孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  イラン敵視路線は変わらず イスラエルとも共闘の動き 「中東の外交革命」?

2016-09-04 22:33:06 | 中東情勢

(ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(右から2番目、多分) 迎賓館で、カイロ大学卒業後はアラビア語の通訳として活動していたこともある小池東京都知事と。アラビア語で盛り上がったそうです。【https://twitter.com/ecoyuri】)

【「脱・石油依存」を目指すムハンマド副皇太子
アメリカの同盟国として重要な位置にあるサウジアラビアですが、これまでもしばしばブログで取り上げてきたように、国内における女性の地位や人権意識に関しては、かなり疑問も感じる国です。

8月14日ブログ“イエメン 国連を脅して「ブラックリスト」から外れたサウジアラビアの空爆で再び子供の犠牲者”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160814
2015年12月14日ブログ“サウジアラビア 初の女性参政権行使 20人ほどが当選 しかし、未だ少ない女性の有権者登録”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151214

聖地メッカを守護するイスラム教スンニ派の盟主として、シーア派イランと激しく対立していますが、厳しい戒律を重視する宗教的傾向が、現在世界情勢の最大の問題となっているイスラム原理主義・過激派を生み出す思想的、資金的土壌となってきた面も見過ごすことはできません。

言わずと知れた石油大国サウジアラビアですが、長引く原油価格低迷や、石油に依存した放漫財政、イエメンへの軍事介入などで、昨今は財政的にも苦しく、国内政治のキーパーソンであるムハンマド副皇太子は「原油立国」から「投資立国」への大転換をはかろうとしている・・・という話も、イランとの核合意を進めるアメリカとの間で深まる溝と併せて、5月に取り上げました。

5月28日ブログ“サウジアラビア 原油価格低迷で財政難 脱石油依存の計画も 米オバマ政権との「冷たい関係」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160528

そのムハンマド副皇太子がG20出席と併せて来日しました。皇太子は、“新婚旅行で日本を訪ね、日本のアニメに詳しい親日家の顔も持つ”【8月24日 朝日】とも。アニメや漫画などのポップカルチャーはすっかり日本を代表する文化となったようです。

****サウジのキーマンが日中歴訪へ サルマン副皇太子、「脱・石油依存」へ改革アピール*****
世界有数の産油国サウジアラビアで経済改革路線を主導するムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(30)が31日から訪日する。

「脱・石油依存」や財政の合理化に向けた取り組みをアピールし、投資や技術面で連携強化を図るのが狙いだ。日本訪問後、9月4日から中国・杭州で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議にも参加し、大国としての存在感も誇示したい考えだ。
 
「石油依存症が多くの分野で成長を妨げてきた」。ムハンマド副皇太子は今年4月、サウジ資本の衛星テレビ局アルアラビーヤのインタビューでこう語り、潤沢な石油収入にあぐらをかいてきた体質を変えることが、経済成長に向けて不可欠だとの考えを示した。
 
4月には自らが策定を主導した成長戦略プランを発表。その中では、国営石油会社サウジアラムコ関連株を一部公開して透明性を高めることや、2030年までに非石油分野の政府歳入を現在の約6倍の約2660億ドル(約27兆2000億円)に増大させ、経済規模で世界15位以内に入ることなどが盛り込まれている。
 
野望実現のカギを握るのが、海外からの投資や技術協力だ。サウジは1月、同国を訪問した中国の習近平国家主席との間で、エネルギー分野などで広範な協力を進めることで合意。日本に対しても金融や技術面での期待は大きい。
 
サルマン国王の実子である副皇太子は、国防相のほか、経済政策の最高機関である経済開発評議会の議長や王宮府長官を兼務し、皇太子をしのぐ権勢を持つとされる。「国内には副皇太子による変革に期待を寄せる若者も多い」(サウジ駐在商社員)という。
 
