孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  復興・自立に向けての課題と展望  資源開発状況など

2014-10-23 22:44:01 | アフガン・パキスタン

(10月22日、アフガニスタン・バーミヤン近郊に日本の支援で建設された小学校が完成し、テープカットをする高橋博史駐アフガン大使(中央左)とワルダク教育相(同右)ら【10月22日 産経ニュース】)

自立へ向けて山積する課題
アフガニスタンでは9月29日、今年6月の大統領選決選投票に勝利したアシュラフ・ガニ元財務相(65)が新大統領に就任しました。

大統領選挙はこのブログでも何回か取り上げたように、一時は二重政権・民族間の衝突も懸念されるもつれた展開となりましたが、ガニ氏が決選で敗れたアブドラ・アブドラ元外相(54)を首相職に相当する新設の「行政長官」に任命する形で、「挙国一致政府」が成立しました。

“大統領は、国家元首であり、軍の最高指揮権を持つ、国事の最高権力者として位置づけられています。これに対して、行政長官は、実質的な首相職にあたり、政府の運営を担当します。そして、2年を目処に、その機能と実績に対する評価を行い、憲法改正手続きに則り、民族大会議「ロヤ・ジルガ」を開催したうえで、正式な首相職を設ける運びです。”【10月16日 NHK】

ガニ新大統領は就任直後の9月30日、カルザイ前大統領が署名を拒んでいたアメリカとの二国間安全保障協定と、NATOとの地位協定の双方に署名しました。

これにより、外国軍が戦闘部隊を撤退させる今年末以降も、米軍をはじめとする外国軍の一部駐留が保証されることとなり、今後の治安維持・タリバンとの戦闘を担うアフガニスタン国軍をバックアップする態勢も一応整いました。

挙国一致政府と外国軍の一部残存という基本的な枠組みはできましたが、当然ながら難問が山積しています。

タリバンとの戦いをアフガニスタン国軍が本当に担っていけるのか?
国際支援に頼る財政が、国軍・警察を今後も維持できるのか?

****<アフガン>撤収を急ぐ欧米 治安回復、道筋見えず****
・・・・駐留米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍は今年末にアフガニスタンでの任務を終了し、来年からはアフガン軍の教育・訓練・支援にあたる1万2000人規模の部隊だけが残る。

オバマ米大統領は今年5月、駐留軍の中核となる9800人の米軍を15年末までに半減、16年末には「通常の大使館警護」レベルにし事実上、完全撤退する案を発表した。

撤退を急ぐオバマ政権の姿勢に他のNATO加盟国も同調する構えだ。NATO加盟国などは計3000人以上の兵士をアフガンで失っており、アフガン派兵への世論の支持は低く、地上軍を一日も早くアフガンから出したいのが本音だ。

カギとなるのがアフガン軍や警察の治安維持能力だが、最近はタリバンだけでなく、アフガン軍兵士が自国の軍や駐留外国軍を狙うテロ事件も多発している。

またNATOの支援で計35万人にまで増やしたアフガン軍・警察の規模を維持できるかも不透明だ。35万人態勢の維持には約60億ドル(約6600億円)が必要とみられるが、米国など国際社会は年41億ドル(約4500億円)を17年ごろまで拠出することしか合意できていない。35万人を23万人規模まで縮小する必要があり、大量の解雇は避けられない。

イラクでは、03年の米軍の攻撃後、職を失ったイラク軍兵がテロ集団に転じ、一部は現在、過激派「イスラム国」の中核を担っているとされる。オバマ政権は今年、空爆の実施や約1600人の米兵派遣を余儀なくされたが、アフガンが二の舞いになる可能性は否定できない。【9月29日 毎日】
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国軍・警察の規模縮小・大量解雇は治安を不安定化させることが懸念されます。
治安維持能力が低下するだけでなく、解雇された兵士・警官が生活のために反政府勢力側に加わるようなことも容易に想像できます。

