孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国際刑事裁判所(ICC) ケニアのケニヤッタ大統領が出廷 困難な公判維持 アフリカ諸国の不満

2014-10-09 23:29:31 | アフリカ

(ICCの本格審理前の協議に出廷したケニヤッタ大統領 “flickr”より By International Criminal Court https://www.flickr.com/photos/icc-cpi/15290011028/in/photolist-pi8izN-pxzDdY-pi6Z3v-pi82hj-pzkNnv-pi6Yfi-pzA4sy-pi8e4y-pi8hw5-pzkLen-pzBPzx-pxztgd-pi8GP2-pi8KW4-pzC4GR-pzA2VL-pzAa8G-pzkFRz-pzC2Gt-pyTGb5-pA3xDk-pA3eq7-phqnid-pxQZUC-pyVc22-pwSSQE-pyD1z8-pyTzwy-phqo39-phqoXA-phqTVU-phr9Yt-phr3CT-pyD3Ac-phqS3f-pyTkpf-phqCmC-pyCZEx-pyD4QX-pi83kG-piuSs1-pzW8jR-pw3i6G-pyTivW-phqmrJ-pyTjqw-pzyVZ9-pi63Lp-phsprp-pzyuAy)

買収や脅迫で証人が辞退 現職首脳を裁くことの難しさ
2007年の大統領選に伴う暴動をめぐり、人道に対する罪に問われているケニアのケニヤッタ大統領は10月8日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)で開かれた本格審理前の協議に出廷しました。

2007年12月のケニア大統領選挙では、当初、野党候補オディンガ氏の大差のリードが伝えられていましたが、最終的には現職大統領であるキバキ氏の逆転勝利が発表されました。

このため、不正が行われたとして結果に不満を持つオディンガ氏の出身部族ルオ人やカレンジン人などがキバキ氏の出身部族キクユ人を襲うなどの暴動が発生しました。

その後、ナタなどで武装したキクユ人がルオ人を報復襲撃、これに怒った別の都市のルオ人が暴徒化するなど、報復の連鎖が全土に広がりました。

暴動の背景には、部族社会であるケニアにあって、土地所有をめぐる長年の部族対立や、最大部族キクユ人が有利な扱いを受けているとの他部族の不満などがあったと言われています。
(2008年1月10日ブログ「ケニア 大統領選挙の混乱で暴動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080110

ケニヤッタ大統領はキクユ人で、父親はケニアの初代大統領だったジョモ・ケニヤッタ氏です。
2002年の大統領選挙に出馬し、キバキ氏に大差で敗れました。

2007年の大統領選ではキバキ氏の再選を支援し、翌年1月に地方行政担当相に任命され、4月には連立政権の一員として、副首相兼貿易相に就任しました。

ICCから訴追を受け入ていましたが、2013年大統領選挙に出馬、当初優勢が伝えられていたオディンガ氏を破って大統領となっています。

ケニヤッタ氏は、ICCには以前にも出廷していますが、2013年3月に大統領に選出された後の出廷は初めてになります。

****ケニア大統領が出廷 国際刑事裁判所 暴動指示の罪****
2007年の大統領選に伴う暴動をめぐり、人道に対する罪に問われているケニアのケニヤッタ大統領は8日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)で開かれた本格審理前の協議に出廷した。

現職首脳のICC出廷は初めて。強大な権力を持つ首脳を、どこまで裁くことができるのかが注目される。
ICCは虐殺や人道に対する罪を犯した個人を訴追・処罰するための常設裁判所。

ケニアでは07年の大統領選の際に与野党の抗争が起き、1100人以上が死亡、60万人以上が住居を追われたとされる。ICCは12年1月、暴動を背後で指示していたとして、ケニヤッタ氏を人道に対する罪(殺人など)で起訴した。

検察側は8日の協議で、ケニア政府による証拠提出の拒否のため、裁判が行き詰まっていると主張。
これに対し、弁護側は裁判そのものを終わらせ、裁判所がケニヤッタ氏の無実を宣言するよう求めた。

