孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感がもたらす危険性

2016-08-16 22:18:51 | 欧州情勢

(イスラムの戒律に配慮して肌を露出しない水着「ブルキニ」【8月12日 TRT】 特別、問題はなさそうですが・・・・)

テロの恐怖・警戒から緊張を高めるフランス社会
イスラム過激派によるテロが繰り返されるなかで、イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感・恐怖心、いわゆる「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」が社会に広がり、そのことがイスラム教徒とその他住民との相互理解・融和を阻害し、イスラム教徒の中に社会への不信・怒りを育て、さらなるテロを誘発する・・・・という悪循環を生み出す危険があります。

フランスでは昨年11月に130人が犠牲になった首都パリの同時襲撃事件を受けて非常事態宣言が出され、今も継続されています。

パリの同時襲撃事件もイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した攻撃が相次ぎ、先月14日にもニースで群衆にトラックが突入し85人が死亡する事件が起きています。

また、先月26日には、北部ルーアン近郊のカトリック教会で刃物を持った男2人が押し入り、司祭ら5人を人質に取って立てこもり、人質となった司祭はのどを切られて死亡しました。

こうした相次ぐテロへの恐怖から、フランス社会にはピリピリした雰囲気も漂っているようです。
花火見物の人々を対象にしたニースの事件の影響が大きく、大勢の人が集まるイベントも中止されることが多くなっているようです。

よく言われるように、「普段どおりの生活を続ける」ことがテロリストに対する最も効果的な反撃ではあるのですが、実際にはなかなか・・・。

****南仏テロ1カ月 観光地、戻らぬ日常 イベント中止続々****
夏のバカンスで華やぐはずのフランス各地で、大型イベントが次々に中止されている。85人が犠牲になった南仏ニースのトラック突入テロから14日で1カ月。「ふだん通り」の暮らしが揺らいでいる。
 
惨劇が起きた海岸沿いの大通り「プロムナード・デ・ザングレ」の風景は一変した。ところどころに花束が手向けられ、人で埋まる例年の様子にはほど遠い。「オフシーズンのよう」(タクシー運転手)な浜辺を、迷彩服姿の兵士が自動小銃を手に行き交う。ニースでは、15日の花火大会、9月の自転車レースなどが相次いで中止された。
 
テロの現場に居合わせた建設作業員のクリストフ・モネさん(47)は「息子が外出する時は、周りに気を付けろと必ず声をかけるようになった」。海岸近くに住むブリジットさん(66)は毎日、浜辺のベンチで読書を楽しむ。でも、「怖いからと、海に来なくなった友だちもいる」と明かす。
 
パリでは、シャンゼリゼ通りの歩行者天国や、星空の観察会、公園などでの映画上映会が軒並み見送られた。仏北部リールでは毎年200万人が集うという大規模な「のみの市」(9月)が中止になった。第2次大戦後初めてだという。【8月15日 朝日】
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こうした緊張状態にあっては、ちょっとしたことがパニックを引き起こします。

****南仏リゾートで銃声のような音、爆竹か パニックで約40人負傷****
フランス南部コートダジュール(フレンチリビエラ)のリゾート地ジュアンレパンで14日夜、銃声のような音が響き渡り、「テロ攻撃」と思い込みパニックになった人々が一斉に逃げ出す騒ぎがあった。
 
地元ラジオ局は、銃声のような音は車から放り投げられた爆竹によるもので40人近くが負傷したと伝えた。消防当局によると負傷者はいずれも軽傷。負傷者の数は明らかにしていない。現在、警察が音の原因を特定するため監視カメラ映像の分析を進めている。
 
当時の様子を捉えた動画には、海沿いのカフェやレストランではテラス席のテーブルや椅子がひっくり返り、人々が大声で叫びながら折り重なるように倒れる様子が写っている。
 
日刊紙ニース・マタンは目撃者の話として、ビーチにいた海水浴客らは銃声を聞いたと思い込んで人々で賑わう繁華街に逃げ込んで来たと伝えた。
 
また別の目撃者はAFPに「たくさんの人たちが走っていた」と話し、パニックで殺到した人たちが折り重なって倒れ、数十人が軽いけがをしたと付け加えた。けが人は現場やレストランの店内などで手当てを受け、街の中心部は警察に封鎖されたという。(後略)【8月15日 AFP】
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【「ブルカ」「ニガブ」に続いて「ブルキニ」も
かねてよりフランスはイスラム教徒の宗教色が強い服装に関しては規制する動きがあり、2011年4月にはイスラム教徒の女性の着衣「ブルカ」(目の部分に網状の布をつけて全身を覆い隠す服装)と「ニカブ」(目の周囲だけを外に出す服装)の公の場での着用を禁止する欧州では最初の国家となっています。違反者には罰金150ユーロもしくは公共への奉仕活動の従事が命令されます。

