孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  アメリカでの西アフリカ帰国者をめぐる騒動 西アフリカの隔離地域では?

2014-10-31 22:41:04 | 疾病・保健衛生

(サイクリングを終え自宅に戻り、メディアに囲まれるヒコックスさん 【10月31日 毎日】)

明るい兆しも・・・
西アフリカを中心に感染が拡大しているエボラ出血熱の死者数は計4920人、感染者数は計1万3703人と、依然として危機的な状況が続いていますが、若干希望が持てる話としては、感染中心国リベリアで感染拡大の減速の兆しが見え始めたと報じられています。

****リベリアのエボラ熱、感染拡大に減速の兆し WHO****
西アフリカ諸国で猛威をふるうエボラ出血熱の問題で世界保健機関(WHO)は29日、感染が最も深刻なリベリアで新たな感染件数が減速するなど終息に向けて望みを抱かせる兆候が見え始めたと報告した。

リベリアでは犠牲者の埋葬件数や病院などでの検査件数も減り始めているとも述べた。ただ、これらの兆候について早急な結論を下すことには慎重な姿勢を示している。

WHOによると、今月29日時点での死者数は計4920人で、感染者数は計1万3703人。
今月25日の報告では疑い例を含む感染者数は1万141人で、今回発表で3500人以上増えたことになる。前回発表での死者は4922人と今回より2人多かった。

エボラ熱の死者の大半はリベリアやギニア、シエラレオネの3カ国となっている。【10月30日 CNN】
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“赤十字の発表によると、モンロビアを含むモンセラード郡でスタッフが収容した1週間当たりの遺体の数は、最も多かった先月15~21日で315人だったのに対し、先週は117人と3分の1余りに減った。これは、エボラ熱の感染拡大が収まりつつあることを示唆しているという。”【10月29日 AFP】とのことです。

また、予防策についてもワクチン実用化に向けた動きが報じられています。
医療経済学的に、企業利益が期待できない“数が限定されたアフリカ・貧困者の疾患”対策がこれまで放置されてきたという点で、遅きに失したことは間違いありませんが・・・・。

****<エボラ出血熱>ワクチン20万人分、来年上半期までに****
 ◇WHO見通し
エボラ出血熱について世界保健機関(WHO)のキーニー事務局長補は24日、ジュネーブで記者会見し、「来年上半期までに20万人分前後のワクチンが使用できるようになる」と述べた。

現在、英製薬大手グラクソ・スミスクラインなどが開発したワクチンと、カナダ政府開発のワクチンの2種類が臨床試験中で、12月にも結果が判明する見通し。新たに5種類のワクチンも開発中で、来年早々にも臨床試験が行われるという。

キーニー氏は「ワクチンは(感染拡大防止の)特効薬ではないが、使用できるようになればエボラ熱流行の潮目を変える材料になる」と話した。【10月24日 毎日】
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エボラウイルス発見者の一人で、国連エイズ計画(UNAIDS)事務局長としてエイズ対策を主導したロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長のピーター・ピオット博士は、警戒の必要性と併せて、明るい可能性にも言及しています。

****エボラ熱「人道の危機*****
エボラ出血熱は、1人の感染者からでも大規模感染につながる。「感染が減少に向かっていたギニアで1人の葬儀に集まった人たちから再び拡大したことがわかっている。最後の1人まで気が抜けない」としながら、各国の支援や、現地で死者の埋葬方法を見直す動きが出てリベリアでは感染拡大がにぶっているとした。
「クリスマスまでにすべての地域で感染が減少に転ずる可能性がある」と楽観的な見方を示した。(後略)【10月31日 朝日】
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なおピオット博士が「人道の危機」と警告するのは、各国が自国のことだけを考えて、感染国との国境を閉ざすなど、感染国を孤立化させるような対応です。

“国境封鎖などで感染地を孤立化させれば、支援を困難にし、感染克服を阻害すると指摘する。「経済活動は止まり、貧困は拡大し、国が普通の機能を失ってしまう。保健衛生の問題ではなく、もはや人道危機だ」”【同上】

公衆衛生の維持か、個人の人権の問題か
そうした中で、アメリカなど西アフリカ以外の先進国でも、感染者の流入、看護者の二次感染などで、エボラ出血熱に対する社会不安が高まっています。

