孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マララさん、ノーベル平和賞受賞 「これが終わりではなく始まりに過ぎない」

2014-10-11 22:41:46 | アフガン・パキスタン

(昨年7月 国連本部でスピーチを行い、スタンディングオベーションを受けるマララさん “flickr”より By The UN Secretary-General's https://www.flickr.com/photos/globaleducationfirst/9291335149/in/photolist-fa3weB-e1Cv5y-e1wQ6a-f91XTj-m2Rug9-gbTFDw-oKQN5d-oKQMFM-gyuhRx-oKQzMg-p1hXQs-oKQAoY-p1hQ9A-oKQ5G5-oKPWCt-oKPUDt-oKQAWv-oKPVYT-oKQ9RY-diyha4-dmnuva-6WcHXJ-duyczm-oKQ8Aw-oKPStM-oKQbZA-p3jKjZ-oKPYGt-p1hSau-p1hWLy-p34pD2-p3jL6D-p1hZUC-oKQyMb-f7XdBp-p3jPMX-oKPZdP-oKQBcS-oKPQvZ-p3jNU4-oKQBpe-p3jS6z-p34y98-oKQBBQ-oKQwG9-oKQef7-p3hVdN-oKQEzT-p3jSqH-p3hWt3)

女性教育を否定するイスラム過激派に屈することなく教育の重要性を発信
ことしのノーベル平和賞に、インドで児童労働の撲滅を訴えている60歳の人権活動家、カイラシュ・サティアティさんとともに、教育の重要性、特に女性の学ぶ権利を訴えるパキスタンの17歳の少女、マララ・ユスフザイさんに決定したことは周知のところです。

****ノーベル平和賞 マララさんとは****
マララ・ユスフザイさんは1997年、パキスタン北西部のスワート地区で生まれました。
父親は地元で自ら運営する私立学校の校長を務め、マララさんは幼い頃からさまざまな本や教材に囲まれ、充実した教育環境の下で育ちました。

ところが、故郷のスワート地区では2008年からイスラム過激派組織「パキスタン・タリバン運動」が影響力を広げ、2009年初めにはスワート地区を事実上の支配下に置き、女性たちの教育を禁じました。

こうしたなか、当時まだ10代前半だったマララさんは匿名でネット上にブログを掲載し、女性が教育を受ける権利を世界に向けて訴えました。

ブログでは、女性の教育を否定し学校の爆破や脅迫を繰り返すイスラム過激派におびえながら通学する同級生たちの様子が記され、話題を呼びました。

2009年5月に始まった政府による軍事作戦で、イスラム過激派が撤退すると、マララさんは実名で欧米メディアに紹介され、イスラム過激派に立ち向かった少女として大きく取り上げられるようになり、3年前にはパキスタンの国民平和賞を受けました。

その一方で、イスラム過激派に狙われるようになり、おととし10月、通学バスでの下校中、オートバイに乗った2人組の男に襲われ、頭に銃弾を受けました。

犯行を認めたのは、かつてスワート地区を支配下に置き、女性の教育を否定した「パキスタン・タリバン運動」でした。

この事件についてパキスタン軍が情報機関などと共同で捜査を続けてきましたが、先月、「パキスタン・タリバン運動」に所属するグループのメンバー合わせて10人について銃撃を実行したなどとして身柄を拘束しました。

また、マララさんはことし、アフリカのナイジェリアでイスラム過激派ボコ・ハラムが200人以上の女子生徒を連れ去った事件について“BringBackOurGirls”「女の子たちを取り戻せ」を合い言葉に女子生徒たちを一刻も早く救出するよう呼びかける活動に参加しました。

7月には17歳の自らの誕生日に合わせてナイジェリアを訪れて、女子生徒の家族らと面会し、「今年の私の誕生日の願いは女の子たちが解放されることです」などと述べて、事件の早期解決を訴えていました。

学校の破壊が後を絶たず
マララさんの母国パキスタンでは、近代的な女子教育を認めないイスラム過激派が学校を破壊するといった事件が後を絶ちません。

イスラム過激派の活動が活発なパキスタン北西部ではことし、先月までに学校が簡易型の爆弾や手りゅう弾などで爆破される事件が23件起きており、このうちおよそ7割が女子校でした。

また、過激派の活動が活発になった2005年ごろからでは、破壊された学校は去年まででおよそ750校にも上っていて、マララさんが訴える女子教育の充実は、母国のパキスタンでは非常に厳しい状況であるのが実情です。【10月10日 NHK】
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本命と思われた昨年は見送り、改めて今年受賞
昨年のノーベル平和賞についても本命候補と目されていましたが、様々な事情を考慮して受賞は見送られました。
参考:2013年10月11日ブログ「マララさんを敢えて避けたノーベル平和賞」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131011

