孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「難民サミット」でオバマ氏「人間性が問われている」 「棲み分け」を主張するアイデンティタリアン

2016-09-21 22:12:33 | 難民・移民

(「難民に関するリーダーズ・サミット」で演説するオバマ米大統領 【9月21日 毎日】)

【「反省」を強いられたメルケル首相
欧州を目指す難民・移民の状況は好転していません。

****地中海経由の難民30万人に=死者数は最悪ペース―欧州****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は20日、中東やアフリカから地中海を渡って欧州に入った難民らが年初からこれまでに、30万人を超えたと発表した。昨年は9月末時点で約52万人に達しており、流入の勢いは鈍化している。
 
イタリアには、昨年9月末とほぼ同数の約13万人が入った。ギリシャには約16万6000人が到着したが、欧州連合(EU)と経由地トルコの対策により、昨年9月末時点の半分以下に抑えられている。
 
ただ、地中海での死者・行方不明者は今年既に3211人に上り、昨年を上回るペースで増えている。UNHCR報道官は「今年は死者数で過去最悪の年になりそうだ」と語った。【9月20日 時事】
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欧州各国への受入が進まないなかで、留め置かれた難民らの情勢にも不穏なものが生じます。

****ギリシャで難民ら衝突、キャンプに放火 4千人避難****
ギリシャ東部レスボス島のモリア難民キャンプで19日夜、火災があり、多くのテントが焼失した。滞在する難民・移民ら約4千人が避難したが、負傷者は報告されていない。AFP通信などが伝えた。
 
アテネ通信によると、同キャンプでは19日夕、難民らのグループ間の衝突があり、何人かがキャンプに放火する騒ぎがあった。その前には、難民らのトルコへの送還が大規模に行われるとのうわさがたち、デモ行進のために島中心部へ向かおうとした人たちが警察に阻止されたという。
 
欧州連合(EU)とトルコは3月、トルコからギリシャに密航した難民・移民を原則トルコへ送還することで合意。ギリシャ東部の島々には難民申請を希望する人や、審査で受理しないと決まった人ら約1万3500人が留め置かれている。住民らとの摩擦も顕在化しており、レスボス島では19日、地元住民ら約500人がキャンプの撤去などを求めて抗議デモを行った。【9月20日 朝日】
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しかし、政治状況は難民らにとって厳しい方向に向かっています。

これまで難民受け入れを進めてきたドイツ・メルケル首相も、相次ぐテロ事件などで難民受け入れへの批判が強まる国民世論、その結果としての4日のクレンブルク・フォアポンメルン州議会選に続く18日の首都ベルリン特別市での与党敗北という政治状況を受けて、「時計の針戻したい」と難民政策への“反省・自己批判”を迫られるところともなっています。

「メルケル氏は実質的に難民歓迎の旗を降ろし、厳格政策にかじを切っている。だが、保守層が求めているのは難民を無制限に受け入れた政治判断についての謝罪だ」【マインツ大のユルゲン・ファルター教授(政治学)9月19日 毎日】という政治的雰囲気もあってのことでしょう。

****難民対応で問題認める=「時計の針戻したい」―独首相****
18日のベルリン市議会選挙で「反難民」を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、国政与党が大きく後退した結果を受け、ドイツのメルケル首相は19日の記者会見で、中東などからの難民受け入れ対応に問題があったことを認めた。
 
難民への寛容姿勢を貫く首相の方針には、国民の不満が根強い。首相としては、こうした世論に配慮することで、来秋の連邦議会(下院)選までに国民の反発を和らげたい考えとみられる。
 
首相は会見で、昨年殺到した難民の問題を十分に管理できない時期があったとし、「あの状況の再来は、私を含め誰も望んでいない」と強調。「できることなら時計の針を何年も戻し、政府全体で備えをしっかりし直したいくらいだ」と率直に語った。
 
難民受け入れの決意を込めて首相が昨年用いた「われわれは成し遂げられる」というスローガンについても、「ほとんど空虚な決まり文句」になってしまったと指摘。今後は使用を控える考えを改めて示した。
 
ただ、人道的見地から難民に国境を開いた判断自体は「完全に正しかった」と明言。連立与党の一部から出ている受け入れ上限設定要求をのまない立場も崩しておらず、今回の「反省」が首相と与党の人気回復にどの程度つながるかは不透明だ。【9月20日 時事】 
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国境を開いた判断自体は「完全に正しかった」が、「準備不足だった昨夏以降の出来事をやり直したい」というもののようです。