背景には公の場に宗教を持ち込まない世俗主義・政教分離というフランス伝統的な考えもありますが、同時に、フランス社会で高まるイスラムへのネガティブな感情も働いていると思われます。

そうした流れを受けて、この夏はイスラム教徒女性の水着「ブルキニ」が問題となっています。

****イスラム教徒の女性水着を禁止、テロ対策で 南仏カンヌ****
フランス南部の地中海沿岸にあるカンヌ市当局は13日までに、市内の海岸でイスラム教徒の女性用の水着「ブルキニ」の着用を禁止すると発表した。フランスや他の欧州諸国で多発したテロへの対抗措置としている。

同市長府によると、禁止の対象期間は7月28日~8月31日で、違反者には罰金38ユーロ(約4294円)を課す。違反者はこれまで報告されていない。ブルキニは、顔と手足の先以外の全てが隠されるデザインとなっている。(中略)

南仏マルセイユ近くにある遊泳施設では最近、イスラム教徒の女性専用の「ブルキニ・デー」の設定が同市当局の介入により中止される一幕もあった。この行事の主催者側に脅迫文が届いたことが原因だった。

カンヌ市はブルキニ禁止の新条例の発表で、宗教への信仰をこれ見よがしな方法で明示する水着は公共秩序を乱しかねない可能性があるとの見解を発表。フランスと宗教関連の施設は現在、テロの標的になっているとの認識を示した。

これに対しカンヌ地域の人権擁護団体の幹部はブルキニ禁止の施策を批判し、逆に地域社会での緊張を高めると主張。

また、仏南部のイスラム教団体組織の報道担当者は宗教色が色濃い水着の公然とした禁止はブルキニだけへの影響にとどまらないと指摘。ベールを被った女性やユダヤ教の民族衣装の1種であるキッパーの着用者らは海岸にいる権利を奪われたとも述べた。(後略)【8月13日 CNN】
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上記記事では、なぜ「ブルキニ」が禁止されるのかよくわからないので、同じ件を扱ったトルコメディアの記事も。
なお、記事中の「ハセマ」というのは「ブルキニ」のことのようです。

****仏カンヌでイスラム系水着着用が禁止****
フランス南部のカンヌで、県庁は浜辺やプールでのイスラム系水着「ハセマ」の着用を禁止した。

県庁から公表された通告によると、国内での宗教の礼拝場所がテロ攻撃の標的になっていることから、浜辺やプールで宗教的な象徴を持つ衣装の着用を禁止すると明かされた。

先週マルセイユで、プライベートプールを1日借りた女性協会が、施設に男性教師もいるとして、ビキニを着用しないようメンバーを警告したことが、国内で話題の1つとなり、極右の協会や組織がこの件に反発を示した。

9月10日に開催予定であったこの行事は、プライベートプールの管理者とレ・ペンヌ・ミラボー市によって安全上の理由から中止された。

行事を組織した協会「スマイル13」の代表は、何日も脅迫を受けており、言葉や物理的な攻撃にさらされていると明かし、協会代表に送付された郵便物から銃弾と人種差別的な脅迫が出てきたと述べた。

フランス・イスラム恐怖症対策協会は、この件に関して行った発表で、賃借したプールが私有財産であり、適用に関して法や規則違反はなく、フランスの法律でプールにどのように入るべきかに関する規則も見当たらないと強調し、議論と禁止を批判した。【8月12日 TRT】
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“女性専用の「ブルキニ・デー」の設定”というのは“施設に男性教師もいるとして、ビキニを着用しないようメンバーを警告した”ということで、そのことがイスラム教徒の存在を苦々しく思う者を刺激して、脅迫行為に至った・・・ということでしょうか。

そこから、“浜辺やプールで宗教的な象徴を持つ衣装の着用を禁止”という措置にいたるまでには飛躍もあるようですが・・・。
禁止・警戒すべきは、特定宗教への脅迫行為を行うような人物・組織の方と思われますが、事情がよくわかりませんので。

個人的には、「ブルカ」や「ニカブ」には社会的融和を進めるうえで、コミュニケーションを拒否しているような印象を受け、なじめないものを感じます。大げさに言えば、市民社会の理念に反するものがあるようにも。

ただ、スカーフやブルキニについては、そうした話もありませんので抵抗感はありません。

「ブルキニ」禁止の動きはカンヌだけではないようです。

****仏コルシカ島の村、ムスリム女性用水着の着用禁止 同国で3例目****
フランス・コルシカ島の村、シスコの村長は15日、イスラム教徒の女性が着用する全身を覆う水着「ブルキニ」の禁止を発表した。13日にブルキニがきっかけで衝突が発生したことを受けた措置で、同国でブルキニ着用が禁止されたのはこれで3例目となった。
 
地中海に浮かぶコルシカ島北部にあるシスコの入り江で13日、観光客らがブルキニを着用して泳ぐ女性たちの写真を撮っていたとして、地元住民らと北アフリカ系の家族らとの間で衝突が発生。双方は石や瓶を投げ合い、車3台が放火された。中には手おので武装していた者もいたとされ、5人が負傷し、病院に搬送された。警察官約100人が出動して、事態収拾に当たった。
 
これを受けてシスコのアンジュピエール・ビボニ村長は、「住民を守る」ためとしてブルキニ禁止を発表。
 
ビボニ村長の話では、最近同島北部で宗教をめぐる緊張が高まっていたという。AFPの電話取材に応じたビボニ氏は、ブルキニ禁止措置は「イスラム教に反対するものではなく、原理主義の拡大を回避するためだ」と説明。

「私は断じて差別主義者ではない。住民を、特にわが村のイスラム教徒の住民を守りたいと考えている。こういった過激主義の挑発行為の主たる犠牲者になっているのはイスラム教徒だからだ」としている。
 
イスラム過激派による攻撃が相次いでいるフランスでは現在、イスラム教徒のコミュニティーとの関係性が非常にデリケートな問題として受け止められている。
 
シスコに先立ち、南仏コートダジュールのカンヌとビルヌーブルベでも最近ビーチにおけるブルキニ着用が禁止され、論争が巻き起こっていた。
 
フランスでは以前から、イスラム教徒の着衣が物議を醸してきている。2010年、イスラム教徒の女性が顔を全て覆うベール「ブルカ」を公共の場で着用することを欧州諸国で初めて禁じたのも同国だった。
 
ブルキニ反対派は、ブルキニが世俗主義の理念を踏みにじるものだと主張。これに対し反差別を掲げる活動家らは、ブルキニ禁止はイスラム教徒に対する差別に他ならないと指摘している。【8月16日 AFP】
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この話も、観光客とのトラブルから地元住民らと北アフリカ系の家族らとの間で衝突へ至る経緯、それが「ブルキニ」禁止になる理由、「ブルキニ」禁止が原理主義の拡大を回避することになる理由など、事情はよくわかりません。

イスラム的なものが反イスラム感情を刺激するというのであれば、対処すべきは反イスラム感情の方であるように思えるのですが。

“ブルキニが世俗主義の理念を踏みにじる”というのも奇妙な論理です。学校とか政治的な場ならともかく、海辺でビキニを着ようが、ブルキニを着ようが、世俗主義云々とは関係ないように思えます。

いずれにしても、社会に広がる緊張感がうかがえる話ではあります。
その緊張感が冒頭にあげた「イスラム恐怖症」的な悪循環に陥ることがなければいいのですが。

根本的な問題として言うなら、どのようにテロを警戒するかより、いかにして社会の融和を図っていくかという視点が重要です。

“『貧困という監獄 』の著書があるフランスの社会学者ロイック・バカンは、ヨーロッパ中でフランスほどインサイダーとアウトサイダーの格差が大きい国はないと言った。就職などで同じ資格をもつ白人のフランス人と比べて最も差別を受けているのはムスリムを含む少数民族だ。現にパリやリヨン、マルセイユなどの郊外の貧困地域では、若者の失業率は40%かそれ以上に上ることもある。”【4月25日 Newsweek】

そうした差別的な格差がある限り、いくら警戒にあたる兵士を増やそうともテロはなくならないでしょう。
イスラム教徒にのしかかる重圧は、あらたなテロの土壌となるだけです。
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