昨年受賞が見送られた理由としては、あまりにも若すぎる(当時16歳)ことで、今後の活動が見通せないことに加え、彼女自身のこれからの人生にも重すぎるものを背負わせることになるのではという懸念、受賞が彼女を襲撃したイスラム過激派を刺激し、彼女に再び危害を加えられる恐れもあることなどが推察されています。

襲撃事件から多少の時間も経過し事態も落ち着いてきていること、犯行グループも拘束されたこと、また、上記記事にもあるように、今年に入ってもナイジェリア「ボコ・ハラム」に関する活動を精力的に行っていること等はありますが、昨年考慮された事情が大きく変わった訳でもありません。

それでも今年改めて受賞となったのは、やはりノーベル平和賞というものを考えるとき、彼女の行動をはずす訳にはいかないということでしょう。

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ノーベル選考委員会は「子どもや若者への抑圧に立ち向かい、すべての子どもが教育を受ける権利のために闘ってきた。世界の発展のためには、貧しい国の人口の60%を占める25歳以下の子どもや若い人たちの権利が尊重されることが欠かせない」と述べて、2人の活動を評価しました。

そのうえでマララさんについては「その若さにもかかわらず、危険な環境のなかでも勇気をもって女性が教育を受ける権利を訴え続け、子どもでも変化をもたらすために何かできることを示した」と述べました。【10月10日 NHK】
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“(ノーベル賞委員会の)ヤーグラン委員長は「(若者に希望をもたらす)最善の方法は、学校に通う権利を与えることだ」と指摘。教育は、世界中に広がる過激派思想への対抗策になるとの考えを示した。”【10月11日 朝日】

若すぎるという点については、“10代のマララさんへの授与には委員会周辺で「若すぎる」などの指摘もあった。30年以上の活動実績を持つサティヤルティさんにも授与することでバランスをとった可能性もある。”【10月11日 朝日】とも。

彼女が今後どのような活動を行えるのか全くわからないと言えば確かにそうですが、少なくとも世界に力強いメッセージを送ったこれまでの活動だけでも、十分に受賞に値するものに思えます。

“イスラム諸国では今、過激で不寛容な主張がどんどん幅をきかせている。穏健派は「反イスラム」と断罪され、攻撃の対象になる。そんな現状にひるまない勇気と、心に響く言葉こそ、マララさんの力の源だ。”【10月11日 朝日】

彼女自身のこれからの人生にも重すぎるものを背負わせることになるのでは・・・という点に関しては、受賞に際しての「これが終わりではなく始まりに過ぎない」という彼女の声明を見る限り、彼女は重荷に押しつぶされない強さを持っているようにも見えます。

****マララさん、前進の励みに****
(マララさんが10日の会見で発表した声明要旨)
パキスタン人として初めて最年少での平和賞受賞を名誉に思う。インドのサティヤルティさんと賞を共有できてうれしい。彼が子供の権利のために闘ってきたことを知り、感銘を受けた。私一人ではないことが分かり、うれしい。

インドとパキスタンから、ヒンズー教徒とイスラム教徒が選ばれたのは、愛のメッセージが込められている。私たちは宗教や肌の色が違っても、互いに助け合い、人間として尊敬し合うことができるということだ。

私は勇気づけられ、より強い力を与えられた。これから前進する励みになる。これが終わりではなく始まりに過ぎない。

全ての子供には教育を受ける権利がある。私には二つの選択肢があった。(一つは)声を上げないことで、(もう一つは)殺されてもかまわないということだった。

私は声を上げるべきだと思った。

世界の子供たちに権利のために立ち上がろうと呼びかけたい。この賞は子供たちに夢を与えるものだ。

インドのモディ、パキスタンのシャリフ両首相にノーベル賞を見せたい。【10月11日 毎日】
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また、11歳の頃からブログでの発信を始めた彼女の行動は、彼女自身の思考の結果というより、両親や周囲の環境の作り出したものであり、彼女は盲目的にそうした価値観を受け入れ、無批判に主張しているだけではないか・・・という見方もあるでしょう。

ただ、子供の頃から才能を磨かれ、その後天才的な活動を行っている多くの芸術家やスポーツ選手も、最初は多かれ少なかれ周囲によって作られた存在であったとも言えるでしょう。

それを開花させるかどうかは本人の資質次第です。
昨年7月に国連本部で行った、国連事務総長などの聴衆を総立ちにさせた力強いスピーチなど、彼女の非凡な資質を感じさせます。

