(ミャンマーの首都ネピドーで8月31日、数十年続く民族紛争の終結へ向けた和平会議「21世紀パンロン」が開催された。ヤマアラシのとげに果物、銀貨にビーズといった民族衣装が出そろって同国の多様性を誇示するとともに、壮麗な衣装で会議を後押しした。【9月3日 AFP】)
【「変革」への突破口とも位置づけられる少数民族問題】
アウン・サン・スー・チー国家顧問が主導して「変革」に取り組むミャンマーでは、主要課題のひとつ、少数民族問題の前進を図って和平会議が開催されています。
****スーチー氏、和平実現へ初会議 連邦民主国家へ改憲視野****
ミャンマーの首都ネピドーで31日、内戦状態が続く政府と少数民族武装勢力の和平をめざす「連邦和平会議」が始まった。
アウンサンスーチー国家顧問が実質的に率いる新政権下では初めて。スーチー氏には会議での議論を、軍政下で定められた憲法の改正につなげたい思惑もある。
国内和平はテインセイン前政権下で進められ、約20の武装組織のうち8組織との間で昨年10月、全国規模の停戦協定が実現した。スーチー氏は3月末の新政権発足以来、和平の実現を最優先に掲げ、すべての当事者を集めた会議を早期に開く意向を示していた。
今回はこれに応じる形でカチン独立機構(KIO)やワ州連合軍(UWSA)など、全国停戦に未署名の武装組織を含む過去最多の17組織が軍や政党の代表らとともに参加。国連の潘基文(パンギムン)事務総長も開会式に初めて出席した。
スーチー氏は開会演説で「平和のない地域の人々が期待をもって会議を見守っている」とし、北部を中心に約10万人いる内戦による国内避難民らを念頭に「彼らの苦境を忘れてはならない」と訴えた。
今回は5日間の日程で、各組織や軍の代表らが連邦制や少数民族自治のあり方について考えを示すにとどまる見通しだが、政府関係者によると、今後は6カ月程度ごとに開催し、会議で合意があるごとに国会が必要な法改正などをすることになるという。
こうした枠組みを定めた背景には、軍に国会の4分の1の議席を割り当てるなど強い権限を与える現憲法の改正をめざすスーチー氏の思惑がある。開会式で少数民族の代表は「現憲法は真の連邦制実現には不十分で、改正すべきだ」と訴えた。スーチー氏は、ともに「改憲」を掲げる少数民族勢力との協議の場を使い、改憲に後ろ向きな軍を説得したい意向とみられる。
ただ、実現は容易ではない。軍は武装勢力の全国停戦協定への署名を、会議での実質的な協議入りの前提にする姿勢を崩していないが、軍に不信感を抱く協定未署名の武装組織の多くは態度を明確にしていない。
スーチー氏は開会式で「全国停戦が和平だけでなく、連邦民主制実現の初めの一歩だ」と述べ、軍の主張に配慮する姿勢を示している。停戦協定に多くの組織を参加させることができるかが、スーチー氏の当面の課題となりそうだ。【9月1日 朝日】
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ミャンマーには130以上の少数民族がいるとされ、高度な自治権を求めて一部は武装闘争を行い、1948年の独立以来内戦が続いています。上記記事にもあるように、テインセイン前政権は昨年10月、最強硬派だったカレン民族同盟(KNU)など8勢力と停戦協定を結びましたが、約20ある武装勢力の半数以上は合意を見送っています。
今回の和平会議は、「21世紀のパンロン会議」とも称されています。
イギリスの植民地支配からの独立運動を指導した故アウン・サン将軍と少数民族代表が1947年に交わした「パンロン合意」では、連邦国家の枠内で少数民族の自治を保障することになっています。
スー・チー氏は国父・故アウン・サン将軍の娘として、父の遺志を継ぐ形で、「変革」の最初の実績づくりを実現したいところです。
スー・チー氏は早くからこの問題に言及しており、2010年に自宅軟禁を解除された後にも、「第2回パンロン会議」の開催を提案しています。
更にその自宅軟禁解除前の2010年10月には、スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)の幹部と、シャンなどの少数民族の政党が▽スー・チー氏の指導による団結と国民和解▽少数民族の自治権を認めた「パンロン会議」(47年)の第2回会議の早期開催・・・・などで合意するなど、少数民族との連携を軍政に対する対抗軸として位置づけ、取り組んできてもいます。
スー・チー氏としては、“父の遺志を継ぐ”という形で各民族にもアピールしやすい少数民族問題を突破口に、冒頭記事にもあるように、軍部の抵抗が強い改憲問題への道筋もつけようとの思惑もあるようです。
また、“和平は経済発展にも直結する。各武装勢力が支配する国境沿いは天然資源が豊富で海外企業の関心も高い。地元ジャーナリストのセインウィン氏は「和平が実現しなければ開発は進まない」と見る。”【8月31日 毎日】というように、少数民族との和平による安定は、国民が望む経済発展とは不可分の関係にあります。
スー・チー氏が国民の期待に応える「変革」を実現できるか・・・その重要なカギともなる少数民族との和平・融和の問題です。
【中国が影響力を有する3組織は不参加】
もっとも、道のりは平たんではなさそうです。
