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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト 深刻な外貨不足からIMF支援を要請するも、今後の改革の成否は不透明

2016-09-09 22:41:25 | 北アフリカ

(観光客が消えたピラミッド 【5月24日 Mail Online】)

外貨準備はほぼ半減 IMF支援を要請
エジプトでは軍部出身のシシ大統領による強権的な統治にもかかわらずイスラム過激派のテロはおさまらず、ロシア民間機墜落事件などのテロの不安から観光業(GDP・雇用の約12%を占めています)が打撃を受けていることもあって経済状態が極めて悪化していることなどは、7月11日ブログ“エジプト 強権支配の一方で、治安も経済も回復せず 高まる不満や怒り アメリカは軍事支援”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160711でも取り上げました。

原油価格下落によって湾岸諸国からの支援もままならない状況で、8月には結局、IMFからの支援を仰ぐところへ追い込まれています。

****エジプトに120億ドル支援で合意 IMF****
国際通貨基金(IMF)は11日、エジプトを支援するため3年間で120億ドル(約1兆2100億円)を支援することで同国政府と事務レベル協議で合意したと発表した。IMFの理事会で正式に決定される。エジプト政府は支援を受けて財政、行政、金融の改革を図り経済回復を目指す。
 
エジプトは2011年の「アラブの春」以降、政変やテロの影響で主要産業の観光業が打撃を受け外国投資も低調。11年以前に約350億ドルあった外貨準備はほぼ半減した。
 
政府はIMF支援を受ける一方で、付加価値税の導入などによる財政改革に取り組む。一部で実施している燃料補助金の削減も進めるが、消費者から反発も予想される。規制緩和による投資環境の改善も図る。
 
同国のムルシ政権は12年、48億ドルの融資をIMFに依頼したが、翌年、軍の介入で政権が倒れた。その後、政府は、湾岸諸国による支援や財政健全化の取り組みから、IMF融資は必要ないとしていた。
 
だが、原油価格の下落で湾岸諸国からの支援に頼り続けることが難しくなっていることに加え、昨秋起きた過激派組織「イスラム国」(IS)によるとみられる航空機墜落などの影響で、回復傾向にあった外国人観光客が再び激減した。
 
政府は対IMFの方針を変更し支援を要請。7月末にIMF代表団がエジプト入りして政府、中央銀行と支援条件などを協議していた。【8月12日 朝日】
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IMF支援の条件には補助金削減など国民の痛みを伴う改革が含まれており、国内の不安定化要因にもなる「劇薬」ですが、IMFからの120億ドルでもまだ必要額には足りないようです。

また、エジプト社会・政治が「劇薬」の痛みに耐えられるか・・・という問題もあります。シシ大統領も経済再建に必要な改革の実施が難しいことを認めています。

痛みを伴う改革で、“エジプトの社会経済状況は改善する前に悪化する”危険性も
そうしたエジプトの現状を象徴しているのが、外貨不足から外貨購入が制約されているため地下で横行するドルの闇市です。

****エジプト、外貨不足で闇市場が台頭****
エジプトの首都カイロ郊外の労働者階級が住む地域に小さな店を構え、スーツケースやハンドバッグを売るカマルさん(45)。電話で交換レートを交渉し、ビニール袋に入った米ドルを届ける仕事もしている。
 
エジプトでは交換可能な通貨の供給源となっていた投資と観光の減退を受け、闇市場が繁栄しつつある。カマルさんもそこに携わる1人だ。当局は取り締まりに乗り出しているものの、エジプトの闇市場は今や、薬や麦などの生活必需品を買うドルやユーロの入手に不可欠となっている。
 
エジプト政府は現金供給を制限しているため、国内の中小事業主は外貨ニーズを満たすのに闇市場を頼っている。
 
生産高で同国最大の鉄鋼会社エズ・スチールの投資家向け広報担当責任者、カメル・ガラル氏によると、外貨の多くを「並行市場」で手に入れなければならないという。
 
「実際の支払いが、とても大変だ」とガラル氏は話す。
北アフリカの政治的安定と経済成長の要であるエジプトは苦しい状況に陥っている。ムーディーズによると、外国投資は2005~10年の水準を下回り、観光業は2011年の「アラブの春」以降、政情不安で大きく落ち込んでいる。また、ここ数カ月のテロ事件が消費ムードに一段と水を差している。
 
