(ウクライナ南部クリミア半島でバイク愛好家らと共に疾走するロシアのプーチン大統領(右端)=10日、セバストポリ【8月11日 産経】)
【プーチン大統領 バイクでクリミア実行支配とマッチョぶりを誇示】
****クリミア半島をバイクで疾走 プーチン氏、実効支配を誇示****
ロシアのプーチン大統領は10日、2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島で自らバイクのハンドルを握り、愛好家らと共に疾走した。
クリミア返還を求めるウクライナのゼレンスキー大統領がプーチン氏との対話に前向きな姿勢を見せる中、あらためて実効支配を誇示した。
ロシア製バイク「ウラル」のサイドカーに、ロシアが一方的に創設した「クリミア共和国」トップのアクショーノフ首長を乗せたプーチン氏は、ロシア国旗をはためかせ、港湾都市セバストポリで開催されたバイクショーに登場した。【8月11日 共同】
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まあ、バイクで疾走するのは勝手ですが、ロシアの状況はそれほど穏やかでもありません。
【原子力推進巡航ミサイル開発中の事故?】
本筋の抗議デモの話の前に、気になる事故の話題。
****エンジン爆発、深刻事故指摘も=原子力企業職員5人死亡―ロシア北部****
ロシア北部アルハンゲリスク州で8日に起きた軍のミサイル実験に伴う爆発事故で、国営原子力企業ロスアトムの従業員5人が死亡したことが10日、明らかになった。
国防省は当初「液体燃料エンジン」の実験中の爆発で2人が死亡したと発表。しかし、近隣地域での一時的な放射線量の上昇に加え、原子力企業の関わりが判明し、ロシアが開発を進める原子力推進式ミサイルの実験中に深刻な事故が起きた可能性が指摘されている。
ロスアトムは「推進装置にある放射性同位元素の動力源」に関連して事故が起きたと発表。同社の報道担当者はその後タス通信などに、ミサイル実験は「海上の施設から行われた。実験完了後に燃料に引火し、爆発が起きた。何人かの従業員が海に放り出された」と明かした。アルハンゲリスク州ニョノクサには海軍実験場があり、実験は沖合の白海で行われたとみられる。
米国の大量破壊兵器専門家ジェフリー・ルイス氏はツイッターで、今回の事故はロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」と関係しているとの見解を表明。衛星写真から現場海域に核燃料運搬船があったと指摘した。
プーチン大統領は2018年3月の年次教書演説で、原子力推進式巡航ミサイルの発射に成功したと明らかにしていた。【8月11日 時事】
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ロシアでは先日も、海底通信ケーブルからの通信傍受任務中だったとも言われる原子力潜水艇で火災事故が起きたばかりです。(7月9日ブログ“ロシア 謎の原子力潜水艇の火災事故 制約される情報公開”)
事故が相次ぐのも困りますが、そのときも触れたように、「情報公開」が徹底されていないのもロシア特有の問題です。情報が公開されないまま被害が拡大したチェルノブイリの教訓が無視されています。
なお、今回事故はロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」との関連が指摘されていますが、そもそも“原子力推進式巡航ミサイル”とは何でしょうか。
2018年3月1日にプーチン大統領は一般教書演説でロシア軍の新兵器6種類(大陸間弾道ミサイル 「サルマート」、空中発射弾道ミサイル 「キンジャール」、戦闘用レーザー砲 「ペレスヴェート」、極超音速滑空ミサイル 「アヴァンガールト」、原子力推進無人潜水艇(核魚雷) 「ポセイドン」、原子力推進巡航ミサイル 「ブレベストニク」)の存在を公開しました。
そのひとつが、無限の航続力を持つとされる原子力推進巡航ミサイル「ブレベストニク」です。
****ロシアの提示した原子力推進の核魚雷と核巡航ミサイルの意味****
(中略)
原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」はまだ存在しない
原子力推進無人潜水艇「ポセイドン」は新技術を必要とする要素があまり無いので作ろうと思えば技術的ハードルは低いでしょう、数多く作られてきた潜水艦用原子力推進システムを小型化すればよいだけです。
しかし原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェスニク」については未だどの国も実用化したことが無い原子力ジェットエンジンを開発しなければ実現不可能であり、存在自体が疑われています。それも西側の著名研究者からだけでなく身内のロシア人研究者からもです。(中略)
