという。

 

そこにはLGBTなど社会的少数者への配慮も人権感覚も感じられないものの、「市民の声」「多数を占めるイスラムによる宗教上の規範問題」という“錦の御旗”に誰もが正面切って反対しづらい状況が醸成されている。

 

政府与党支部からは条例案に疑問の声

しかしマスコミなどでデポック市議会の動きが報道されるに従い、そうした「異常な空気」に懸念を示す一部政党から条例案に疑問を示す声が出始めている。

 

ハムザ氏による「HIV感染者の増加がLGBTの人々と関係がある」かのような主張にはなんら科学的根拠がないことなどから政府与党である闘争民主党(PDIP)デポック支部からは「印象操作に基づく人権侵害の疑いがある」と本会議での討論に疑問を示す声が出ているのだ。

 

PDIPデポック支部のヘンドリック・アンケ・タロ市議会議長は「この条例案はまだ本会議での正式な議題にはなっていない」としたうえで「たとえLGBTの人々の行為や行動が他の人々の目に余るとしても、条例を成立してまで個人の行動を過度に制限することには慎重になるべきである。なぜならLGBTの人々にも基本的人権があるからだ」と主張、市議会全体がLBGTの人々の行動を条例で規制しようとする動きに懸念を示している。

 

インドネシアではイスラム法の限定的施行が許されているスマトラ島北部のアチェ特別州以外の全ての州で「同性愛などLGBTの人々の行為」は法律で禁じられていない。

 

しかし、2018年には西スマトラ州の地方都市パリマンで「同性愛行為を禁止し、違反者は罰せられる」とする条例が成立した例が報告されている。

 

問われているのはインドネシアの寛容

イスラム教では同性愛行為や男性の女装、女性の男装などを「イスラム教の教えに反する」として反対の姿勢を示している。

 

反対を唱えるだけならまだしも、女装した男性を地域で吊るし上げる、集団で暴力を振るう、長髪を公衆の面前で刈り上げる、消防車のホースで水を浴びせて女装を脱がせる、男性らしい大きな声での発声訓練を強要する、などというリンチ(私刑)も横行するなど人権侵害事案が各地で相次いでいることも事実。

 

同性愛者がよく集まるというカフェやマッサージパーラー、バーへの集団襲撃や警察による手入れもよく行われている。

 

こうした風潮の中、首都ジャカルタに近く、最高学府のインドネシア大学デポックキャンパスも近いデポック市というジャカルタのベッドタウンでの反LGBT条例の行方が大きな注目を集めているのだ。

 

ジャカルタの東に隣接する西ジャワ州ブカシ県スカタン郡では20195月に地元に暮らすヒンズー教徒の人々がヒンズー教寺院を建設しようとしたところ、イスラム教徒の集団が押しかけて「イスラムの土地を汚すな」「建設を強行すれば聖戦(ジハード)で抵抗する」などと反対する騒ぎも起きている。

 

国を二分した大統領選が5月に決着し、再選続投を決めたジョコ・ウィドド大統領と、対立候補として惜敗したプラボウォ・スビアント氏とによる直接会談によって、選挙戦のわだかまりを解消する「和解」が713日に実現したインドネシアだが、国民の寛容に基づく「多様性の受容」がいま改めて問われていると言える。

 

プラボウォ氏はデポック市議会に反LGBT条例を提案した「グリンドラ党」の党首でもある。しかし、プラボウォ氏がこの問題で公に発言したことはこれまでのところ、まだない。【82日 大塚 智彦氏 JB Press

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先の大統領選挙では、プラボウォ氏側がイスラム重視を前面に押し出してジョコ大統領を追撃したのに対し、ジョコ大統領側もイスラム穏健派指導者を副大統領候補に立てると言う形で、選挙戦を通じてイスラム重視の流れが加速しました。

 

713日の「和解」も、両者が選挙戦でかきたてたイスラム重視の流れを止めるものではないように思われます。

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