(今年2月 ガザ地区の家畜小屋警備中にイスラエルの攻撃で死亡した夫の葬儀で悲しむ妻 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6862789583/ )
【「国連総会に『国』としての承認決議を求める」】
今月12日から15日の予定で、パレスチナ自治政府のアッバス議長が来日します。
アッバス議長の来日は3回目で、野田首相などとの会談で、中東和平の現状や,日本の対パレスチナ支援などについて幅広く意見交換を行う予定とされています。
その来日を前に、国連総会においてパレスチナを「オブザーバー国」として承認する決議を求める方針に言及しています。
****パレスチナの国家承認「国連総会に要求」 アッバス議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、12日からの訪日を前に朝日新聞の書面インタビューに答えた。今月中旬に予定されるファイヤド首相とイスラエルのネタニヤフ首相との会談について「先方から前向きな回答がなければ、国連総会に『国』としての承認決議を求める」と述べた。
イスラエルとの和平交渉が2010年秋以降中断し、独立への道筋が見えない中、パレスチナは昨年9月、国連への正式加盟を求めた。だが、米国が拒否権行使を明言し、安全保障理事会は加盟の是非の判断を棚上げにしている。
アッバス氏が議長を兼務するパレスチナ解放機構(PLO)は現在、国連の「オブザーバー機関」の資格を持つ。非加盟ながら「オブザーバー国」として国連総会が認めれば、バチカンなどと同等の立場となる。パレスチナは昨年10月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「加盟国」として承認されており、事実上の独立国として国連本体が認めることで、他の国連機関への加盟へ弾みがつく。【4月10日 朝日】
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パレスチナの国連加盟を求める動きは、アメリカの後押しするイスラエルとの対話路線に見切りをつける形で、パレスチナ問題に国際社会の目を向けさせるべく、アッバス議長が昨年9月以降取り組んできました。
そのなかで、ユネスコ正式加盟は実現し、パレスチナにおいても一時高揚感がありましたが、国連加盟の方は見通しがたたず棚上げ状態になっています。
アメリカの拒否権発動明言によって、仮に安保理で採択しても廃案となりますが、それ以前の問題として、安保理における支持国獲得が進まず、決議に持ち込んでも安保理15カ国中の9カ国の賛成が得られないという情勢です。
アッバス議長自身、昨年11月段階で「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」と、国連加盟が困難であることを認め、イスラエルとの交渉に戻る意向も表明しています。
****アッバス議長、「国連加盟、成功は期待していない」****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は11日、訪問先のチュニジアで会見し、国連安全保障理事会で審議が続く国連への正式加盟問題について「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」と述べ、困難であることを認めた。パレスチナ解放通信が伝えた。
また、国連加盟を巡るパレスチナの動きは、イスラエルとの和平交渉を拒否するものだとの批判については「国連に加盟しても和平交渉には戻る。国連では我々とイスラエルの間の問題は解決できない。交渉のテーブルにつくしかない」と述べ、和平交渉に戻る意思を強調した。
一方で「米国には、真剣に我々とイスラエルの間に立つよう呼びかけたい」と述べ、国連加盟問題を巡ってもイスラエル寄りの姿勢を崩さないオバマ政権を批判した。【11年11月12日 朝日】
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国連加盟断念の場合の次善の策として言及されている国連総会における「オブザーバー国」(総会での投票権はないが、発言権は認められている)承認の方は、拒否権もなく単純過半数で成立しますので、パレスチナ自治政府が求めれば、成立するものと見られています。反対するアメリカ・イスラエルなど関係国の意向を踏まえての判断になるでしょう。
【相手が停戦を破ればすぐに攻撃を再開すると警告】
パレスチナにおける問題は相変わらずで、今年3月にもイスラエルとガザ地区の「イスラム聖戦」など武装勢力の間で衝突があり、民間人を含むパレスチナ人25人が死亡しています。
この衝突は、一応“停戦”が成立しています。ガザ地区を実効支配するハマスがエジプトに停戦の仲介を求めたとされています。
イスラエルとの対決姿勢を基本するハマスとしても、いたずらにイスラエルを刺激して住民の安全を脅かす事態は、民心の離反を招くとの懸念があるのでしょう。
****イスラエルとガザ地区武装勢力が停戦、エジプトが仲介****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」などの武装勢力は、エジプトの仲介で停戦に合意し、13日午前1時(日本時間同8時)に停戦が発効した。
イスラエルがガザを空爆して武装勢力「民衆抵抗委員会」のトップを暗殺した9日以降、ガザでは一部に民間人を含むパレスチナ人25人が死亡し、イスラエルに向けて約200発のロケット弾が発射された。
