孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  金正恩氏健康問題、中朝関係、露朝接近、南北関係、国内経済、人権侵害等のわかりにくい話

2014-10-08 22:46:06 | 東アジア

(金日成氏死去から20年の中央追慕大会で足を引きずって歩く金正恩氏 http://www.youtube.com/watch?v=eRZqGpJ28p0

【「人民のための指導の道を炎のように歩み続ける我が元帥」】
自国日本を含め、どこの国についても政権内部の動きというのは外部の人間にはわからないことが多いのですが、とりわけ北朝鮮は“分かりにくさ”では世界トップクラスと言えます。

最近話題になっているのは、9月3日以来公の場に姿を見せない金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の健康問題です。
今月7日に開かれた父親・金正日氏の記念式典も欠席したということで、痛風説や、足首の手術説などの憶測が飛び交っています。

****金正恩氏、姿見せず・・・金正日総書記の就任17周年の記念式典も欠席****
北朝鮮で金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が公の場に姿を見せない状態が続いている。平壌(ピョンヤン)市内で7日に開催された、「金正日同志の朝鮮労働党総書記推挙17周年慶祝中央報告大会」にも姿を見せなかった。

北朝鮮のメディアは4日、金正恩第1書記自らが設立させた牡丹峰(モランボン)楽団の9月3日のコンサートを夫人とともに鑑賞したと報じたが、それ以降、金第1書記が公の場に姿を見せたとの報道はない。

同月25日には北朝鮮の国会に相当する最高人民会議が開催された。金第1書記はそれまで最高人民会議には出席していたが、25日の会議には姿をみせなかったとされる。

同月25日には、朝鮮中央テレビが、7月に撮影したとされる映像を放送し、足を引きずっている金第1書記を「不自由な体なのに人民のための指導の道を炎のように歩み続ける我が元帥」と表現し、歩行に障害が出ていることを事実上認めた。(後略) 【10月8日 Searchina】
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もっとも、動静がわからないことよりは、足を引きずる姿を公開したことの方が異例とも言えます。
いずれにせよ、最高権力者の健康状態如何では政権内部の権力バランスが不安定化し、拉致問題調査報告を含めた多くの問題にも影響がでます。

政権内部の権力闘争に関しては“韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「ニューフォーカス」は2日、北朝鮮の黄炳瑞軍総政治局長と秘密警察である国家安全保衛部の金元弘部長が対立し、黄氏が金氏の息子らを対象に調査に乗り出したと伝えた。黄、金両氏とも金正恩第1書記の最側近として知られる。”【9月2日 時事】との報道もあります。
軍と秘密警察・・・張成沢氏粛清に続いて、熾烈な闘いが推測されます。

過度の対中依存を脱しようと、対外関係の多角化を試みている
中朝関係の実態もよくわかりません。なにせ相手の中国もわかりにくい国のひとつですから。

中国の税関統計では北朝鮮向けの原油輸出実績がゼロになっていることで、中国が意のままに動かない北朝鮮への支援を凍結して圧力をかけているのでは・・・とも言われていました。

しかし、統計数字の解釈の問題のほか、北朝鮮内部でガソリン価格が急騰、あるいは不足したといったような、異常な動きは見られていないということで、「中国の統計に出ていないからといって、中朝関係の悪化を断言するには早すぎる」(韓国政府当局者)、「北京から聞こえてくる“北朝鮮いじめ”は、実のところは平壌が暴走したら中国は言うべきことを言う、というジェスチャーに近い」(韓国のある中国ウオッチャー)【9月2日 東洋経済online】といった話にもなっています。

中朝関係が悪化したというより、北朝鮮としては中国だけに頼っていては資金的に足りないので、日本などとも関係改善に動き出しているという見方も。

“最近になって日朝関係が好転の兆しを見えているが、これは中国などとの関係が悪化したからという単純な見方ではなく、中国のカネも必要だが日本のカネも必要だという北朝鮮側の慎重な計算が働いているのでは、と『週刊東亜』は見ている。”【9月2日 東洋経済online】