特に、ここ数日関心を集めているのは、西アフリカからの帰国者を隔離すべきかどうか・・・ということです。

西アフリカでエボラ出血熱患者の治療にあたり、帰国後に隔離されているアメリカ人の看護師が25日、まるで「犯罪者」のように扱われたとして、自身に対する空港などの対応を厳しく批判。

エボラ出血熱と戦った「英雄」に最低限の敬意を払うべきだとの批判が噴出して、帰国した医療関係者を一時的に強制隔離していたアメリカの2州が、強硬策の緩和を余儀なくされました。

オバマ大統領も26日、「エボラ熱を発生源で封じ込め、終息させるには医療従事者が必要だ」と述べ、医療従事者のやる気をそがない帰国受け入れ策を検討するよう指示しました。

国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長も、科学的な根拠がなく最前線で対策に当たる医療関係者に心理的な負担を与えるものだとして懸念を表明しています。

前出ピオット博士も、感染地に赴く医師らの熱意をくじくとして知事に撤回を申し入れています。

こうして、帰国した医療関係者については。隔離ではなく自宅での外出禁止に緩和されたのですが、話は収まっていません。

****帰国後の外出巡り看護師と州政府が対立****
アメリカでは、西アフリカから帰国した看護師に対して自宅にとどまるよう求める地元政府と、症状がないとして外出する看護師が対立していて、エボラ出血熱を巡る混乱が続いています。

エボラ出血熱の流行が続く西アフリカのシエラレオネでの医療支援活動を終えて24日に帰国した女性の看護師は、東部ニュージャージー州の空港に到着したあと、27日まで病院に強制的に隔離されました。

その後、「症状がない」として解放されて東部メーン州にある自宅に戻りましたが、メーン州政府から自主的に自宅から外出しないよう求められ、看護師は「健康なのでその必要はない。科学的根拠がなく従えない」などとして反発しています。

こうした対立に全米のメディアが注目し、看護師の自宅周辺には大勢のメディアが押し寄せていて、30日朝には自転車で散策に出かけた看護師を追いかけるなど騒ぎになっています。

地元政府が強制的に看護師に外出を禁止する手段を探る一方、看護師は法的手段に訴える構えを見せて対立していて、アメリカでエボラ出血熱を巡る混乱が続いています。【10月31日 NHK】
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“知事の声明によれば、州側は外出は可能でも、公共の場所を訪れたり、人と約1メートル以内の距離に近づいたりしないよう要請。だがヒコックスさんの同意は得られなかった”【10月31日 時事】とも。

州側は公衆衛生の維持のため、法的措置も辞さない考えを示しており、強制的な自宅待機令などを裁判所に求める可能性があるとのことですが、看護師側も「人権侵害」として提訴を辞さない構えとか。

一般的には、感染者であっても症状が出ていない時期については他人に感染しないと言われています。
それ以上の正確なところは知りませんので、判断も難しいところです。

ただ、州側の懸念も理解できます。
実際に外出中に症状が出始めた場合どうなるのか?
これからますます多くの者が帰国して、その者が街を出歩くことへの社会的不安が混乱を引き起こさないか?本当に全員について自己管理を信用していいのか?

基本的には、西アフリカという“戦地”で実際に“戦ってきた”者と、未だ戦火の及ばない地で生活する者の意識の差でしょう。

砲弾の中で戦う者は、何が危険で、どこまでなら安全かを十分にわきまえて行動します。そうでなければ自らの命を危険にさらすか、あるいは一歩も身動きがとれない状態になります。

爆弾の危険性は十分に理解していますし、一方で、どのようなことさえしなければ爆発はしないということもわかっています。

そのような者からすれば、平和な国にあって、単に爆弾というだけで怖がり遠ざかる人々の心理が苛立たしくも思えることでしょう。

そうであるにしても、個人的には、未だ戦火の及ばない国の人々の不安にも配慮して、“自宅謹慎”あたりで妥協していいのでは・・・と思うのですが。

自宅からの外出を禁止となると、経済的問題も生じます。
アメリカ・ニューヨーク州は、西アフリカから帰国した医療従事者に対して、前の仕事を保障されるよう病院側に働きかけるほか、外出を禁止されて働けない期間の賃金を補償するなどとした新たな支援策を打ち出しました。【10月31日 NHKより】

