(7月31日 ジョンソン首相は北アイルランドを訪問して地域政党指導者と会談 「合意なきEU離脱」に反対する北アイルランドのカトリック系地域政党「シン・フェイン党」党首(中央女性)【https://www.youtube.com/watch?v=EXpaKicuQ_g】)
【流れに乗るのがうまいだけの日和見主義者?】
「期限の10月末までに必ず離脱を実現する。〈たら〉〈れば〉はない」と言うボリス・ジョンソン首相の実現で、イギリスの「合意なきEU離脱」がどうなるのか・・・・わかりません。
なにしろ、あのトランプ大統領以上に、ジョンソン首相は言うことが時、相手でころころ変わることで昔から有名な人物ですから・・・・。
ジョンソン首相が、決して“信念を貫く”ようなタイプ、あるいは“真実を重んじる”タイプの政治家では「ない」ことは、下記の2016年国民投票時のエピソードや、新聞記者としてスタートした際のエピソードで明らかです。
****ハードな新英首相に備えよ!****
ボリス・ジョンソンは若い頃からEUの天敵として知られていた。英デイリー・テレグラフ紙の記者としてブリュッセルに駐在していたときは、欧州官僚の悪口をせっせと書き送っていた。
しかし、英政府が2016年のEU離脱の是非を問う国民投票を決めたときには心が乱れた。有力政治家として新聞に寄稿するに当たって自分の立ち位置を決めかね、2種類の原稿を用意した。
残留支持のバージョンと、断固離脱のバージョン。迷った末に彼が選んだのは後者、EUによる「植民地化」を終わらせろと叫ぶ激烈な一文だった。
この選択で彼の政治家人生が、そしてイギリスとヨーロッパの未来が書き換えられることになった。あの国民投票では、反EU派の僅差の勝利に、ジョンソンのカリスマ性が大いに役立った。
その後は不運なテリーザーメイ首相(当時)がまとめた離脱合意案を葬り去るのに奮闘した。そして今は保守党内の党首選挙を制して首相となり、世界第5位の経済大国をEU圏外の未知なる領域へ導こうとしている。
こういう流れだから、イギリス国民はダウニング街10番地(首相官邸)の新たな住人を信用できない。もちろんジョンソンは今も昔も、与党・保守党の多数派を形成するEU懐疑派のアイドルだ。(中略)
しかし、それでも彼の本心(そんなものがあるとすればの話だが)には疑問符が付く。この人物は本当にEU離脱が正しいと信じているのか、それとも流れに乗るのがうまいだけの日和見主義者なのか。
彼を嫌いな大にとっては、言うまでもなく答えは後者。興味があるのは権力だけで(5歳の頃には家族に「世界
の王」になりたいと言っていたそうだ)、勝つためなら平気で主義を曲げる。
EU離脱をあおるために、イギリスのEUへの拠出金は週に3億5000万ポンド(約470億円)もかかっているという誇大な数字を触れ回った。
彼を好きな人たちも、彼が信用できるとは思っていない。(後略)【8月6日号 Newsweek日本語版】
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****だからボリスは憎まれ、愛される****
1988年、英タイムズ紙の若い見習い記者が、でっち上げの引用をしてクビになった。なぜばれたかと言うと、「引用」に事実の誤りがあり、発言の主とされた著名な歴史家に恥をかかせたからだ。
ジャーナリストにとって、でっち上げは最悪の罪。普通ならそこでキャリアが絶たれるが、ボリス・ジョンソンは違った。
彼はすぐにデイリー・テレグラフ紙の記者に採用され、外国特派員になり、高給のコラムニストに昇格した。そしてジャーナリズムの世界で得た名声を基に政治家デビューを果たし、ついに首相の座にまで上り詰めた。
23歳だった新人記者時代のエピソードは、ジョンソンのキャリアについて重要な2つの点を示している。
1つは性格に難があること。もう1つは、普通なら足をすくわれるはずの失敗を、乗り越える力があることだ。(後略)【8月6日号 Newsweek日本語版】
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まあ、あえてジョンソン首相をかばって言えば、世の中の政治家の多くが“信念を貫く” “真実を重んじる”タイプではなく、恐らくそうしたことは政治家として役立つ特質なのでしょう。
【風は「合意なき離脱も可とする」方に吹いている?】
いずれにしても、彼の本心(そんなものがあるとすればの話ですが)はともかく、離脱に向けた強気の姿勢をアピールすることが、現在の自分の政治的立場にとって必要だという認識はあるでしょう。