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ただ、各少数民族武装勢力は国軍に対する不信を理由に武装解除を拒み続けている。資源などの利権の分配を巡る意見の隔たりも予想される。
スーチー氏が率いる与党「国民民主連盟」(NLD)は多数派ビルマ族主体のため、「結局はビルマ族中心の国造りをするのではないか」(KIA関係者)と疑う声もある。
会議に参加する武装勢力の一つ、全ビルマ学生民主戦線(ABSDF)のタンケー議長は毎日新聞の取材に「会議開催は大きな前進には違いないが、和平実現には数年以上の長い年月がかかるだろう」と語った。【8月31日 毎日】
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スー・チー氏は8月中旬の訪中で習近平国家主席らと会談。これに合わせ、いずれも中国の影響下にあるとされる
コーカン族のミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)の3勢力が会議へ参加を表明していました。
しかし、結局この3組織は会議には参加しなかったようです。
これが、3組織独自の事情によるものなのか、中国の意向が影響したものなのか・・・は、わかりません。
訪中では、習近平国家主席が凍結されてダム建設の再開を求めたのに対し、スー・チー氏は判断を明らかにしませんでした。
****ミャンマーに関係進展求める=スー・チー氏、ダム再開に慎重―習中国主席****
中国の習近平国家主席は19日、北京を訪問しているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と会談した。
中国中央テレビによれば、習主席は「両国の全面的な戦略的協力パートナー関係をさらに進展させ、両国国民により多くの利益をもたらしたい」と強調。中国は経済協力を中心とした関係強化を進め、ミャンマー新政権への影響力拡大を目指す考えだ。
中国側はテイン・セイン前政権時代に地元住民の反対で凍結された中国主導のミッソン・ダム建設計画の再開を切望しており、習主席も同計画などを念頭に「協力して現在の大規模プロジェクトを安全に進めていきたい」と訴えた。
AFP通信によると、スー・チー氏は習主席との会談前に記者団に対し、同ダムなど水力発電事業を再検討する調査委員会が既に設置されたことを確認。「最良の解答を見つけるのは委員会だ。最善の解決策が何かは今は言えない」と慎重な言い回しで、検討結果を待つ考えを示した。【8月19日 時事】
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【「私は人権の擁護者ではなく政党指導者だ」 少数民族側の不信感払拭は?】
今後、少数民族との和平・融和を実現できるかは、スー・チー氏と少数民族側の信頼関係に大きく依存していますが、スー・チー氏も、かつての“民主化運動の象徴”ではなく、軍部とのバランスを考慮せざるを得ない現実政治家の立場にあります。
長年にわたる拘束・自宅軟禁という経験を経て、彼女自身がそうした立場を意識して、また、軍部の協力なくして改革は実現できないという認識から、人権問題などには慎重な姿勢も見せています。
****(スーチーの軌跡)現実の先に:4 妥協姿勢、戸惑う人権派****
昨年11月の総選挙でアウンサンスーチー率いる国民民主連盟は圧勝した。だが、新政権の国家顧問に就いたスーチーが今年6月、国連の人権問題担当者に述べた言葉が、ミャンマー社会の「変化」を期待する人々の間で戸惑いを生んだ。
「ロヒンギャ、という呼び名は使わないで」
国民の9割が仏教徒の同国で、イスラム教徒のロヒンギャは隣国からきた「バングラデシュ人」とみなされて市民扱いされず、迫害されてきた。スーチーは国際社会の要請も受けて打開策を探っているが、ロヒンギャという存在を認めたくない国内の差別感情に配慮した、と受け止められた。
「近年のスーチーは人権への意識が弱まり、『輝く星』ではない」。国境を接するタイ北西部メソトから母国を支援する人権活動家キンオーンマーは話す。
法の支配や民主主義の必要性を訴え、長年の自宅軟禁にも諦めなかったスーチー。だが、解放後は妥協姿勢も見せる。2013年10月には「私は人権の擁護者ではなく政党指導者だ」と米CNNに答えた。仏教徒の支持を失うと選挙に勝てない事情が、背景にある。
法律家アウントゥーは、スーチーが襲われた03年のディペイン事件を国際裁判に訴えようとしたが、穏便に済ませたいスーチーの意向で10年暮れに断念した。
今は軍と対立してきた少数民族を支援するが、スーチーが模索する少数民族との和平実現には悲観的だ。「正義を求めずに自由で平和な社会や、国民和解を実現できるのか。軍と歩み寄った先の方針が見えない」
国際NGO「フリーダムハウス」の報告書(16年版)では、少数派保護や表現の自由などから見る同国の自由度は211カ国・地域で48番目の低さ。スーチーの手腕に厳しい目が注がれている。 =敬称略【9月2日 朝日】
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軍部との関係を保ちながら、また、多数派ビルマ族の世論と対立することなく、「スーチー氏も(多数派)ビルマ族中心の国造りをするのでは」(KIA関係者)という少数民族側の根深い不信感を払しょくできるか・・・非常に難しい取り組みです。