中国・北京市は、西アフリカからの帰国者に対し、最長潜伏期間の21日間、自宅待機するよう勧めるとしています。中国で“勧める”というのは、実質“強制”でしょう。

オーストラリア政府は27日、流行地域である西アフリカ諸国からの入国を見合わせていると発表しています。
原則として入国査証(ビザ)発行を一時停止するという、かなり思い切った措置です。

もっと徹底しているのは北朝鮮です。
西アフリカだけでなく、すべての国からの入国者を隔離してしまう方針です。

****北朝鮮、エボラ熱対策で全外国人の隔離命令****
北朝鮮が、エボラ出血熱の感染拡大に対する予防措置として、入国する全ての外国人を出身国にかかわらず21日間隔離する方針を発表した。

(中略)エボラ熱の影響を受けていると北朝鮮政府が考える国と地域からの渡航者は、「政府指定のホテルで医療関係者の監視の下」21日間隔離される。それ以外の国と地域からの渡航者も、受け入れ先の機関により指定されたホテルに隔離されるという。

北朝鮮ではこれまでのところ、エボラ出血熱への感染が疑われる患者は報告されていないが、感染拡大への懸念から先週、外国人観光客の入国を拒否する方針を発表している。【10月31日 AFP】
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個々人の人権に関する発想が異なりますので、対応も異なります。

西アフリカの隔離地域の住民の人権は?】
アメリカの問題の看護師の恋人とサイクリングする権利はともかく、世界が本来もっと心配すべき人権は、西アフリカの人々の人権でしょう。

治療法がない現状で“生きる権利”の問題はさておいても、“隔離”についても、西アフリカでは感染者が多い地域は地区ごと隔離され、その中の住民の生活・生命がどうなるのか・・・という基本的問題が生じています。

****ギニアなど3か国、エボラ出血熱の流行中心地を隔離へ****
ギニア、リベリア、シエラレオネの3か国は1日、700人以上の犠牲者を出し史上最悪の流行となっているエボラ出血熱について、関係国の首脳らが出席した緊急会議で、流行の中心となっている同3か国の国境が接する地域を封鎖して隔離すると宣言した。(後略)【8月2日 AFP】
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****エボラ流行で隔離の地区、住民に「飢餓」の危機 リベリア****
致死率の高いエボラ出血熱が猛威を振るい、数か月前から人々が危機的な状態に置かれてきたリベリア北部で今、感染拡大の阻止を目的に隔離された地区の住民たちが、飢餓という新たな脅威に直面している。

西アフリカ全体で1000人近くの命を奪ったエボラ出血熱を封じ込めるための取り組みとして、リベリア政府は先ごろ、最も多くの患者が確認された北部地域を隔離。軍の車両が道路を封鎖し、人の移動を制限している。

しかし、隔離措置によって業者が食料品を仕入れることがきなくなり、農家も作物の収穫ができなくなっていることから、地域では商品が不足。価格が急騰している。

(中略)「住民は餓死するのではないかと恐れ、パニックに陥っている」
(中略)「感染拡大を封じ込めるための隔離には賛成だが、私たちが餓死する必要はない。診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか。エボラウイルスの犠牲者以上の人が死ぬことになる」(後略)【8月10日 AFP】
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****リベリア、住民隔離で軍部隊と衝突****
エボラ出血熱の勢いは止まらず、西アフリカでこれまでに1350人以上の死者を出す史上最悪の事態となっている。大流行を食い止めるべく大規模な取り組みが行われているが、その結果、リベリアでは異様な事態が起きている。

リベリア政府は19日、首都モンロビアにあるスラム地域の隔離に踏み切り、その結果、怒った住民と当局の衝突が起きた。(後略)【8月21日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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こうした隔離策がとられてすでに2~3か月が経過します。
隔離地域の住民の暮らしがどうなっているのか・・・心配されます。

自己主張に関する社会的差異
アメリカの看護師の問題に戻ると、エボラ出血熱の問題としてよりは、自己主張の在り方に関する違いに、個人的には興味を感じました。

日本では、何か問題があると、「世間をお騒がせして・・・」「皆様にご迷惑をおかけし・・・」という謝罪になりますが、世間が騒ごうがどうしようが、とにかく自分の正しいと思うことは主張する・・・というあたりは、日本とはやはり異質な社会だな・・・と感じた次第です。

別にアメリカのような社会が好きだとか言うつもりもありませんし、それぞれに一長一短あるところでしょうが、日本社会のあまりに世間云々に気を使う風潮には、やや辟易するところもあります。
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