(24日、ブラジル北部アマゾン地域の火災で消火活動に当たるC130輸送機【8月25日 日経】 こうした消火活動の有効性はわかりませんが、一番重要なのは普段の環境保護に対する姿勢でしょう。その点で、ボルソナロ大統領は考えを変えたのか?多分変えていないでしょう。)
【アマゾンが燃えている】
アマゾン熱帯雨林で続発する火災については、国連のグテレス事務総長もツイッターで「深く憂慮している」、「酸素と生物多様性の主要な源を、これ以上傷つけることは許されない」と表明しているように、「ブラジルのトランプ」とも称され、熱帯雨林保護に消極的で開発を重視する右翼ボルソナロ大統領の後ろ向きな対応を含めて国際問題となっています。
問題が国際的に広がったことを受けて、ボルソナロ大統領もようやく消火に向けた行動に方針転換しています。
****「地球の肺」に最悪危機=アマゾン熱帯雨林で大火災-ブラジル****
世界の原生林の3分の1を占め「地球の肺」と称されるアマゾン熱帯雨林が、続発する火災で過去最悪とも言われる危機にさらされている。アマゾンの開墾・開発に前向きなブラジルのボルソナロ政権の対応は後手に回っており、環境NGOのみならず、国際社会からの批判が高まっている。
地元の環境NGO「IPAM」などによると、今年1月から8月半ばまでのアマゾンの火災は、過去3年平均の6割増の3万2728件。乾期に当たり、農地や鉱山を開くため人為的に起こされた疑いがあるものも多い。
ボルソナロ大統領は当初「私や政府への反発を招こうとするNGO関係者の仕業とみられる」と主張。火災は政府の支援打ち切りで資金難に陥るNGOによる「放火」と決め付け、予算不足などを理由に対応に後ろ向きな姿勢を見せた。しかし、かねて同氏の環境保護軽視に不信感を抱いていた欧州諸国は厳しく反応し、一気に国際問題に発展した。
フランスやドイツなどは「私たちの家が燃えている」(マクロン仏大統領)と憂慮。マクロン氏はフランスでの先進7カ国首脳会議(G7サミット)でアマゾンの火災を議題にする方針を表明した。
欧州連合(EU)内では、6月に妥結した南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)の批准阻止や、ブラジル産品の禁輸を求める声まで上がり始めた。
「盟友」トランプ米大統領からも支援の申し出を受けるなど、予想外の事態に慌てたボルソナロ氏は23日、火災の背景に「異常な乾燥」があると方向転換。
「国民には生活向上の機会を与えなければならないが、環境への犯罪は許されない」として、軍を投入して消火と焼き畑などの防止に当たると宣言した。
ただ、広大なアマゾンで軍に消火活動をさせても、効果があるかは不明。鎮火には国際社会の人的・物的支援が必要な情勢となっている。【8月25日 時事】
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話は上記記事が網羅的に取り上げているところに尽きるのですが、以下、若干の補足等を。
先ずは、今回の森林火災の規模について。
****アマゾンの森林火災、どれくらいひどいのか****
ブラジルのアマゾン熱帯雨林で、何千件もの森林火災が猛威を振るっている。その規模は、過去10年で最大とされる。
特に北部のロライマ州、アクレ州、ロンドニア州、アマゾナス州、そして南部のマットグロッソ・ド・スル州などで大きな被害が出ている。(中略)
今年は森林火災が特に多い
ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、同国ではアマゾン地域を中心に、森林火災の発生件数が2018年の同時期と比べて85%増加している。
INPEの人工衛星データによると、今年1〜8月21日の間に7万5000件以上の森林火災が発生し、2013年の観測開始以降で最大を記録。昨年の同期間の3万9759件を大きく上回っている。
アマゾンではそもそも、7〜10月の乾季に森林火災が起きやすい。落雷などで自然発生する場合もあるが、森林を焼いて家畜の放牧地や畑を作るため、人為的に起こされている部分もある。(中略)
火災で大量の二酸化炭素(CO2)と煙が発生
火災による煙は、アマゾン地域から周辺地域へと広がっている。
欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(CAMS)によると、煙は大西洋岸まで到達している。また、アマゾンから3200キロ以上離れたブラジルの最大都市サンパウロの空を覆い、街が暗闇に包まれる被害も出ている。