【“及び腰”の各国のなかで、オバマ大統領「私たちの人間性が問われている」】
こうした状況で、シリアなど内戦や紛争が続く国から逃れた難民への支援について各国の首脳が話し合うサミットが、国連総会にあわせて開かれました。

具体的には、国連の潘基文(バン・キムン)事務総長が19日に国連本部で主催した「難民・移民に関する国連サミット」と、翌20日にバラク・オバマ米大統領の呼びかけで開催された「難民に関するリーダーズ・サミット」です。

19日の難民・移民に関する国連サミット」については、メルケル首相は欠席したとのこと。18日の苦戦が予想されていたベルリン市議選で国を離れられなかったようです。

難民受け入れの旗振り役だったメルケル首相が難民サミットの出席できないというのも、現在の政治状況を象徴しているように思われます。

難民対応という難題に対する各国の対応も“及び腰”が目立ち、合意についても「役に立たない取り決めだ」(アムネスティ・インターナショナル)との批判も

****難民受け入れ、及び腰サミット シリア周辺国、悲鳴 @国連本部****
シリアなどの難民問題を協議する国連サミットが19日、米ニューヨークの国連本部で開かれた。シリアの周辺国から、難民受け入れの分担を求める声が上がったが、国際社会の「及び腰」ぶりが目立った。

米国とロシアが主導したシリアの停戦合意も崩壊の危機に陥っており、問題を解決する糸口は見つからないままだ。
 
今年の国連総会では、難民問題が最大のテーマの一つに掲げられた。紛争などで家を追われた人は世界で6500万人超で第2次世界大戦後で最大。難民は2100万人超、特にシリアは約480万人となった。
 
150カ国が参加したサミットで、国際社会で難民を受け入れる機運を高め、各国が受け入れや費用などの負担を引き上げることを狙った。
 
サミットでは、隣接するシリアなどから100万人以上の難民を抱えるレバノンのサラーム首相が「この状況を続けることはできない。国家崩壊の危険を冒している」と訴えた。
 
シリアで内紛が始まった2011年以降に急増。首相は、これまでに10万人のシリア難民の子が国内で生まれたことを挙げて「他国が受け入れている難民数よりも多い。レバノンだけでは不可能だ」と述べ、各国に難民の受け入れ負担を増やすよう求めた。
 
250万人超もの難民を受け入れてきたトルコも、120億ドル(約1兆2千億円)を出費したとし、国際社会で負担を分担する必要性を訴えた。

 ■メルケル氏は欠席
しかし、サミットの目的は成し遂げられたとは言えない状況だ。大幅に受け入れを増やす表明は多くなかった。背景には、欧州などで昨年から過激派によるテロが相次いだことで、難民とテロを結びつける風潮が高まったことがある。難民受け入れに反対する政党が各国で伸長している。
 
難民受け入れの旗振り役だったドイツのメルケル首相も欠席した。難民政策への反発が強まり、今月4日の州議会選で新興右翼政党に敗北。18日のベルリン市議会選でも苦戦が予想されたため、今回はドイツに残ったとみられる。地元メディアは「世界政治に没頭するより、ドイツで自らの政策を説明するほうが大事だった」と指摘した。

 ■日本、資金は出すが
サミットに出席した安倍晋三首相は「日本は主導的役割を果たす」と演説し、今後3年間で28億ドル(約2800億円)規模の人道支援を行う考えを表明した。
 
ただ、難民受け入れの負担についての言及はなかった。日本の難民受け入れは低調で、国会でも議論になっていない。今年上半期をみると、難民認定申請者は5011人で、認定は4人だけだ。
 
外務省幹部は「難民受け入れだけが貢献ではない。シリア難民は経済的苦境にあり、日本の地道な支援は評価されている」と話す。
 
サミットは「ニューヨーク宣言」を採択して終わった。受け入れや支援について「責任の公平な分担」を明記したが、法的な拘束力はなく、具体的な数値に乏しい内容にとどまった。
 
国際的NGOのアムネスティ・インターナショナルは「役に立たない取り決めだ」と厳しく批判。サミットの開催は、かえって各国の「及び腰」が浮き彫りになる結果となった。(【9月21日 朝日】
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“難民とテロを結びつける風潮が高まったことがある。難民受け入れに反対する政党が各国で伸長している”ことから「及び腰」が目立つ状況で、メルケル首相に代って難民保護の姿勢を強く主張したのがアメリカのオバマ大統領でした。