私だけでなく、今後の展開は誰も(おそらくジョンソン首相自身も)定かではないところですが、総選挙と密接に絡んでくるようです。
****政権発足直後に早くも不信任の動き ジョンソン英首相 総選挙実施も*****
7月24日に就任した英国のジョンソン首相に対し、早くも内閣不信任決議案を提出する動きが出ている。
保守党など与党勢力は下院で、わずか1議席差でかろうじて過半数を維持しているにすぎず、1人が造反すれば不信任決議案は可決し、総選挙が実施される公算が大きい。
そうなれば、ジョンソン氏が「いかなることがあっても実現する」と公約した10月末までの欧州連合(EU)からの離脱に関し、「合意なき離脱」が現実味を帯びる。
「経済を混乱させる合意なき離脱を阻止する」
最大野党・労働党のコービン党首は5日、英中部ダービーシャーで記者団にこう訴え、ジョンソン氏がEUとの合意なき離脱を辞さない構えをみせていることを理由に不信任決議案を提出する意向を表明した。
不信任決議案提出のタイミングは、夏季休会中の議会が再開する9月3日以降、「かなり早い適切な時期」に設定するという。
与党勢力の基盤が不安定なため、不信任決議案が可決する可能性は高い。(中略)
コービン氏が狙うのは、不信任決議案の可決でジョンソン内閣を総辞職に追い込むことだ。しかし、政権交代を狙うコービン氏らが首相に就くために必要な下院の過半数を得る保証はない。
また、ジョンソン氏は下院解散の時期を遅らせることで、離脱期限の10月末以降の総選挙実施をもくろんでいるとされる。混乱の中、自動的に合意なき離脱を実現する方策だ。
総選挙を意識してか、ジョンソン氏は首相就任後、国内向けの政策を相次いで発表している。7月末には合意なき離脱に備えた医薬品の確保などのため、21億ポンド(約2700億円)の追加予算を表明。5日には、英国内の病院の病床数の拡大や病棟の増築を行うため、18億ポンド(約2310億円)を拠出すると明らかにした。
野党議員の一人は「ジョンソン氏は国内向けの政策を充実させて国民の支持を急いで集めようとしている。総選挙に備えている証拠だ」と指摘する。
保守党のクレバリー幹事長は4日、英スカイニューズ・テレビに対し「保守党は総選挙を始めるつもりはない」とした上で、労働党の不信任決議案提出が「総選挙実施の引き金になる可能性がある」と認めた。【8月9日 産経】
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ジョンソン首相の心中を推察すれば・・・
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新首相の立場で考えてみよう。2016年の国民投票の結果から見ても、今次の保守党党首選挙の結果から見ても、風は明らかに「合意なき離脱も可とする」方に吹いているではないか。
優柔不断の誹りを免れ得なかったメイ前首相と違い、自分は不退転のリーダーなのだとアピールしつつ、ブレグジット党(旧・英国独立党が、保守党を離れた強硬離脱派を糾合して、新たに旗揚げした)とも連携して総選挙に臨んだならば、勝機はある。
これが(本稿の〈上〉で述べた通り)、事実上、再度の国民投票になったとしても、またしても離脱派が勝つのではないか。【8月7日 林信吾氏 Japan In-depth】
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実際、世論調査結果でも・・・。
****何としてでもEU離脱実現すべき、英国民の過半数支持=世論調査****
英紙デイリー・テレグラフがまとめた世論調査によると、ジョンソン英首相は、議会を休会させてでも欧州連合(EU)からの離脱を断行すべきだと英国民の過半数が回答した。ジョンソン氏は、EUと合意できなくても10月31日に離脱すると表明している。
調査では「ジョンソン氏は、議会がEU離脱を阻止しようとすることを防ぐために必要なら議会を休会させるなど、あらゆる手段を使って離脱を実現すべきだ」との考えについて、54%が支持する、46%が支持しないと回答した。
どちらか分からないと回答した人を含まず、1645人の回答をまとめた。
1783人の回答を基にすると、保守党の支持率は6%ポイント上昇して31%。野党労働党は27%だった。【8月13日 ロイター】
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本当かね・・・・上記結果で意外です。
メイ首相の頃までは、残留派が離脱派を上回っているという調査結果が出ていたように思うのですが・・・
