孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  当事者・関係国の様々な動きがあるなかで、アメリカ・ロシアの停戦合意 12日日没から

2016-09-10 22:52:33 | 中東情勢

【9月10日 AFP】

政府軍 アレッポ再包囲
激戦と混乱が続くシリア。

政府軍と反体制派が争う北部主要都市アレッポでは、政府軍が包囲網を完成させた後、反体制派が包囲網を突破するルートを開きましたが、ロシアの空爆支援を受ける政府軍はこれを再度遮断し、再び反体制派支配地域を包囲する形になっています。(反体制派側は包囲されたことを認めていないようですが)

****シリア政権軍、アレッポ東部を再び包囲 反体制派のルート遮断****
シリアの国営メディアによると、バッシャール・アサド政権軍は4日、第2の都市アレッポ南部の一部地区を反体制派から奪還した。反体制派が支配する市東部への唯一のルートが再び遮断された形で、住民の人道危機が再燃する恐れが出ている。
 
国営テレビは軍事筋の話として「国軍は同盟部隊と協力して、アレッポ南部の軍士官学校がある地区を完全に掌握した。現在、この地区に残るテロリストの掃討を進めている」と報じた。
 
同テレビは、今回の進攻によって「アレッポ県の南部から東部およびラムッサへのテロ集団の補給・移動ルートを全て断った」と伝えている。
 
反体制派は先月6日、政権軍による3週間にわたるアレッポ東部の包囲を破ったと発表していたが、政権軍による反攻で包囲が復活することになった。この結果、市内の反体制派支配地区の住民約25万人は再び外部と遮断された。
 
シリア北部にあるアレッポ市は2012年半ば以来、政府が支配する西部と反体制派が支配する東部に分断されてきたが、過去数か月間に政権軍側が徐々に東部への包囲を強めている。【9月5日 AFP】
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政府軍側を支援しているのはロシアだけでなく、イランの革命防衛隊もイラク民兵組織を指導する形で加わっています。このイラク民兵組織はアレッポに1000名の部隊を派遣したと言っていますので、相当な数です。

イランは、イラク民兵だけでなく、アフガニスタン民兵組織も動員しているようです。(本国アフガニスタンの戦闘を差し置いて、なぜシリアに来ているのかは知りませんが)【9月8日 「中東の窓」より】

最近あまり名前が出てきませんが、レバノンのヒズボラも依然としてイラン革命防衛隊とともに参戦していると思われます。

政府軍や反体制派は各地で住民を巻き込んだ包囲網を形成しており、餓死者が出る状況ともなっています。

****シリア国民60万人包囲下に=国連委****
内戦が続くシリアの人権状況に関する国連の独立調査委員会は6日、最新の報告書を発表し、「約60万人の国民が包囲による過酷な状況に苦しんでいる」と指摘した。
 
報告書は、首都ダマスカス郊外のダラヤはアサド政権の部隊に包囲されており、子供や高齢者が餓死していると記述。飲食物の不足により、住民は安全でない水や雑草を口にせざるを得ない状態にあると指摘している。【9月7日 時事】
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この“60万人”に、アレッポの25万人が含まれているのかどうかは知りません。

話が横道にそれてしまいますが、アメリカ大統領選挙に民主・共和党以外の第三極候補として名乗りをあげている「リバタリアン党」のゲーリー・ジョンソン氏が、ニュース番組で「もし大統領に選出されたら、アレッポをどうするか」と司会者に訊かれ、「アレッポって何?」と発言。呆れた司会者との間で気まずい沈黙が・・・

放送後に「ボーっとしていて“アレッポ”が何かの略称かと思った」との釈明コメントを出しましたが、驚くべき無知ぶりを晒してしまったと話題にもなっています。

2008年選挙で共和党副大統領候補として出馬したサラ・ペイリン氏も外交に関する無知をさらけ出していましたが、アメリカ国民の(日本も含めた)国外に関する関心の低さを象徴するものでもあります。トランプ氏が外交・安全保障に関してどんな暴言を行っても、多くのアメリカ国民にとっては大した問題ではないのでしょう。