社会にはびこる汚職・腐敗と麻薬の一掃はカルザイ前政権で実現できなかった課題です。新政権はこの問題をクリアしないと、アフガニスタンの再建は不可能です。

こじれた大統領選挙の後遺症もありそうです。
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統一政府を作ったことで、大統領が指名できる閣僚ポストは、当初の思惑よりも、減ってしまいました。支援に対する交換条件であったはずの約束が果たせず、空手形を切る格好になったのは、アブドラ行政長官も同じです。両陣営に不満が渦巻くこの状況は、合意の維持を危うくし、さらには、人材の有効活用を妨げます。【10月16日 NHK】
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またガニ大統領は、選挙戦でアブドラ氏の支持基盤である北部タジク人票を切り崩すため、かつての内戦での悪名も高いウズベク人のドスタム将軍を副大統領としました。
新政権での発言力を得たこうした旧軍閥勢力をコントロールできるのかも今後の課題です。

新大統領 初めての訪問先は中国
新大統領が就任後の初めての訪問先にどの国を選ぶのかは、どの国もでも注目されるところですが、ガニ新大統領は中国を選択しました。

****アフガン新大統領、訪中へ 初の外国公式訪問 ****
中国外務省の華春瑩副報道局長は22日、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領が28~31日の日程で中国を公式訪問すると発表した。華氏によると、ガニ氏が9月29日に大統領就任後、公式に外国を訪問するのは初めて。

ガニ氏は習近平国家主席らとの会談を予定。中国は経済面での協力強化を通じ、アフガンへの影響力拡大を図る構え。

滞在期間中、新疆ウイグル自治区の分離独立派が、アフガンで軍事訓練を受けているとされる問題についても意見交換するとみられる。【10月22日 日経】
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中国は、他の周辺国同様、アフガニスタンとの経済関係を強化しており、後述のように鉱物資源にも大きな関心を持っています。
アメリカには、多大な犠牲を出しながらタリバンと戦っている間に、中国がその成果をかすめとっている・・・という不満もあります。

なお、アフガニスタンの治安回復は新疆ウイグル族の問題を抱える中国にとっては、単にアフガニスタン国内の経済活動の面だけでなく、中国国内のイスラム勢力を刺激・強化しないという意味で非常に重要な問題です。

「アフガニスタンの平和と安定は中国西部の治安に直接影響する」(王毅(ワン・イー)外相)
米軍がアフガニスタンに残存することになって、中国は本音ではほっとしていることでしょう。

中国との関係が強くなっているとは言っても、アフガニスタンを支えているのやはりアメリカです。
そのアメリカを初めての訪問先にしなかったのは、国内の反米感情に配慮して、アメリカの傀儡ではないということを示すためでしょうか。

もっとも、アメリカは早期の訪米を要請しています。

****アフガン大統領に訪米要請=オバマ氏****
オバマ米大統領は22日、先月就任したアフガニスタンのガニ大統領、アブドラ行政長官とビデオ回線を通じて会談した。3人は、アフガン治安部隊の強化や反政府勢力タリバンとの和平、アフガンの財政再建などについて協議。オバマ大統領は、来年初めに米国を訪問するようガニ、アブドラ両氏に要請した。【10月23日 時事】 
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期待が寄せられている地下資源
麻薬以外に産業らしい産業もなく、国際支援に頼るアフガニスタン財政ですが、アフガニスタンには膨大な“お宝”が眠っているという話があります。

****戦争の火種か!? アフガニスタンで100兆円相当の稀少鉱物発見****
アフガニスタンは、過去20年以上に渡る侵略や内戦が続いている最貧国として知られ、国民の平均寿命も48歳と短い。(中略)

そんなアフガニスタンに、およそ100兆円に相当する世界最大級の鉱脈が眠っているという。

2004年、米軍によってタリバンが掃討された後にアメリカ地質調査所が鉱物に関する調査を開始したところ、旧ソ連の手による地質調査地図が発見され、埋蔵量50年以上分もの金鉱脈の所在が明らかとなった。