 ■裁判維持に不安
この裁判では、大統領支持派が証人やその家族を脅迫したり、買収したりしているとみられ、証言や物証が十分に集まっていない。

政府や警察もケニヤッタ氏を恐れて非協力的とされ、現職首脳を裁く難しさが浮き彫りになった。今後、裁判を維持できるかどうかも不安視されている。

 ■議員ら無実主張
一方、ケニアから訪れた100人以上の国会議員らは8日、民族衣装などに身を包んでICCの前でケニヤッタ氏の無実を訴えた。

ケニアから駆け付けた議員の一人は「ケニヤッタ氏は第2のネルソン・マンデラだ。我々は白人支配に抵抗し、戦い抜く」。オランダで大学に通うマディング・モハヘさん(32)は「ICCはアフリカ人を狙って捜査している。イラクやガザで白人はどれだけ人を殺しているのか。まずそれを裁くべきだ」と批判した。

アフリカ諸国は、ICCの現行9案件が、すべてアフリカを対象としていることに強い不満を抱いている。
アフリカ連合(AU)は昨年10月、エチオピアで首脳会議を開き、現職首脳の訴追を免除することや、ケニヤッタ氏の裁判手続きを延期するようICCに求めていた。

ICCは「公的資格の有無に関係なく訴追できる」との規定を根拠に、AU側の主張を受け入れていない。

ケニヤッタ氏は6日の特別国会で、大統領の権限を一時的に副大統領に委譲。ICCには私人として出廷するとの立場を取っている。【10月9日 朝日】
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ケニヤッタ大統領は、表立っては公判に出席するなどICCに協力する形をとってはいますが、実際には国内で権限を利用した隠蔽工作を行っているとも見られています。

“裁判ではこれまで、検察側の証人少なくとも7人が証言を辞退するなどして、繰り返し延期されてきた。これら証人に対しては、買収や脅迫があったとの疑惑が出ている。”【10月9日 AFP】

検察官が求めているケニヤッタ大統領らの資産情報の提供をケニアが拒否するなど物証集めも難航しています。

“外部で一国の首脳を裁こうという国際刑事裁の限界が表れたとも言えそうだ”【1月9日 毎日】という状況で、公判スケジュールも大幅にずれ込んでおり、公判の維持が難しくなっています。

なお、“検察側がケニヤッタ大統領が大統領選挙中に起きた暴動に関わっていたことを示す証拠が明らかになるのを妨害していると主張しているのに対し、ケニヤッタ大統領は発言をしませんでした。”【10月9日 NHK】とのことです。

なぜアフリカばかりが訴追されるのか?】
2007年当時、ケニアは市場経済のもとで順調な経済成長を実現しており、混乱が絶えないアフリカにあっては“優等生”とも見られていました。


そのケニアで起きた大規模暴動に、「やはりアフリカは・・・」という感もありました。

ただ、アフリカ諸国には、そういうアフリカに対する偏見もあって、ICCがアフリカ諸国ばかりを狙い撃ちにしているとの不満が根強くあります。

****ケニア大統領、国際法廷出廷へ 明日は我が身? アフリカの首脳ら反発****
・・・・アフリカ諸国は現職首脳を裁判にかけることに強く抵抗しており、アフリカ各国の首脳もオランダ入りし、抗議に加わるとみられている。(中略)

アフリカ諸国は、ICCがアフリカ人ばかりを訴追対象にしていることに強い不満を抱いており、昨年10月にエチオピアで開かれた特別閣僚会議では、ケニヤッタ氏らへの訴追手続きの延期を求めることで一致していた。

アフリカでは政局絡みの抗争や紛争が多発しており、各国首脳は訴追が自らに及ぶ事態を懸念しているものとみられる。

地元メディアは、南アフリカのズマ大統領、ルワンダのカガメ大統領ら10人前後の首脳がオランダ入りすると伝えている。【10月4日 朝日】
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実際に南アフリカのズマ大統領、ルワンダのカガメ大統領らがオランダ入りしたのかどうかは知りません。

確かに、ICCが扱っているのは、ケニア大統領の他、ダルフールでのジェノサイドを問われているスーダンのバシル大統領、コートジボワールのバクボ前大統領(逮捕・収監)、リベリアのテイラー元大統領(逮捕・収監)など、アフリカ諸国の指導者に集中しています。

アフリカにおいて、権力奪取のための“むき出しの暴力”が頻発していることも事実でが、政治権力をめぐる暴動、非人道的弾圧などはアフリカだけではないことは事実です。

化学兵器を使ったシリア・アサド大統領、ガザ地区の大勢の民間人を犠牲にしたイスラエルはどうなるのか?
実際、パレスチナ自治政府はICCに加盟してイスラエル首相を訴えると圧力をかけています。

中国の天安門事件やウイグル族・チベット族への弾圧、ロシアのウクライナ介入は?

インド・モディ首相のかつてのイスラム教徒虐殺暴動への関与は?

また、アメリカによるイラク・アフガニスタンでの民間人犠牲者は?

アジア諸国でも問題は多々あります。
タイの深南部イスラム教徒問題、フィリピンのミンダナオ島での紛争、インドネシアの東チモールでの虐殺、ミャンマーの少数民族問題やロヒンギャ問題、スリランカ内戦での民間人犠牲者、北朝鮮の人権侵害・・・・。

問題のない国を探すのが難しいぐらいでしょう。

アフリカ諸国首脳の不満もわからないではないですが、先述のようにアフリカではいともたやすく“むき出しの暴力”が使用される傾向がありますので・・・、どうでしょうか。微妙なところです。

なお、ICCの構成、管轄犯罪、手続などを規定する国際条約で国際刑事裁判所ローマ規程について、アメリカ、ロシア、中国、インドは締結していません。

また、アフリカ諸国の多くが締結しているのに対し、アジア諸国で締結しているのは日本・韓国・フィリピンなど限られた国です。

安保理の侵略行為の認定なしに侵略犯罪の管轄権を行使可能
「集団殺害犯罪」、「人道に対する犯罪」、「戦争犯罪」などに関する個人の罪を扱うICCの管轄に「侵略犯罪」もありますが、その詳細が2010年に採択されました。

“「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう”【ウィキペディア】

****国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程検討会議(結果の概要 ****
3.評価  
(1)侵略犯罪

(イ)第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。

(ロ)今回の会合の最大の論点は、個人の侵略犯罪に関するICCの管轄権行使の条件。とりわけ、国連安保理が国家の侵略行為の存在を認定する権利を有していることとの関係をどのように整理するかについて最も多くの時間が費やされた。

今回採択された改正規程は、一定の条件が満たされれば、将来ICCが安保理の侵略行為の認定なしに侵略犯罪の管轄権を行使することを認める内容となっている。

これまで安保理常任理事国が安保理の認定権限を最優先する対応をとっていたことからすれば、画期的な合意内容と言える。

(ハ)他方、各国の意見の相違も反映して、今般採択された改正規程は、極めて複雑で他に例をみない特殊な規定となっており、侵略犯罪をめぐりICCが実際に管轄権を行使するようになるまでに、その法的解釈について締約国間で共通の理解を形成していくことが求められている。【外務省ホームページ】
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ICCは国連からは独立した機関ですが、国連安保理が常任理事国の拒否権行使によって機能が停止することが多い状況で、国連安保理による侵略行為の認定なしに侵略犯罪の管轄権を行使することができるというのは、確かに画期的です。

現実には、アメリカ、ロシア、中国、インドなどが加盟していないことも含めて、政治的にも、国際法的にも難しい問題は多々あるのでしょうが、ロシアのウクライナ介入に関するプーチン大統領の「侵略犯罪」・・・・といった話も出てくるのでしょうか?

なお、「侵略犯罪」に関しては、“実際の管轄権の開始は、当該改正条項を30か国が批准又は受諾を行ってから1年が経過した時点、又は、2017年1月1日以降に行われる管轄権行使開始についての締約国団による別途の決定の時点、のいずれかより遅い時点となる。”とのことです。


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