孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メキシコの「麻薬戦争」を克服した都市 ホンジュラスの犯罪組織からアメリカへ逃れる不法移民

2016-09-26 22:21:34 | ラテンアメリカ

(世界で最も危険な都市、ホンジュラスのサン・ペドロ・スーラの刑務所 看守に抵抗した罰として手錠でつながれた受刑者 刑務所内では受刑者が自由にバザーを経営しており、iPhoneから売春婦までなんでも販売されているとか・・・TVドラマ「プリズンブレイク」の世界です。【THE FRAME http://blogs.sacbee.com/photos/2012/05/inmates-corruption-rule-hondur.html】)

メキシコの止まない「麻薬戦争」】
このところあまり取り上げていない「メキシコ麻薬戦争」の話。

最近の映画では、残忍な麻薬カルテルと市民による自警団との戦いを、アメリカとメキシコの両側から市民の目線で描いたドキュメンタリー「カルテル・ランド」、アメリカとメキシコ国境の町に送り込まれた女性FBIエージェントが常軌を逸した現場に直面し、葛藤するクライム・サスペンス「ボーダーライン」とか、話題作があるようです。
それだけ、深刻な現実があるということなのでしょう。

ここ数か月に目にしたメキシコ・麻薬絡みの話題を列挙すると・・・

“メキシコ中部で一家11人惨殺、武装集団が民家に押し入る”【6月11日 AFP】
“メキシコで連続民家襲撃、14人死亡 麻薬組織の抗争絡みか”【7月10日 AFP】
“メキシコで町長3人射殺・・・麻薬組織関与か”【8月4日 読売】
“「悪魔」の異名持つメキシコ麻薬王、整形手術直前に逮捕”【8月4日 AFP】
“麻薬王の息子誘拐=夜明けのバー襲う―メキシコ”【8月17日 時事】
“米国行き「隠しトンネル」発見=建設中、麻薬密輸用か-メキシコ”【8月29日 時事】
“メキシコで警察ヘリ撃墜、4人死亡”【9月8日 AFP】

ひところに比べて「麻薬戦争」の状況がどうなっているのかは把握していませんが、相変わらず事件は頻発しているようです。

アメリカへの麻薬持ち込みについては、上記にもある「トンネル」とか、あるいは「潜水艇」とかが話題にもなったりしますが、一番“簡単”そうで、「なるほど・・・」と思ったのが次の方法。

****大砲で麻薬の袋を発射し密輸か メキシコから米へ****
米国と国境を接するメキシコで、大砲のような筒を載せた小型トラックが見つかった。麻薬密売人が、麻薬の袋を高圧の空気で米国側に飛ばすために使っていたとみられるという。メキシコ当局が17日発表した。米メディアは「独創的な密輸の方法だ」などと、伝えている。
 
トラックは、米アリゾナ州ダグラスと国境を接するメキシコのアグアプリエタで見つかった。屋根の部分が取り去られ、約3メートルの長さの鉄の筒を搭載。高圧の空気圧縮機も見つかり、約27キロの重さのマリフアナの包みを発射できるという。
 
メキシコから米国に麻薬を密輸する方法は、トンネルやはしご、てこの原理を利用した投石機など様々な方法があるが、「大砲」を使うのはまれという。【9月22日 朝日】
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「大砲」なら「トランプの壁」が出来ても、壁を越えられそうです。

警察と麻薬組織の癒着は昔から言われていることですが、警察・軍の体質にも問題がありそうです。

****メキシコ警察と軍、逮捕した女性への暴力常態化 性的暴行も****
メキシコ警察と軍が、女性を逮捕し取り調べを行う際に日常的に拷問、虐待を行い、時に性的暴力を加えているとする報告を28日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが発表した。
 
アムネスティは逮捕された際に暴力を受けたと報告した女性100人に取材調査を行ったが、その全員が何らかの性的嫌がらせや精神的虐待を受けたことを明らかにした。また約7割の女性が、逮捕された際か、それから数時間以内に性的虐待を受けたと回答した。
 
女性たちが受けた虐待には、腹や頭を殴られる、本人または家族をレイプすると脅迫を受ける、窒息させられそうになる、性器に電気ショックを与えられる、体を触られる、レイプされるなどがあった。
 
