孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本の天然ガス輸入に影響する北米産シェールガスとロシア産ガスの動向

2014-10-28 22:57:14 | ロシア

(東京電力富津火力発電所 http://www.tepco.co.jp/cc/pressroom/futtsu-j.html )

北米産シェールガス供給が始動 輸入額抑制と安定確保に期待
周知のように、2011年3月の福島原発事故以降の原発停止を受けて、日本の発電用天然ガス需要が急増しています。

全世界のLNG(液化天然ガス)出荷量の約3分の1を日本が購入しているとのことで、日本は世界最大のLNG輸入国となっています。

急増した需要に対応するため、日本の電力会社などによるLNG購入可価格は世界相場に比べかなり割高となっていると言われ、昨年の日本のLNG購入額は過去最高の7兆円にのぼり、これは震災前の2010年に比べ、2倍以上になっているとのです。

こうした事態を改善する切り札として期待されているのが、安価な北米産シェールガス(地下の頁岩(けつがん)層を水圧で破砕する技術により産出)の輸入です。

最大のシェールガス生産国であるアメリカはエネルギー輸出については制約を設けており、また、LNGに加工する設備も必要となりますので、安いからすぐに調達する・・・という訳にもいきませんが、次第に環境も整ってきて事業化が進展しているようです。

****米 日本へのシェールガス輸出基地が着工****
アメリカの天然ガスを日本に輸出するための輸出基地の建設が南部ルイジアナ州で始まり、中東などよりも割安になると見込まれるシェールガスの輸入に向けた具体的な動きとして期待されています。

アメリカ南部のルイジアナ州で23日に開かれたLNG=液化天然ガスのプラントの起工式には、日本の大手商社三井物産と三菱商事の幹部らも出席し、鏡開きを行いました。

アメリカでは、シェールガスの開発によって天然ガスの生産が飛躍的に伸びたことから、エネルギー省は輸出の解禁を決めており、今回が日本向けとして初めて最終承認を受けたプロジェクトになります。

プラントの総事業費は1兆円で、輸出されるLNGは合わせて1200万トンと日本の年間の総需要のおよそ14%に相当します。

このうち日本向けには、すでに東京ガスや東京電力など4社が購入契約を結んでおり、2018年に輸出が始まる予定です。

シェールガスは、輸送費を加えても、日本が現在輸入している中東やアジアのガスより割安になると見込まれるため、貿易赤字の要因になっているLNGの輸入額の抑制とエネルギーの安定確保につながる具体的な動きとして期待されています。

三井物産エネルギー第二本部長の吉海泰至さんは「日本にとって調達の選択肢が広がることに大きな意義がある。かなりの量を確保したので立派なエネルギーの基盤になると思う」と話しています。【10月24日 NHK】
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アメリカでシェールガス生産が急増したことで、これまでアメリカにガス輸出していたカナダが、代替輸出先として日本向けのLNG輸出を拡大する動きもあるようです。

****対日輸出計画、年内にも始動=割安なカナダ産天然ガス―シェール革命が進展****
カナダ産液化天然ガス(LNG)を日本に輸出する計画が、年内にも始動する見通しだ。

カナダ産天然ガスは割安で、日本にとって調達コスト低減につながる可能性がある。2年後に始まる米国産の輸出に追随する動きで、北米で進展する「シェール革命」の恩恵が消費国にも拡大しようとしている。

カナダで日本企業が絡むLNGの輸出事業は4件。日本勢が確保にめどを付けたLNGは年間約900万トン。米国産と合わせて日本の輸入量の3割が北米から調達できることになる。

このうち、石油資源開発が参加する事業は、年内に最終的な投資判断が行われる予定。投資が実現すれば、シェールガスをパイプラインで港に輸送してLNGに加工する事業が2018年にスタートし、19年には対日輸出が開始される。LNGは福島県相馬港に建設される基地で受け入れる。

また、出光興産が参加する事業は既存のパイプラインを活用する。投資が決まれば17年に輸出が始まる可能性がある。

カナダは世界第5位の天然ガス生産国。米国向けに生産量の約6割を輸出していたが、同国で天然ガスの生産が急増した影響で、13年の米国向け輸出はピーク時の07年から約25%減少した。

米国に代わる輸出先の確保が課題となっており、カナダのリックフォード天然資源相は「日本や他のアジアには大きな可能性がある」と意欲を示している。【10月27日 時事】 
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すでにこれまでも、アメリカのシェールガス増産は、競合する石炭がアメリカ国内で需要が減り、その分が欧州向けに輸出され、欧州のロシア産天然ガス需要が減少、ロシアは中国・日本などアジア向け輸出に目を向け始める・・・といった、“玉突き”現象を起こしていますが、今後北米のシェールガス輸出が本格化すれば、更にこうした需給関係の国際的転換が加速されることと思われます。

ロシア産ガス:政治的要因に左右されるリスクも
日本政府はLNG調達価格を引き下げようと調達先の多角化に取り組んでおり、北米産シェールガスと並ぶもうひとつの「重要なカード」がロシア産天然ガスです。
すでに、昨年日本が輸入したLNGのうち、約1割をロシアからのガスが占めています。

ただ、ロシアの場合、ロシア側の政治的判断で計画・事業が急変するリスクがあります。

ロシアは現在、先述の北米産シェールガスの影響に加え、ウクライナ情勢に伴う欧米の制裁を受けて、中国との接近を図っており、ロシア・ガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)は今年5月、中国向けに天然ガスを2019年から30年間にわたり輸出する契約に調印しています。

****ロシア:天然ガス 中国への供給パイプライン起工式****
ロシア東シベリアの天然ガスを極東経由で中国に供給するパイプライン「シベリアの力」の起工式が1日、サハ共和国の首都ヤクーツクであった。

式典にはプーチン大統領が出席。ウクライナ危機で欧州がエネルギー資源のロシア依存脱却を進める中、ロシアとしてガス輸出先の「東方シフト」を推進する姿勢を鮮明にした。

プーチン氏は式典で「世界最大の建設プロジェクトは、ハイレベルな中露関係のおかげで可能になった」とあいさつ。中国からは張高麗副首相が参加した。

「シベリアの力」はチャヤンダ(サハ共和国)、コビクタ(イルクーツク州)で産出するガスを極東に運ぶもので、総延長は3968キロに及ぶ。総工費は7700億ルーブル(約2兆1400億円)。

ロシア国営ガス企業ガスプロムによると、ヤクーツクから国境のブラゴベシチェンスクまでの区間を2018年末までに完成させ、翌19年から中国へガス輸出を開始する。

ロシア産ガスの対中輸出は価格交渉が長年難航していたが、今年5月にプーチン氏が訪中した際、年380億立方メートルのガスを30年間にわたって供給する総額4000億ドルの大型契約で合意した。ウクライナ危機で欧米などの制裁を受けるロシアが、対中輸出に活路を見いだすため決着を急いだとされる。

「シベリアの力」は将来ハバロフスクまで延伸し、サハリン産ガスを極東に運ぶ既存パイプラインと接続する。プーチン政権が掲げる極東・シベリアの発展につなげるほか、ウラジオストクでLNG(液化天然ガス)化してアジア太平洋諸国に輸出する計画だ。【9月1日 毎日】
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上記の“ウラジオストクでLNG(液化天然ガス)化”については、ガスプロムのミレル社長が13日、「撤回する可能性がある」と発言しています。ミレル社長は、ガスを液化せずにウラジオストクから中国向けに直接パイプラインで供給する計画を検討するとも述べています。

****LNG 日本、調達先多角化にリスク****
ガスプロムの首脳が、日本が参画を検討する極東のLNG開発の一部計画を撤回する可能性を示唆したことは、国際政治が色濃く影を落とすロシアとの共同事業の難しさを浮き彫りにした。

政府はLNG調達価格を引き下げようと調達先の多角化に取り組む。ロシアはその「重要なカードの一つ」(政府筋)だけに、ロシア相手の“資源外交”のリスクが際立つ。

ガスプロムはロシアの政府系天然ガス独占企業で、ロシア政府の強い影響下にあるとされる。同社首脳が極東ウラジオストク郊外のLNGプラント建設計画の撤回をにおわせたことは、「ウクライナ情勢をめぐる経済制裁で欧米と共同歩調をとる日本への揺さぶり」(外交筋)の意図が見え隠れする。

もっとも、計画参画を検討する日本企業では、こうしたロシア政府系企業の特徴は織り込み済みだ。
ロシアは経済制裁を受けて、中国への供給シフトを強めている。ある日本の大手商社の幹部は「プロジェクトが白紙になったわけではない」と冷静に受け止めており、今後の動きを注視する構えだ。

資源エネルギー庁によると、日本の天然ガス調達に占めるロシアの割合は、9・8%。最大のオーストラリアが20・5%を占め、これにカタール(18・4%)とマレーシア(17・1%)が続く。ロシアとの開発計画の凍結が、日本の調達に与える直接の影響は小さい。

ただ、日本は東日本大震災後に増えたLNGの調達価格の高止まりを打開するため、一部の資源国への調達依存度を下げ、調達交渉を有利に進めようとしている。

ロシアは地理的に日本と近く、輸送コストが低く抑えられる利点もある。ロシア側の出方によっては資源調達戦略の再考を迫られる可能性もある。【10月15日 産経】
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また、ガスプロムメドベージェフ副社長は、東シベリアの天然ガスを中国に供給するため建設中のパイプライン「シベリアの力」について、日本などアジア向け輸出のための延伸は現状では必要ないとの見通しを明らかにしています。【10月18日 毎日】

一方で、ロシアからは、サハリンと北海道をつなぐ天然ガスパイプラインの建設が提案されています。

****ロシア、日ロ間にガス管建設提案 宗谷海峡経由で ****
ロシア政府がサハリンと北海道をつなぐ天然ガスパイプラインの建設を日本側に提案していることが明らかになった。

欧米の対ロ制裁が強まる中、日本との経済関係の拡大を目指すプーチン政権のアジア戦略の一環だ。実現すれば日本と他国を結ぶ初のパイプラインとなる。日本政府は外交面の影響も見極めて対応を決める方針だ。(中略)

ロシアがパイプライン建設を提案した背景には日本に安価なガス供給をちらつかせ、ウクライナ問題を巡る先進7カ国(G7)の対ロ包囲網を切り崩す狙いがある。

ただ日本側にはウクライナ問題で米国とロシアの関係が悪化する中、新規のエネルギー協力に乗り出すことに慎重論もある。外務省幹部は「実施の可否はウクライナ問題や北方領土交渉の進展に左右される」と語る。【10月15日 日経】
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ロシアとの関係が政治情勢で急変することは今に始まった話ではありませんが、天然ガスに関しても、今後のウクライナ情勢を受けて更に変化することもあり得ます。

また影響するファクターとして、ロシアは人口も希薄なシベリアに中国が経済的影響力を拡大することに潜在的脅威を感じているという基本的な問題もあります。
日本のロシアへの対応に北方領土問題が絡んでくることも言うまでもないところです。

上記のように、今後の日本の天然ガス輸入については、北米産シェールガスやロシア産ガスの動向が大きく影響してきますが、日本側の要因としては、原発再稼働が今後進めば、そもそも天然ガス需要自体が現在の水準から大きく低下するということもあります。

また、これまでの中東・東南アジアからの日本の天然ガス輸入契約は原油価格に連動して決められていることもあって高値になっていると言われていますが、原油価格がここのところ急落しており、この先2~3年は安値が続くことも予想されています。原油の価格動向は、日本の天然ガス調達コストにも影響すると思われます。

更に、原油価格が安値で推移することになれば、資源輸出に依存するロシアは今以上に追い込まれる形になり、日本へのガス・原油の供給アプローチも変化することも考えられます。
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