孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラム恐怖症(イスラモフォビア)に関する話題 ドレスデン、ロンドン、ニューヨークそしてパリ

2016-09-28 22:26:00 | 欧州情勢

(東ロンドンのストラトフォードにはムスリムを中心に多様な民族が暮らす【9月27日 Newsweek】)

昨日ブログで取り上げたイランのアフマディネジャド前大統領の次期大統領選挙出馬問題ですが、最高指導者ハメネイ師の自粛勧告に対し前大統領は「勧告に従い出馬しません。謙虚な革命の戦士、イラン国家のしもべでいます」と書簡で返答したようです。ただ、あまりに“素直な”反応に、「本当だろうか?何があったのだろうか?」という感も。


反イスラム団体PEGIDA発祥の地ドレスデンでモスク襲撃
“イスラム過激派によるテロが繰り返されるなかで、イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感・恐怖心、いわゆる「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」が社会に広がり、そのことがイスラム教徒とその他住民との相互理解・融和を阻害し、イスラム教徒の中に社会への不信・怒りを育て、さらなるテロを誘発する・・・・という悪循環を生み出す危険があります。”【8月16日ブログより再録】という件に関しては

8月16日ブログ“フランス イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感がもたらす危険性”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160816
9月17日ブログ“イスラム恐怖症 ノルウェーの「ドナルド・トランプ」 イスラム叩きで復権を目指す仏サルコジ元大統領”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160917
などでも取り上げてきました。

難民問題に揺れるドイツでは、反移民を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が最近の選挙でメルケル首相の与党を上回る得票を得るとか、ベルリン市議会で初議席を獲得するなど躍進が報じられています。

そうした政治的流れと軌を一にしたように、イスラム教モスクへの襲撃事件も発生しています。

****独東部のモスクと国際会議場に爆弾、動機に外国人排斥か****
ドイツ東部ドレスデン(Dresden)の会議センターとモスクが26日夜、手製爆弾で攻撃された。けが人はいなかった。現地警察は27日の発表で、外国人排斥を掲げる国家主義的な動機があったと疑っていると述べた。
 
ドイツに大量の移民が流入する中、ドレスデンでは最近、極右勢力による抗議行動が頻発していた。

ドレスデン警察のホルスト・クレッチマー署長は「どこからも犯行声明は出ていないが、外国人排斥な動機があるとみている」と語った。また10月3日の「ドイツ統一記念日(Day of German Unity)との関連も疑っている」という。
 
爆弾が爆発したのはグリニッジ標準時(GMT)午後8時(日本時間27日午前5時)ごろ。モスクの内部にはイスラム教指導者とその家族がいたが、けが人はなく、被害はドアが壊れただけだった。また国際会議場に併設されているホテルでは一部が避難した。
 
旧東ドイツに位置するドレスデンは、右派ポピュリスト団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(PEGIDA)」の発祥の地。PEGIDAのメンバーらは、欧州の経済大国ドイツへの亡命を求めて、100万人の難民や移民が昨年流入した事態に対する怒りの抗議を行っている。【9月27日 AFP】
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PEGIDA(西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人)は、その名称からわかるように、戦前のナチスをも彷彿とさせる典型的な排外的極右団体です。

支持者は比較的収入が高い中上層の社会階層出身者が多く、高学歴の傾向を示すと言われる新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は公式的には“(PEGIDAとは)距離感を置いて否定的な立場にある”【ウィキペディア】とのことですが、実際には支持層が重なると思われ、ドレスデンではAfD党員や支持者たちがPEGIDAと共に活動していたと言われています。

【「多様性」のロンドンでも根強いイスラム差別
一方、イギリスでは今年5月、ロンドン市長にイスラム教徒のカーン氏が当選し、話題になりました。

****ロンドン市長に初のイスラム教徒 住民の多様化が後押し****
教徒の市長が誕生した。パキスタン移民2世の労働党下院議員サディク・カーン氏(45)だ。相次ぐテロの余波で、欧米で反イスラム感情が高まる中での勝利。背景には何があったのか。
 
2期8年務めた保守党のボリス・ジョンソン前市長(51)の後任を決める選挙は12人が立候補。事実上、上流階級出身の保守党下院議員ザック・ゴールドスミス氏(41)と、移民家庭から人権派弁護士になったカーン氏の一騎打ちだった。
 
保守党陣営は、カーン氏を「イスラム過激派」になぞらえるネガティブキャンペーンを展開した。
 
ゴールドスミス氏は大衆紙に「労働党が勝てば、過激派を正当化する候補を立てる政党に警察行政や対テロ政策をゆだねることになる」と寄稿。記事は過激派による2005年のロンドン同時爆破テロで大破した路線バスの写真とともに掲載された。キャメロン首相も「労働党候補に懸念を抱いている」と、カーン氏が過激派に近いという印象を発信した。
 