****難民危機「人間性問われる」=支援4500億円超増額―米大統領****
オバマ米大統領は20日、国連でメルケル・ドイツ首相らと「難民サミット」を開催した。大統領は国際社会を揺るがす難民危機への対応について「私たちの人間性が問われている」と強調し、支援と協力を訴えた。
 
オバマ氏は冒頭、「もしイスラム教徒だからという理由で難民を拒否すれば、米国がイスラム教と対立しているというテロリストのプロパガンダを補強することになる」と指摘。難民の受け入れは「私たちを強くする」と主張した。
 
世界の避難民は推定6500万人以上で、このうち2100万人以上が国外に流出している。
 
難民サミットは、難民へのさらなる人道支援や、難民の子供らが避難先で学校に通えるよう取り組むことなどを申し合わせた共同声明を発表。サミット参加各国は、年内に計36万人以上の難民を受け入れ、人道支援を計45億ドル(約4570億円)増額することを確認した。
 
サミットにはこのほか、安倍晋三首相ら50以上の国・国際機関の代表が参加した。【9月21日 時事】 
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****<難民サミット>援助45億ドル増額表明 米大統領支援訴え****
・・・・オバマ大統領は、シリアで空爆後に救出され救急車の椅子に座る男児(5)の映像を見たニューヨークの6歳児から「僕たちが彼の家族になってあげます」と書かれた手紙を受け取った経験を紹介し、「我々はこの幼い子供が見せた『人間性』から学ぶべきだ」と述べ、難民支援の拡充を訴えた。
 
また、「政治家は権力のはしごを上りつめ、権力を維持し、世論の支持を得ることばかりに時間を費やしている」と指摘。「幼い子を助けようという気持ちだけで十分、支援する理由になるということを忘れがちだ」と述べた。(後略)【9月21日 毎日】
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個人的には「私たちの人間性が問われている」というオバマ大統領に同意します。
ただ、現在の政治状況でこうした発言をするのは勇気のいることです。

私のブログのようなつまらないものでも、難民保護を訴える考えなどを取り上げるときは、「おそらく、大方は“欧州の現実を見ろ!ボケ!”といった類の反応だろうな・・・」と、気が重くなることも。

いまや、欧州の右翼勢力、アメリカのトランプ氏など、外国人、特にイスラム教徒への露骨な嫌悪感を公にすることが“当たり前”の風潮となり、テロへの不安を感じる人々は、かねてからの既成政治への不満と共鳴して、そうした風潮に雪崩を打って突き進んでいます。

オバマ大統領の場合、任期切れを控えての“レガシー”づくり云々や、トランプ候補への批判などもあるのでしょうが、基本的にはこの人の“信条”なのでしょう。

今ではこうした人間性云々を発言するのは、ローマ法王とオバマ大統領ぐらいです。その意味では、政治的功績は別にして、“稀有”な存在とも言えます。

20日の国連総会では絶対的指導者や大衆迎合主義者らを痛烈に批判、「未来が好むのは強い人物だという人もいる。だが私はこの考え方は間違っていると思う」「歴史を振り返れば、力に訴える者らには2つの道筋しか残らないことが分かる。一方は永久弾圧で、これは自国内で衝突をもたらす。もう一方は国外の敵への責任転嫁で、戦争を引き起こしかねない」とも。【9月21日 AFPより】

【「棲み分け」を主張するアイデンティタリアンとしてのオルタナ右翼
一方で、トランプ氏に象徴されるような、もはや“主流”ともなりつつある右翼・保守思想、及び「アイデンティタリアニズム」については以下のようにも。(トランプ氏は、ニューヨークの爆発事件で、クリントン氏に追いついたのではないでしょうか)

****レイシズム2.0としての「アイデンティタリアニズム****
<オルタナ右翼(alt-right)と呼ばれるもう一つの右翼・保守思想が注目を集めているが、その考えを理解する鍵となるのが、ヨーロッパでも広がる「アイデンティタリアニズム」という動きだ>

オルタナ右翼を理解する鍵となる「アイデンティタリアニズム」
しばらく前、「はっきり呼ぼう、alt-right(オルタナ右翼)はまごうことなきレイシストだと」という記事がRolling Stoneのウェブサイトに掲載された。

確かに、オルタナ右翼の言動にはいわゆるレイシスト的要素が色濃く感じられる。その一方で、少なからぬ数のオルタナ右翼が、自分たちはレイシストではないと主張してもいるのである。もちろん単なる詭弁、言い逃れという面もあるのだが、彼らの言い分を少し追ってみたい。