アムネスティは報告書で「警察は、政府の治安対策が実を結んでいることを社会に示し、検挙率を上げるために女性たちを格好の餌食として利用し、逮捕している」と述べ「こうした暴力を主に受けるのは若い、貧困家庭出身の女性たちだ。ジェンダー(社会的・文化的な性差)、年齢、社会経済状況が理由でこうした女性たちが直面している重層的で複合的な差別は、彼女たちが恣意(しい)的に逮捕、拷問され、虐待されるリスクを高めている」と指摘している。
 
さらにアムネスティは、逮捕、収監された女性たちの多くがシングルマザーで、男性のパートナーを持つべきだといった女性に期待される社会通念に従っていないというだけで差別に直面していると報告している。【6月28日 AFP】
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【「戦争地域以外では最も危険な街」で劇的な治安改善
ただ、「麻薬戦争」克服の明るい話題もあります。麻薬抗争最前線にあって「戦争地域以外では最も危険な街」とも呼ばれていたシウダー・フアレス(映画「ボーダー・ライン」の舞台ではないでしょうか)の治安が大きく改善したそうです。

****世界一危険だった街フアレス、殺人が15分の1に****
米国との国境沿いにあるメキシコ北部の都市、シウダー・フアレス。ここサン・アントニオ地区はかつてスラム街だったが、今はコンクリート・ブロックの家が立ち並ぶ住宅街になっている。

2008〜12年には、フアレスは世界で最も危険な都市として知られていた。3700人以上が銃で殺された年もある。誘拐や恐喝をしても罰せられず、国内の盗難車の4分の1はこの街で盗まれるという無法地帯だった。

フアレスに平和が戻ったわけ
彼らがおびえて家にこもるのをやめ、以前のようにのびのびと暮らせるようになったのはなぜだろう。

少なくともここフアレスでは、民意が政治を動かした。犯罪を取り締まる法制度の強化や、自治体への投資を目指そうとする方向へと働いたのだ。

そして、規律を取り戻した警察官、逃げ出さずに闘う事業者、硬直化した官僚組織に抵抗して改革の先頭に立つ政治家といった、予期せぬヒーローたちが生まれた。

多くの客でにぎわう花屋で、店主のクラウディア・サウシードから話を聞いた。かつて店は彼女が一人で切り盛りし、夫はほかの仕事に就いていた。ゆすり屋が毎週取り立てるみかじめ料100ドル(フアレスでの平均的な週給)の足しにするためだ。

市当局の推計では、2010年までにゆすり屋に脅されて金を支払っていた事業者の数は約8000にのぼっていた。その翌年、カルロス・サラスがチワワ州の検事総長に就任すると、州警察に恐喝取締部隊が創設された。

それまでは多くの犯罪が処罰を免れていた。「手抜き捜査どころか、そもそも捜査などされていなかったのです」と、当時の取締部隊の監督官で、現在は市の警察長を務めるセザール・ムニョスは語る。「犯罪事件が発生すると、警察官たちは署内で隠れていました」

犯罪組織とつながりのない、えり抜きの若い警察官で構成された部隊は、まず2週間かけて中心地で戸別訪問をし、恐喝されたら通報するよう呼びかけた。地域に根ざしたこうした治安維持活動は、メキシコでは前例がなかった。「誰も話そうとしませんでした。ゆすり屋が警官に変装して来たと思ったのでしょう」と、現在、部隊を指揮するルイス・エルナンデスは語る。

それから2週間後、最初の通報があった。パン屋からの電話で、5000ドル支払わなければ店を焼き払うと脅されたという。取締部隊は金の受け渡し場所へ向かうパン屋の後を追い、みかじめ料を受け取ったところで、犯人を逮捕した。これは、フアレスで初めて恐喝の捜査が成功した例となった。

2010年に3766件だったフアレスの殺人事件は、2015年には256件まで減った。世界で最も危険な50都市のリストからフアレスの名は消え、誘拐や恐喝の報告はもう2年以上ない。米国の景気回復の影響もあり、2015年の前半には1万7000人分の雇用が新たに創出された。これは過去5年間で最高の数字だ。

フアレスは、暴力が横行するほかのメキシコの地域が目指す手本になれると、この街でレストランとバーを経営するデビッド・アラミヨは力説する。「フアレスにできるなら、ほかの地域もできるはずです。同じ国ではありませんか。この状況は変えられるのです」【6月7日 National Geographic】
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恐喝されたら通報するよう呼びかけ、きちんと捜査して逮捕する・・・という、ごく当たり前のことを行った結果でもあるようです。警官・政治家がまともな仕事をすれば「麻薬戦争」も改善できるという事例でしょう。