そうは言っても、何か今までとは異なるよそよそしい関係も窺えます。
北朝鮮から中国への祝電にも変化が見られると報じられています。

****中国との国交65周年 北、祝電見送り****
北朝鮮の金正恩政権が中国との国交樹立65周年(今月6日)に当たり、今年は中国への祝電送付を見送った可能性が指摘されている。

北朝鮮は1日の中国・国慶節に際しても、習近平国家主席ら中国指導部に対し、例年より大幅に簡素化した祝電を送っていた。

ラヂオプレス(RP)によると、中朝両国は節目となる5年ごとに、国交樹立の祝電を交換してきた。北朝鮮側が祝電を送った事実の公表を控えている可能性もあるが、その場合でも異例であり、最近の中朝関係の冷却化を象徴している。【10月8日 産経】
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こうした中朝間の変化を埋めるように、ロシアと北朝鮮が接近しているとも・・・。

****北と露が急接近 北、中国との関係冷え込み 露、米欧制裁で深まる孤立****
北朝鮮の李洙●(リ・スヨン)外相が計11日間という異例の日程でロシアを訪問している。
金正恩(キム・ジョンウン)体制が2012年4月に発足して以降、北朝鮮外相の訪露は初めて。

中国との関係が冷え込む北朝鮮と、米欧の制裁で孤立感を深めるロシアが、ともに対外関係の「多角化」を目指して急接近している形だ。
                   ◇
(中略)露朝接近の背景には、北朝鮮と、その後ろ盾とされる中国の関係冷却化がある。
核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に中国はいらだちを強め、今年に入って石油のパイプラインでの供給も中断したとされる。

露科学アカデミー東洋学研究所のボロンツォフ氏は「中国と北朝鮮の関係が決定的に悪化したと見るのは行き過ぎだ」としつつ、「北朝鮮が過度の対中依存を脱しようと、対外関係の多角化を試みているのは確かだ」と話す。(後略)【10月3日 産経】
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上記も、「北朝鮮が過度の対中依存を脱しようと、対外関係の多角化を試みている」との見方です。

****ロシア、北朝鮮に小麦2万トン=プーチン大統領が命令****
ロシア外務省は7日、北朝鮮向けの人道支援物資として小麦約2万トンを送り届けたと発表した。小麦は3日に黄海沿岸の南浦港に到着。さらに支援を行い、年末までに計約5万トンに達するという。

人道支援はプーチン大統領の命令に基づく。

ロシアによる小麦の支援はこれまでも行われている。金正恩体制の下で北朝鮮と中国の関係がぎくしゃくする一方、ロ朝関係が良好さを保っていることを示すものと言える。【10月8日 時事】
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南北間関係改善ムードのなかでの“射撃戦”】
韓国との南北関係については、黄海での5年ぶりの“射撃戦”が起きています。

****南北、黄海で撃ち合い 5年ぶり 警備艇、韓国域に侵入****
北朝鮮の警備艇1隻が7日午前、黄海の北方限界線(NLL)を越えて南側海域に侵入し、韓国艦艇との間で“射撃戦”が繰り広げられる異例の事態となった。海上で射撃の応酬となったのは2009年以来約5年ぶり。負傷者など被害は確認されていない。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党第1書記の最側近で朝鮮人民軍の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長らが4日に訪韓し、南北高官級協議の再開で合意したばかり。
北朝鮮側の真意をめぐっては、「高官級協議を有利に進めるための揺さぶり戦略」(聯合ニュース)との見方も出ている。

報道によると、韓国海軍の誘導弾高速艦が午前9時50分、NLLを越えた北朝鮮警備艇に警告放送を行った後、警告射撃を実施。これに対し北朝鮮側は機関砲とみられる火器で対抗したため、韓国側も艦砲射撃を行い、約10分間、射撃の応酬となった。いずれも海上に向けて行われたという。

