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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メキシコ  「麻薬戦争」の現状 大統領は殺人事件減少を誇示しましたが・・・・

2014-10-12 22:07:34 | ラテンアメリカ

(10月8日 メキシコ市で行われた、学生43人が行方不明となっている南部イグアラの事件に抗議するデモ 【10月10日 AFP】)

大統領が治安改善を誇示した翌日には、議員の拉致・殺害事件が明るみに
メキシコでは強力な複数の麻薬組織が大きな力を持ち、カルデロン前政権は麻薬消費国アメリカとも協力して軍隊を動員してこれに力で対抗、麻薬組織と軍の衝突、および麻薬組織間の間の抗争による治安悪化で、推計7万〜11万人とも言われる死者を出す「麻薬戦争」と言われる社会状況があることはこれまでも何度も取り上げてきました。

2014年1月15日「メキシコ 麻薬組織に対応する自警団拡大 新たな混乱の危険も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140115
2013年7月2日「メキシコ「麻薬戦争」への市民の取り組み  武装自警団を組織 ソーシャルメディアで情報発信」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130702
2012年7月2日「メキシコ 大統領選挙で治安悪化を批判する野党候補勝利 “麻薬戦争”の行方は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120702)など

治安悪化への国民の不満を背景に2012年12月に就任したペニャニエト大統領は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移しました。

麻薬組織との全面戦争による治安悪化を避けたペニャニエト大統領ですが、麻薬組織摘発は継続して行われてはいます。

****指名手配の麻薬カルテル首領を逮捕、大物の1人 メキシコ****
メキシコ連邦検察庁当局者は1日、指名手配していた同国の有力な麻薬密輸組織の首領を逮捕したと発表した。
米国政府も行方を追っていた大物とされ、国務省は拘束などにつながる有力情報の提供に最大500万ドル(約5億4500万円)の報奨金を約束していた。

捕まったのは麻薬カルテル「ベルトラン・レイバ」を率いていたエクトル・ベルトラン・レイバ容疑者。メキシコ軍兵士が同国中央部にある人気観光地サン・ミゲル・デ・アジェンデにある海産物料理店で逮捕した。(中略)

メキシコの麻薬密輸を仕切る大物の1人で、広範な汚職や資金洗浄のネットワークを築いていたという。2009年に兄弟がメキシコ海兵隊に殺された後、首領の座に就いていた。

同容疑者は組織の再編などを図ると共に、「セタス」「フアレス」などの他のカルテルとの連携関係も強化していた。

米国務省によると、「ベルトラン・レイバ」はメキシコから米国へ武器や弾薬を流出させていた他、コカイン、マリフアナ、ヘロインや覚醒剤の密輸にも関与していた。

メキシコ政府は抗争などで死傷者が絶えない麻薬カルテルの掃討作戦を長年続けている。【10月2日 CNN】
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また、メキシコ警察は9日、麻薬組織「フアレス」のリーダー、ビセンテ・カリジョ・フエンテス容疑者の身柄を拘束したと発表しています。

ただ、トップを逮捕しても別の人間が代わりを務め、ひとつの組織を潰しても別の組織が生まれる・・・というだけの話でもあるようです。

ペニャニエト大統領は9月23日、メキシコ国内における2014年上半期の殺人件数が、自身が就任した2012年の同期比で29%減少したと発表しています。

しかし、大統領が成果を誇示した翌日の24日、連邦議会議員が所属不詳の集団に白昼堂々拉致され、殺害された上に遺体に火をつけられていたことが当局から発表されました。

****連邦議員を拉致・殺害、遺体に火 メキシコ政界に衝撃*****
メキシコの与党・制度的革命党(PRI)に所属する連邦議会議員が、所属不詳の集団に白昼堂々拉致され、殺害された上に遺体に火をつけられていたことが、当局の24日の発表により分かった。

同党に所属するエンリケ・ぺニャニエト大統領はこの前日、国内の殺人件数が減少したと発表したばかりで、党内には衝撃が走っている。

当局によると、ガブリエル・ゴメスミチェル議員(49)は22日、同国西部ハリスコ州の空港にスポーツ用多目的車(SUV)で向かっていたところ、複数の車両に行く手を阻まれた。

議員の遺体は翌23日早朝、隣接するサカテカス州で、黒焦げとなった自身のSUVの中からアシスタントの焼け焦げた遺体とともに見つかった。

サカテカス州の主任検察官によると、遺体や車両から銃弾は発見されておらず、遺体はひどく焼け焦げているため、死因の特定は困難とみられる。容疑者はまだ特定されていないが、殺害手法は組織犯罪でよくみられるものだという。