理解する上で鍵となるのは、「アイデンティタリアニズム」という思想ではないかと私は思う。オルタナ右翼の代表的な論客の一人であり、「alt-right」という語を考案したとされるリチャード・B・スペンサーは、自身をアイデンティタリアンだと規定している。(中略)

アイデンティタリアニズムは、ようはアイデンティティ至上主義なのである。ここで言うアイデンティティとは、ある集団が持つ文化や慣習、価値観を意味するようだ。スペンサーのようなアメリカの白人にとっては、それは西洋的な文化や慣習、価値観ということになろう。

アイデンティティの問題が、経済的メリットや外交的配慮等に優先する、というのがアイデンティタリアニズムの基本的な主張ということになる。

アイデンティタリアニズムは、人種を問題にしているわけではない
(狭い意味での)レイシズムは、レイス、すなわち人種に基づく差別だった。例えばアメリカでは、黒人種や黄色人種といった白人種以外の人種を劣等人種と見なして差別したし、ナチス・ドイツはユダヤ人を、ユダヤ人という人種であるがゆえに虐殺した。

しかし、アイデンティタリアニズムは、一義的には人種を問題にしているわけではない。例えばアメリカでなら、黒人やユダヤ人、あるいは日本人が、西洋的な価値観を受け入れて西洋風に暮らせばそれでよい、ということになる(中略)。西洋的価値観といっても別に大した話ではなく、良き隣人として仲良く暮らしてください、という程度の意味だ。

一方で、なかなか移住先に同化しない移民はもちろん、例えば人種的には白人であっても、イスラム国に洗脳されてアメリカに帰国後テロをやるような手合いは、価値観を共有していないので差別の対象となるわけだ。これが、アイデンティタリアンが自分たちはレイシストではないと主張する根拠である。レイスではない、問題はアイデンティティなのだ、と。

とはいっても、世の中には価値観が合わない、アイデンティティが異なる集団が多くある。昔なら、あるいは白人/西洋至上主義の立場に立つなら、そういう集団は劣っているのだから征服して教化しようとでもいう話になったのだろうが、さすがに現代に生きるアイデンティタリアンはそこまでは言えない。

彼らが主張するのは、棲み分け(enclave)である。同じアイデンティティを持つ集団は、わざわざ他と混ざらずに、それぞれが元々住む地域で棲み分ければよいではないか、という話だ。

これは、単純な移民排斥の論理ではない。自分の価値観、例えば宗教的規範に固執したいなら自分の国(あるいは地域)にいろ、勝手にしろ、こっちへ来るな、さもなくば歓迎しますよ、ということなのだ。(中略)

このようなアイデンティタリアニズムが支持を得る背景には、例えばアメリカにおいては移民が増えて、白人とその文化がマイノリティになり、社会が荒廃しつつあるという現状認識がある。(中略)

ヨーロッパで広がるアイデンティタリアニズム
しかし、多文化共生の理想は麗しいものの、実際にはきれいごとばかりでは済まないのもまた事実である。少なくとも、それによって割を食う人々というのは相当数いるのだ。

そこには目をつぶり、市井の人々が抱いた素朴な違和感を(SJW流に)抑圧したのが、こうした人々をオルタナ右翼へ追いやり、その伸張を許した原因の一つだと私は思う。(後略)【9月12日 八田真行氏 Newsweek】
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アメリカは不思議な社会で、こうした「レイシズム2.0」的な考えが広がる一方で、対人関係において相手の人種・性別・宗教などに十分に配慮することを指す「ポリティカルコレクトネス」が(日本的感覚では“過度に”)重視される社会でもあります。

前出八田氏は“オルタナ右翼ことalt-rightに統一されたイデオロギーは存在しない。移民反対など、個々の政策でだいたい方向性が一致しているものはいくつかあるが、むしろ彼らが共有しているのは、ある種の「気分」のようなものだと思う。その気分とはようするに、「自分たちは不当に迫害されている」という思い、悪く言えばある種の被害妄想である。”【9月21日 Newsweek】とも。

そして“政治や文化、メディアにおいてこうした様々な「迫害」の武器となっているのがポリティカル・コレクトネスで、ゆえに彼らはこれを極めて敵視するわけだ。”【同上】とのことで、オバマ大統領が一貫して寛容な姿勢を見せてきた不法移民について「問答無用で国外退去させる」と、「ポリティカルコレクトネス」など完全無視でぶち上げるトランプ候補が一部の(現在では“多くの”)大喝采を浴びることにも。
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