CAMSはまた、今年に入ってからアマゾンの森林火災で1億1700万トン相当の二酸化炭素(CO2)が排出されていることを明らかにした。これは、2010年以降で最も多いという。
火災では有毒な一酸化炭素(CO)の排出も確認されており、CAMSの地図によると、COが南米の海岸を越えて流れていることが分かる。
世界最大の熱帯雨林を擁するアマゾン盆地は、CO2を吸収するため、地球温暖化の緩和に大事な要となっている。また、300万種もの動植物が生息し、100万人の先住民族が暮らしている。
しかし森林が焼かれたり伐採されたりすると、CO2の吸収率が悪くなるだけでなく、吸収されていたCO2が大気中に放出されるという。
ブラジル以外の国でも火災が多発
740万平方キロメートルの面積に及ぶアマゾン盆地は、ブラジル国境を越えて広がるため、周辺国でも今年は森林火災が多発している。
ブラジルに続いて多いのはヴェネズエラで、これまでに2万6000件超の火災が発生。これにボリヴィアの1万7000件超が続く。(後略)【8月23日 BBC】
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【情報の混乱も】
「地球の肺」という表現には異論もあるようです。もちろん、森林火災の重大性を否定するものではありませんが。
****アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか****
(中略)
酸素を出さず二酸化炭素も吸収しない
情報が錯綜しているので、あまり推測の上に推測を重ねることを論じたくない。ただ一つ気になるのは、「アマゾンは地球の肺」「森林は酸素供給場であり、二酸化炭素の吸収源」といった指摘だ。
森林の大切さを訴えるためによく使われる言説だが、これは科学的にはおかしい。なぜなら成熟した森林は、酸素を供給しないし、二酸化炭素も排出しないからだ。
簡単に説明すると、森林の大部分を占める植物は、たしかに二酸化炭素を吸収して光合成を行うが、同時に呼吸もして二酸化炭素を排出しているからだ。植物単体として見ると光合成の方が大きいこともある(その分、植物は生長する)が、森林全体としてみるとそうはいかない。
なぜなら森林には動物も棲んででいるから……ではない。たしかに森林にいるサルやシカやネズミ、あるいは昆虫も呼吸して二酸化炭素を出すが、全体としては微々たるものだろう。
もっとも大きいのは菌類だ。いわゆるキノコやカビなどは、枯れた植物などを分解するが、その過程で呼吸して二酸化炭素を排出する。
地上に落ちた落葉や倒木なども熱帯ではあっと言う間に分解されるが、それは菌類の力だ。目に見えない菌糸が森林内に伸ばされており、そこから排出される二酸化炭素量は光合成で吸収する分に匹敵する。つまり二酸化炭素の増減はプラスマイナスゼロ。
だから、森林を全体で見ると、酸素も二酸化炭素も出さない・吸収しないのだ。酸素を供給し二酸化炭素を吸収する森は、成長している森だ。面積を増やす、あるいは植物が太りバイオマスを増加させている森だけである。
アマゾンは森林としては成熟している(面積を増やさず、バイオマスも上限まで蓄積している)から、おそらく二酸化炭素は吸収はしていないだろう。
だから、今回の森林火災の頻発は地球温暖化に影響ない、と楽観視するつもりはない。地中に埋もれていた有機物を燃やして二酸化炭素を増加させているかもしれないし、何より生物多様性の危機だ。
そこには有用な遺伝子資源も多くあるだろうから、人間にとっても損失だろう。また森で暮らす先住民のことを考えると心配でならない。(後略)【8月25日 田中淳夫氏 Yahoo!ニュース】
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“情報が錯綜している”ということでは、ネット上で不正確な情報も拡散しているようです。
****アマゾン火災、無関係の写真がネットの怒り煽る****
ブラジル北部のアマゾン熱帯雨林でここ数週間にわたり広がる火災を写したとされる写真がソーシャルメディア上で拡散しているが、写真の大半は数十年前に撮影されたものや、さらにはブラジル以外の国で発生した火災を写したものであることが、AFPの検証により明らかになった。(後略)【8月23日 AFP】
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【キャプテン・チェーンソーからネロへ】
そうした混乱はあるものの、今回のアマゾン熱帯雨林大規模火災で一番重要な問題はボルソナロ大統領の熱帯雨林保護に消極的な姿勢です。
