(アリババを率いるジャック・マー氏【5月19日 Record China】)
【中国が米国に並ぶテック二超大国となった事実は認識し、対応すべきである】
経済を牽引するIT産業にあって、中国IT産業の成長は目を見張るものがあります。
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一般に中国の大手IT企業は世界が羨む優良企業と思われている。電子商取引最大手アリババ・ドットコムは株式時価総額2460億ドル。純利益はアメリカの同業アマソン・ドットコムの2倍以上だ。
中国で最も元気なIT企業といわれる騰訊控股(テンセント・ホールディングス)の時価総額も2400億ドル以上。同社のソーシヤルメディアアプリ、微信(WeChat)はアクティブユーザー数7億6000万人を誇る。
新興スマートフォンメーカーの小米(シヤオミ)科技は昨年、7000万台以上の携帯端末を出荷。今では世界の10大スマホメーカ1の一角に食い込んでいる。同社は非上場だが、時価総額は400億ドル以上だ。
検索大手の百度(バイドゥ)は、国内の検索サービスで80%のシェアを握り、検索連動型広告の市場を支配している。
携帯電話サービスの中国移動通信(チャイナーモバイル)は世界最大の通信事業者。時価総額は2530億ドルで、アメリカ最大手のベライゾン・コミュニケーションズを20%上回る。
世界第3位の通信機器メーカーに成長した華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)は昨年、世界中で608億ドルを売り上げ、アメリカ最大手のシスコシステムズを120億ドル上回った。【9月13日号 Newsweek日本版】
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中国の技術についてはパクリ云々の批判はありますが、各種経営指標的に見ても「米中二強時代が始まった」とも指摘されるレベルに達しています。
****米国テック一強時代は終わり、米中二強時代が始まった****
70年ほど前に半導体産業が米国西海岸で萌芽して以来、新たな技術や産業の創出を世界が米国に一貫して「アウトソース」してきた。しかしその「米国IT一強時代」がいま、終わった。
IT産業における次代を担うスタートアップの資金調達額において、ついに中国が米国と並んだのである。
のみならず、
・未上場企業の時価総額世界分布
・上場インターネット大手企業規模
・R&D投資額
等の重要データにおいても中国が米国に肉薄している。(中略)
世界5大インターネット企業
世界で最も大きなインターネット企業はAlphabetである。全産業を合わせても世界2位の時価総額を持つ。1位はご存知Apple。その収益のほとんどをiPhoneで稼いでいる。(中略)
ではインターネット企業トップ5は他にどこか。 2位Amazon、3位Facebook、4位テンセント、5位アリババである。
アリババはAmazonの、テンセントはFacebookのそれぞれ競合である。世界中でこの2大戦争が繰り広げられている。
つまりは今日の世界のインターネット産業は、データの覇者Alphabetを頂点に、米中二大国の、コマースとソーシャルの覇者がそれぞれ4強を占めているのである。その5社に迫る10兆円台企業は世界に一社もいない、圧倒的なメジャー5である。
さてアリババは、Eコマース事業では実は既にAmazonを抜いている。流通総額でも利益額でも抜いている。(Amazonの利益の半分以上はコマースではなくクラウドサーバAWSである。)
その理由は中国一国のEコマース市場が強烈に巨大だからである。しかし無論それは早晩サチュレーションする。ゆえに母国外が大切であるがアリババはAmazonに比して国外がからきし弱い。
ゆえに自社サービス進出ではなく投資によるカバレッジを推進している。(中略)コマース以外も含め多数かつ多額の投資を行って総合インターネット企業として生態系を中国内外に広げている。
一方のテンセントは、アジアのチャットとソーシャルにおける覇者である。Whatsapp+Messenger=Facebookと、Wechat+QQ=テンセントがその分野の世界覇権を争っている。(中略)総合インターネット企業としての生態系の強さではFacebookに引けを取らない。
以上の結果、AmazonとFacebookはいずれも時価総額で30兆台なかばで、中国テンセントとアリババは20兆円台なかばと、1.5倍前後の差までキャッチアップしている。中国2強の主戦場であるアジア各国の伸びしろを考えると、さらに差が縮まる可能性は大いにあろう。