2006年にアフガニスタン上空から磁気調査、重力調査、ハイパースペクトル調査をしたところ、さらなる鉱物資源が次々に発見されたのだ。

これまでに発見された鉱物は、銅 6000万トン、鉄 22億トン、レアアース 140万トン(ランタン、セリウム、ネオジムなど)のほか、膨大な量のアルミニウム、金、銀、亜鉛、水銀、リチウムである。

これらの総額をアフガニスタン政府は約90兆円と見積もっており、既に同政府は中国の国営企業、中国治金科グループと銅の発掘権に関する30年間3000億円規模の契約を締結している。

こうした豊富な鉱物資源が、混迷するアフガニスタンにとって「平和・安定」の礎になる可能性は高い。利権を巡ってさらなる争いが起こらないことを祈りたい。【9月21日 日刊大衆】
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旧ソ連の手による地質調査地図云々は、まるで埋蔵金伝説かインディー・ジョーンズの世界のような感もありますが、2010年にアメリカ国防総省が米国地質調査所の調査結果を引用する形でアフガニスタンの埋蔵鉱物資源の価値を1兆ドルと発表したのは事実です。

アフガニスタンへの米軍関与の重要性をアメリカ国内でアピールするためのもののようにも思えますが・・・・。

ただ、アフガニスタンの地質は、ユーラシアプレート、アフリカプレート、インドプレートという3大陸の衝突によって形成されたため、極めて複雑な構造となっており、その結果、銅、金、鉄鉱石、レアアース、大理石、宝石、石炭、石油、ガスなど、種類豊富な鉱物資源があっても不思議ではありません。

実際、近隣のカザフスタンやウズベキスタンも地下資源が豊富な国として知られています。
同様のプレート・テクトニクスの事情によるものなのでしょう。

アフガニスタン政府は、何の根拠あってかは知りませんが、アメリカ国防総省をさらに上回る3兆ドルと推計しているそうです。ちなみにアフガニスタンのGDP は205億ドル(2012年)です。

しかし、現段階で事業化されているものは限定されており、そこへ中国とインドが進出していますが、やはりアフガニスタンの治安が不透明なこともあって難航しているようです。

****中国とインドが狙うアフガニスタンの鉱物資源 ****
国際通貨研究所 開発経済調査部 主任研究員 福田幸正  2014年5月21日

・・・・しかし、1~3兆ドルといっても地下に埋まった資源の推計価値であり、短期的に収益が期待できるものは、北部のアムダリヤ推積盆(Amu Darya Basin)の石油、首都カブールの南東約40キロに位置するアイナック(Aynak)の銅鉱石、中部バーミヤンのハジガク(Hajigak)の鉄鉱石の3つに限定されるといわれている。

アイナック銅鉱山とハジガク鉄鉱山は世界最大規模の埋蔵量が推定されており、鉱山開発には、それぞれ20~30億ドル、関連インフラ整備にさらに同額、ないしはそれ以上の費用がかかるものと見込まれている。

生産が始まっているのは中国企業によって採掘が行われているアムダリヤの石油があり、アフガニスタン政府のここからの税収は、2013年に6,400万ドル、2014年には9,000万ドルにのぼると見込まれている。

2007年、中国企業はアイナック銅鉱山開発のため30年のコンセッションを獲得したが、プロジェクトの周辺には考古学上重要な仏教遺跡群も埋まっており、遺跡調査と遺跡保護のために関係者間で調整が進められることになった。

さらに、2014年末の治安権限の国際軍からアフガニスタン政府への移管や、2014年4月の大統領選挙実施を控えて政治・治安情勢が不安定化する中、最近、中国企業側から事業実施の見直し要求が出された模様であり、なかなか一筋縄ではいかないようだ。

ハジガクの鉄鉱山開発は、インド企業が開発を手掛けることになったが、ここでもアイナック銅鉱山と同様、インド企業から事業実施の見直しの要求が出されているとのことである。