“INPE(ブラジル国立宇宙研究所)は7月、6月のアマゾンでの森林減少が前年同月比で88%増加したとのデータを発表した。
これに対しボルソナロ氏は、INPEのリカルド・ガルヴァン所長がうそをつき、政府に損害を与えようとしていると非難。ガルヴァン所長は解任させられた。
INPEは、発表したデータの正確性は95%にのぼるとしている。ブラジル科学協会など複数の科学機関も、INPEのデータの正当性を擁護している。”【8月21日 BBC】
****アマゾン森林火災はNGOの仕業?=ブラジル大統領が主張****
ブラジルのボルソナロ大統領は21日、アマゾン熱帯雨林で拡大している火災について、環境NGOがボルソナロ政権をおとしめるために行った放火の可能性があると主張した。同政権はアマゾンの開墾を優先して森林保護に後ろ向きだとして、NGOからの批判にさらされている。
地元の環境NGO「IPAM」などによると、今年1〜8月半ばまでのアマゾンの火災は、過去3年平均の6割増の3万2728件。ほとんどは農地や鉱山を開くに当たり木を焼き払うため人為的に起こされたとみられる。国全体の森林火災件数もこの7年で最悪とされており、一部の州は非常事態宣言を出している。
これについて、ボルソナロ氏は「断定はしないが、私や政府への反発を招こうとするNGO関係者の仕業とみられる」と指摘。政府の支援打ち切りなどで資金難に陥っているNGOの意趣返しとの考えを示した。
さらに、人里離れた各地の火災映像が拡散していることを挙げ「火は戦略的に付けられているようだ」と強調。「私の直感は、誰かが撮影のために現場に行き、着火したことを指し示している」と述べた。
ボルソナロ氏の極端な主張は、国内外の環境NGOだけでなく、アマゾンの森林保全を支援してきた欧州諸国政府からも強い反発を呼びそうだ。【8月22日 時事】
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“ボルソナロ氏はこれまで、アマゾン地域を鉱業や農業、林業などの事業利権に開放すべきだとの考えを繰り返し示してきた。同氏が1月に大統領に就任して以来、政府は農家が森林に火を付けることを少なくとも暗黙に奨励している可能性がある。”【8月23日 ロイター】
ロイター通信によると、ボルソナロ大統領は「私はかつて(森林を伐採する)キャプテン・チェーンソーと呼ばれていたが、今はアマゾンに火をつける(古代ローマ皇帝)ネロ呼ばわりされている」と話したとのことですが、“キャプテン・チェーンソー“にしろ“ネロ”にしろ、あながち的外れでもないようにも思えます。
ボルソナロ氏は大統領選中には、熱帯雨林を傷つける行為への罰金を引き下げ、環境省の影響力を縮小するつもりだと公約していました。
ボルソナロ大統領の環境保護に関する認識を示すエピソードとしては、以下のような話も。
****環境保護へ「大便控えろ」=ブラジル大統領が妙案?****
ブラジルのボルソナロ大統領は9日、環境保護のためには人間が大便を控えるべきだと「妙案」を示した。
ボルソナロ政権は「経済開発と環境保護の調和」を提唱している。しかし、アマゾン熱帯雨林消失のペースは加速しており、環境団体からは「保護をないがしろにしている」と批判を受けている。
ボルソナロ氏は、環境保護に関する記者団からの問い掛けに「(環境のためには)少し食べるのを控え、大便を毎日ではなく1日置きにとどめるだけでいい。そうすれば生活もずっと良くなる」と返答。農地開発のための森林伐採と、ふん尿汚染の問題解決につながると冗談めかした。【8月10日 時事】
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もちろん冗談ですが、こうした冗談を嬉々として話すあたりに、大統領の環境保護の軽視というか反感とも言えるようなものがうかがえます。
【大統領を動かす欧州からの激しい批判 その先頭に立つマクロン仏大統領】
そうした大統領の消極姿勢を反転させることになったのが、欧州を中心にした厳しい批判でした。
****フィンランド、ブラジル産牛肉禁輸をEUで提起へ アマゾン火災の対応非難****
フィンランドのミカ・リンティラ経済相は23日、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林で発生している大規模な火災をめぐる同国のジャイル・ボルソナロ大統領の対応に対する抗議として、同国産牛肉の輸入禁止措置を欧州連合で提起すると発表した。
リンティラ経済相は、森林破壊について強く非難し、「EUとフィンランドは、ブラジル産牛肉の輸入を禁止する選択を至急検討する」と述べた。フィンランドは現在、輪番制の欧州理事会議長国。