一方、サウジでは豊富な石油収入を背景とした手厚い補助金政策が国民の労働意欲を阻害しているとも指摘される。
 
成長戦略プランには補助金の見直しなども盛り込まれているが、副皇太子自身、「すぐに成長が実現できるとは考えていない」と述べており、改革の成果が出始めるまでには時間もかかりそうだ。【8月29日 産経】
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副皇太子の目指す「脱・石油依存」の資金面のカギとなるのが国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)ですが、アラムコの企業価値を高めIPOを成功させるために、ここ2年ほどの原油安を容認する姿勢(主に、アメリカのシェールオイル潰しのためと言われています)から、増産凍結による価格引き上げに転じるのではないか・・・とも見られています。

【「(イランが)革命をあきらめなければ関係改善はできない」】
国内経済政策、原油価格への対応では変化も窺えるサウジアラビアですが、“イラン憎し”を基軸とした外交路線は相変わらずです。

****<サウジ外相>イランとの関係改善の意思なし 東京で講演****
サウジアラビアのジュベイル外相が1日、東京都内で講演し、今年1月に断交したイランと当面は関係改善する意思がないことを明らかにした。

また、内戦状態のイエメンで、イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジが同じイスラム教スンニ派のハディ政権を支援するため、サウジ主導の連合軍による軍事介入を継続する意向を示した。
 
ジュベイル氏は講演で「(イスラム教シーア派の盟主)イランがシーア派による革命を他国で起こそうとしており、中東が不安定化している」と主張。「革命をあきらめなければ関係改善はできない」と述べた。
 
イエメン情勢では、ハディ政権と敵対するシーア派武装組織フーシを「少数派で正当性がなく、国を統治できない」と批判。「ハディ政権を守るため支援を続ける」と語った。(後略)【9月1日 毎日】
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シリア内戦については、“「殺りくを続け、正当性を失った」とアサド政権を批判し、アサド大統領追放を実現すべきだと強調。さらにイランの精鋭部隊、革命防衛隊がアサド政権側に立って内戦に加わっている現状を踏まえ、イランは「テロリスト」を使い政権支援を続けていると批判した”【9月1日 時事】

【「中東の外交革命」?】
その“憎きイラン”に対抗するためには、宿敵イスラエルとも手を結ぶ・・・ということのようです。
ここでもムハンマド副皇太子が実権を握ったことが影響しているようです。

****イスラエルとサウジに「和解」の機運****
「対イラン共闘」を目指す外交革命へ
イスラエルを敵視してきたサウジアラビアが、ユダヤ人国家との和解に乗り出している。
 
今年七月から、サウジ軍元高官のイスラエル訪問、リヤドとテルアビブを結ぶ直行便の検討など、両国関係の劇的改善を印象付ける事態が相次ぎ、中東外交筋の間では「中東の外交革命が起きるのか」との臆測が高まっている。
 
米国にあるシンクタンク「ワシントン近東政策研究所」のサイモン・ヘンダーソン上級研究員は一連の展開を、「きわめてまれで予想外なこと」と表現し、両国関係の「大きな前進」と評価した。
 
イスラエルとサウジはアカバ湾をはさんで十キロあまりしか離れていないが、イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアにとって、イスラエルは不倶戴天の敵。世界に大きな衝撃を与えた「石油戦略発動」も、イスラエルへの敵意から生まれたものだ。

「ユダヤ人見直し」の論調
これが今年七月、急転直下の動きを見せた。
サウジ軍退役少将のアンワール・エシュキ氏が七月下旬、複数の研究者や実業家を同行してイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相側近であるドレ(ドア)・ゴールド外務省局長らイスラエル政府の高官と会談した。
 
エシュキ氏はさらに、イスラエル軍放送との会見にも応じて、両国間の懸案であるパレスチナ問題について、「イランはこの問題で利益を得ている国だ。パレスチナ問題が解決すれば、そんなことはできなくなる」と語った。