ロシアの宇宙政策研究所イワン・モイゼフ所長は原子力推進巡航ミサイルについて「その様なものは今現在存在しない」、ドイツ・ミュンヘン工科大学のロケット研究者ロバート・シュマッカー博士は「近い将来にも開発することはできない」と否定的です。
シュマッカー博士は原子力推進巡航ミサイルどころか極超音速滑空体アヴァンガールトにも懐疑的で、実用化は疑わしいとしています。
冷戦時代初期で大陸間弾道ミサイルの実用化がまだだった頃に、アメリカとソ連は大陸間巡航ミサイルを配備しました。これに加えて1950年代にアメリカでは原子力推進大陸間巡航ミサイル「プルート」計画が始動します。
プルートは直接サイクル方式の原子力ジェットエンジンを搭載して吸い込んだ空気を原子炉の炉心で直接過熱し、放射性物質を撒き散らしながら飛行する悪夢のような兵器でした。
これは大陸間弾道ミサイルの実用化で無用となり計画は中止され、大陸間巡航ミサイルというジャンルごと消え去ることになります。
一方ロシア(ソ連)はこの当時に巡航ミサイルの原子力推進化は計画しておらず、戦略爆撃機用の原子力ジェットエンジンと宇宙ロケット用の原子力ロケットエンジンを研究していましたが、巡航ミサイル用の小型原子力ジェットエンジンの開発計画はありませんでした。
つまりブレヴェスニクにそのまま応用できる研究を行った実績がありません。宇宙政策研究所のイワン・モイゼフ所長が原子力推進巡航ミサイルなど今現在あるわけがないとしたのは、アヴァンガールトと異なり必要な技術を研究してきた下積みが無いブレヴェスニクがいきなり作れるはずがないという意味です。これから開発するというならおそらくどんなに早くても10年は掛かるでしょう。
そして、そもそも原子力推進巡航ミサイルは役に立つ兵器となり得るでしょうか? 発想としては冷戦初期の代物です。
無限の航続力を持ち何度でも迂回機動を行い予想も付かない方向から奇襲攻撃を行いやすいとしても、この兵器は極超音速を発揮できず、一旦捕捉されてしまうと従来の迎撃兵器であっても容易に撃墜されてしまいます。
攻撃成功率を上げるためには大量の配備を必要とし、核軍縮条約を破棄しなければなりません。
単なるハッタリなのか、それとも将来への警告なのか(後略)【2018年4月1日 JSF氏 Yahoo!JAPANニュース】
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もし今回事故が本当に原子力推進式巡航ミサイル絡みのものであったとしたら、ロシアが本気で原子力推進式巡航ミサイルの開発に取り組んでいること、しかし、その開発は事故を引き起こすようなレベルにあることを示すものとも言えます。
【反政府デモへの厳しい対応 背景に政権側の危機感も】
でもって、本筋のモスクワでの反政府デモの話。
モスクワではかねてより、モスクワ市議選への反政権派候補の出馬が許可されなかったことなどへの抗議デモが行われていました。
しかし、当局はこのデモを許可せず、1千人超の大量の拘束者を出しています。
****モスクワ反政府デモで1000人超拘束、来週末に全国規模の抗議計画****
ロシアの首都モスクワで3日、プーチン政権に批判的な勢力の呼びかけで自由選挙を求める抗議デモが行われ、1000人以上が拘束された。反政権派は来週末に全国規模のデモを行う考えを示した。
3日のデモの参加者は、9月のモスクワ市議会選挙を巡り複数の反政権派候補が立候補を認められなかったことに抗議した。警察はデモ隊を強制排除し、独立系監視団体OVDインフォは4日、1001人が拘束されたとの見方を示した。
反政権指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者であるレオニド・ボルコフ氏は、ナワリヌイ氏の陣営が10日に全国規模のデモを計画していると明らかにした。
デモでは投獄されている反政権活動家の釈放やモスクワ市議選への反政権派候補の出馬許可、モスクワ市長ら市当局幹部の辞任を要求するとした。
プーチン大統領やロシア政府は反政権派との対立についてコメントしていないが、プーチン氏に近いモスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏は、秩序を乱す行為としてデモを批判した。【8月5日 ロイター】
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拘束中の野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(アレルギーだか毒物投与だかの騒動はどうなったのでしょうか)周辺への締め付けも厳しくなっています。