閑話休題
そのアレッポでは、政府軍によると思われる塩素ガス弾も投下され、多くの住民被害を出しています。
また、アレッポ以外でも政府軍及びロシア軍がイドリブ、ダマス近郊、ダラア等を空爆するなど、各地で戦闘が激化しています。

後述するようにアメリカ・ロシアの停戦協議が進むなかで、停戦前の“駆け込み”を狙ったもののようにも思えます。

トルコの北部侵攻 ロシアは黙認?】
一方、北部ではトルコがISを攻撃するという名目で、クルド人勢力を牽制する「ユーフラティスの盾」作戦を進めていますが、今後のクルド人勢力との衝突も懸念されています。

****<トルコ>国境沿い、IS拠点を制圧 シリア反体制派と連携****
トルコ軍とシリア反体制派は4日、シリア北部アレッポ県のトルコ国境沿いに残っていた過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点を制圧した。

親トルコ勢力が同県のアザズ−ジャラブルス間の東西約100キロにわたる国境地帯を支配下に置いたことで、国境の安定化を目指すトルコの軍事介入は短期間で一定の成果を上げた。(中略)

ISはトルコとの国境地帯の拠点を全て失った。外国人戦闘員の招集や密貿易、物資補給が難しくなり、ISの弱体化が一層進む可能性がある。
 
一方、少数民族クルド人勢力はトルコの介入に猛反発しており、トルコ軍のシリア駐留が続けば大規模な衝突に発展する恐れもある。
 
焦点になりそうなのが、ジャラブルス南方のマンビジュだ。クルド人民兵組織「人民防衛隊」(YPG)と地元アラブ人の混成部隊である「シリア民主軍」が8月上旬にISから奪還した。
 
だがYPGを敵視するトルコは、マンビジュを含むユーフラテス川以西から撤退するよう要求。YPGはその後「地元のアラブ人らで作る治安機構に統治権限を移譲して撤退した」と発表したが、トルコ軍と連携する反体制派は「マンビジュはYPGの影響下にある」とみて、攻撃も視野に入れている。
 
米国は対IS戦でトルコ、YPGとそれぞれ連携しており、双方に自制を求めているが、YPGはトルコ側がマンビジュを攻撃すれば反撃する構えだ。【9月5日 毎日】
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トルコ・エルドアン大統領は、ロシア軍機撃墜事件などで対立していたロシア・プーチン大統領との関係を、撃墜事件について謝罪する形で急速に改善させています。

****ロシア大統領、G20外交スタート=トルコのシリア侵攻、黙認か****
ロシアのプーチン大統領は3日夜、東方経済フォーラムが閉幕したウラジオストクから中国・杭州に入った。プーチン氏は杭州でトルコのエルドアン大統領と会談し、20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた一連の首脳外交をスタートさせた。
 
インタファクス通信によると、プーチン氏は会談で、7月のクーデター未遂を経て「トルコ内政が正常化しつつあるのは好ましい」と伝達。「トルコはテロと戦っている」と述べ、クーデター未遂を「テロ組織の仕業」と位置付けるエルドアン氏の立場を支持する姿勢を示した。
 
トルコによるシリア北部侵攻については、強く批判しなかった。シリアのアサド政権を支援するロシアとして、過激派組織「イスラム国」(IS)を標的にした作戦にとどまるならば、黙認するもようだ。
 
プーチン、エルドアン両氏は8月9日にロシア・サンクトペテルブルクで会談したばかり。両首脳はこの際、昨年11月のトルコによるロシア軍機撃墜事件を受け悪化していた関係の正常化を確認していた。

ロシアはその後、トルコ行きのチャーター便運航禁止の制裁を解除しており、エルドアン氏は3日の会談で、プーチン氏に謝意を伝えた。【9月4日 時事】 
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プーチン大統領は“強く批判しなかった”とのことですが、“如何なる外国のシリア内での作戦も、シリア政府の要請に応じるか、安保理決議に基づくかでなければならない”というのがロシアの公式的な立場であり、また実際、ロシアはそのようにトルコを批判し、トルコ副首相が反論するという議論も行われています。