(中略)サウジの本気度は、今年の夏に突然、同国内のメディアに「ユダヤ人見直し」論調があふれたことからもうかがえる。
「(私たちアラブ諸国は)ユダヤ人の成功から学ぶよりも、ユダヤ人を呪うことに専念してきた」
「今こそユダヤ人憎悪を捨てて、敵意を過去のものにすべき時だ」
「(イスラム教聖典)コーランが、ユダヤ人をサルやブタの子孫としたのは、当時の解釈によるもの(=今は縛られなくてもよい)」
 
サウジ国内で著名なコラムニストたちが、こうした指摘を王家の支配下にある各紙で繰り返すのだから、イスラエル側が「イスラエルに秋波を送っている」(イスラエル主要各紙)と解釈するのは当然だろう。(中略)
 
ゴールド氏はエシュキ氏との会談後、イスラエル国内の講演で、「アラブ側は『パレスチナとの和平なくして、アラブ諸国との和平はない』との姿勢を続けているが、実際にはその逆が正しい」と語った。
 
つまり、アラブ諸国との和解が進めば、パレスチナ側は折れてくる、という論法であり、これはネタニヤフ政権の持論である。それでもサウジにとっては、「対イラン共闘」「核合意反対共闘」のほうが重要というわけだ。
 
変化の背景には、パレスチナ問題に情熱を注いだアブドゥラ前国王が死去して、サウジ外交の担い手が世代交代したこともある。
 
国政の実権を握るのは、サルマン国王の息子であるムハンマド副皇太子。一九八五年生まれの副皇太子は、四次に及んだ中東戦争や「アラブの大義」(イスラエル打倒・パレスチナ解放)とは無縁の世代。新国王下で事実上初の内閣改造では、叔父であるサウド外相の代わりに、二十歳以上若い職業外交官、ジュベイルを起用した。

また、総合情報庁長官を長く務めた安保通のトゥルキ王子は、無役ながら、イスラエルとの接触役として黒子のように動いている。

米政権の底力が問われる
サウジとイスラエルの急接近に、最も敏感に反応したのはイランである。イラン政府の立場を忠実に反映する「プレスTV」などは、「サウジ、イスラエルの野合」「陰謀」といった言葉で、両国の大義なき接近を批判した。(中略)
 
近年の中東外交は、「アラブの春」やシリア内戦を経て複雑怪奇の様相を強めていた。シーア派盟主イラン、スンニ派盟主サウジアラビア、ユダヤ人国家イスラエルという、互いに相いれない三極に加え、イスラム過激派のテロ組織「イスラム国(IS)」、イスラエルと関係を持つクルド人勢力、ムスリム同胞団(トルコ)などが絡み合って、複雑な合従連衡が展開されてきた。
 
その中でイランは、ロシアを中東のプレイヤーとして自陣に呼び戻し、イラクとシリアの政府を事実上の配下に従えて、トルコのエルドアン政権とも関係を修復した。

危機感を持ったサウジが、イスラエルに接近するのは、戦略上の必要性に駆られてのことだ。
 
中東の外交関係者の間では、「和解になれば、中東の歴史的な外交革命」と見られているものの、ワシントンはなお慎重だ。前出のヘンダーソン上級研究員は、「まだ突破口が開けたとは言えない。次が何かを見なければ」と言う。

オバマ政権にとって、イラン核合意は唯一の中東での成果であるだけに、サウジとイスラエルが「核合意をつぶす」だけで一致するなら面白くはない。そうした各国の思惑を克服して、中東混迷打開の糸口に持っていけるか―問われているのは、任期を四カ月余り残す、オバマ政権の底力である。【9月号 「選択」】
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イスラエル・トルコの関係改善にも暗雲
イランに宥和的なオバマ大統領に対し、イランを敵視するイスラエルとサウジアラビアが手を組んだ・・・という構図のようです。