メキシコより遥かに危険なホンジュラス
ところで、1月4日ブログ“中南米諸国の治安事情 「麻薬戦争」メキシコと、左翼ゲリラとの和平交渉が進むコロンビア”でも取り上げたように、「麻薬戦争」と言われるメキシコの殺人発生率は世界第22位ということで、数字はいろいろあるでしょうが、少なくともメキシコより遥かに危険な国々が中南米、特に中米に集中しています。

上記ブログでの数字で言えば、世界第1位は中米ホンジュラスで、メキシコの4.5倍ほどの殺人発生率になっています。

ホンジュラスをはじめとする中南米諸国の治安の悪さの原因は、やはり麻薬などにかかわる犯罪組織です。
メキシコの麻薬密売組織が拠点を中米に移し始めていることも関係しているようです。

****犯罪組織から逃れ国外へ 中米ホンジュラス、10年で7.4万人超移住****
・・・・ホンジュラスの国家人権委員会によると、人口およそ800万人の同国で2004年から2014年の間に7万4000人以上もの国民が国外へ移住している。
 
犯罪組織に3人の息子を殺されたヘラルディーナさんは今、娘のことを心配している。「娘は兄たちが殺されるのを目の当たりにしているの。家に押しかけてきたギャングたちは、彼女の口に拳銃を突っ込んで誰にも言うなと脅したんです」(中略)
 
ヘラルディーナさんの22歳と19歳の息子を犯罪組織「メガロコス」が殺害した理由は、サッカーチーム「オリンピア」のTシャツを着るなという警告に2人が従わなかったからだという。23歳の長男はメガロコスのメンバーになることを拒んだために殺された。
 
マリアさん(43)は、2014年にギャングに誘拐されたきり行方が分からなくなった息子を捜し続けていた。マリアさんの妹やおいも捜索に加わってくれたが、しばらくしてそのおいは頭部に銃痕のある遺体となって発見された。

■闘う気のない警察
国家人権委員会のロベルト・ヘレラ委員長によると、昨年に国外移住を申請したホンジュラス人は1万6000人超で、前年から99%も増加している。住み慣れた地を後にするのは殺人や誘拐、恐喝、暴行、脅迫などから逃れるためだ。移住先としては同じ中米のコスタリカか北米のカナダを希望する人が多いという。
 
もっとも、申請許可などわざわざ待たず、米国へそのまま逃げていく人も少なくない。
 
ホンジュラスは世界でも最も殺人率が高い国の一つだ。世界保健機関(WHO)によれば、ホンジュラスの殺人率は世界平均の6倍を上回る。
 
高い殺人率の要因として、ホンジュラスの当局者らは犯罪組織と麻薬密売者の存在を挙げる。
 
ホンジュラスの主要都市では「マラ・サルバトルチャ」や「ディストリクト18」といった犯罪組織が郊外の貧民街を牛耳っている。ホンジュラス第2の都市サンペドロスラは世界で最も治安の悪い都市の一つとされ、「銃撃が毎日のように起こり、1時間以上も続く」(地元女性)
 
米国際開発局(USAID)の推定では、ホンジュラスでは犯罪組織の構成員3万6000人が暗躍する。だが警察には犯罪組織に対抗する意思はないとみられている。
 
このためホンジュラスは警察の浄化を目的とした委員会を設置しなければならなかった。「法廷まで持ち込まれる犯罪は全体のわずか4%。これは有効な捜査が欠如しているためだ」と委員会のメンバー、オマル・リベラ氏は話している。【9月20日 AFP】
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アメリカに逃れた不法移民を待つ過酷な運命
「銃撃が毎日のように起こり、1時間以上も続く」・・・もはや“戦場”ですが、こうした戦場を逃れてアメリカに不法入国しても、「強制送還」が待っています。

アメリカのTVドラマなどを観ていると、不法移民でることをネタに脅され、「通報されたくなかったら、・・・・」といったシーンが頻繁に登場しますが、不法移民・強制送還というものが、ごく日常の出来事となっているようです。

大統領権限で移民制度改革「DAPA」(米国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ不法移民の強制送還を免除する政策)を進め、トランプ氏などに比べると移民に対し寛容とも見られるオバマ大統領ですが、不法移民の強制送還については手を緩めてはいないようです。

****成人したら国外退去、中米の子供たちの末路****
<密入国した未成年者が18歳でアメリカを追放に。だが故国で待つのはギャングによる脅迫と暴力だ>(写真は、カリフォルニア州で開かれた不法移民の子どもたちの強制送還に反対する集会)

今年1月の寒い朝、ノースカロライナ州に住むウィルディン・アコスタ(19)は学校へ行こうと自宅を出た。その瞬間、待ち構えていた移民関税執行局(ICE)の職員3人に手錠を掛けられ、車に乗せられた。

ホンジュラスから移住した両親を追って、危険な旅の末にアメリカに不法入国したアコスタにとっては、残酷な出来事だった。未成年(18歳未満)でなくなったため、国外退去処分の対象となったのだ。

アコスタが密入国したのは14年。その年、アコスタと同じく成人の同伴者なしに、メキシコ国境を超えてアメリカに入った未成年者の数は7万人近くに達した。

米税関・国境取締局によれば、昨年10月〜今年7月までにメキシコ国境から不法入国した未成年者は5万人弱。中にはわずか5歳の子供もいる。

中米各国ではギャング団の激しい抗争が続く。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が14年に発表した調査によると、11年10月以降に中米諸国からアメリカに密入国した未成年者の58%が、故国で横行する暴力を密入国の理由に挙げた。

オバマ政権は、過去2年間に未成年者として不法入国し、その後に成年に達した若者の国外退去を最優先課題に掲げている。だが故国へ送り返されれば、ギャングに加わるか、殺されるか、二つに一つだ。

ICEは昨年、同伴者なしで不法入国した中米出身者1000人以上を強制送還した。そのうち、ホンジュラスへ戻された者は400人を超える。

ホンジュラスでの生活は恐怖の連続だ。対立するギャング団「マラ18」と「マラ・サルバトルチャ」がのさばり、麻薬取引絡みの流血事件を繰り返している。さらに近年、彼らは地元住民に「戦争税」の支払いを要求し、払わなければ拷問または殺害すると脅している。

脅迫を逃れるために故国を離れた者が送還されれば、組織の標的にされる。特に狙われているのがキリスト教の信者だ。

ギャングは長年、キリスト教信者を不可侵の存在と見なしていた。だが次第に教会を敵と捉えるようになり、信者は攻撃のターゲットになった。

送還されれば殺される
敬虔なキリスト教福音派信者の一家に生まれたアコスタもそうだった。17歳のとき、おじと2人のいとこが教会に通っているとの理由でマラ18の下部組織に殺害された。教会へ行くのをやめないなら、次はおまえの番だと警告されたという。

怯えたアコスタは母親と相談し、アメリカへ行くことにした。密入国業者には、アメリカに入ったら国境警備隊の元へ出頭しろと言われた。メキシコとカナダの出身者を除く未成年の不法入国者は、アメリカ国内の家族または後見人に引き渡される規定になっているからだ。

送還されれば殺されると、アコスタは恐れている。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘するように、腐敗まみれのホンジュラスの警察は頼りにならない。

一方、ホンジュラス当局は14年以降、身元保護を口実に児童保護団体による送還者の受け入れを禁じている。

アコスタは現在、ICEの施設に収容されている。今年6月の卒業を目指して学校の課題を施設宛てに送ってもらっていたが、卒業はかなわなかった。

今は、いつ送還されるかと不安を募らせる毎日だ。「常に命の危険を感じている。僕の夢は打ち砕かれてしまった」【9月26日 Newsweek】
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不法移民を強制送還するのは当然と言えばそれまでですが、強制送還された結果は・・・・

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中米ホンジュラスの若者ネルソンさんは、麻薬の密売を強要する凶悪な犯罪組織から逃れようと米国に渡った。しかし母親のマリーナさん(46)によれば、本国に強制送還されてから間もなく命を落とした。まだ23歳だった。【前出 9月20日 AFP】
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いわゆる紛争地の難民と似たような境遇にも思えます。

麻薬組織がのさばるのはホンジュラスやメキシコなどの責任であり、アメリカは関係ない・・・とも言えますが、メキシコなどの麻薬組織が存在するのはアメリカという「麻薬消費地」があることが大きな原因です。

アメリカも単に強制送還したり「壁」をつくったりするだけでなく、まずは「麻薬消費」をなんとかすべきですし、供給国と連携した施策も必要になります。その点でも「壁をつくって建設費を払わせる」云々の対決姿勢はまっとうではないように思えます。

もっとも、アメリカが中南米に関与すると、「イラン・コントラ事件」とか、チリ・アジェンデ政権転覆とか、これまではろくな話がありませんが・・・。
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