リンティラ氏は、「今、EUから効果的な行動を起こす必要がある。EU各国の経済相が9月にヘルシンキを訪問するまでに何も進展がなければ、経済相らとこの問題を提起する用意がある」と主張した。 【8月24日 AFP】****************
****南米とのFTA、批准難航も=アマゾン火災踏まえ―EU大統領****
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は24日、訪問先のフランス南西部ビアリッツで記者会見し、EUと南米南部共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)について、「ブラジル政府が地球の『緑の肺』の破壊を許す限り、欧州各国の円滑な批准を想像するのは難しい」と語り、ブラジルにアマゾン熱帯雨林火災拡大への早急な対応を迫った。
FTAは地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の履行を明記。フランスやアイルランドは、ブラジルがアマゾン保護へ態度を改めなければ反対する姿勢を示している。【8月24日 時事】
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環境保護に後ろ向きな点では似通っている盟友トランプ大統領ですら23日「アマゾン熱帯雨林の火災について米国は手を貸せると伝えた。支援の用意はできている!」とツイートする事態に。
とりわけ批判が厳しかったのがフランス・マクロン大統領。
“アマゾン森林火災は「国際的危機」、マクロン仏大統領が警告”【8月23日 BBC】
“仏大統領の思考は 「植民地主義者」 ブラジル大統領が非難、アマゾン火災めぐり”【8月23日 AFP】
****互いを「うそつき」呼ばわり ブラジル・仏の首脳が舌戦****
アマゾンの熱帯雨林で深刻化する大規模火災をめぐって、ブラジルのボルソナーロ大統領とフランスのマクロン大統領の舌戦が過熱している。互いに相手を「うそつき」とののしる泥仕合になっている。
きっかけは23日のマクロン氏の発言だ。仏AFP通信によると、マクロン氏はボルソナーロ氏について、6月に大阪で開かれた主要20カ国・地域(G20)で「私にウソをついた」と非難した。
マクロン氏によると、ボルソナーロ氏はG20中の両者の首脳会談で「(温暖化防止の国際ルールの)パリ協定から離脱しない」と述べて、温暖化防止に取り組むことを約束したという。
ところが、ボルソナーロ氏はアマゾンの乱開発を容認し続け、火災が起きても当初は「火事を消す資金がない」と消極姿勢だったことから、今回の「ウソ」発言につながった。
これに対し、ボルソナーロ氏は猛反発。特にマクロン氏が22日に「我々の家が燃えている」とツイートし、添付した森林火災の写真が、03年に死亡した写真家によるものと判明したためだ。少なくとも今回の火災と無関係とわかったことで、ボルソナーロ氏は23日、「ブラジルへの憎しみをあおるため、我々は前世紀の写真を投稿したりしない」とツイートして皮肉った。
24日から仏で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務めるマクロン氏は、アマゾン火災をG7の議題にすると決定。23日に出した声明で「アマゾンのよい統治方法をサミットで見つけたい」と強調した。これを受けて、ボルソナーロ氏が再び反発するのは必至とみられる。【8月25日 朝日】
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こうした国際的議論の広がりを受けて、フランスで開かれているG7サミット(主要7か国首脳会議)でも意見が交わされ、各国首脳は、南米アマゾンの熱帯雨林で大規模な火災が多発していることに対し、G7として、消火を含めた必要な支援を行うことで一致しました。
欧州からの批判は、国内農家からの批判・不安も惹起します。
“森林火災はアマゾン地域での農業を促進する。農家もその政策を支持するだろうと思うかもしれないが、ブラジル農業界の有力者の間には、ボルソナロ氏がブラジルの対外イメージを損なうことで、大豆や牛肉の輸出に影響が出るのではないかという懸念が出ている。”【8月23日 BBC】
そんなこともあって、さすがのボルソナロ大統領も軍に出動を命じ、対応を変えることにもなったようです。
軍は消火活動のほか違法伐採などの環境破壊行為の防止や監視をするとのことです。