ゴメスミチェル議員の地元ハリスコ州は、麻薬カルテル「ハリスコ新世代」の拠点。同検察官によると、遺体が見つかったサカテカス州では、メキシコの麻薬組織「湾岸カルテル」が活動している。

メキシコの麻薬戦争において、地元政治家らはしばしば攻撃や脅迫の対象となっており、2006年以降少なくとも30人の自治体首長が殺害された。ただ、連邦議会議員が標的となることは比較的まれだ。(後略)【9月25日 AFP】
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警察が関与した集団殺人事件も 市長夫人の兄弟は麻薬組織創設者
更に9月26日には、メキシコ南部ゲレロ州のイグアラの複数箇所で襲撃や暴動が発生した後、教員学校の学生57人がバスから連れ去られ行方不明となる事件が起きました。57人のうち14人は無事で、残り43人の行方がわかりません。

教員養成大学は急進的な抗議運動の中心としており、学生らはバスを奪い取り帰宅しようとしたところ、警察がバスに向けて発砲、学生らを警察車両で連れ去ったという目撃情報がありました。

麻薬組織に敵対していた左翼系の学生たちはこの日、活動のための募金活動を終え、バスで帰ろうとしていたとの情報もあります。

この事件は、麻薬組織と結託した警察組織も関与した集団殺人事件と見られています。

****メキシコ学生失踪、殺し屋が17人の殺害供述 地中から多数の遺体****
メキシコ南部ゲレロ州のイグアラで学生43人が行方不明となっている事件で、同州検察は5日、犯罪組織の殺し屋2人がうち17人の殺害を自供したと発表した。

イグアラ郊外プエブロビエホでは4日、地中に埋められた多数の遺体が見つかっていた。

州検察のイニャキ・ブランコ検事正によると、これまでに28人の遺体が収容されたが、これらが行方不明となった学生らのものであるか確認するには2週間以上を要するという。
遺体の中には焼け焦げたり、一部が切断されていたものもあったとされる。

学生らは先月26日、自宅に帰るために乗っ取ったバスに警察官らが発砲する事件があった後、行方が分からなくなった。消息を絶った学生は当初、57人だったが、うち14人は無事が確認されていた。

ブランコ検事正は、同市の警官隊が麻薬組織ゲレロス・ウニドスと通じていた事実に再度触れ、「エル・チャッキー」と呼ばれる組織のリーダーが殺し屋2人に学生らの拉致と殺害を指示したと説明。

2人は、学生らにバスから降りるよう強要して17人を連れ去り、プエブロビエホの丘の上にある組織の秘密墓地で殺害したと供述したという。【10月6日 AFP】
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犯罪組織と共謀したとしてされる警察隊を軍が武装解除する一方、市長と市の公安責任者は逃走していると報じられています。

****学生43人失踪事件、メキシコ軍が市警を武装解除****
メキシコ軍は6日、学生43人が行方不明となっているメキシコ南部のゲレロ州イグアラで、犯罪組織と共謀したとして非難を浴びている警察隊を武装解除し、治安維持任務を引き継いだ。

首都メキシコ市の南200キロに位置するイグアラには、政府軍部隊と憲兵隊のトラックが行き交い、検問所にも軍兵士が配備された。当局は憲兵隊ら400人以上とさらに多くの兵士を動員したと発表している。

住民の1人は「市の警察の内部に組織犯罪が入り込んでいた。不安に感じていた」と述べ、軍の到着を歓迎した。

(中略)その後の当局発表によると、殺人を依頼されたとする男2人が、行方不明となっている学生43人のうち17人を殺害したと自供している。

2人はイグアナの公安局長に現場へ向かうよう指示され、犯罪組織のリーダーから学生たちを殺害するよう命じられたと述べている。

死者6人、負傷者25人、行方不明者43人を出したこの夜の事件には、麻薬密売組織「ゲレロス・ウニドス」が関与していたと検察当局は述べている。

メキシコ国家公安委員会のモンテ・アレハンドロ・ルビド・ガルシア委員長によれば、イグアラ市警の警官らは軍基地に送致され取り調べを受ける。また同時に、警官が所持している銃の中に犯罪に使用されたものがないかどうかも捜査される。

州検察当局は前週、イグアラ市警の警官142人に事情聴取をした上で22人を拘束したと発表していた。
今回の事件ではこれまでに約30人が拘束され、市長と市の公安責任者は逃走している。