ただし、である。米国2強はR&D投資に巨額の予算を割いている。AI、VRなど長期で花咲く分野に対していずれも年間で数千億円レベル、日本一国の全VC投資額一年分の数倍の投資を毎年行っている。
それに比べると中国2強はそこまで手が回っていない。(むしろ大差で中国3位のバイドゥや新興勢力のLeEco等がAIや自動運転者などへ積極投資をしているが。)中長期で完全に中国勢が米国勢に追いつき追い越すかは、ひとえにR&D投資にかかっている。
R&D投資
そのR&D投資であるが、イノベーションの創出に、もっと言えばその国の経済成長に決定的に重要である。(中略)
OECDが発表している国別のR&D、すなわち科学研究費予算(官民のそれを合計している)では、中国が3位の日本に2倍超の差をつけて1位の米国に肉薄している。
中国のGDPの伸び率は下がったと言っても分母が巨大ゆえ年率6%台成長は中小規模国家一年分のGDPくらい毎年増えている。ゆえに短期的にR&D投資予算でも米国を超えるないしは少なくとも並ぶとみるのが妥当だろう。
そうなれば「中国初のイノベーション」がこれからバンバン世界に出てくることとなる。既に出始めている。
スパコンの世界ランキングでは2013年から4年連続でトップは中国である。パクリ技術だなんだと批評はあるが少なくとも自国産CPUを積んだマシンが世界最速である事は事実だ。また再生可能エネルギー分野ではその排出量、投資額ともに中国は世界一である。
以上のとおり(中略)中国が米国に比肩ないしは肉薄している事がデータで確認できた。
「量が並んだからといって質もそうなるのか」、そういう議論は確かにある。
しかし個々の経営者や技術者のクオリティを見てもシリアル起業家や理工系修士、アイビーリーグMBAホルダ等ワールドクラスの経営者がどんどん輩出されている。テンセントのポニー・マーやバイドゥのロビン・リーはコンピュータサイエンス出の起業家の代表であり、XiaomiやDianpingの創業者は米国NYSE上場や数百億円規模のエグジット経験を有する。
技術はコモディティ化する、あるいは「社会的公共物化」して国をまたぐ。しかし人材リソースは物理的な場所に根差してエコシステムを形成する。そしてそれをめがけたファンディングリソース(VC資金)も同様である。中国が米国に並ぶテック二超大国となった事実は認識し、対応すべきである。
最後にもう一つ、
忘れてならない事。その中国はたったの6年前まで日本より小さかったという事。10年前にはBAT、つまりBaidu,Alibaba,Tencentの3社よりも日本のネット企業のほうがずっと大きかったという事。
そして次にそういう存在になるのが、インドであるという事。あらゆる国際機関の予想で10年足らずで日本を経済規模で抜くと言われているが、既にテックエコシステムだけで言えば五分五分ないしはいくつかの指標では抜かれているという事。(後略)【9月6日 蛯原 健氏 Newsweek】
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【「障壁」に守られた成長と、国外に出られない「限界」】
しかし、一方で中国IT産業については、欧米勢を排除する「障壁」に守られ巨大な国内市場を独占できたせいで、本格的な国外進出への意欲と条件が欠けているとの「限界」も指摘されています。
****ガラパゴス化する中国ビジネス*****
・・・・中国系IT企業の成功と勢いを目にすれば、いずれアメリカ勢から覇権を奪う日が来ると考えたくなる。
だが、実態は張り子のトラだ。ことによると中国のIT企業は、南米エクアドル沖に浮かぶガラパゴス諸島に特有の生き物たちに近い存在なのかもしれない。
米企業を苦しめる「特別待遇」
両者は驚くほどよく似ている。共通点は、どちらも固有の生態系の中で繁栄を謳歌し、外の世界には出て行かないことだ。
ガラパゴスの固有種が移動できないのは、太平洋といラ自然の障壁のためだ。かつて世界市場に打って出ず、国内に引きこもる日本企業の「ガラパゴス化」が言われたが、中国系IT企業の外国進出を阻んでいるのは人工の障壁だ。
最も重要な障壁は、中国政府が自国企業を保護する目的で導入した規制による保護措置だ。
中国当局は経済ナショナリズムと体制崩壊への危機感から、公式・非公式の保護政策によって欧米(特にアメリカ)のIT企業を排除し中国という巨大な成長市場を自国企業に独占させてきた。