“約17分間の演説は格調高く、説得力に満ちていた。総立ちの聴衆の拍手はしばらく鳴りやまなかった。「リーダーになる資質を持った人間とはこういうものなのか」と思った。”【10月10日 毎日】

女性に関する、厳しいパキスタンの現実
もちろん、パキスタンの現状は極めて厳しい状況にあり、彼女が立ち向かうべき壁は厚く高いものがあります。

****パキスタン、女性への酸攻撃が増加 社会進出阻止が目的か****
パキスタンで、これまで酸による攻撃がなかった地域で酸攻撃が相次いで発生し、女性に自宅にこもることを強要するためにイスラム過激派が酸攻撃を始めた恐れが出ている。

被害女性の顔をひどく傷つけ、失明させることも多い酸攻撃は、個人的な恨みや家族の恨みを晴らすための手段として長らく用いられており、毎年数百件規模で発生している。

だが、数年前まで酸攻撃とは無縁だったパキスタン南西部バルチスタン州で先週、2日連続で2件の酸攻撃が発生したことは、新たな傾向が生まれ始めていることを示唆している。

パキスタンにおける酸攻撃は、被害者と加害者に面識があることが多い。加害者が捕まると、その親族は被害者に「名誉」を傷つけられたと主張したり、被害者の「みだらな」行為で一族が汚されたと訴えたりする。

だが最近の事件では、被害者らは加害者と面識がなかった。このことから、バルチスタン州で台頭するイスラム過激派による攻撃の可能性が指摘されている。

■バルチスタン州の女性の社会進出阻止が狙い、分離派が非難
人口が少なく土地が広く資源の多いバルチスタン州は、長らく分離派反政府勢力の活動拠点となってきた。分離派は女性が多い左翼世俗派を取り込み、キューバ革命の指導者エルネスト・チェ・ゲバラといった社会主義の象徴的人物を崇拝する。

同州の鉱物やガス資源への権利拡大を目指して闘争している分離派によれば、女性への酸攻撃は、国の後ろ盾を得て国民を服従させようとするイスラム主義者とのイデオロギー闘争における最前線になっているという。

「これらの非人道的な行為は、恐怖の風潮を作り出すことで女性の教育参加や社会参加、政治参加、人生の経済的な側面への参加を阻止するのが目的だ」と、バルチスタン州の自治権拡大を求めるバルチスタン国民党のジャハンザイブ・ジャマルディニ副党首は語った。【7月31日 AFP】
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そうした厳しい現実の中で、パキスタンのアフサン・イクバル計画開発改革相は来日時のインタビューで、教育問題について「人材育成なしに発展はない。最優先課題に据えている」と強調。「5〜10年以内に全ての女性が教育を受けられるようにしたい」と、取り組みを強化する考えを示しています。【2013年12月08日 毎日より】

国際社会の耳目を集めるマララさんの活動も、こうした政治に反映されているのではないでしょうか。

今回の受賞は「西洋の指示に従った結果だ」】
もとより、パキスタン国内、特にイスラム教的価値観を重視する人々には、マララさんに対して“欧米諸国の価値観の代弁者にすぎない”という冷ややかな見方があります。

****マララさん受賞、パキスタン国内に冷めた見方も****
パキスタンのシャリフ首相は10日、マララ・ユスフザイさん(17)のノーベル平和賞受賞が決まったことを受けて、「彼女はパキスタンの誇りだ。世界の少年少女は彼女の奮闘と献身を手本にすべきだ」と称賛した。

同国のフセイン大統領や、マララさんが2012年に襲われた当時在任していたザルダリ前大統領らも祝福のコメントを寄せた。

ただ、パキスタンの国内では、マララさんの平和賞受賞の決定に冷めた見方もある。
「全パキスタン私立学校連盟」のミルザ・カシフ・アリ会長は10日、読売新聞の取材に対し、マララさんがイスラム教に敬意を払っていないと批判。今回の受賞決定について、「西洋の指示に従った結果だ」と皮肉を込めた。同連盟は、昨年10月に発売されたマララさんの自伝を学校図書館に置くことを禁じている。【10月11日 読売】
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今年4月にパキスタンを観光した際に、ガイド氏にマララさんのパキスタン国内での評価について尋ねると、「あれは“やらせ”ですね。タリバンが本当に彼女の命を狙ったなら外すはずがないです。しかも、すぐに回復して、本を出して、寄付を集め・・・」とのコメントでした。

もちろんガイド氏個人の意見であり、パキスタン国内の意見を代弁するものではありませんが、アメリカの無人機攻撃で多くの民間人犠牲者が出ているパキスタン国内には欧米的価値観への強い反感もあります。

****各国から称賛/冷めた意見も*****
・・・・ただ、パキスタンでは冷めた意見も根強い。

パキスタン外務省の幹部は朝日新聞に「なぜマララだけが注目されるのか。米国の無人機爆撃の巻き添えで亡くなった数多くの子供たちに、世界はなぜ目をつむるのか」と指摘していた。

インターネット上の書き込みを見る限り、マララさんに対する称賛よりも「欧米の操り人形だ」「かつて受賞したオバマ米大統領と同類だ」などと、批判的な見方が圧倒的だ。

隣国アフガニスタンで米軍などが始めた対テロ戦のあおりで治安が悪化し、欧米に対する反感は非常に強い。ノーベル平和賞に「欧米の価値観の押しつけ」を感じ取る世論を反映したものとみられる。【10月11日 朝日】
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「米国の無人機爆撃の巻き添えで亡くなった数多くの子供たちに、世界はなぜ目をつむるのか」というのは重い問いかけではありますが、マララさんの活動に対する評価とはまた別の問題でしょう。

【「平和賞は印パ国境の平和に向けたメッセージだ」】
今回のふたりの受賞は、若いマララさんと活動歴の長いサティヤルティさんの組み合わせということに加え、犬猿の仲で、最近も国境紛争が問題化しているパキスタンとインドの組み合わせと言う点でも、よく配慮されたものと言えます。

****<カシミール>印パ砲撃18人死亡「過去10年で最悪規模****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で今月に入り、両軍による砲撃が激化し、AP通信によると、9日までに両国で少なくとも住民ら18人が死亡した。

カシミールでは長年、実効支配線を挟んで小競り合いが続いているが、一部メディアは「過去10年間で最悪規模」などと報じている。(中略)

インドは今回の衝突を受け、現地の部隊に現場レベルでの対話をしないよう指示。ジェートリー国防相は9日、「パキスタンの冒険主義は高くつくことになる」と警告した。
モディ首相はヒンズー至上主義者で知られており、イスラム教国のパキスタンとは領土問題で妥協しない姿勢を改めて示した形だ。

パキスタンのシャリフ首相は対印関係改善に積極的とみられていた。ただ、今年8月以降、野党などによる反政府デモで政情が混乱したため、軍の発言力が増したとの見方もある。軍はインドに対して強硬姿勢を貫いており、今回の衝突はこうした内政事情を反映している可能性もある。

カシミール問題を巡っては、8月に両国の外務次官級協議が予定されていたが、インド側が直前に対話を拒否した。パキスタン側がインド支配下のカシミールの分離主義者に接触を図ったというのが理由だ。

9月の国連総会では、シャリフ首相がインドを非難し国際社会の関与を求めていた。【10月9日 毎日】
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「(今回の二人の受賞は)パキスタンとインドの人々に互いを愛し合うようにメッセージを与えた」「インドとパキスタンが良い関係になってほしい。両国が緊張関係にあるのは本当に悲しい」と語るマララさんが希望するように、印パ両国首相が授賞式に出席して、関係改善を世界にアピールしてもらいたいものです。たとえパフォーマンスにしても。

****<ノーベル平和賞>「印パ」改善に期待の声****
 ◇両国政府、戦闘鎮静化に含み
パキスタン出身のマララ・ユスフザイさん(17)とインドのカイラシュ・サティヤルティさん(60)のノーベル平和賞の同時受賞をきっかけに、両国の関係改善への期待が高まっている。

印パは今月、領有権を争うカシミール地方で砲撃が激化し、これまでに約20人が死亡しただけに、両国からは「平和賞は国境の平和に向けたメッセージだ」との声も上がっている。

「印パ同時受賞は興味深い。両国の政府に対し、平和を実現すべきだとの意味合いが込められているはずだ」。パキスタンのシンクタンク「CRSS」のシャムス・ムーマンド氏はこう推測する。(中略)

パキスタン首相府は同日、「戦争は選択肢ではない。事態打開の責任は両国の指導者が共有している」との声明を発表。

これに対し、インド外務省報道官は「事態を拡大させるかは、パキスタンにかかっている。インドは適切に対応する」と述べた。

いずれも領土問題では譲らない姿勢だが、沈静化に若干の含みを持たせた形とも受け取れる。平和賞をきっかけに国際社会の注目が集まれば、衝突拡大が回避される可能性もある。

インドのNGOで働くファエズ・アフマド・ファエズさん(40)は「平和賞は両国に対して、平和に向けた歩みを促すきっかけになる」と期待を寄せた。【10月11日 毎日】
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