このように、タリバンなどの武装勢力がアフガニスタンの治安を脅かしているにもかかわらず、アムダリヤ油田、アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山に実際に外国企業が開発投資に乗り出してきたことを捉えて、基本的にこれら3プロジェクトを軸とした「アフガニスタン資源回廊戦略」(Afghanistan Resource Corridor Strategy)と称する国土総合開発計画が世界銀行の後押しで構想されている。

その内容は、これら3プロジェクト用の道路や、電力、水などのインフラ整備を行いつつ、同時にプロジェクト周辺地域のインフラも整備し、加えて、周辺の農業開発や農産物加工業などの下流産業の開発も促し、雇用の促進も図るというものである。

さらに、この構想に関連付けて、土地収用制度を含めた各種制度の整備や人材の育成も進め、また、地元住民の意思をくみ上げる仕組みも組み込むという、盛り沢山なものとなっている。

長期的には、これら3地点を起点として開発対象地域を拡大していくことも構想している。今後、外国援助が先細りになっていくことを想定し、豊富にある国内鉱物資源を経済自立の核にしていこうという目論見だ。

ところが、前述のように、最近の政治・治安情勢の不安定化によって、アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山とも開発は足踏み状態であり、アムダリヤ油田も、操業が滞っている模様である。

いずれのプロジェクトもただでさえハイリスクなプロジェクトだが、中国、インドは戦略上の重要性から、それこそ石にかじりついてでも踏みとどまるだろう。

とにかく、何事も今後の治安情勢次第だ。「アフガニスタン資源回廊戦略」にしても、いくら素晴らしい構想であっても、治安の安定がなければ絵に描いた餅になりかねない。

このように、現在足踏み状態とはいえ、新興国の双璧、中国とインドが実際にアフガニスタンのようなハイリスクな国で、これまたハイリスクな大型資源開発事業に実際に投資していることが重要だ。

つまり、アフガニスタンの治安の安定が両国の切実な共通利害となったということに注目すべきだ。(中略)

アフガニスタンは歴史的に周囲の大国に大きく影響されてきた。アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山の開発を通して、関係国がアフガニスタンの安定という共通の利益の実現に向けて協調していくことを期待したい。

その中から、インド・パキスタンの和解、米・イランの和解という歴史的な和解にダブルで結びついていけば、西アジア、中東地域全域に明るい展望が開けるだろう。

そのように見ると、国際軍の撤収と大統領選挙が重なる2014年はアフガニスタンのみならず、世界にとっても極めて重要な年となるかもしれない。(http://www.iima.or.jp/Docs/topics/2014/258_j.pdf
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【「この国の将来は皆さん次第」】
ただ、“資源の呪い”という言葉もあるように、安易に資源に頼る構造は、利権絡みの腐敗・汚職、ひいては利権をめぐる内戦などを引き起こすことにもなりかねません。

資源開発も重要ではありますが、アフガニスタンの復興にとって一番大切な資源は人材であり、それを可能にするのは教育です。

****アフガニスタン 日本の支援で小学校完成 「しっかり勉強して****
アフガニスタンの最貧困地域の一つ、中部バーミヤン近郊に日本の支援で建設されたシェベルトゥ小学校が完成し、22日、高橋博史駐アフガン大使やワルダク教育相らが出席して式典が行われた。

建てられた地域はアクセスが困難な山間部。アフガン政府や国際社会からの開発支援が十分ではないが、治安が比較的安定しており就学率が高く、住民から教育支援を求める声が強かった。

アフガン政府と国連児童基金(ユニセフ)は来年末までに、バーミヤン県と隣接する2県で、計約5万人が就学できる計70の学校建設を計画。日本政府は無償支援で19億円を供与した。

シェベルトゥ小学校に通う予定の子どもたち約100人を前に、高橋大使は式典で「この国の将来は皆さん次第。しっかり勉強してください」と述べた。【10月22日 産経ニュース】
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