****野党指導者の団体を捜査=締め付け一環か―ロシア****
ロシア連邦捜査委員会は3日、プーチン政権批判の急先鋒(せんぽう)である野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が主宰する非営利団体「反汚職基金」について、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで捜査を開始したと発表した。
9月実施のモスクワ市議選をめぐる抗議デモで治安当局が2週連続で参加者を多数拘束するなど、ロシアでは野党勢力に対する締め付けが強まっている。ナワリヌイ氏の団体に対する捜査もそうした流れの一環との見方がある。
捜査委によると、団体の関係者は2016年1月から18年12月にかけ、不正な資金と知りながら第三者から多額の金を受け取った疑い。資金洗浄の額は10億ルーブル(約16億円)に上るという。【8月4日 時事】
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当局の厳しい対応の背景には政権側の危機感があります。
****露、デモ一転許可 5万人集結 モスクワ市議選の候補排除に抗議****
(中略)経済低迷の長期化を背景に、ロシアではプーチン体制に対する倦怠(けんたい)感が蓄積している。政権が昨年夏、年金支給年齢の引き上げを発表したのを機に、プーチン大統領や政府の支持率は低下し、身近な問題をめぐる地方当局への抗議行動が頻発するようになった。
9月8日には、モスクワ市議選以外に16の州や共和国で首長選が予定され、「統一ロシア」への逆風が吹いている。国営世論調査機関の7月のデータでは、同党の支持率は32%にとどまった。管理選挙への抗議運動が広がったり、与党の敗北が相次いだりすれば、政権への打撃となる。
政治アナリストのミンチェンコ氏は「モスクワでのデモは現在の政治システムへの反発だ」と露メディアに指摘。インターネットの発達で「テレビ局を通じた政治宣伝」というプーチン政権の統治モデルが通用しなくなっていると分析した。「当局の不用意な行動は反発を呼び、本格的な政治危機を招く可能性がある」とも述べている。【8月10日 産経】
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【弾圧映像拡散は逆効果 一転して反政府デモ許可】
ただ、上記記事最後にもあるように、デモを力で鎮圧するような行為は逆効果にもなりかねず、その点を政権側は警戒もしています。
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ロシア大統領府にとって、隣国ウクライナで得た教訓の記憶はまだ鮮明だ。2013年、キエフで行われた親欧州派の集会を暴力で抑え込もうとした様子がテレビで大々的に放送され、ウクライナ国民の怒りを買った。それは最終的に親ロシア派だった当時の大統領の追放、その後のロシアによるクリミア半島の併合につながった。
この結果、当局はデモ参加者に対して、ゴム弾や放水砲などといった強引な戦術を使うことに消極的になっている。そうした動画が夜のニュース番組で使われることを避けたいからだ。
ロンドンに本拠を置く安全保障分野専門のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のシニアアソシエートフェロー、マーク・ガレオッティ氏は「そうした戦術を使えば、反体制派が主張する通りの支配に見えてしまう。それは当局の望むところではない」と話す。【8月8日 WSJ】
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そうした警戒感からか、10日の抗議デモは一転して許可されることになりました。
****モスクワで「自由な選挙」求め5万人がデモ、当局認可でも130人超拘束****
来月に市議選が予定されているロシアの首都モスクワで10日、自由で公正な選挙を求めるデモが行われ、約5万人が参加した。デモ参加者が集結した市中心北部の大通りには警官や重装備の機動隊員らが多数配備され、参加者100人以上が身柄を拘束された。
今回のデモは当局の許可を得て行われ、当局公認のデモとしては、2012年にウラジーミル・プーチン氏が首相から大統領に返り咲いて以来、最大規模のものとなった。
デモなどの参加者数集計NGO(非政府組織)の「ホワイト・カウンター」によれば、10日のデモ参加者は4万9900人。だが、モスクワ警察発表の参加者数はこれを大幅に下回る2万人で、拘束者数は130人超となっている。