ロシアがどの程度“黙認”するつもりなのかは、よくわかりません。

また、反体制派を支援し、アサド政権を批判してきたトルコが“アサド容認”に傾いているという話もあります。
ロシアとの関係改善についても、“クルドに対するロシアの支援の縮小とISIS打倒のための両国間の協力の見返りに、トルコがアサドの即時退陣の要求を和らげることが協力の内容となるかも知れない。”【9月5日 WEDGE】とも。

ただ、これも今後のシリア北部での軍事行動の推移によっては、再度反アサドの姿勢を強める可能性もあります。

反体制派組織「高等交渉委員会」の和平案
一方、影が薄い“穏健な”反体制派はアサド政権との和平案を公表しています。

****<シリア>反体制派が和平案公表****
シリア内戦を巡り国連が仲介するアサド政権との和平協議に臨む反体制派組織「高等交渉委員会」は7日、政権移行開始から6カ月以内に暫定統治機構に政権を移譲することを含む和平案を公表した。ロシアや米国がアサド政権の存続を許容する案をまとめることを警戒する反体制派が独自案でけん制した形だ。
 
和平案では、まず6カ月間交渉し暫定統治で合意を目指す。一時停戦や人道支援受け入れ拡充、避難民の帰還も進める。次いで1年半の暫定統治期間に、アサド大統領らは退任し、暫定統治機構に政権を移譲。新憲法策定や各種選挙実施の準備を進める。最後に大統領、国会、地方議会の選挙を実施するとしている。アサド氏の刑事訴追には言及せず、一定の譲歩も示した。
 
和平協議は今年1月に約2年ぶりに再開されたが、4月から中断中だ。反体制派を支援するトルコが8月にシリア北部へ地上進攻するなど、対立構図はさらに複雑化している。【9月8日 毎日】
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イギリスのボリス・ジョンソン外務大臣は、「このヴィジョンを実施することが可能だという点において、まだチャンスは残されている」と発言しています。

反体制派の後ろ盾となっているのがサウジアラビアですが、サウジアラビアのジュベイル外相はBBCのインタビューで、今回の新たな提案はアサド政権と政権を支持する国に対する試金石になると述べていますが、楽観的な見方は示していません。

インタビューでは、「これまでも似たような提案を行ってきているが、状況について何が変わったのか?」「戦争を行っているのはアサド政権だけではなく、サウジなども反体制派に武器等の支援をしているではないか」など、厳しい質問も出ています。

ジュベイル外相は“民主主義”とか“穏健派”といった言葉を使用してはいますが、サウジアラビアなどが支援する反体制派は旧ヌスラ戦線などと共闘しており、そうした言葉の対象となるのかどうか疑問でもあります。【9月8日 BBC http://www.bbc.com/japanese/video-37293806

サウジアラビアのジュベイル外相は、同じく反体制派を支援するトルコを7日に訪問し、サウジ・トルコのすり合わせが行われるとも報じられていました。結果については知りません。

12日の日没からシリア全土で停戦開始
そんなこんなのなかで、周知のようにアメリカとロシアの停戦協議がまとまったようです。

****シリア情勢】米露、一時停戦で合意 12日から、軍事連携も視野****
ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相は10日未明、スイス・ジュネーブでシリア内戦をめぐる協議後に記者会見し、反体制派武装勢力とアサド政権が12日から停戦に入る計画に合意したと発表した。

停戦が1週間保たれれば、米露は過激派掃討で連携を始めるとしたが、停戦が維持されるかは予断できない。
 
発表によると、停戦は12日の日没からシリア全土で開始。状況が悪化する北部アレッポ周辺では非武装地域を設け、人道支援物資を搬送する。ケリー氏は「実行されれば転換点になる可能性がある」と強調。和平協議再開の期待もかかる。
 