最も露骨な保護措置は、市場参入を拒否することだ。ソーシヤルメディア大手のフェイスブックとツイッターは、中国共産党から現体制への脅威と見なされ中国への進出を認められなかった。
もう1つの「規制型障壁」は、中国で事業を行う外国企業に対し、中国国内にサーバーの設置を義務付けるルールだ。外国企業にとって、このルールはビジネスと政治の両面で大きなリスクとなる。中国国内にサーバーがあれば、中国の情報機関は容易に侵入できるからだ。
さらに当局は裁判所の命令があれば、サーバーに保管されている情報を人手できる。裁判所は共産党の支配下にあるので、命令を出させるのは簡単だ。(中略)
運良く中国市場で成功した欧米企業も、当局の「特別待遇」に悩まされる恐れがある。中国政府は14年、アメリカの代表的IT企業であるマイクロソフトとクアルコムを独占禁止法違反の疑いで調査すると発表した。(中略)
公式の手段で締め出せなくても、中国政府には別の方法がある。グーグルは10年に中国本土からの検索サービス撤退に追い込まれる前、当局から再三の嫌がらせを受けた。(中略)
こうした障壁は、ガラパゴス諸島を囲む広大な太平洋のように、中国企業を国際競争から守ってきた。おかげて中国企業は存続し、繁栄できている。
問題は、ガラパゴス諸島の風変わりな生き物と同様、ファーウェイ以外の中国企業が国外で目立って成功していないことだ。
中国のIT企業は莫大な株式時価総額を誇るが、売り上げはほぼすべて国内市場で稼いでいる。
シヤオミは端末の売り上げの90%を国内で得ており、アリババとテンセントの売上もほぼすべてが国内だ。百度の検索エンジンを使うユーザーは、国外にほとんどいない。
中国のテクノロジーをガラパゴス化させている要囚はいくつかある。まず、中国で成功をもたらしたテクノロジーやビジネスモデルは、競争が激しい国外市場に適さない場合が多い。
加えて、急成長中の巨大な国内市場で利益をほぼ独り占めできているため、企業はイノベーションや国外進出を行う必要性を感じない。中国の電子商取引と通信の市場は、欧米を上回るペースで成長している。市場の拡大が企業の弱点を覆い隠しているのだ。
また、中国のIT企業は、シリコンバレー発の画期的なビジネスアイデアやテクノロジーをまねて成長してきた面が大きい。アリババはアマゾンのコピーだし、滴滴出行はウーバーの中国版だ。動画投稿サイトの優酷綱(Youku)はYouTubeそっくりで、シャオミの端末はアップルのiPhoneによく似ている。
こうした企業が国外市場に進出すれば、法的措置を取られて巨額の権利使用料や制裁金を支払う羽目になりかねない。
中国の消費者の犠牲の上に
中国政府は中国独自の標準技術を確立するために多くの投資をしてきたが、ほとんど成功していない。
最近では、独自の携帯通信規格「TD-SCDMA」を欧米発の「GSM」と「CDMA」に取って代わらせたいと考えていた。しかし、この技術に320億ドルを投じたチャイナ・モバイルは、実質的に計画を断念した。
ガラパゴス的なぬるま湯は、中国企業にとっては歓迎すべきものかもしれないが、弊害もある。1つは、中国の消費者が選択肢を奪われることだ。
よく知られているように、アリババを通して売られている商品のかなりの割合が偽物だ。百度の検索エンジンはグーグルよりだいぶ劣るし、チャイナ・モバイルの料金はあまりに高い。ウーバーの中国部門が滴滴出行に売却されると発表された翌日にはさっそく、料金が大幅に引き上げられた。
損をするのは、消費者だけではない。
未来の中国の経済発展も犠牲になりそうだ。中国の自国企業保護措置に反発した欧米諸国の反撃が始まっている。
例えば、中国企業が欧米のテクノロジーやIT企業の買収を阻まれるケースが多くなっている。アメリカは国家安全保障上の懸念もあって、ファーウェイをアメリカの巨大な通信機器市場から締め出した。
欧米諸国は、中国政府が欧米企業に対してソースコードの開示や、中国治安機関のためのバックドア(セキュリティーを迂回してシステムに侵入できる「裏口」)の設置を求める動きにも抵抗している。
直接の関連性を立証するのは難しいが、欧米が中国を「市場経済国」と認定しないことと、中国政府による自国企業優遇措置の間にも関係があるのかもしれない。非市場経済国に対しては、簡単な手続きにより反ダンピング(不当廉売)税を課せる。
それでも、中国のIT企業にとっては、少なくとも差し当たりは好ましい状況であることは間違いない。これらの企業はガラパゴス諸島の生き物のように、繁栄を謳歌するのだろう・・・・ほかの国のIT企業とは似ても似つかない姿ではあるが。【9月13日号 Newsweek日本版】
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【「信用」をつくりだしたアリババ 偽物対応で課題】
アリババの、中国社会において「信用」をつくりだした功績と、偽物が横行する現状について。
****「アリペイ」は中国を変えたが****
実際、アリババは中国社会と中国人の暮らしを変え始めている。その象徴がオンライン支払いサービスの「支付宝(アリペイ)」だ。
中国では返済遅れや踏み倒しの多発、現金重視の商慣習のせいでクレジットカードの普及が進まなかった。中国のネット通販も品物が届かなかったり、まったく違う商品が配送されるリスクがあった。だがアリババは、注文どおりの商品が配達されなければ同社が客に返金するシステムをつくることで、ネット通販の爆発的普及につなげた。
これがアリベイの始まりだ。
アリババはこのアリペイを単なるクレジットカード代わりに終わらせず、水道や電気料金、タクシーの支払い、さらにはご祝儀の送金まで可能な「中国人の電子財布」に発展させた。(中略)
中国はカードを飛び越え、一気に電子決済社会に突入したのだ。「中国にそれまでなかった『信用』をつくり出した意味は大きい」と、東洋証券の上海駐在アナリスト奥山要一郎は言う。
破竹の進撃を続けるアリババだが、懸念材料がないわけではない。個人向けネット通販では、世界に悪名をとどろかせてきた中国製の偽物がいまだに横行しているのだ。
今年6月、杭州市で投資家向けに講演したマーは「中国のコピー品の出来は本物よりいい」と発言。「偽物を容認するのか」と、世界の反発を招いた。
マーの真意は国外ブランドの委託生産を請け負う工場が、空いた時間で「ノーブランド品」を作って直接ネットで販売することの擁護にあった、ともいわれている。ただ「偽物」と「ノーブランド品」の境界は曖昧だ。
マーとアリババは自社サイトでの偽物の取り締まりに力を入れているというが、本心は違うかもしれない。
マーは昨年、米フォーブス誌に「グッチにしてもほかのブランドにしても、なぜバッグにそんな値段を付けられるんだ。ばかけている」「ブランド企業は自分のビジネスを見直すべきだ」と答えた。
偽物で損害を受けるブランド企業より、ノーブランド品を作る中国の小規模業者が大切・・・実に中国的だが、中国以外では到底受け入れられない価値観だ。(後略)【9月13日号 Newsweek日本版】
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マーのブランド品批判には個人的にも同感です。ただ、それは偽物を売っていいということにはなりません。本物と同水準の「スーパーコピー」を作れる技術水準にあるのですから、本物と明確に区別された「ノーブランド品」あるいは「独自ブランド」で勝負すべきでしょう。
アリババについては、環境問題を意識したユニークな取り組みもあります。
****4億5000万の中国人が開設する「炭素口座」とは?****
アリババ・グループ傘下の金融服務集団アント・ファイナンシャルの決済サービス「支付宝」のユーザー4億5000万人に、「炭素口座」サービスが適用された。これは世界最大の個人向け炭素口座プラットフォームだ。
炭素口座は革新的な炭素金融ツールで、支付宝の3大口座の一つでもある。この口座は人々の低炭素・グリーンのライフスタイルを記録するほか、将来的には炭素資産の取引口座になり、炭素資産の売買や投資を実現する。人民日報が伝えた。
第1期「炭素口座」の概念は支付宝の操作画面で、「アント・フォレスト」公益活動としてデザインされた。これは、ユーザーの徒歩や地下鉄による外出やオンラインで水道代・電気代・ガス代の支払いなどにより炭素排出量を減少させると、支付宝の中でバーチャルの木を育成できる。木が成長すると、公益組織や企業などアント・ファイナンシャルの提携先が本物の木を植える。(中略)
支付宝は2015年、証憑の電子化と便利な料金支払い方法により、年間で炭素排出量を55万4000トン減らした。これは554万本の木を植えたことに相当する。(後略)【9月7日 Record China】
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現実的な効果はともかく、環境という抽象的な問題を身近な形でビジュアル化し、人々の関心を高めるという点では面白い取り組みではないでしょうか。