黄海では09年11月、NLLを越境した北朝鮮警備艇と韓国艦艇の間で銃撃戦が起き、北朝鮮側に死傷者が出た。韓国はNLLを南北軍事境界線と位置付けているが北朝鮮は認めていない。【10月8日 産経】
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“いずれも海上に向けて行われた”ということで、本格的な撃ちあいではなかったようです。

それにしても“射撃戦”とは穏やかならぬ話で、さぞや南北間が緊張しているのでは・・・と思うと、そうでもないようです。むしろ、最近の流れは関係改善ムードです。

****制裁解除へ「南北で努力」=関係改善ムード踏まえ―韓国統一相****
韓国の柳吉在統一相は8日の国会答弁で、北朝鮮による2010年3月の哨戒艦撃沈事件を受けた韓国の制裁措置の解除に関し「韓(朝鮮)半島で紛争や対立が起きないよう、南北が一緒に努力すべきだ。それなしに(制裁解除を)行うのは難しい」と述べた。

韓国政府は10年5月、北朝鮮との交流、貿易、投資を原則禁じる制裁を発動。制裁解除には、北朝鮮による謝罪など「責任ある措置」が必要との立場を取っている。

しかし、北朝鮮の黄炳瑞軍総政治局長らの訪韓後、韓国の政財界などでは、南北関係改善に向け、制裁を解除・緩和すべきだとの声が一層拡大。

北朝鮮が謝罪する可能性は乏しいことから、北朝鮮の犯行と名指ししない「包括的な遺憾」の表明で解決を図るべきだといった意見が出ている。

柳氏の発言は、こうした声を踏まえ、一方的に北朝鮮の責任を追及する姿勢を控え、前向きに協議する考えを示したものだ。柳氏は「南北が向かい合い、制裁解除のための対話を行う機会が一日でも早く訪れることを期待する」と述べた。【10月8日 時事】 
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先の“射撃戦”も、関係改善・制裁解除に向けた流れの中の“揺さぶり戦略”ということでしょうか。
それにしても日本的な感覚からすると、危険な“揺さぶり”です。

【「飢餓の国」の実態は?】
北朝鮮国内の経済状態もよくわかりません。

従前から、特権者が暮らすショーウインドウ的な平壌以外の地方農村では悲惨な貧困・飢餓が蔓延している・・・そうした国民の窮状を無視して軍拡・核開発に走っている・・・というイメージがありますが、地方での農業生産力もかなり向上しているという話も見聞きしたことがあります。

以下の国連関係者の話などは、従来のイメージに沿うものです。

****北朝鮮の子ども、慢性的栄養失調」 訪朝の国連人道問題担当者****
北朝鮮訪問から戻った国連人道問題調整事務所(OCHA)のジョン・ギング業務局長が3日、ニューヨークの国連本部で朝日新聞のインタビューに応じ、「慢性的な栄養失調が子どもの発育不良につながっており、大規模な支援が必要だ」と訴えた。

ギング氏は9月12~15日に病院や児童養護施設などを訪ねた。要求した場所への出入りが、北朝鮮政府に認められたという。

喫緊の課題は、3割以上が発育不良という子どもの置かれた環境という。
しかし、支援に必要な1億1600万ドル(約126億円)のうち、集まっているのは約23%の2660万ドル(約29億円)にとどまる。

国際社会には支援が流用される不信感があることについて、ギング氏は「もっともな懸念だ」としながらも、子ども向けの補強食品や薬、出産用の機材などは流用できない仕組みになっているとして理解を求めた。【10月6日 朝日】
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国際支援を求める北朝鮮側が、ことさらに問題を誇張している・・・・という可能性は?
少なくとも首都・平壌は「建設ラッシュ」のようです。