「アラブの春」以降、外貨準備高が半減し、7月末時点で約155億ドル(約1兆5800億円)となっている。政府は今月、国際通貨基金(IMF)に3年で120億ドルの融資を要請した。

さらなる資金の調達に向け、世界銀行やアフリカ開発銀行などの他の機関とも協議している。当局の推計によると、エジプトは向こう3年で210億ドルの資金不足に陥る見通しだ。
 
さらに今月、アラブ首長国連邦(UAE)の政府系ファンド・アブダビ開発基金が、エジプトの財政と通貨を下支えするため同国の中央銀行に10億ドルを預金したと明らかにした。
 
世銀によると、エジプトの今年の国内総生産(GDP)成長率は約4%になる見通し。このペースでは国を支えるには不十分だ。エジプトの統計局によると、先月のインフレ率は14%に達し、失業率は2桁台となっている。IMFの4月の報告書によると、今年のインフレ率は9.6%と、昨年の11%から下がる見通しだ。
 
統計局の29日の発表によると、7月の観光客数は前年同月比42%減少した。複数の公式統計によると、昨年10月にエジプト東部シナイ半島で爆弾テロによってロシア民間機が墜落して以来、観光客数は50%近く減っている。
 
緊急的な資金注入もエジプトポンドの対ドルでの下落をほとんど食い止められていない。
 
ドルの闇市場では先週、1ドル=約12.3ポンドの買値が提示されていた。これは公式レートの1ドル=8.88ポンドに40%近く上乗せした水準だ。政府は3月にポンドを切り下げて以来、公式レートを固定している。一方、売値は1ドル=約12.7ポンドとなっていた。

ポンドはおおむね下落が続いている。多くのエコノミストやエジプト市民は依然、政府による財政目標の達成や厳しい改革の断行に懐疑的だからだ。
 
政敵を弾圧し、テロ攻撃の回避に努めるエジプトのシシ大統領は先日、経済再建に必要な改革の実施が難しいことを認めた。
 
大統領は国営紙が今月行ったインタビューで「想像を超える難しさだ。改革に取り組む責任は私だけではなく、エジプト国民全員にある」とし、「国家の未来が危機にさらされている」と述べた。
 
エジプト当局は、ポンドへの圧力を緩和するため、ここ数カ月に両替所を二十数カ所閉鎖した。また、外為規制に違反した場合の実刑や罰金の引き上げも承認した。それでも、闇市場ではドルがかなり高い値段で買い求められている。
 
スーツケースを売るカマルさんは「麻薬取引のようなものだ。リスクは大きいが、いいお金になる」と話す。
 
エジプト政府は向こう3年で総額210億ドルの調達を目指しているが、フィッチ・レーティングスのアナリストは今月、エジプトが必要な資金調達額は年間100億ドル近くになる可能性があるとの見方を示した。
 
また、貧困・中流層が大半を占める9000万人の国民が抵抗するとみられるさまざまな措置も講じる必要がある。
 
エジプトはIMFと予備的な融資契約を交わした際、公的債務の削減や付加価値税(VAT)の導入、エネルギー補助金の削減、変動為替相場制への移行にも同意している。
 
スタンダートチャータード銀行の中東・北アフリカ・パキスタン担当シニアエコノミスト、ビラル・カーン氏は「これらの措置は改革の政治的コストを著しく引き上げるだろう」とし、「したがって、エジプトの社会経済状況は改善する前に悪化するとみている」と述べた。
 
ポンド下落や補助金削減、税制改革はインフレや金利上昇の可能性をもたらすリスクがある。そうなれば、エジプトの借り入れコストが増加し、ただでさえ経済再建に苦しむエジプトにとって一段と負担が重くなる。
 
カイロの緑豊かなマーディ地区にある住居ビルの管理人で、妻と2人の子を持つハニー・アフメッドさんは「今後、どうやってやりくりすればいいのか想像さえできない。何もかもが既に高すぎる」と不安を口にする。
 
こうした困難な状況から利益を得ている一握りの人たちの1人がカマルさんだ。かばん売り兼闇市場ディーラーのカマルさんは、可能な限り外貨不足に乗じる構えだ。
「結局、彼らは私を必要としていて、私も彼らを必要としている」【8月31日 WSJ】
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【「シシ大統領は、ムバラク以上に圧制的かつモルシ並みに無能だ」】
こうした窮状を招いたシシ大統領に対しては、「ムバラク以上に圧制的かつモルシ並みに無能だ」との厳しい評価があります。

****エジプトの不幸****
シシ大統領の抑圧と無能がエジプトを駄目にしつつあり、新たな反乱を生む土壌を作っている、と8月6日付の英エコノミスト誌が警告しています。要旨は、次の通りです。
 
アラブ世界で鬱屈した若者が増えている。若者人口が多いのは好景気に繋がるものだが、アラブの専制支配者たちは彼らを脅威と見ている。

親世代より教育があり、SNSで世界とつながり、政治的・宗教的権威に懐疑的な彼らは、アラブの春では最前線に立ってチュニジア、エジプト、リビア、イエメンの支配者を打倒し、多くの国の国王や大統領を震撼させた。
 
しかし、今やこれらの国は、チュニジアを除き、内戦もしくは革命の後退に陥り、若者の状況は悪化しつつある。職を見つけるのは難しく、主たる選択肢は、貧困、移民、あるいはジハードだ。こうした状況が新たな暴発を生む土壌を作りつつあるが、中でも懸念されるのがエジプトだ。
 
エジプトは地域の雄であり、エジプトの成否が中東のあり方を左右する。しかし、シシ大統領は、ムバラク以上に圧制的かつモルシ並みに無能だ。

政権は湾岸諸国からの資金注入のおかげで命脈を保っている。莫大な石油収入にも拘らず、大きな財政赤字と経常赤字を抱え、そのため、ナショナリストを気取るシシもIMFへの資金救済要請を余儀なくされた。
 
若者の失業率は40%を超えるが、政府は既に公務員で膨れ上がり、麻痺した国家統制経済の中にあって民間部門にも大勢の若者を吸収する能力はない。

勿論、エジプトの経済的困難は、政権の制御外の石油価格の低下、戦争とテロによる観光客の激減、アラブ社会主義の残滓や軍のビジネス利権等にも原因があるが、シシが事態を一層悪くしている。

彼はインフレや暴動の誘発を避けようと、エジプト・ポンド防衛に固執したが、資本規制はドルの闇市場の出現を防げず、結局インフレを煽り、工業を駄目にし、投資家を怖がらせてしまった。
 
また、スエズ運河を擁するエジプトは、商業的に非常に有利なはずだが、拡張したスエズ運河はかえって収入が減り、砂漠にドバイ級の都市を創る計画も挫折した。

エジプトは戦略的に重要な国なので、シシとは我慢して付き合うしかない。しかし、西側は現実主義、説得、そして圧力で彼に対応すべきだろう。F-16戦闘機やミストラル型ヘリ空母など、不用で高額の兵器の売却は止め、経済援助には、変動相場制の導入、公務員の削減、補助金の段階的廃止等の厳しい条件をつけるべきだ。
 
ただ、これらは徐々に行う必要がある。ショック療法を行うにはエジプトも中東も脆弱で不安定すぎる。もっとも、エジプトの官僚組織は簡単には改革を実行できないだろう。

それでも改革への明確な方向性を示せば、エジプト経済への信頼回復につながる。湾岸諸国も改革を促し、シシが抵抗するなら援助を控えるべきだ。
 
今のところ、新たな反乱やクーデターの噂はないが、エジプトの人口動態的、経済的、社会的圧力は容赦なく高まりつつある。エジプトの政治体制は再開放される必要があり、それには先ずシシが2018年の大統領選への不出馬を表明すべきだ。(後略)【9月9日 WEDGE】
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よく経済の好調さを政策の成果として誇示する政権がありますが、その多くは政策の効果というよりは、たまたま経済の好調な波にめぐり合わせたに過ぎないだけです。

それと同じで、現在のエジプトの経済的窮状がシシ大統領の無能のせいだと言うのも、やや厳しすぎるかもしれません。エジプト経済のことについては何も知りませんので、軽々に判断はできませんが。