ただ、こうした組み合わせがうまくいくかは、まだ不透明です。

イスラエルは、パレスチナ・ガザ支援船問題以来対立していたトルコ・エルドアン大統領とも関係改善に動きました。

****イスラエル・トルコ、関係正常化へ ガザ拿捕事件で悪化****
政治外交関係が事実上凍結状態にあるイスラエルとトルコが26日、関係を正常化する和解案に合意した。両国メディアが同日報じた。両首相が27日に正式に発表する。中東の軍事大国イスラエルと、地域大国トルコの関係改善は、シリア内戦にも影響を与えるとみられる。
 
両国の関係悪化の発端は、2010年5月に起きたガザ支援船拿捕(だほ)事件。イスラエルの封鎖が続くパレスチナ自治区ガザに支援物資を届けようとしていた6隻の船に対して、イスラエル軍が強行突入し、トルコ人の人権活動家ら9人が死亡した。

トルコはイスラエルに謝罪や賠償、ガザの封鎖解除を求めたが、イスラエル側は反発。それまで比較的良好だった両国の関係は、一気に冷え込んだ。
 
イスラエルの有力紙ハアレツによると、和解案には(1)トルコが事件に関する全ての訴訟を取り下げる(2)イスラエルが遺族への補償基金に2千万ドル(約20億円)を払う(3)互いに召還していた大使を再び任命する――などを盛り込む。ガザの封鎖解除は含まないが、トルコが支援物資をイスラエル経由でガザに運び、病院や発電所を建設することも認める。
 
今回の和解の背景には、トルコが昨年11月、ロシア軍機を撃墜し、ロシアとの関係が悪化した事情がある。トルコは、米国の重要な同盟国であり、エネルギーの安定供給も可能なイスラエルに接近。イスラエルもトルコに天然ガスを輸出したい思惑があり、関係改善へ向けて協議していた。【6月27日 朝日】
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しかし、イスラエル・トルコ両国は再び互いを非難する状況にもなっています。

****ガザめぐり再び非難合戦=和解直後に暗雲―トルコとイスラエル****
関係正常化したばかりのイスラエルとトルコが、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの報復攻撃をめぐって非難合戦を繰り広げ始めた。トルコがイスラエル軍の攻撃を非難すると、イスラエルは猛反発。両国関係の先行きに再び暗雲が垂れ込めている。
 
暗転の始まりは、21日にガザからのロケット弾がイスラエル南部スデロトに着弾したことだった。イスラエル軍は報復として、ガザ北部のイスラム原理主義組織ハマスの拠点に対し空爆や砲撃を加えた。パレスチナ側は、1カ所の攻撃に対し何十カ所も報復攻撃を受け、イスラエル側には人的被害はないが、パレスチナ側には複数の負傷者がいると主張している。
 
トルコ外務省は22日、声明を出し「不均衡な攻撃を強く非難する」とイスラエルに通告した。「イスラエルとの関係を正常化しても、パレスチナ人に対するこのような攻撃に対して黙っているわけではない」と警告している。
 
これに対し、イスラエル外務省は「トルコとの関係を正常化しても、事実無根の非難にまで黙っているわけではない」と言い返した。

7月のトルコのクーデター未遂後、トルコ政府が進めている粛清に当てこすり「トルコは他国の軍事行動を批判する前によく考えた方がいい」と嫌みまで述べ、言葉の応酬は自制が利かなくなってきた。【8月23日 時事】
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従来の固定的な枠組みに縛られずに新しい関係を模索するのは結構なことですが、イスラエル・サウジアラビアにしても、イスラエル・トルコにしても、それぞれの思惑あっての合従連衡であり、軌道に乗るかどうかは不透明です。

そもそも、イスラエル・パレスチナ関係が悪化したとき、サウジアラビアやトルコはどのように対応するのか・・・という基本的な問題もあります。そうした事態にならないよう、両国がイスラエルとパレスチナの関係改善に乗り出すのであれば、まさに「中東の外交革命」ですが。
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