孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  「イスラム国」のクルド人地域への攻勢 あふれる難民 トルコは対「イスラム国」戦線へ参加

2014-10-06 21:50:17 | 中東情勢

(「イスラム国」との戦闘で家族を失い、嘆き悲しむクルド人女性 “flickr”より By Sebastian Backhaus https://www.flickr.com/photos/sebackhaus/15259316777/in/photolist-pfpZfz-ptTEbU-puv2Qt-ptTd8v-pcE3Z8-pcFMwG-ptSvNc-ptTYU4-pvRBDf-pfKhGb-put9Y7-pwPd22-pfk2Ve-pfjT1m-psuvTs-peQ4fg-puhDrW-pvmnbq-pfUcrJ-pfTnQn-pxoCZH-pfUqCc-pePYYU-peQwjs-pwTMv8-pcqTiG-pwMoXb-pfk388-pfjZTt-pwMoqE-pfjmXC-pwwZmF-pfiUoz-pePDeJ-pePBj1-prU8xy-prSWim-puLYt7-pfjerq-pfjY8V-pfiSNk-pwMpVo-pwMneb-pfjh8N-pfiVct-pfk3pv-pfjShN-pwwUJz-pfjPD1-pwMs5y)

クルド人難民 トルコへ18万人
アメリカは「イスラム国」に対するシリア領内での空爆を9月22日から行っていますが、当初から予想されたように、地上軍との連携がないなかで「イスラム国」に対する決定的な打撃を与えるまでには至っていません。

その間も、「イスラム国」はシリア北部のトルコ国境近くにあるクルド人地域への攻勢を強めています。

****シリアのイスラム国、クルド地域への攻勢強める****
AP通信などによると、シリア北部のトルコ国境近くにあるクルド人地域の都市アイン・アラブを包囲しているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の部隊が市街地から約3キロの地点に迫り、攻勢を強めている。

イスラム国側は、イラク政府軍との戦闘で奪ったとみられる戦車などでアイン・アラブの東、西、南方面から市街地を砲撃。米国主導の空爆支援を受けるクルド人民兵が抵抗を続けているが、一部はすでに撤退し、市街戦の準備を進めているもようだ。

イスラム国は1日、これらの戦闘で拘束したクルド人の男女9人の処刑映像をネット上で公開した。(後略)【10月2日 産経】
********************

「イスラム国」による殺戮・暴行・レイプなどを恐れる多くのクルド人住民が隣国トルコへ避難しており、その数は18万人とも言われています。

****イスラム国」恐れトルコへ シリア難民、18万人急増 続く砲撃、逃れるクルド人ら****
過激派組織「イスラム国」の攻撃を受けるシリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)から、大量の難民が隣国トルコに押し寄せている。

多くはクルド系シリア人で、9月下旬だけで少なくとも18万人に上る。トルコ側は難民キャンプを急きょ増設して対応しているが、受け入れ能力は限界を超え始めた。

衣類などを詰め込みパンパンに膨らんだ麻袋や布袋を、大人も子どもも両手で抱え、列をなしていた。

(中略)シャヒンさんはコバニで生まれ育ったクルド系シリア人。当初は踏みとどまることも考えたが、「イスラム国」とクルド人武装組織の交戦が激しくなり、自宅近くの民家に迫撃砲弾が着弾して知人が死亡。

(中略)「イスラム国」兵士は女性や少女をレイプしたり、誘拐して人身売買したりすると聞いて、トルコへ急いだ難民も多い。(後略)【10月6日 朝日】
******************

クルド:自爆攻撃での応戦も
クルド人側も応戦していますが、装備に勝る「イスラム国」の進行を止めるのは難しい情勢です。

******************
検問所前で3時間待ち、ようやく入国できた女性農家ジェンミレー・ジャーファさんは(45)は、家族離ればなれになった。5人の息子のうち、長男(20)、次男(18)、三男(16)は「イスラム国」と戦うと決意し、クルド人武装組織に入りコバニに残った。

「私は反対したが、『クルド人を守るため』という息子たちを止めることはできなかった。無事に戻ってきてほしい。なぜ私たちはこんな目に遭うのか。なぜ国際社会は私たちを助けてくれないのか」。ジャーファさんはそう訴え、泣き崩れた。【同上】
******************

劣る装備を補うには最後の手段も・・・ということで、クルド人女性戦闘員による自爆攻撃も報じられています。

****クルド女性戦闘員、イスラム国に自爆攻撃 シリア北部で攻防続く****
イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」が進撃を続けるシリア北部の町アインアルアラブ(Ain al-Arab、クルド名:コバニ、Kobane)付近で5日、町を守るクルド人勢力の女性戦闘員が、同組織を標的とした自爆攻撃を決行した。

英国を拠点とする非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によると、女性戦闘員は町東方のイスラム国陣地で自爆した。複数の死者が出た模様だが、正確な死傷者数は不明という。