シリア内戦では2月にも米露主導で停戦が実現。だが、反体制派には国際テロ組織アルカーイダに近いヌスラ戦線(「シリア征服戦線」と改称)が混じり、政権側はこれを標的とする名目で攻撃。反体制派が反発し、停戦は事実上崩壊して和平協議も頓挫した。
 
今回の合意では露側がアサド政権に攻撃を控えさせる一方、米側は反体制派にヌスラ戦線と一線を画すよう説得することが必要。そのため、ラブロフ氏は合意履行について「関係当事者が多く、100%の保証はできない」と語った。
 
軍事連携で米露はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」やヌスラ戦線を標的とする空爆のための情報共有などを想定するが、米国には露側が情勢を悪化させているとして協力への警戒が強い。国防総省報道官は合意後、「協力の可能性の前に約束が完全に満たされねばならない」と慎重に見極める姿勢を示した。【9月10日 産経】
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“停戦合意”と言いつつ、当事者のシリア政府も反体制派も直接には関与していないのが奇妙と言えば奇妙ですが、これがシリアの現実でしょう。

国際テロ組織アルカイダに近いヌスラ戦線(「シリア征服戦線」と改称)と混然一体となった反体制派の線引きをどうするのか・・・というところで揉めていましたが、アメリカが“反体制派にヌスラ戦線と一線を画すよう説得する”ということでしょうか。

そこがうまく線引きできるかどうかが今後の焦点です。

****アサド政権の出方焦点=シリア停戦合意、形骸化の恐れも****
泥沼化しているシリア内戦で、反体制派を支援する米国と、アサド政権を後押しするロシアが10日、停戦入りの計画で合意した。情勢改善への期待が出てきたが、停戦が維持できるかは、軍事力で優位に立つアサド政権が攻撃を控えるかが焦点だ。
 
内戦をめぐっては、今年2月に発効した前回の停戦がなし崩し的に崩壊するなど、情勢収拾の試みは繰り返し頓挫してきた。今回の合意は前回同様、過激派組織「イスラム国」(IS)や反体制派と協力関係にある過激派組織「シリア征服戦線(旧ヌスラ戦線)」は対象外となっている。
 
アサド政権はこれまで、同戦線とほかの反体制派武装組織を「テロリスト」と同一視して軍事作戦の標的としてきた経緯がある。今回の停戦入り後も、同様の論理で反体制派への攻撃が続く可能性があり、再び形骸化する恐れがあるのが現状だ。【9月10日 時事】
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“ラブロフ外相は、米露は空爆対象地域についても合意しており「これらの地域では米露の空軍のみが活動することになる」と述べた。ケリー国務長官は、この計画はこれまでに29万人以上が死亡したシリア内戦の終結に向けた協議につながると信じていると述べた。”【9月10日 AFP】ということで、うまく機能すれば、政府軍による塩素ガス弾たたる爆弾の使用はなくなるということでしょうか。

ロシアは影響力を誇示することができ満足でしょう。

****<シリア停戦合意>米露、人道的な対応優先 死者50万人超*****
・・・・だがシリア最大の都市北部アレッポで激戦が続き、7月以後、反政府軍側の20万人以上の市民が孤立し、食料や水、電気の供給が途絶えた。この40日間に700人の市民が死亡し、このうち160人が子供という深刻な状況となった。

国連のオブライエン人道担当事務次長が「人道的な破滅に直面している」と一刻も早い停戦を訴えたことで米露両国は動かざるを得なかった。
 
ロシアは、アサド政権の行動制限に結びつくシリア政府軍による空爆停止を受け入れたが、シリアで対テロ作戦を主導する米国と初めての合意は「大きな外交成果」と捉えている。

一方、国連総会に合わせて20日に「難民サミット」を主催する米国は、合意を急いだ可能性がある。【9月10日 毎日】
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すべては不透明ですが、何はともあれ停戦が合意されたことは喜ぶべきことでしょう。

とにかくシリアは、ISの存在がかすむほど登場する役者が多すぎ、各自がそれぞれの思惑で行動していますので、複雑な展開となっています。今回の停戦合意で米ロの行動が統一されれば、和平に向けて一定の道筋が開ける可能性もあります。
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