まあ、2016年も大外れでしたから、あまり細かい数字を詮索しても仕方ないのかもしれませんが。
直近の選挙結果はジョンソン首相には手痛いものでした。
****下院補欠選で敗北 ジョンソン首相に打撃****
英国で、ボリス・ジョンソン首相が就任後初めて迎えた下院補欠選挙の投票が1日に行われ、ジョンソン氏率いる与党・保守党の候補が欧州連合残留派の野党候補に敗れた。
これにより、下院での与党側と野党側の議席数の差はわずか1議席となり、ジョンソン氏に打撃を与えた。
英西部ウェールズのブレコン・アンド・ラドノーシャー選挙区で行われた今回の補欠選は、EU離脱(ブレグジット)派で保守党員の現職と、残留派の自由民主党候補という分かりやすい二択となった。
定数650の下院は、ブレグジットをめぐり党派を超えて分裂。命運を分ける投票時にも、造反や棄権が間々ある。
今回の敗北により、ジョンソン首相は夏季休暇明けの来月3日に開会する議会で、難しい運営を迫られることになり、第2次世界大戦後の英国史上最も重大な局面の一つを、数人の議員の気分に委ねざるを得ない状況に置かれた。 【8月2日 AFP】
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“数人の議員の気分に委ねざるを得ない状況”は、この補欠選挙で勝とうが負けようが同じですが、離脱・残留の二択で敗北したということが影響が大きいようにも思えます。
【強硬離脱を選べば連合王国の団結が揺らぎかねない】
ここまでの話は(長くなりすぎましたが)前置きで、今日の本題は「合意なきEU離脱」となったときに焦点となる北アイルランド問題の話です。
****合意なきEU離脱はアイルランド島統一につながる、アイルランド首相が見解****
アイルランドのレオ・バラッカー首相は26日、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)について、英国が合意なき離脱に踏み切れば、北アイルランドでは英領に残ることを疑問視する住民が増え、ひいてはアイルランド島の統一につながる可能性があるとの見解を示した。(中略)
離脱協定案の争点となっているのは、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの境界で離脱後に必要になる厳格な国境管理を回避するための「バックストップ」条項だ。バックストップ条項によれば、英国は離脱後もEU単一市場にとどまることになる。
日刊紙アイリッシュ・インディペンデントなど各メディアが報じたところによると、バラッカー氏はアイルランド北部ドニゴール州のサマースクールで、英国が合意なき離脱に突き進めば北アイルランドの住民たちはイングランド、スコットランド、ウェールズと共に連合王国(英国)の一員であることに疑問を持つようになるとの見解を示し、「北アイルランドで穏健派ナショナリストや穏健派カトリックを自認し、おおむね現状に満足していた住民たちの関心はアイルランドとの統一に向かうだろう」と述べた。
バラッカー氏は離脱協定が成立するためにはバックストップ条項が必要との考えだが、10月31日の期限までのEU離脱に威信をかけるジョンソン氏はバックストップ条項の破棄を公言。EUが新たな交渉を拒絶すれば、英国は合意なき離脱に踏み切ることになる。 【7月28日 AFP】
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一方、ジョンソン首相は・・・
****英首相、「アイルランドを救う」ためEUが譲歩と予想=サン紙****
ジョンソン英首相は、欧州連合(EU)離脱を巡る協議でEU側が土壇場で譲歩し、「アイルランドを救う」ため合意に応じると考えている。英紙サンが12日、関係筋の話として報じた。
同紙によると、合意なき離脱で最大の打撃を受けるのはアイルランドであり、ジョンソン首相はアイルランド国境問題を巡るバックストップ(安全策)でEU側が譲歩すると確信しているという。
EUはこれまでに、メイ前英首相と合意した離脱協定案を再交渉する用意はないとの立場を示している。【8月13日 ロイター】
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これは、ションソン首相お得意の、根拠もない、都合のいいホラ話の類のようにも思えます。
****イギリスが強硬離脱すれば、南北アイルランドは統合へ向かう****
<北アイルランド紛争が終結して20年余り、EU離脱で国境が復活すれば南北統合の機運は高まる>