一方で、市内には6日、拘束された警官22人の釈放を、「ゲレロス・ウニドス」の名前で要求する旗が掲げられた。【10月7日 AFP】
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身元不明の28人の遺体が発見された場所と「比較的」近い4か所からも、多くの遺体が発見されています。

****メキシコ学生43人失踪事件、新たに4か所から多数の遺体****
メキシコ南部ゲレロ州イグアラで学生43人が9月から行方不明になっている事件で、捜査当局は9日、新たに4か所から地中に埋められた多数の遺体を発見したと発表した。

ヘスス・ムリーリョ・カラム司法長官によると、新たな容疑者4人の立ち会いの元で、捜査官らが現場検証を行った。容疑者らは「ここに学生たちの遺体がある」と供述したという。発見された遺体の数はまだ不明という。

今回遺体が見つかった4か所は、前週に身元不明の28人の遺体が発見された場所と「比較的」近いという。当局によれば、DNA検査による身元確認には少なくとも2週間はかかる。

カラム長官によれば、捜査は複数の線で進められており、イグアラ市のホセ・ルイス・アバルカ市長夫妻と公安局長の3人も事情聴取の対象。この3人は逃走したとみられている。

市長夫人の兄弟は麻薬密売組織「ゲレロス・ウニドス」の創設メンバー2人(故人)で、行方不明の学生らは9月26日の夜、乗っていたバスがゲレロス・ウニドスとつながりのある警察官らの発砲を受けた後、消息を絶ったとされる。【10月10日 AFP】
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集団殺人事件は「麻薬戦争」メキシコでは珍しいことではなく、麻薬組織と警察の癒着はごく普通のことでもありますが、市長夫人が麻薬組織創設者の兄弟で、市公安当局の指示で学生43人が猿害されたかも・・・というのはひどい話です。“癒着”と言うより、麻薬組織が市・警察を支配していたと言った方がよさそうです。

“新たに4か所から地中に埋められた多数の遺体を発見”とのことですので、別の事件の犠牲者も含まれているのではないでしょうか。

拷問と虐待の件数がこの10年で6倍に増加
メキシコの警察組織・司法組織は麻薬組織との癒着以外にも、その暴力的体質が問われています。

****メキシコ:当局の黙認で激増する拷問と虐待 : アムネスティ****
報告書では、2010年から2013年末までの間に7000件以上の拷問と虐待などの申し立てを同国の人権委員会がどのように受けたかを詳述した。

メキシコでの拷問と虐待の件数がこの10年で6倍に増加し、歯止めがきかなくなっていることがアムネスティ・インターナショナルの報告書で明らかになった。

アムネスティはメキシコ政府に対し、警察や国にまん延する拷問の風潮に直ちに歯止めをかける対策を取るよう求める。

拷問や虐待の急増だけではなく、それらの行為を容認し罪に問わない風潮も根深い。連邦裁判所が拷問を有罪としたケースはわずか7件しかなく、最高裁レベルではさらに少ない。
虐待のまん延は、虐待を受ける可能性が同国のすべての人びとに重くのしかかっていることを意味している。アムネスティの独自調査で、メキシコ市民の64%は、当局に拘束されたら拷問を受ける恐れがある、と考えていることがわかった。(中略)

アムネスティが聞き取りした各地の被害者は、警察や国軍による殴打、身の危険を感じる脅迫、性的暴行、電気ショック、手で首を絞めて窒息寸前まで追い込むといった暴行を受けたという。

黒人でホンデュラス人のアンヘル・アミルカル・コロン・ケヴェドさんは、移民であることとその民族的背景により、警察や軍の拷問と虐待を受けた。殴られ、ビニール袋を使って息ができないようにされ、裸にされ、侮辱的な行為を強要され、また人種差別的な言葉の暴力を受けた。拷問で強いられた供述をもとに起訴され、今は刑務所で公判を待っている。

今回の報告書では、アンヘル・コロンさんのようなケースを20件以上、記録した。

刑事司法制度は、法律が禁止しているにもかかわらず、恣意的拘禁や拷問によって得られた証言を証拠として採用してきた。

その結果、拷問や虐待が助長されるばかりでなく、司法制度の信頼性を揺るがし、刑事事件の被告の人権を脅かす不公平な裁判と不当な判決がますます横行することになる。(後略)【9月4日 アムネスティ国際ニュース】
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集団殺人を行うような警察であれば、拷問・虐待は日常茶飯事でしょう。

メキシコは経済的には、このところ失速気味のブラジルに代って、中南米のトップに躍り出ようかという勢いですが、経済的繁栄は民主的社会を自動的に約束するものではないようです。
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