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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  微妙な情勢の医療保険制度改革法違憲訴訟に関する最高裁判断

2012-04-07 21:38:40 | アメリカ

(首都ワシントンの最高裁前広場では、医療保険制度改革法に対する賛成派・反対派双方のデモンストレーションが行われましたが、写真は反対派の様子です。“flickr”より By majunznk  http://www.flickr.com/photos/majunznk/6882273512/ )

民主党長年の悲願であり、オバマ政権の最大の成果
オバマ米政権にとって1期目の最大の成果である医療保険制度改革法の成立からまる2年が経過します。

アメリカには日本のような国民皆保険制度はなく、経済的に保険料が払えない、既往歴があり保険会社から加入を拒否されているなどの理由で約4600万人の無保険者が存在します。
日本よりはるかに医療費が高いと言われるアメリカでは、こうした無保険者は病気になっても医療を受けられないという現実があります。
この厳しい現実の改善は、民主党の長年の悲願でもありました。

オバマ大統領・民主党は当初、公的保険制度の新設を試みましたが、「社会主義的」との共和党などからの批判もあり、連邦政府が民間保険会社と提携し、無保険者に安価な保険を提供することで、実質的に無保険者をなくしていく形に変更しました。

この妥協案も、大きな政府負担(今後10年間で約9400億ドル(約85兆円))が「大きな政府」の象徴として草の根保守派「ティーパーティー」などの攻撃の標的とされ、民主・共和両党が対立する議会通過が危ぶまれましたが、かろうじて成立に至りました。

“オバマケア”とも呼ばれるこの改革法では、民間保険への加入条件を緩和し、保険加入を国が補助することで、全国民の保険加入を目指すことになりました。保険加入条件の緩和義務化は2014年から始まります。これによって83%に過ぎないアメリカ国民の医療保険加入率は、95%まで上がる見通しとされています。逆に言えば、国民ひとりひとりに保険加入が義務づけられることになり、政府助成などが得られるにもかかわらず保険に入らない人(たとえば育児放棄などで子供を保険に入れない親など)には罰金が課せられることにもなります。【10年3月22日 gooニュース(加藤祐子)より】

11月の大統領選や最高裁のあり方にまで影響を及ぼす可能性
国民皆保険制度を有する日本からすれば“常識的”とも思える“オバマケア”ですが、“自由と自己責任の国”アメリカでは、加入義務付けが個人の自由を侵害しており“違憲”であるとの批判が絶えず、法案成立後も法廷闘争に持ち込まれています。
改正の主な財源が高所得層への増税とされており、対立の背景には所得階層間での不満感情があるとも指摘されています。

“難病を患い保険会社に保険加入を拒否され、貧しさ故に医療保険に未加入で治療を受けられずに死ぬ・・・そんな人々が改革法で救われるはずだが、主に貧困層の無保険者のせいで自分たちの税金を使われたくない、というのが高所得者の本音なのかもしれない(反対派には高齢の白人が多いといわれる)。” 【4月11日号 Newsweek日本版】

共和党が知事を占める州など26州が提訴。一部の州では違憲判決が出たため、政府側が最高裁に上訴していましたが、最終判断をする連邦最高裁で口頭弁論が3月26日から行われました。
状況は、オバマ大統領にとっては予断を許さない厳しい情勢のようです。

****米民主党の看板政策、違憲? 医療保険改革法巡り訴訟****
オバマ米政権が1期目の最大の成果としている医療保険改革法が、個人の自由を制限しており違憲だとして訴えられている。最終判断をする連邦最高裁で、口頭弁論が26日から28日まで続いた。6月末と予想される判決は、11月の大統領選や最高裁のあり方にまで影響を及ぼす可能性がある。

国民皆保険を実現するための医療保険改革は、民主党の長年の悲願だった。オバマ氏は就任翌年、上下院双方で民主党が過半数を占めていたことに助けられ、法案を成立させた。共和党は強く反発。訴訟は計26州の共和党系知事や司法長官らが起こしている。最高裁に至るまでの下級審では、合憲と違憲、双方の判決が出ている。

大きな争点となっているのは、個人に保険加入を事実上義務づけ、従わない場合は罰金を科す条項。社会全体の医療費上昇を防ぐために盛り込まれた規定だが、最高裁弁論では原告側の代理人が「議会には、個人を強制的に商取引に参加させる権利がない」として、違憲だと主張。一方、オバマ政権を代表してベリーリ訟務長官は「米国が抱える問題の解決のため、民主的に選ばれた議会の裁量権の範囲内」と反論。法廷内でも「共和対民主」の構図となっていた。

通常の事件では1時間しか弁論を聞かない最高裁が、この訴訟では3日間で計6時間以上の弁論を実施。個人加入条項の合憲性のほか、(1)条項施行前でも、訴訟の対象となるのか(2)個人加入条項が違憲の場合、法律の他の条項が有効か(3)低所得者層向けの医療保険(メディケイド)の拡充は許されるか――についても主張を聞いた。

これほど大がかりな弁論は40年間実施されておらず、最高裁も訴訟の重大性を意識している証しとみられている。判決はどちらの結論が出ても、米国の政治に多大な影響を与え、大統領選の大きな論点になるのは間違いない。

■保守派の判事、カギ握る
連邦最高裁の判断は、9人の判事の多数決による。米法曹関係者やメディアの間では、民主党の大統領によって指名された「リベラル派」の4人は今回の訴訟で合憲判断をするとの見方が支配的で、共和党の大統領が指名した5人の「保守派」がかぎを握る。

保守派の中で結論を左右すると見られるのが、アンソニー・ケネディ判事(75)。妊娠中絶や同性愛者の権利などの問題ではリベラル派につくこともある。2010年度の80件の判決では94%、5対4で割れた16件に限っても88%の割合で多数意見に入った。

そのケネディ氏は27日の弁論で個人加入条項について「政府と個人の関係を、根本的に変えるのではないか」などと、政権側に厳しい質問を連発。他の保守派判事も総じて政権に批判的な立場を取り、米メディアでは「違憲判決の可能性」の観測が急増した。

こうした観測が出るのも、一人ひとりの判事の影響力の大きさの表れといえる。最高裁はこれまでも中絶や人種差別などの問題で全米の政策を左右する判決を言い渡しており、判事指名は民主、共和両党の重要な課題だ。さらに、判事は終身ポストのため、なるべく若い候補を指名し、持続的な影響を保持しようとする傾向も顕著だ。

最高裁の役割が重視されるに連れ、司法権の政治色も強まっている。ブルームバーグニュースが今回の弁論前に行った世論調査では75%が「判事たちは、政治的な要素を考慮して判断する」と回答した。ただ、最高裁がこれほど大きな政策を違憲としたことは、半世紀以上ない。もし、議会で多数の賛同を得たオバマ氏の看板政策が無効とされた場合、最高裁のあり方に対する疑問や批判も高まるとみられる。【3月30日 朝日】
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注目のケネディ判事は今回、無保険者の問題を指摘しつつ、加入を義務付けるからには政府はそれを正当だと証明する「重い責務を負っている」と発言。総じて否定的な意見を述べたと報じられています。【4月11日号 Newsweek日本版】
アメリカでは、自派の主張に近い最高裁判事の任命が政権にとっての大きな仕事になっていることはよく耳にしますが、今回はまさにそうした最高裁判事の構成が政権の最大成果を左右する形となっています。

【「選挙で選ばれていない一部の人々が正当に形成され、議会を通過した法律を覆すということだ」】
こうした情勢に、オバマ大統領は最高裁の支持を確信していることを表明すると同時に、司法による過度の政策介入を批判しています。

****医療保険制度改革法、最高裁の支持を確信=米大統領****
オバマ米大統領は2日、最高裁は医療保険制度改革法を支持すると確信している、との考えを示した。大統領は記者会見で「民主的に選出された議会の過半数により可決された法案を覆すという前例がない措置を最高裁が最終的に行うことはないと確信している」と述べた。

医療保険制度改革法をめぐっては、保険加入の義務付けに対して違憲訴訟が起きており、その口頭弁論が先週行われた。大統領が公の場でコメントするのは、口頭弁論以降初めてとなる。
保守派は、医療保険の加入を義務付ける改革法は政府や議会の介入にあたる、と批判。一方大統領は、可決された法案を裁判所が拒否すること自体が介入だと主張している。

大統領は「何年もの間われわれは、司法積極主義や司法抑制の欠如が一番の問題だとの主張を聞いてきた。つまり選挙で選ばれていない一部の人々が正当に形成され、議会を通過した法律を覆すということだ」と述べ「今回の件がそのいい例であり、裁判所はこの点を認識し、そうした措置を取らないと確信している」と述べた。

オバマ政権は、医療保険制度改革を1期目の重要成果のひとつと位置付けている。裁判の判決は6月下旬に出る予定で、その決定は11月の大統領選に大きく影響を与える可能性が高い。【4月3日 ロイター】
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これまで日本では最高裁が政治判断を避けることが多く、最高裁まで行くと殆んどが政府に都合のいい結論になってしまうという、“司法抑制の過剰”がしばしば批判されています。
一方、タイやパキスタンでは、司法判断によって与党が解散させられたり、大統領や首相が失職に追いやられる“司法クーデター”的な動きも見られます。
三権分立とは言いつつも、なかなかそのバランスは難しいものがあります。

混迷する共和党大統領予備選挙や持ち直しつつアメリカ経済によって、再選に向けた道筋が見えてきたオバマ大統領ですが、もし“違憲”の判断が下されると、最大の業績を失うことになります。
(なお、共和党本命のロムニー氏は、保守派支持を取り付ける必要から医療保険制度改革法に反対していますが、自身が州知事時代に医療保険制度を導入しており、これがオバマケアのモデルとなったとして保守派の批判を浴びています。)
ただ、その場合、最高裁批判も高まることが予想されます。

そうした選挙影響や論議はともかく、医療保険制度改革法の失効で約4600万人の無保険者が再び見捨てられることが問題です。
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