このほか、抗議活動における拘束者状況を追跡するNGOの「OVD-Info」によると、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでも80人が拘束された。(中略)
モスクワでは、プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)に立つアレクセイ・ナワリヌイ氏派ら複数の野党候補を市当局が9月に実施予定の市議会選から排除したことを受け、自由で公正な選挙を求める抗議デモが先月から行われており、数千人規模の市民が参加している。
これまでに実施された2回のデモは市当局が認可していない状況で行われ、参加者2000人以上が機動隊や国家親衛軍に身柄を拘束された。うち十数人は、騒乱罪で起訴され禁錮刑を科される可能性がある。 【8月11日 AFP】********************
【国営TVでは反政府デモを“無視” 抗議市民側はソーシャルメディア活用】
政権側は、鎮圧するにせよ、許可するにせよ、こうした抗議行動を“無視”することで、これ以上の拡大につながらないように目論んでいるようです。
****ロシア抗議デモを無視、国営TVが流す映像とは ****
それでも警官による暴行シーンはソーシャルメディアで流出
ロシアのモスクワ市内では武装警官らが、民主主義を呼びかけるデモ隊を暴力的手法で制圧し、1000人前後を拘束している。だが、一部国営放送がトップニュースとして取り上げたのはモスクワ川の緑豊かな土手で開催された市主催のバーベキューフェスティバルだった。
ロシアの国営メディアは市議選を巡る抗議行動の映像を意図的に排除している。政府が抗議行動の映像を国民の目から遠ざけ続けようとしているのは、若いデモ参加者が警察から暴行を受けている映像で怒りの波がロシア全土に広がりかねないためだ。
支持率の低下が続いているウラジーミル・プーチン大統領は、生活水準の低下や年金制度改正、汚職のまん延などに対する国民の不満と相まって現在の抗議活動が広がるのを何としても食い止めたいと考えている。
「当局が望まないのは、モスクワでの抗議行動が全国の大都市に波及することだ」。モスクワの世論調査機関レバダセンターで所長を務めるレフ・グドコフ氏(社会学者)はそう話す。「それは悪夢のようなシナリオだ」(中略)
大半の放送局は3日の抗議行動を無視した。主要ニュースチャンネルの1つである「ロシア24」は、デモの様子を伝える代わりに、音楽と食品をテーマとしたフェスティバルのライブ映像を流した。テレビ画面を埋め尽くしたのは、チキンとビーフと野菜のケバブのクローズアップ映像だった。
セルゲイ・ソビャーニン市長の下で大規模改修が行われたゴーリキー公園では、「ミート&ビート」と名付けられた新たな音楽と食品のフェスティバルが今週末に急きょ開催されることになった。同じ週末には、市内で再び抗議行動が展開される予定だ。
同様に、プーチン氏もデモに関してまだコメントしておらず、国営メディアはロシアの海軍力を称賛するイベントやシベリアの山火事への対応などについて報道している。
ロシア大統領府の報道担当部門は、1300人のデモ参加者や見物人が拘束された7月下旬以降、毎日行われていた記者との定例電話会議をほぼ中止している。大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官にコメントを求めたところ、12日まで休暇中だとの回答を受けた。
反体制派によると、当局はここ数週間、デモ会場周辺のインターネット通信の速度を遅くしたり、通信を完全に遮断したりしている。
警察がときに強引にデモ参加者を拘束する様子を映した動画の拡散を遅くするのが狙いだと非難している。独立系のテレビ局「TVRain」によれば、同社は先月、インターネットの視聴者向けにデモの様子をライブ配信しようとしたところ、サイバー攻撃に見舞われたほか、警察もやって来たという。
だが政府がこうした措置をとっていても、警察が暴力をふるう様子を映した動画が独立意識の高いメディアやロシアのソーシャルメディアを通じて流出するのは完全には止まっていない。(後略)【8月8日 WSJ】
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大半の国民にとって国営テレビが依然として最も重要な情報源になっているロシアにあって、国営TVで抗議行動を“無視”する政権側、ソーシャルメディアを通じて主張を拡散させる反政府市民の側・・・プーチン大統領がバイクで疾走する間も、両者のせめぎあいが続いています。