近年、欧州では過激派組織「イスラム国」(IS)に共鳴するグループによるテロ事件が続発。昨年8月の英YouGov社の世論調査では、3人に1人が「イスラム教徒のロンドン市長」に不快感を示した。米大統領選で「イスラム教徒の入国禁止」を訴える不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党の候補者指名を確実にするなど、反イスラム感情の高まりは欧米共通の現象だ。
 
だが最終的にはカーン氏が約131万票を獲得。約99万4千票のゴールドスミス氏に圧勝した。投票率は46%で、前回12年を8ポイント上回り、関心の高さを示した。

なぜカーン氏は勝てたのか。
背景には、ロンドンという街が培ってきた「多様性」がある。
 
これまで、旧植民地や欧州連合(EU)加盟国から多くの移民を受け入れてきた。11年国勢調査によると、人口817万人(当時)のうち約37%が英国外生まれだ。「英国籍の白人」は約45%にとどまる。イスラム教徒も100万人以上で人口の12・4%を占める。
 
カーン氏自身が、そんなロンドンの多様性を体現する存在だ。地元のモスク(イスラム教の礼拝所)に通い、戒律に従って酒は飲まない一方、イスラム教が認めない同性婚を支持するリベラルさを併せ持つ。

カーン氏は英誌に「私たちはみんな、複合的なアイデンティティーを持つ。信仰は私の一面にすぎない」「私はロンドン市民で英国人、イングランド人、パキスタン系アジア人、父親で夫。(サッカークラブの)リバプールファン、労働党員、そしてイスラム教徒だ」と語った。
 
ロンドンでは伝統的に労働党が強いことや、庶民目線の行政手腕が期待された面もある。
 
保守党陣営の戦術は、党内からも「市民の分断をあおる」と批判が噴出。ゴールドスミス氏の支持離れを招いた。カーン氏は当選後、「市民が恐怖より希望を、分断より団結を選んだことを誇りに思う」と語った。
 
ロンドン大学経済政治学院のトニー・トラバース教授(政治学)は「マイノリティー出身の市長を嫌ってカーン氏に投票しなかった人がいた一方で、ロンドンが民族や信仰に寛容な都市である象徴として、あえて投票した人もいたのではないか。ロンドン市民もテロを懸念しているが、市長を選ぶ判断には影響しなかったということだろう」と分析する。
 
日本に住んで十数年になるインド系英国人のヴィアス・ウツパル立命館アジア太平洋大学准教授(国際政治学)は、「移民2世の若者の良い手本となり、外国にルーツを持つ英国人が政財界の要職につく流れを後押しするだろう」と指摘。今回の選挙を日本に置き換えると「移民2世の東京都知事が誕生するようなものだ」と言う。日本でも、そんな日は来るのだろうか。
 
ヴィアス氏は「近い将来にはありえない」とみる。「政党が多様な地方議員の擁立に動き、市民も支えることが必要になるが、日本では社会の多様性を深めることが歓迎も推進もされていない。今は女性議員を増やすことの方が優先順位が高く、民族・宗教的マイノリティーの日本人が地方政界のリーダーとして活躍するのは、まだまだ先だろう」【5月18日 朝日】
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そんな「多様性」を重んじるロンドンでも、イスラム教徒への強い反感が存在します。

****ロンドンに潜むムスリム差別****
<多文化共生を象徴する都市ロンドンでも、イスラム教徒への反感は根強い。欧州でテロが相次ぐ中、誤解を恐れて口を閉ざすムスリムの若者も多い>
 
イスラム教徒のサディク・カーンが新市長に選ばれたことで「融合」の象徴として期待されるロンドン。
だがそんな世界有数の多文化共生都市にも人種や民族間の軋轢はあり、なかでもイスラム教徒への反感は根深い。

英社会に溶け込む努力を重ねるムスリムは多いが、黒ずくめの伝統衣装や髪を覆うヒジャブに抵抗感を持つ市民も少なくない。
 
宗教的な対立が高まる背景には、英経済の低迷や失業率の増加がある。さらに再開発によって地価が高騰し、中流階級までが住む場所を追われる事態が多発していることも、市民の不安を高め、異文化への憎悪をあおる温床となっている。

そんな逆境のなか、ムスリムの人々、特に若者は本音を隠して生きようとしている。私がロンドンで出会った10代半ばの少女たちは、学校でパリとブリュッセルのテロ事件について議論した際に口をつぐんでいたという。非ムスリムの生徒が大半を占める環境では、何を言っても誤解を招くと恐れたのだ。
 
ムスリムの市長が誕生しても、ロンドンに真の多様性が浸透し、差別される不安が消え去る日は簡単には訪れそうにない。【9月27日 Newsweek】
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ニューヨークではイスラム嫌悪と闘うキャンペーンも
ロンドン同様に、あるいはそれ以上に「多様性」の都市ニューヨークでは。

****米NY市、イスラム嫌悪と闘うキャンペーンを開始へ****
米ニューヨーク市は26日、同市に暮らすイスラム教徒数十万人の権利の平等を強調し、イスラム嫌悪と闘う大規模なキャンペーンに乗り出すことを明らかにした。
 
ニューヨークでは10日前にマンハッタンで、イスラム過激派に感化されたアフガニスタン系米国人による爆破事件が起きたばかり。

ビル・デブラシオ市長は声明で「今こそニューヨーク市民全員が一つとなって団結して立ち上がり、ヘイト(憎悪)と暴力を拒絶することが、かつてないほど重要だ」と語った。
 
デブラシオ市長はさらに「われわれはいかなる差別も暴力も容認しない。そして、イスラム教徒の兄弟姉妹を含むすべてのニューヨーク市民が、彼らにふさわしい尊厳をもって扱われるまで、われわれは休むことはない」と述べた。
 
27日に始まるキャンペーンではまずソーシャルメディアを使い、「#IAmMuslimNYC」のハッシュタグでメッセージを広める。また同市は、来月初旬から市職員や官民の雇用主を対象に、イスラム教について理解を深めるためのワークショップの開催を計画している。【9月27日 AFP】
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ただ、イスラム教徒の入国禁止など、ポリティカル・コレクトネスを真っ向から否定するトランプ候補がどんなにマスコミなどで叩かれても支持が拡大するように、多くのアメリカ人の本音の部分に「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」が浸透しているようにも見えます。

9月17日ブログでも取り上げたように、ニューヨーク・マンハッタン5番街の高級ブティック前で9月10日夜、ベールで顔を覆った英国籍の女性(35)が衣服に火を付けられる事件も起きています。

パリ ブルキニがダメでヌーディストはかまわない?】
また、同じく9月17日ブログでも取り上げたフランスの「ブルキニ騒動」
「宗教を誇示するような浜辺での着衣は、フランスや礼拝所がテロの標的になっているなか、公共の秩序を脅かしかねない」(カンヌ市長)といった主張の背後には、「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」的な考えがあるようにしか思えません。

そのフランス・パリでは、ヌーディストは認められるとか。

****ブルキニを禁じたフランスのパリがヌーディスト解禁へ****
<ビーチでイスラム教徒の水着ブルキニを着るのは禁止だけど、何も着ないのはオーケーってどういうこと?>(写真はカナダのヌーディスト村)

フランスといえばこの夏、公共のビーチでの「ブルキニ」着用を禁止する自治体が相次いで、国際社会から批判にさらされたばかり。ブルキニとは、イスラム教徒の女性が着用する全身を覆う水着だ。

ところが首都パリでは今、公共のヌードを解禁しようとしている。

早ければ来年の夏までに、ヌーディストはパリの指定されたエリアで自由に過ごせることになりそうだ。市議会は26日、ヌーディストエリアの設置を賛成多数で承認した。

ダビッド・ベリアール議員は、フランスには200万人に上るヌーディストが存在し、観光客が押し寄せる夏の数か月間はその数が倍に増えると言う。

ヌーディスト観光客へのサービス
「ヌーディストにとってパリは世界で最も人気がある旅先なのに、裸になれる公共の場所がない。彼らが自由に服を脱いでバカンスを楽しめるエリアを作りたい」

フランスにおけるイスラム教徒の人口は約500万人。国内のヌーディスト人口はその半分だ。

ブリュノ・ジュリアール副市長は、アンヌ・イダルゴ市長とともに計画を支持した。設置の条件は、市の中心部のすぐ外で、「公共の秩序を脅かさないよう、湖の近くなどで当局が取り締まれる場所」になる見通し。

ジュリアールが言葉を慎重に選んだのは皮肉だ。テロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)が犯行声明を出したニースのトラック突入テロ以降、ビーチや湖、プールなどでブルキニを着用すれば、公共の安全に深刻な脅威になるという議論になったばかり。ブルキニはダメでヌーディストは良いというのは何とも気まずい。

緑の党に所属するベリアールは、自分はブルキニ禁止を支持しないと言う。
「人々は自分の好きなように服を着られるし、全然着ないという選択肢もある」【9月28日 Newsweek】
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ブルキニは宗教を誇示し、ヌーディストにはそいう面がない・・・ということでしょうが、ブルキニがダメでヌーディストはかまわないというのはなんだか奇妙な結論です。要するに「イスラム教徒が嫌いだ」ということでしょう。
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