イスラム国側が戦略として用いてきた自爆攻撃をクルドの女性戦闘員が行った例は初めてとされ、イスラム国の進撃を阻止するとのクルド人側の固い決意を示している。

トルコとの国境に接するアインアルアラブは、国際社会のイスラム国掃討の重要な戦闘地となっている。同監視団によると、イスラム国は4日夜、町を望む戦略的な要所となる丘陵地帯の一部を掌握したが、米国とアラブ諸国による新たな空爆の実施により、進撃の勢いは弱まっている。

だが、町の当局者は、イスラム国は町からわずか1キロの地点まで迫っており、空爆だけでは進攻を防げないと話している。【10月6日 AFP】
*******************

トルコ:関心は「イスラム国」よりクルド人反政府勢力?】
一方、難民が押し寄せるトルコもその対応に苦慮しています。
トルコはすでに150万人(トルコ側発表数字)にも及ぶシリア難民を受け入れているとのことで、その受け入れ能力も限界に達しています。

“(トルコの)シャンルウルファ県のイゼッティン・キュチュク知事は朝日新聞の取材に対し、「食料・医薬品・衣類、難民をケアするスタッフ、財政負担。どれもトルコだけでは支えきれない。国際社会は、シリア難民のこれ以上の増加は地域の安定を揺るがす重大問題だと認識し、支援を拡充してほしい」と訴えた。”【10月6日 朝日】

ただ、トルコ・エルドアン政権の「イスラム国」への対応は、不透明なところがあります。

トルコはこれまで、アメリカが主導する対「イスラム国」有志連合に空爆拠点として基地を使用することを認めていませんでした。

自国の外交官ら49人がイスラム国に拘束されていたこと(9月20日に解放)とか、「イスラム国」からの報復に備えて約1300キロに及ぶイラク、シリア国境を警備しなくてはならなくなるなどの理由から、“及び腰の対応になっている”とも言われていましたが、エルドアン大統領の本音は別のところにあるのでは・・・・とも思われます。

9月21日ブログ「トルコの「イスラム国」対応 難民流入、クルド人問題を抱えるトルコの事情」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140921)でも取り上げたように、おそらく、国内に反政府武装勢力「クルド労働者党」(PKK)を抱えるトルコにとって最大の関心事は「イスラム国」ではなく、クルド人対策ではないでしょうか。

シリアのクルド人武装勢力の中核を占める民兵組織・人民防衛隊(YPG)は、長年トルコからの分離独立運動を行っている「クルド労働者党」(PKK)の影響下にあり、シリアのクルド人地域はPKKの活動を支える役割も担ってきました。

トルコとしては、「イスラム国」がPKKと繋がるシリア・クルド人地域を叩いてくれれば、PKKを弱体化させるうえで好都合だ・・・という側面もあります。

逆に、YPGなど「イスラム国」対抗勢力に武器を提供すれば、それが「クルド労働者党」(PKK)に流れて、トルコ国内でのテロにつながるとの懸念もあります。

どこまで定かな話なのかは知りませんが、上記のような事情からトルコは「イスラム国」を裏で支援してたとも言われているようです。

*****************
・・・・このとろろトルコがISIL(現在の「イスラム国」)に対して、秘かに支援していた理由について、PKKを打倒するために、ISILを使う気だったと言われている。

つまり、いまシリアやイラクで派手に戦闘を展開している、ISILをトルコは支えることにより、その見返りとして、トルコ国内のPKK 組織を、撲滅させようということのようだ。【8月18日 日本イスラム連盟 http://jisl.org/2014/08/pkk-21.html
*****************

どの程度の“支援”だったかはわかりませんが、確かにトルコの対「イスラム国」対応には融和的なものも見られます。

イスラム過激派の人員・武器がシリアに向けてトルコ国境を自由に超えていることは以前から指摘されています。
******************
トルコ関係者自身も、900kmに及ぶ国境を完全に支配することは困難で、イスラム過激派の人員武器等が、かなり自由に国境を越えてシリアに出入りしていることを認めているが、特にamnesty international などは、現地での観察の結果として、過激派の人員が航空機でトルコに到着し、自由にシリアに出入りしていると指摘している由。【2013年10月22日 野口雅昭氏「中東の窓」】
******************

一方、トルコからクルド人が対「イスラム国」戦闘のためにシリア側に向かうことは厳しく制限しています。
******************
トルコのスルチでは26日、トルコ側にいるクルド人がシリア側のクルド人の町を助けようと呼びかけて数千人が国境地帯に押し寄せました。
一部が国境線を越えようとしたり石を投げたりしたため警備に当たっていた治安部隊が放水車や催涙弾で応戦して衝突となり、現場では煙が広がったほか、軍の装甲車や救急車も激しく行き交い騒然としました。【9月27日 NHK】
*****************

*****************
トルコ政府は一方、PKKがシリアで急速に存在感を増し、国内クルド人の間で求心力が高まる事態も警戒。PKKメンバーのシリア渡航を阻む措置を強化し、クルド人の失望を招いている。【9月27日 時事】
*****************

