孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  ジョコ新大統領の改革を阻む多くの難題

2014-10-03 22:06:48 | 東南アジア

(清新さで政治・社会の刷新ができるか・・・ジョコ・ウィドド次期大統領 “flickr”より By Warta Mixie https://www.flickr.com/photos/125703247@N08/15037420591/in/photolist-oUNHfg-obGfeM-oAG42v-oSrsbY-oUpTVb-oaT82i-oUbqaN-o9j1S7-o7ZCgm-o3DoKC-objRW6-obNViG-ovj4gz-oiZWRm-oAe71n-oyt1Q1-otymhY-nTQVxw-obYSaL-nU1nvd-obNdCC-oJhF8M-oRzNxu-oqJqak-nTkpGA-obFzxH-obW2xk-od8auG-oaJFb7-oaW8uL-od1JEA-oRoB5G-oUdQka-oBsQcn-oU5833-oRoAFW-odaNYi-oCCWYc-owMVv2-obkoNW-ocPK3E-oxFo2E-oB3ZQs-oB8hub-od23s8-oC5ypD-nUEHP5-oRae31-oBmYk6-oBvp36)

【「小さき民」の声を重視する庶民派
7月9日に投開票されたインドネシア大統領選挙は、前評判が高かったジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏(53)(闘争民主党)が、対抗馬の元陸軍戦略予備軍司令官、プラボウォ・スビアント氏(62)(グリンドラ党)の追撃を振り切って勝利しました。

プラボウォ氏は選挙に不正があったと異議申し立てしていましたが、インドネシア憲法裁判所は8月21日、プラボウォ陣営による選挙結果への異議申し立てを却下して、ウィドド氏の勝利が確定しています。

ジョコ次期大統領は、これまでの有権者と距離のある有力政治家一族や元軍人の政治家とは異なり、「小さき民」の声を重視する庶民派で、その庶民的人気を背景にソロ市長、ジャカルタ知事、そして大統領と、インドネシア政界では異例の経歴でトップに上り詰めました。
政策的にはインドネシア社会に蔓延する汚職の撲滅を前面に出しています。

一方の、プラボウォ氏はトップ・エリートの家庭に生まれ育った人物で、少年時代に海外での生活も長く経験しているため、英語やオランダ語などの外国語も堪能。陸軍に入隊後は、スハルト大統領の第4子と結婚すると、軍内で急速な昇進を遂げたというエリート軍人です。

しかし、1997-98年に民主化運動が高揚したときは、陸軍のエリート部隊である戦略予備軍(Kostrad)や特殊部隊(Kopassus)の司令官として、民主化活動家の誘拐事件やジャカルタ暴動に関与していた疑いがもたれています。【7月2日 フォーサイト より】

汚職撲滅以外の政策では表面的な差はあまりない両者ですが、そのプロフィールは上記のように非常に対照的でした。

そして、そのプロフィールの差は、旧体制を維持するのか、新しい社会に改革するのかという政治姿勢の差でもあります。

利権と縁故による政治という旧体制の壁
もっとも、一個人の力では社会の刷新は容易でなことではないのは言うまでもないところです。

****清新”ジョコ氏でも簡単ではない利権政治の打破****
・・・・ジョコ氏は改革派として期待されている。

ただ、インドネシアは世界第4位の2億4000万人という大人口を抱え、1万3000あまりの島々から成る広い国土を持つ。

その上、スハルト体制崩壊後に地方自治権が大幅に強化されているなど、中央からの指示だけで簡単に物事が動く社会ではない。その中で、ジョコ氏は5年の任期をかけて改革に取り組んでいくことになる。

では、ジョコ氏が掲げる改革とは何か。実は選挙公約だけ見れば、ジョコ氏が汚職撲滅を強調している以外には、両候補に大差は見られない。

インドネシアのような新興国にとって、マクロ経済の安定化、インフラ開発、教育等人的資源の開発、投資環境の改善、基幹産業の育成など、あらゆる分野でやるべきことは山積している。

そのため、誰が大統領になったとしても、インドネシアが次の段階に飛躍するための課題は明白だ。
実際、両候補の個別政策は、道路・空港・港湾・鉄道など公共インフラの開発、燃料補助金の圧縮を通じた国家財政の健全化など似通っている。

最大の違いは政策へのアプローチの仕方である。ジョコ氏は「小さき民」、すなわち草の根の国民の声を重視して、国民と共に新生インドネシアをつくり上げていこうという姿勢である。