(中略)北アイルランドの平和(と、それなりの繁栄)は多くの血であがなわれた。しかし今、それが新たな脅威にさらされようとしている。
「ブレグジット(イギリスのEU離脱)のせいだ」と、英クイーンズ大学ベルファスト校教授のコリン・ハーベイは言う。「イギリスがEU離脱を決めてから状況は急激に悪化した」
アイルランドの寛容化
北アイルランドとの「連合王国」を形成するイギリスが10月末に合意なき離脱に踏み切れば、この国境線はその日から、再び越えられないものとなる。北アイルランドは連合王国の一部としてEUを離脱することになるが、南のアイルランド共和国はEUの忠実な加盟国だ。この分断は経済から政治、治安の問題まで深刻な影響を及ぼす。
それだけではない。いざEU離脱となれば、北アイルランドの人たちは「自分はどこの国の人間か」という深刻な問いを突き付けられることになる。この島は南北に分断されているよりも、統合されたほうが幸せなのではないか。和平成立後は忘れられていたそんな疑問が、再び頭をもたげている。
こうした論争は、今や親英派か親アイルランド派かという従来の対立軸を超えて広がっている。穏健な親英派を代表するアルスター統一党(UUP)の前党首マイク・ネスビットでさえ「親英派住民の多くが、南北統合でEUに残るべきか、EUを離脱してイギリスに残るべきかで悩んでいる」と語る。
アイルランドの南北統合というテーマは、ブレグジットをめぐる大混乱がもたらした予期せぬ副産物と言えそうだ。
(中略)英リバプール大学教授で両国関係に詳しいジョン・トンジによれば、今年に入ってからの世論調査では「北アイルランド住民の50%前後が、自分は親英でも親アイルランドでもないと答えている」。この数字は1998年の和平合意時点では約33%だったし、紛争の続いていた時期にはもっと低かった。
一方、南北アイルランドが統合されたら厳格なカトリック教会の支配下に置かれるというプロテスタント系住民の昔ながらの懸念は、南の社会の劇的な変化によって薄らいでいる。
カトリックのアイルランドは2015年に同性婚を合法化、昨年には中絶も自由化し、今や北よりも寛容な社会になっている。「今のアイルランドは近代的な多元主義の民主国家だ」とトンジは言う。
北の世論は「EU残留」
(中略)ブレグジットが決まった時点で、1998年の和平合意の理念は破棄されたに等しい。マキューエンは言う。「北アイルランドの詩人ジョン・ヒューイットの言葉を借りるなら、『私はアルスターの男でアイルランド人でイギリス人、そしてヨーロッパ人だ。どれか1つでも欠ければ私は否定される』のだ。ところがブレグジットは、私たちのこうしたアイデンティティーを突き崩す。おまえはアイルランド人でもヨーロッパ人でもあり得ないと宣告されるに等しい」
そして経済の問題がある。北アイルランド経済省の7月の報告によれば、イギリスの合意なきEU離脱は「直ちに極めて深刻な影響」をもたらす。人口180万人の北アイルランドで約4万人分の雇用が失われかねないという。
「あらゆる経済指標が既に下降している。どこまで下がるか分からない」と、ベルファストにあるネビン経済研究所のポール・マクフリンも言う。(中略)
南北の統合を求める声
(中略)4月段階の調査によると、南側では有権者の62%前後が南北統合を支持。一方、北では3月の調査で45%が統合に反対し、賛成は32%にとどまった。ただし「分からない」という回答も23%あった。
「『分からない』派の多くが支持に転じたら僅差の勝負になる」とリバプール大学のトンジは言う。「離脱後に国境管理が厳しくなればなるほど、統合への支持が増えるだろう」
イギリスのボリス・ジョンソン首相は「合意なき離脱」に舵を切っているから、リアルな国境が復活する可能性は高い。それを見越して、アイルランドのレオ・バラッカー首相は7月26日の演説でこう言ったものだ。「皮肉なもので、強硬離脱を選べば(大ブリテンと北アイルランドの)連合王国の団結が揺らぎかねない」と。
そのとおり。トンジも言う。強硬離脱のシナリオは「連合王国の一体性に対する前例のない挑戦を招いている。北アイルランドだけでない。スコットランドやウェールズにも反発がある。30年後も連合王国が今の形で存続しているかと問われれば、極めて難しい問題だとしか答えようがない」。【8月13&20日号 Newsweek】
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ちなみに、スコットランドでの世論調査によると、スコットランドの独立の是非を問う投票が実施された場合、賛成票を投じるとの回答が過去2年あまりで初めて多数派を占めたとも。【8月5日 ロイターより】