経済的苦境はシシ政権だけの話ではなく、「アラブの春」後のモルシ大統領の頃からです。
モルシ政権時代にも、タバコやアルコール、携帯電話などに対する増税を発表したものの、国民の反発から増税策はすぐに撤回されたようです。

またモルシ政権当時の状況として、“エジプト政府の財政を圧迫する要因は他にもあり、たとえば政府は大量の補助金を投入して、国民の生活必需品の値段を安く押さえるという補助金政策をとっています。たとえば一番安いパンは1枚25ピアストル(3円程度)ですし、一番安いガソリン(オクタン80)は1ℓ90ピアストル(11円程度)です。エジプトは殆ど石油を産出しないのに、(一説によると)世界で2番目にガソリン価格が安いのです。この激安価格の秘密が、補助金制度にあるのです。”【飯山陽氏 「どこまでもエジプト」http://nouranoiitaihoudai.blog.fc2.com/blog-entry-53.html】とのことですが、エジプトに限らず、こうした国民生活に直結した補助金政策を改めるのは並大抵のことではありません。

国民の理解が必要とされる時期にスキャンダル
ただ、状況を改善するためにはどうしても踏み込まないといけない政策があります。そのことを国民に理解してもらえるかどうかは政治への信頼にかかっています。

そうした国民からの信頼を得られないという点においては、やはり政治の責任は問われるでしょう。
特に、下記のような腐敗・汚職を生む政治土壌を温存させていては、痛みを伴う政策の実行はできません。

****<エジプト>小麦補助金不正60億円、供給大臣が引責辞任*****
エジプトで今月、農業省職員や小麦農家が共謀し、国内産小麦に対する補助金5億3000万エジプトポンド(約60億円)を詐取していたことが検察当局の捜査で判明し、補助金行政を担当する閣僚が引責辞任に追い込まれた。

経済が低迷する中、増税や補助金削減で国民に負担を強いているシシ政権にとっては、支持離れにつながりかねないスキャンダルとなっている。
 
政府系紙アルアハラムやロイター通信によると、エジプトでは例年300万〜350万トンの小麦が収穫されるが、今年は約500万トンが「収穫された」として補助金支給対象になった。

収穫期が終わった今年6月ごろ、業界関係者から収穫量の水増し報告による補助金の不正受給を疑う声が出て、弁護士らが検察当局に告発した。
 
検察当局の捜査で農業省職員や小麦農家が共謀し、約22万トン分について補助金を不正受給していたことが判明。疑惑を独自に調査している議会では、実際の収穫量は300万トン前後で、約200万トン分について補助金が不正受給された可能性も指摘されているという。
 
また、騒動の渦中で供給・国内通商相のハリド・ハナフィ氏が約2年間、カイロの高級ホテルを定宿にしていたことが発覚。ハナフィ氏は「私費で料金を支払っている」と説明し、補助金不正受給への関与も確認されなかったが、議会で責任追及の声が高まり、ハナフィ氏は25日に辞任した。
 
エジプトは世界最大の小麦輸入国で、過少報告分を追加で輸入する必要が出たことで新たな財政負担を抱え込むことになった。
 
シシ大統領は2014年6月に就任し、2年をめどに経済や治安を立て直すと説明していた。だが就任後2年が経過しても、治安当局などへのテロは頻発し、主要産業の観光業の低迷などを背景に歳入も伸び悩んでいる。今回のスキャンダルは政府が追加の増税を検討する中で浮上した。【8月29日 毎日】
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“実際の収穫量は300万トン前後で、約200万トン分について補助金が不正受給された可能性”・・・・とんでもない話です。しかも、国民に補助金政策の段階的廃止を理解してもらう必要があるときに。

こうした不正が農業省職員や小麦農家だけのレベルで行えるとも思えません。
シシ大統領個人とは言いませんが、不正な資金の多くが政権内部に吸い込まれたのではないでしょうか。

このような不正を許していたという一点においてだけでも“無能”呼ばわりされるのもやむを得ないでしょう。

ただ、“エジプトは中東の大国であり、エジプトの不安定化は、中東の不安定化に一層の拍車をかけます”【9月9日 WEDGE】ということで、国際社会としてもエジプトを突き放す訳にもいきません。
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