イスラエル警察当局によれば、停戦発効後にロケット弾と迫撃弾8発が発射されたが、負傷者などの被害はなかったという。現地時間13日夜になっても停戦は維持されていたもようで、ガザ地区の空には平穏が訪れた。
米国は停戦を歓迎している。米国務省のビクトリア・ヌーランド報道官は「エジプト政府が停戦の交渉に成功したという報告を受けた。もしそれが事実なら、もちろん歓迎すべきことだ」と述べた。
イスラエルのマタン・ビルナイ民間防衛担当相は、イスラエルとガザ地区の武装勢力の間で、文書にはしていないものの停戦が「了解」されたことを認めた。ガザ地区のイスラム聖戦の報道官は、停戦協定を尊重するとしつつも、イスラエルに対して武装勢力を狙った攻撃を停止するよう求めた。
イスラエル、ガザ地区の武装勢力の双方とも、相手が停戦を破ればすぐに攻撃を再開すると警告している。【3月14日 AFP】
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【議長は、統一を求める声と和解に反対するアメリカとの間で板挟み】
しかし、中東には反政府運動弾圧を続けるシリア、核兵器開発問題のイラン、更にはエジプトやリビアのその後の問題等々、国際的に関心を呼ぶ案件が溢れています。
個人的には、最近パレスチナの国連加盟に関する話題を目にする機会があまりなく、冒頭記事を見て「ああ、そう言えばパレスチナの国連加盟問題はどうなったのだろうか?」というのが正直な感想ですが、おそらく国際的にもパレスチナ問題への関心度は低下しているのが実情ではないでしょうか。
国連総会における「オブザーバー国」承認は、国際社会のパレスチナへの関心を呼び戻す効果は期待できます。
しかし、パレスチナが国家としての承認を求めるにしても、イスラエルとの和平交渉に臨むにしても、その前に解決する必要があるのが、現在の自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配するハマスの分裂状態でしょう。
11年5月には、両者の間で統一政府(内閣)の結成及び自治政府議長と評議会の選挙実施が合意されています。
今年2月には、暫定的な統一政府の首相をアッバス議長が務めることで合意したとのことで、“前進”が報じられていましたが、その後暗礁に乗り上げているようです。
その背景には、シリアの政情混乱、リビア・カダフィ政権の崩壊など、「アラブの春」による現在の中東情勢が大きく影響しているようです。
しかし、パレスチナの統一政府を求める声もまた、「アラブの春」によって大きくなっています。
****パレスチナ:和解、暗礁に ハマス内紛、統一政府めど立たず****
パレスチナ自治政府の主流派組織ファタハと、対立組織でガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの和解交渉が暗礁に乗り上げ、11年5月に合意した統一政府(内閣)の結成や選挙実施などを当初の期限通りに実施することが不可能になった。
パレスチナ評議会(国会に相当)の議員でファタハの交渉責任者、アルアハマド氏が毎日新聞との会見で明らかにした。集団指導体制を敷くハマス指導部内の対立が原因だという。
両組織は11年5月、1年以内に自治政府議長と評議会の選挙を実施することや、これに先立って選挙管理内閣に当たる統一政府を結成することを決めた。2月6日、ファタハを率いるアッバス自治政府議長とハマス指導者のメシャル氏が会談し、統一政府の新首相をアッバス議長が兼務することでいったん合意したが、ハマスの一部勢力が異議を唱えているという。また、有権者登録を済ませた3カ月後に選挙を行う決まりだが、「ガザで登録は始まっておらず、5月の選挙は無理」という。
背景には、主に行政や対イスラエル武装闘争を担うガザの指導部と、シリアの首都ダマスカスに拠点をおき、海外からの資金調達や政治・外交戦略を担当し、メシャル氏が率いる政治局との対立がある。
これまでハマスの後ろ盾であるイランからハマス軍事部門への援助は、政治局を経由していたとされる。ところがシリアのアサド政権が反体制派への弾圧を強めたことを受け、メシャル氏は拠点をカタールなどに移し、アサド政権との関係を絶った。これがアサド政権を支持するイランの意に背く形になった。これに対しガザで「首相」職にあるハマスのハニヤ最高幹部は先月イランを訪れ、「ガザへの直接の資金援助を獲得した」(アルアハマド氏)という。
またカダフィ政権が崩壊したリビアからガザへの武器流入で「武器商人やトンネル密輸業者などがガザで有力層を形成し、(特権維持のために)和解に抵抗している」(同)という。
ビルゼイト大学(ヨルダン川西岸)のバセム・エズビディ教授(政治学)は「(中東の民主化要求運動)『アラブの春』で、パレスチナ解放運動の統一を求める人々の突き上げが強まり、アッバス議長にとってハマスとの和解は避けられない政治課題だ。しかし米国は和解に反対し、中東和平交渉を進めるよう圧力をかけており、議長は難しい立場に追い込まれている」と指摘している。【3月16日 毎日】
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イスラエルを認めないハマスの政権参加にアメリカは反対していますが、現在の分裂状態では自治政府に和平交渉の当事者能力を求めることができません。
アメリカにはイスラエル支持の姿勢からの脱却が求められますが、アメリカも大統領選挙の年ですから、ユダヤ人社会の票を逃がすような方針は期待できないところです。