一方で、プラボウォ氏は「強いインドネシア」を強調し、トップダウン型の指導によって国家と国民を強靱化させようとする。

国民が大統領選の行方を固唾をのんで見守ったのは、そのどちらを望むのかという、根本的な国家像に対する選択が迫られたからに他ならない。

だが、今回の大統領選では利権と縁故による政治という旧態依然とした実情も突き付けられた。

その典型は、大統領選直前にジョコ氏支持からプラボウォ氏支持に寝返ったゴルカル党(第2党)のアブリザル・バクリー党首である。

ジョコ氏の副大統領候補にはゴルカル党の大物政治家ユスフ・カッラ元副大統領が出馬表明しているにもかかわらず、党としてはプラボウォ氏支持と宣言した。

アブリザル氏にとっては旧来型のやり方を継続するプラボウォ氏の方がくみしやすく、自身が総帥を務めるバクリー・グループの利権に、ジョコ氏によるメスが入りかねないという危惧もあっただろう。

また、当初は中立を表明していたユドヨノ民主党党首(現大統領)も、最終的にはプラボウォ氏支持を表明した。ユドヨノ大統領の息子がプラボウォ氏の副大統領候補ハッタ・ラジャサ氏の娘と結婚しており、姻戚関係が決定打となった。

一方、ジョコ陣営も利権から自由ではない。確かにジョコ氏自身にはスキャンダルのうわさは聞かないが、陣営に参加した政党や政治家には他の思惑もある。

例えば、新党である民主国民党のスルヤ・パロ党首はいち早くジョコ氏支持を表明した。スルヤ氏は新興勢力としてビジネスで大きな成功を収めている。
通信・メディア・ホテルなど伸び盛りの産業が中心で、比較的新しい分野で成長しているため、旧来型の財閥が政治や行政とつながって古い規制を維持していることは、ビジネス拡大のための障害であろう。

スルヤ氏に限らずジョコ陣営に加わった政党には、今後の改革の流れの中で生まれる新しいプロジェクトでの利権獲得を狙う、という意図も見え隠れするのである。(後略)【7月28日 DIAMOND online】
********************

反対勢力の巻き返し 首長選「間接選挙」】
大統領選挙は7月でしたので、ジョコ氏がもう新大統領に就任したのかと思っていましたが、就任は10月20日の予定で、まだユドヨノ氏が大統領職にあります。

そんな就任前に、敗れたプラボウォ氏を軸とする勢力による巻き返しの動きが早くも見られます。

****インドネシア次期政権に難題 首長選「間接選挙」に改正****
インドネシア国会は26日未明、州知事や市長ら首長の直接選挙を廃止し、地方議会が選ぶ間接選挙とする改正法案を賛成多数で可決した。

改正法案は7月の大統領選で落選したプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官が推し進めていた。10月から新たな顔ぶれとなる国会や地方自治体で野党連合の影響力を高め、新政権を揺さぶる狙いとみられる。

インドネシアでは1998年のスハルト独裁政権崩壊後、民主化と地方分権が進み、2005年から首長は直接投票で選ばれるようになった。だが、巨額の選挙費などを理由に改正が検討されてきた経緯がある。

10月20日に大統領に就任するジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事は自らも首長選挙で頭角を現してきただけに、「民主化の後退」だと懸念を表明。世論調査でも8割が改正に反対していた。

改正法案には、プラボウォ氏と協力関係を維持し、10月からの国会で最大野党となるゴルカル党のバクリ党首らも賛同。

ただ、改選前に第一党(148議席)だった民主党が世論を受けて反対姿勢を示し、否決されると予想されていた。しかし、25日の審議は紛糾して10時間に及び、民主党は採決を棄権。

その結果、法案は賛成226、反対135で可決された。ジャカルタ・グローブ紙(電子版)は「民主党と(党首の)ユドヨノは恥を知れ」と題する社説を掲げた。

ユドヨノ大統領は、プラボウォ陣営とジョコ次期政権に対して「中立」姿勢を維持する一方、ジョコ氏を擁立した闘争民主党党首のメガワティ前大統領とは、過去の大統領選の確執で「犬猿の仲」とされ、今回の法改正にも両党首の対立が影響したとみられる。

新たな国会で単独過半数に達せず、他党との協力が不可欠な次期大統領の与党に難題が立ちはだかった格好だ。【9月27日 産経】
********************

プラボウォ氏支持の政党連合は大半の地方議会で多数を占めており、間接選挙では有利な立場にあります。
一方、ジョコ次期大統領は市民による人気の高さから市長やジャカルタ特別州知事を歴任し大統領の座を射止めた「直接選挙の申し子」といえる存在です。

一般国民の反対も強く、時代に逆行するような今回法案が成立した背景には、上記のようなユドヨノ大統領率いる民主党の行動が大きく影響しており、ユドヨノ大統領は批判に曝されていました。

「うそつき」呼ばわりされているユドヨノ大統領としては、大統領権限を行使してなんとか去り際を取り繕いたい思いもあるようですが、どうなるかは不透明です。

****直接選挙維持へ緊急政令=地方首長選―インドネシア****
国会で地方首長選の直接選挙を廃止する法案が可決されたインドネシアで、ユドヨノ大統領は2日、直接選挙を維持するための緊急政令を公布した。

緊急政令は、緊急事態などが起きた場合に法律の代わりに大統領が国会の同意なく公布できる時限的措置。ただ、効力を維持するには国会の同意が改めて必要となるため、直接選挙制度が続くかどうかは依然不透明な状況だ。(後略)【10月3日 時事】 
********************