トルコの対応に不満を持つPKKはトルコ政府との和平交渉中止も警告しています。

****トルコ政府との和平交渉中止も=「イスラム国」対策に不満―クルド人組織****
トルコの反政府武装組織クルド労働者党(PKK)指導者のオジャラン氏=終身刑で服役中=は1日、トルコの獄中から声明を出し、シリア北部でイスラム過激組織「イスラム国」によるクルド人迫害が続けば、約30年にわたる武装闘争終結に向けたトルコ政府との和平交渉が「終わることになる」と警告した。ロイター通信が伝えた。【10月2日 時事】 
*****************

また、「イスラム国」の豊富な資金源とひとつが原油の密売であるとあれていますが、原油のようにかさばるものを誰にも知られずに密売することは難しく、おそらくトルコ領内で取引がなされているのではないかとも思われます。

9月20日にトルコ領事などが解放された際に、交換条件としてシリア反体制派に拘束されている「イスラム国」戦闘員を解放させたとも報じられています。

姿勢転換「(テロとの戦いの)外にいることはできない」】
ただ、アメリカなどの“要請”というか“圧力”というか、そういうものもあってか、エルドアン大統領は28日、「(テロとの戦いの)外にいることはできない」と姿勢を転換させる考えを示し、国会承認を経て、ようやく対「イスラム国」の作戦に参加することになりました。

これにより、米軍のトルコ領内の基地使用やトルコ軍の地上部隊をシリア・イラクへ派遣することも可能となりました。

****シリア・イラク派兵可能に=対「イスラム国」、作戦承認―トルコ****
トルコ国会は2日、過激組織「イスラム国」への対処のため、トルコ軍部隊が必要に応じてシリアやイラクに越境し、作戦を実施することを承認した。政府の要請を受けた措置。

これにより、トルコはシリア、イラクに地上部隊を随時派遣することが可能となった。

米軍主導の「有志連合」は、シリアとイラクで空爆を中心とする軍事作戦を展開する一方、要員派遣はイラク軍の強化を目的とした顧問団など後方支援にとどめていた。

トルコの派兵が実現すれば、外国の部隊が初めてイスラム国と直接対峙(たいじ)することになる。

また、政府の判断により、外国の部隊がトルコ領内の拠点を使用することも承認された。トルコはこれまで、有志連合に空爆拠点として基地を使用することを認めていなかった。

トルコ政府は地上部隊派遣により、国境沿いのシリア、イラク領内にトルコ軍が管理する「緩衝地帯」を創設。最近相次いでいたシリアからトルコ領内への砲撃を未然に防ぐ一方、イスラム国の脅威から国境地帯に逃れてきたシリア人避難民を保護する意向だ。【10月3日 時事】 
******************

不透明な今後
今後、トルコがどこまで関与するかは、まだ不透明な部分もあります。

****トルコ国会、対イスラム国軍事行動を承認****
・・・・今回承認された動議はトルコ政府に幅広い権限を与えるものとなっているが、イスラム共同体であるカリフ制の国家を宣言して残虐行為を繰り返しているイスラム国が広範囲を掌握しているシリアとイラクという2つの隣国に直ちに派兵することを、トルコ政府に義務付けるものではない。

米国はトルコに対し、シリア領内でイスラム国に対する空爆を行うため、米軍戦闘機がトルコ南部にあるインジルリク空軍基地を使用することを許可するよう要請している。

しかしトルコが殺傷兵器の自国領内通過を認めるかどうかは不透明で、人道援助や非致死性物資に限定する可能性もある。

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は1日、欧米諸国に対し、イスラム国に向けて「無数の爆弾」を投下するのは一時しのぎに過ぎないとして、シリアとイラクでの危機に長期的な解決策を見出すよう呼び掛けた。

米側は、長期的解決策に至るには時間がかかる恐れがあるとしている。【10月3日 AFP】
*********************

アメリカとの協調体制が一応できたようにも見えますが、アメリカ・バイデン副大統領が、多くの外国人の若者などがトルコを経由し「イスラム国」の戦闘員として参加したことを踏まえ、「トルコのエルドアン大統領は“多くの人を通しすぎた”と話していた」と“失言”したことに、エルドアン大統領は「バイデン副大統領は謝罪しなければならない」と怒りをあらわにしているそうです。【10月6日 NHKより】

事実かどうかはともかく、外交的に“言ってはいけないこと”もあるようです。

今後、仮にトルコがシリアに地上軍を派遣するという話になると(敵対するアサド政権が認めるでしょうか?)、「イスラム国」、アサド政権、YPGやPKKなどクルド人勢力、シリア反政府勢力、更にトルコ軍という思惑が異なる登場人物が多数シリア領内で活動することにもなり、それはそれでバトルロイヤル的なややこしい話になりそうな感もあります。

まずは「イスラム国」をリング外に放り出そう・・・ということなのでしょうが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする