孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「不法移民」一斉摘発で別れる評価 ミシシッピ州で680人を拘束

2019-08-09 22:45:15 | アメリカ

(ミシシッピ州の不法移民一斉摘発で 【8月9日 BBC】)

【不発に終わった7月の一斉摘発 しかし、強硬姿勢は続く】

アメリカ・トランプ大統領が“来年の大統領選挙もにらんで白人を中心とする支持者に対して不法移民対策に具体的に取り組む姿勢をアピールするねらい”【下記NHK記事】から、不法移民の摘発、強制送還に力を入れているのは周知のとおおり。

 

7月には2000家族を対象に大規模一斉摘発を行うと発表。

 

****トランプ大統領 不法移民一斉摘発の方針 選挙にらみアピールか****

アメリカのトランプ大統領は全米の主要都市で14日から不法移民の一斉摘発に乗り出す方針を明らかにしました。来年の大統領選挙もにらんで不法移民対策に取り組む姿勢をアピールするねらいがあるとみられますが人権団体などからは反対する声が上がっていて、波紋を広げそうです。(中略)

トランプ大統領としては、来年の大統領選挙もにらんで白人を中心とする支持者に対して不法移民対策に具体的に取り組む姿勢をアピールするねらいがあるとみられます。

これに対し、人権団体などからは「祖国に強制送還されれば命の危険が待っている人もいる。また合法的に滞在したくてもアメリカの制度上の不備が原因で、できないケースも少なくない」として、こうした事情を考慮せずに一律に摘発するのは非人道的な対応だとして反対する声が上がっていて、波紋を広げそうです。(後略)【713日 NHK】

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このときは、結局逮捕者は35人にとどまりました。

“米移民税関捜査局(ICE)のアルベンス局長代行は米メディアに「市民団体や議員の中には、不法移民が摘発から逃れるのを助けた者もいた」と述べ、事前に大々的に報じられたことが一因との認識を示した。”【724日 時事】

 

捕まえるつもりが逃げられたのか、逃げることを想定してのパフォーマンスだったのか、批判の高まりを受けて無理しなかったのか・・・そのあたりは知りません。

 

ただ、その後もトランプ政権の移民・不法移民への強硬な姿勢は変わっていません。

 

****米トランプ政権の移民親子引き離し、中止命令後も900人以上 人権団体****

米国自由人権協会は30日、ドナルド・トランプ政権に対し裁判所が昨年、米メキシコ国境での移民親子の引き離しを中止するよう命じた後も、900人以上の子どもが親から引き離されてきたと主張した。。

 

ACLUはカリフォルニア州サンディエゴの裁判所に提出した文書の中で、裁判所が移民親子引き離しの中止を命じたにもかかわらず、トランプ政権は交通違反などの軽い罪やネグレクトなどで親を訴え、国境で親子を引き離し続けていると主張した。

 

ACLUによると、ある例では父親がおむつ交換を怠ったとして、1歳の娘と引き離された。

 

別の男性は実父であることを証明できなかったために、3歳の娘と引き離された。その後、DNA検査によって親子関係が証明されたものの、この女児は一時収容中に性的虐待の被害に遭った。

 

また、ある4歳の男児は、言語障害のある父親が米国境警備隊の隊員の質問に答えられなかったために引き離された。

 

ACLUの弁護人を務めるリー・グラント氏は「トランプ政権が今も乳児を親たちから引き離していることは恐ろしいことだ」と語った。

 

グラント氏はさらに「この残酷で不法な政策によって数千の家族が引き離されてきたが、新たに900以上の家族がそれに加わった」「交通違反のようなささいな反則行為で裁判所命令を回避する措置は、政権に認められていない」と述べた。

 

トランプ政権は昨年5月、不法入国者を厳格に取り締まる「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策の一環として、移民親子の引き離しを開始した。しかし国内外からの批判を受け、トランプ氏は開始後わずか6週間で方針を転換。両親が子どもに「危険」を及ぼさない限り、親子の引き離しを停止すると発表した。

 

連邦裁判所判事はその後、この6週間に引き離された子ども推定2700人を親と再会させるよう命じた。以後、トランプ政権は、子どもを親から引き離すのは、親が子に危険を及ぼす場合に限定されると主張してきた。

 

しかしACLUは、昨年6月以降に親から引き離された子ども900人以上のうち、危険にさらされていたのはごく少数にとどまると主張。さらに引き離された子どもたちの収容環境を激しく批判した。 【731日 AFP】

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****米トランプ政権、移民の送還を迅速化 裁判を省略へ****

アメリカのトランプ政権は22日、裁判所の手続きを経ずに不法移民を素早く強制送還できる、新たな制度を導入すると発表した。人権団体は、法的に争う構えを見せている。

 

アメリカでは増加する移民対策が問題となっており、トランプ氏は来年の大統領選をにらみ、強硬策を打ち出して支持層にアピールする狙いがあると見られている。

 

新制度は23日に官報に掲載され、直ちに米全土で施行される。

米自由人権協会(ACLU)はこの制度を問題視し、裁判で争う考えを表明している。

 

拘束場所は関係なし

現在の制度では、アメリカの国境から160キロ以内の場所で当局に拘束され、同国での滞在が2週間に満たない移民についてのみ、迅速な強制送還が可能となっている。

 

それ以外の移民は、裁判で処遇を決める必要がある。移民には弁護士をつける権利がみとめられている。

新たな制度では、拘束された場所に関係なく、アメリカに2年以上続けて滞在していると証明できない移民を、即時に強制送還できるようになる。

 

移民が弁護士をつけることは難しくなるとみられる。

国土安全保障省(DHS)は、これにより多数の不法移民に効率的に対処できるとしている。

 

「状況を悪化させる」

トランプ政権の移民政策を厳しく批判しているACLUは、今回の変更について、法廷で争う姿勢を示している。(中略)

 

「この国で何年も暮らす移民に認められる法的な適性手続きは、一般国民が交通裁判所で受ける法的手続きにも劣ることになる。そんな計画は違法だ。それ以外の何ものでもない」と問題視した。

 

「民主人権に関する指導者協議会」のヴァニタ・グプタ会長は記者団に、「トランプ政権はICE(移民税関捜査局)を、『証明書を見せろ』部隊に変容させようとしている」と批判した。

 

法律家で米ノースウェスタン大学教授(政治学)のジャッキー・スティーヴンス氏はロイター通信に、ICEが拘束した人々の1%と、アメリカから強制送還された人々の0.5%は実際には米国民だと説明。

 

「(移民の)排除を迅速化する命令は、この状況を大幅に悪化させる」と話した。【723日 BBC】

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【世論調査 米国民の半数以上はトランプ政権の強硬策を好意的に受け止めている】

トランプ政権が強気姿勢を続けているのは、この姿勢が支持者に受けるとの判断があるからで、実際、国民世論の51%は「強制送還」に賛成しているとの調査もあります。

 

****アメリカ人の半数がトランプの「移民強制送還」支持、共和党支持者だと...****

退去命令の出ている不法移民を一斉に摘発して母国に送還する──トランプ米大統領が714日に全米で実施するとしていた大規模な不法移民強制送還は、批判の声の高まりを受けて先送りされている。

 

だが世論調査によれば、米国民の半数以上はトランプの強硬策を好意的に受け止めているようだ。71214日に

2000人を対象に行われた調査では、強制退去に「強く」または「ある程度」賛成する人が51%に達する一方、反対は35%にとどまった。共和党支持者に限れば65%が強制退去に「強く」賛成し、「ある程度」賛成する人も含めると賛成が85%を占めている。(後略)【722日 Newsweek

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「違法に入国していたのだから強制送還は当然」というのは、ある種の正論ですから、上記のような調査結果も予想されるものでもあります。

 

【言葉もわからない「母国」への送還で死亡事例も】

ただ、「強制送還」というのは、暴力・圧政から逃れてきた人々をその危険の中に送り返すということでもあります。

また、場合によっては、子供の頃からアメリカで生活し、アメリカ以外での生活が困難な者を「母国」に送り返すことにもなって、下記のような悲劇も。

 

****イラクに住んだことのないイラク人男性、アメリカから追放後に死亡****

子供の時にアメリカに移住し、ミシガン州デトロイトで一生を過ごしたイラク人男性が、イラクへ国外追放された後に死亡した。ジミー・アルダウドさん(41)の弁護士を務めるエドワード・バジョカ氏がBBCに話したところによると、アルダウドさんは糖尿病を患っていたが、イラクでインスリンを手に入れられなかったという。

 

アルダウドさんはイラク国籍だが一度もイラクに行ったことがなく、アラビア語も話せなかった。

 

アルダウドさんは6月、アメリカ政府が行った犯罪歴のあるイラク人の一斉検挙で拘束され、イラクに追放された。バジョカ弁護士は、アルダウドさんは治安を乱す行為と強盗で有罪判決を受けていたと説明した。

 

米移民関税捜査局(ICE)は、アルダウドさんは過去20年にわたり、危険な武器による暴行や、家庭内暴力(DV)、家宅侵入などで有罪判決を20回受けていたとしている。

 

また、アルダウドさんはICEの拘束を伴わない監視プログラムから逃亡し、4カ月にわたって逃走し、盗難の疑いで再逮捕されたという。さらに、イラクへ追放される前に「治療継続に十分な量の薬」を提供されていたとしている。

 

バジョカ弁護士によると、アルダウドさんはギリシャで生まれ、子供の時に家族と共にアメリカに移住した。

トランプ政権は20176月、犯罪歴のあるイラク人1000人以上の強制送還に乗り出した。移民当局はアメリカ全土で一斉にカルデア典礼カトリック教徒のイラク人を検挙し、この中にアルダウドさんも含まれていた。

 

人権擁護団体によると、イラクではカルデア典礼カトリック教徒は過激派勢力「IS(イスラム国)」に攻撃される危険があるという。

 

イラクで撮影された動画で、アルダウドさんは国外追放と糖尿病との闘いについて話している。この中でアルダウドさんは、治療のためのインスリンはなく、「道路に寝て」おり、食べ物もないと訴えた。

 

また、移民当局の対応については「私は『お願いです。イラクには行ったこともなければ見たこともないのです』と訴えたのに、無理やり追放された」と語った。この動画は、ソーシャルメディアで広く拡散された。

 

バジョカ弁護士は、「アルダウドさんの追放は特に残酷だった」と話した。

「糖尿病をわずらっているのに、インスリンや薬を持たせずに追放した。本人にも家族にも警告せずに捕まえ、収監し、数週間後には飛行機に乗せられていた」(後略)【89日 BBC】

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上記事例では、“アルダウドさんは過去20年にわたり、危険な武器による暴行や、家庭内暴力(DV)、家宅侵入などで有罪判決を20回受けていた”とのことですが、一斉摘発などで拘束・送還となる多くの「不法移民」は、不法に入国したという点を除けば、普通に生活している一般市民であり、アメリカで家庭生活を築き上げてきた人々です。

 

そうした「ごく普通の一般市民」が「不法入国」ということで極めて不安定な状態に置かれているというのは、アメリカのTVドラマなど観ていると、ごく日常の話としてありふれたものであるように見えます。

 

【ミシシッピ州で「史上最大規模」の一斉摘発】

7月中旬の一斉摘発は不発に終わったものの、移民税関捜査局(ICE)は7日、ミシシッピ州で「史上最大規模」の一斉摘発を行っています。

 

****米南部で不法移民680人逮捕=「1州では最大規模」****

米メディアによると、南部ミシシッピ州で7日、不法移民の一斉捜索が行われ、約680人が逮捕された。捜索は移民税関捜査局(ICE)の捜査の一環。6市で行われ、当局者は一つの州における移民摘発作戦としては「史上最大とみられる」と説明した。

 

一斉捜索は食品加工工場で行われたもよう。逮捕者には、メキシコ人122人、グアテマラ人176人、ホンジュラス人2人が含まれていた。一部は8日までに釈放されたが、少なくとも377人は依然拘束中。親が逮捕された子供の支援に当たる地元住民もいたという。【89日 時事】 

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****親子の引き離しも…不法移民の一斉摘発 米****

(中略)子どもたちが親と引き離される事態も起きた。

父親が拘束された子ども「パパと他の人たちを自由にしてほしい。子どもたちは泣いている。パパとママが…。ヒスパニックの人たちは何も悪いこともしていないし、物も盗んでいない」

当局側は、子どもが一人にならないよう、両親のうちどちらかを解放するなど、人道上の措置をとったと説明しているが、現地の人権団体からは強い批判の声が上がっている。【89日 日テレNEWS24

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今回、ICEは子供がいるケースには一定に配慮したとしていますが、評価は分かれています。

 

****米移民捜査当局、工場で一斉摘発の680人のうち300人を釈放****

米移民関税捜査局(ICE)は8日、ミシシッピ州の複数工場で前日に一斉検挙した約680人のうち、約300人を釈放したと明らかにした。拘束された大勢に幼い子供がいるため、またしても親子が離ればなれになると批判が出ていた。トランプ政権は不法移民摘発を政策に掲げている。(中略)

 

こうした状況でICEのブライアン・コックス報道官は8日、BBCにメールで、「釈放された300人については拘束から釈放したもので、連邦移民裁判所での司法手続きが始まる。後日、出廷することになる」と説明した。

 

報道官によると、ICEは工場で680人を拘束する際、世話を必要とする扶養家族がいるか、学校に迎えにいく必要のある子供がいるかを確認したという。

 

拘束後の取り調べの際に各自に電話を使う機会を与え、子供の世話の手はずを整えられるようにしたという。子供の安全確保が特に難しい不法移民については、「優先的に速やかに手続きを処理し、釈放する」方針だという。

 

「特別な配慮」

強制捜査と摘発が残酷で、移民の子供たちを傷つけるという批判に対して、コックス報道官はICEの対応を説明。ICEの指示で国土安全捜査部(HIS)の職員2人が地域の学校に連絡をとり、摘発について知らせ、親が迎えに来ない子供に関して連絡先を周知したという。

 

「当局は、育児中だったり逮捕時に子供が学校にいるもしれない成人について特別な配慮をするべく、用意周到にこの摘発を計画した」と報道官は説明した。

 

ドナルド・トランプ米大統領は今年6月、「アメリカにもぐりこんだ何百万人もの不法移民」は強制送還すると述べ、不法移民の一斉摘発を発表していた。(中略)

 

子供たちはどうなった

帰宅して親がいないと気づいた子供の一部は、地元の体育館に集められた。

 

ミシシッピ州モートンにあるコーク・フーズの工場で撮影され、フェイスブックに投稿されたビデオでは、工場から作業員が次々と移送車に乗らされるのを敷地の外から友人や同僚たちが見つめるなか、10代の女の子が泣きじゃくっているのが見える。

 

女の子の母親を知る女性がICE職員に「この子の保護者は母親しかいない」と訴えると、職員は移送バスが出発する前に母と娘の面会を認めた。母親は7日午後に釈放されるし、少女がアメリカ市民のため強制送還されないと職員は話している。

しかし米紙ワシントン・ポストによると、少女の母親は7日夜の時点では釈放されていなかった。(中略)

 

地元放送局WJTVのアレックス・ラヴ記者は、「ミシシッピ州フォレスト近くのICE摘発による逮捕者の子供たちは今晩、近所の人たちや他人によって、地元の体育館に連れてこられた。その多くはおびえて、泣いている。学校から帰宅したら家に入れず、親がいないんだ。寄付による食料や飲み物が配られている」とツイートした。(中略)

 

割れる反応

摘発のあったジャクソン市のアンタル・ルムンバ市長は、「ICEの摘発は相手の人間性を奪い去るもので、それと同時に効果がない」、「ICEの摘発でこの地元は安全にならない。むしろ隣人を犯罪者扱いし、捜査当局への地域の信頼を失わせるものだ」と批判した。

 

一方で、ミシシッピ州南部地区担当のマイク・ハースト連邦検事は、ICE捜査員は「不法移民」を逮捕するため令状を執行しているのだと強調。「(移民は)この国の法律と規則に従わなくてはならない。合法的に来るのでなければ、そもそもここに来ないほうがいい」と検事は記者会見で述べた。

 

ツイッターではトランプ氏支持者の多くがICEを擁護。順法の必要性を強調する投稿が多く見られた。その1人のカーマイン・サビアさんは、「ICE摘発で親が捕まった子供たちは気の毒だ。規則や法律は守らなくてはならないと、こういう形で子供が教わるのはつらいことだ。法をやぶれば償わなくてはならない。子供たちには同情するが、アメリカ人の親も毎日のように逮捕されて、その子供たちも泣く。それでもこの国では法を執行する」と書いた。

 

一方で、2020年米大統領選に民主党から出馬しているカマラ・ハリス上院議員はツイッターで、「このICE摘発は家族を引き裂き、恐怖を広め、地域社会を威嚇するためのもの。学童保育に出かけた子供たちが家に帰ると、親がいない。トランプが子供たちの人生を政争の具にしたがるから」と書いた。

 

同じように出馬しているコーリー・ブッカー上院議員も、「この政権の倫理的破壊力は果てしない。この子供たちを置き去りにして、トラウマを与えることで、いったい誰が安全になるというんだ」と書いた。【89日 BBC】

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先述のように、「違法に入国していたのだから強制送還は当然」というのはある種の正論ではありますが、市民としてのこれまでの生活を根底からひっくり返すという深刻な問題をはらむものでもあります。

 

どう判断するかはともかく、そうした微妙な問題を選挙対策で断行してしまうということに抵抗を感じます。

 

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