****建築ラッシュ続く平壌=高層マンションやスーパーも―観光誘客に力・北朝鮮****
9月中旬、北朝鮮の首都平壌や東部沿岸の地方都市を訪れた。平壌では新たな空港ターミナルが完成に近づき、高層マンションの建設が至る所で進められるなど、過去数年来の「建築ラッシュ」が続いていた。

 ◇建設は「朝鮮速度」で
大規模な住宅建設計画が相次ぐ平壌では最近、「朝鮮速度」という新たなスローガンが登場し、建築現場などに掲げられている。できるだけ早く都市建設を成し遂げようという狙いだ。空港でもこのスローガンの下、軍人らが急ピッチで新ターミナルの建設作業に当たっていた。

平壌では5月、建設中の高層住宅が崩壊し、多くの死者が出た。手抜き工事が原因とみられ、スピードばかりを重視した安全対策の抜かりも指摘される。しかし、住宅不足を見越した建築ラッシュのうねりは止まっていない。(中略)
 
 ◇高級ホテルにダンスホール
平壌と異なり、地方の状況はまだ立ち遅れている。幹線道路や市の中心部以外、舗装されている道路は少ない。それでも東部の港湾都市・咸興では、多くの住宅建設が進んでいた。

東部の元山地域は「国際観光地帯」に指定され、昨年末には山岳地帯に馬息嶺スキー場が完成するなど観光客誘致に力を入れている。併設された高級ホテルには、プールやダンスホールも。ホテル関係者は「開業後の1カ月で1万人が訪れた」と強調するが、今はオフシーズンのためか、外国人観光客はほとんど見掛けなかった。

北朝鮮当局者によれば、日本政府が北朝鮮への渡航自粛要請を解除して以降、日本人の訪問客も増えたという。
平壌市内などを観光したという日本人男性は「『飢餓の国』というイメージとのギャップに驚いた」と話した。【9月27日 時事】 
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実際「飢餓の国」なのか、相当に改善されてきているのか・・・よくわかりません。

高まる人権侵害批判をけん制する狙い
いろいろわからないことが多い北朝鮮ですが、日本や欧米にとって“北朝鮮では深刻な人権侵害が行われている”というのは明確なことと思われています。なにせ、他国民を拉致する国ですから。

ただ、この点についても、北朝鮮側には異論があるようです。

****<北朝鮮>国連で異例の人権報告会 「対話姿勢」強調****
北朝鮮の国連代表部は7日、自国の人権状況を説明する異例の報告会を国連本部で開いた。

リ・ドンイル国連次席大使は、2003年以降途絶えている欧州連合(EU)との「人権対話」再開の用意があるなど、「対話姿勢」を強調。北朝鮮の人権侵害に対する国際社会の批判の高まりに同国が敏感になっていることをうかがわせた。

報告会には各国代表部やメディアなど約100人が参加。北朝鮮は今年9月、自国の人権状況の報告書を発表しており、次席大使はこれに基づき、国民の人権保護のための法整備などを説明した。

一方、EUと日本は今秋の国連総会で、北朝鮮の人権状況を非難する10年連続の決議案採択を目指している。今回の決議案は、北朝鮮の人権侵害行為について「国際刑事司法機関」への付託を検討することなどが言及される見通し。次席大使は「(北朝鮮に対する)誤解が増す」と述べ、人権問題の「政治化」の動きだとして、強くけん制した。

また同席したチェ・ミョンナム外務省副局長は拉致問題について、「日朝平壌宣言(02年)で完全に解決済み」だが、「日本側の再三の要請」によって再調査に合意したことを強調。進展の見通しに関して「日本側に合意に基づく義務の完全履行を要請する」と述べ、制裁解除を促した。【10月8日 毎日】
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北朝鮮がこうした会合を主催するのは珍しいことで、高まる人権侵害批判をけん制する狙いがあるとみられています。
リ・ドンイル次席大使は北朝鮮の人権侵害への批判が相次いでいることについて「事実がゆがめられ、デマが広められている」と反論したそうです。
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