新政権の試金石 燃料補助金削減問題
政策面で新大統領が直面する課題は、財政悪化を招いているガソリンなどの燃料補助金削減です。

補助金を削減してガソリン価格が高騰すれば庶民の生活を直撃するだけに、燃料とか食料品への補助金の削減は、財政悪化の元凶とわかってはいても、多くの国で手が付けられなかったり、政変につながったりする難題です。

****インドネシア財政悪化の“元凶”取り除けるか…新政権の改革はらむ危険性****
・・・・2期10年に及んだユドヨノ政権のもと堅調な経済成長を続けてきたインドネシアだが、そのゆがみがいま顕在化している。最たるものが慢性化した交通渋滞だ。(中略)

急速に増加する自動車台数に、道路や公共交通機関などのインフラ整備が追いつかないのが渋滞の原因だ。このため、10月20日に新大統領に就任するジョコ・ウィドド氏はインドネシア全土で2千キロの道路建設を公約に掲げた。

公共工事には財源が不可欠だ。白羽の矢が立ったのが、庶民向けの低品質な石油製品をほぼ半額に抑えている補助金の削減。

しかし、ガソリンや軽油などの価格が上がれば輸送コストの増大で日用品や食料の値上げにもつながる。(中略)

経済成長に水を差しかねない政策に新政権があえて取り組むのは、燃料補助金が政府の財政悪化や国富の流出をもたらす“元凶”となっているからだ。

インドネシアは原油や天然ガス、鉱物などの天然資源に恵まれており、従来は原油や石油製品の輸出で得た財源を補助金に回し、国内では石油製品を安く提供してきた。

だが、人口の増加や工業化の進展による発電用需要などで、国内の石油消費量が増大。一方、輸出は油田の生産量低下などにより減少を続け、2004年以降は原油や石油製品の輸入国に転じている。

しかし、ユドヨノ政権は庶民の要望が強い補助金の抜本的な削減には踏み切れず、政府支出は拡大を続けた。09年に始まった2期目には約5倍に膨らんだという。

日本政府関係者は、ジョコ氏が新政権の最初の仕事として補助金削減に取り組むのは、「危機意識の表れ」だと指摘する。(中略)

補助金が付いた質の悪い燃料が大量に使用される現状が改善されれば深刻な大気汚染も解消できるなど、さまざまな効果がありそうだ。現地では「新大統領の経済感覚には大いに期待している」(オスマン・アリフィン氏)と肯定的な声も出ている。

また、日本貿易振興機構(ジェトロ)の担当者は、「新たな財源が捻出できれば、補助金の本来の目的だった貧困層対策にも使える。教育や医療の質も向上するだろう」と説明する。低所得層から中間所得層への移行が加速すれば、旺盛な内需はさらに拡大する。

一方、補助金削減により当面は庶民の強い反発を招くのは避けられない。

スハルト独裁政権が1998年に退陣した直接のきっかけも燃料価格の引き上げだっただけに、政権を揺るがしかねない危険性をはらむ。日系企業からは「リスクを冒してまで断行できるのだろうか」(自動車大手担当者)と疑問の声も上がる。

補助金削減は早ければ年内にも実施されるとみられており、新政権が「成長のゆがみ」を解消できるかの試金石となりそうだ。【9月30日 産経】
********************

新大統領の手足を縛りかねないメガワテイ人脈
政策課題に直面して新大統領としては大きな抵抗に打ち勝つ実行力が要求されますが、ジョコ政権が新大統領の意思どおりに動くようなものになるのか、疑問も出ています。

****傀儡と化すインドネシア新政権 メガワテイ人脈が人事を牛耳る****
十月に就任式を迎えるインドネシアのジョコ・ウィドド新大統領の政権が「メガワティの傀儡」になろうとしている。

内閲の顔ぶれが水面下で調整されているが、これを助言するチームを主導しているのはリニ・スマルノ氏。
メガワティ政権時代の産業貿易大臣であり、私生活でも元大統領の大親友として知られる人物だ。

リニ氏以外の顔ぶれを見てもメガワティ氏のシンパばかり。
ジャカルタ特別州知事として庶民派の味方というイメージを使って勝利したジョコ大統領は操り人形となると予想されている。【選択 10月号】
*****************

ジョコ氏はスカルノ大統領の長女でもあるメガワティ元大統領率いる闘争民主党に属しています。
メガワティ氏はジョコ氏を副大統領候補として、自身が大統領選に再挑戦したかったようですが、人気が高いジョコ氏でないと勝てないということで、やむなく身を引いた経緯があります。

そういうドロドロした関係も新大統領の足を引っ張りそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする