孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  混乱に乗じて拡大するアルカイダ勢力 戦略的要衝ソコトラ島をめぐる動き

2012-04-12 23:39:24 | 中東情勢

(4月11日号 Newsweek日本版より)

【「アラブの春」でサレハ政権崩壊
アラビア半島南部に位置するイエメンでは、昨年からの「アラブの春」の流れのなかで、33年間権力の座にあったサレハ大統領と反大統領派の間で衝突が続いていました。
権限移譲を発表しながら反故にすることを何回か繰り返したサレハ大統領でしたが、昨年6月には首都サヌアで起きた暗殺未遂事件で重傷を負い、結局、昨年11月に権限移譲に署名し、同氏とその側近に民主化運動弾圧の訴追免除が与えられる形で今年1月にアメリカに出国しています。

訴追免除については、“サウジアラビアや米欧が仲介し、サレハ氏が署名した移譲案に基づく措置だが、反大統領派の一部は「政治に対する信頼を失墜させた」などと反発。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチも23日の声明で「国際法違反だ」と批判した。”【1月26日 毎日】といった反発もあります。

サレハ大統領から権限の移譲されたハディ副大統領は、昨年11月、首相に野党連合代表のムハンマド・バシンドワ元外相を指名し、組閣を要請しました。これを受けて12月には与野党勢力にポストを半数ずつ分配する挙国一致内閣が成立しています。

サウジ “混乱を最小限に抑える道”選択
今年2月21日には暫定大統領選挙が行われましたが、候補は権限移譲で実権を引き継いだハディ副大統領(65)一人ということで、事実上の信任投票となっています。

****混乱嫌う、サウジの影 イエメン大統領選、事実上の信任投票****
アラビア半島のイエメンで21日、昨年11月にサレハ大統領から権限移譲を受けたハディ副大統領を暫定大統領に選出する選挙が行われた。

ハディ氏選出により、北イエメン時代(1990年に南北統合)を含めると約33年にわたり権力を握ったサレハ氏は正式に退陣し、ハディ氏は今後2年間で新憲法起草や議会選を実施する見通し。昨年からの「アラブの春」で独裁的な長期政権が崩壊するのは、チュニジア、エジプト、リビアに続き4カ国目。

現地からの報道によると、首都サヌアでは同日、早朝から男女別の投票所に長蛇の列ができた。昨年のノーベル平和賞を受賞した民主化デモ指導者の一人、タワックル・カルマン氏も投票し、「サレハ氏退陣を記念する日だ」と語った。

その一方で、中央政府に反発する南部の分離独立派や、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力は選挙をボイコット。南部アデンなどでは分離独立派と治安部隊の衝突が起き、少なくとも4人が死亡した。
また、デモを続ける若者らの一部も「対立候補がいない選挙は、民主化とはいえない」と反発している。

事実上の信任投票である今回の選挙は、昨年11月、隣国のサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国の仲介で、与野党がハディ氏を推すことで合意して実現した。
サウジは当初、部族社会のイエメンを曲がりなりにも統治してきたサレハ政権が完全崩壊すれば、自国の安全が脅かされるとして、同政権を維持する考えだったとされる。
しかし、デモ隊側と政権の対立が先鋭化する中、ひとまずサレハ氏に引導を渡す一方、政権や軍中枢にいる同氏一族には手をつけず、混乱を最小限に抑える道を選んだ。
ただ、同氏が“復権”に乗り出せば、政情が再び混乱する懸念がある。【2月22日 産経】
***************************

選挙結果については、“選管によると投票率は約65%、得票率は99%超(99.8%)で、幅広い国民の支持確保に成功した形だ。任期は2年間で、新憲法の制定や議会選挙の実施などが主任務だ。ハディ氏は南部出身の元軍人でサレハ氏が94年に副大統領に任命した腹心だった。”【2月25日 毎日】とのことです。

ハディ新大統領はサレハ前大統領の腹心でもあり、サレハ氏一族は新政権に対する影響力を保持する構えであるとのことでしたが、サレハ一族排除の動きが報じられています。

****イエメン大統領、前大統領一族の軍幹部を解任****
イエメンのハディ大統領は6日、2月に退陣したサレハ前大統領の義兄弟ムハンマド・アフマル空軍司令官とおいのタレク・サレハ大統領防衛隊司令官を解任した。
国営サバ通信が伝えた。大統領が、治安組織の要職を握り続けるサレハ一族排除に乗り出した形だ。

だがアフマル氏は、反サレハ派の軍幹部が退任するまで「職にとどまる」と反発。AFP通信によると、7日には首都サヌアの空港がアフマル派兵士に包囲され閉鎖されるなど、混乱が広がっている模様だ。

サレハ前大統領が33年余りにわたって独裁体制を敷いたイエメンでは、2月の大統領選を経て新政権が発足した後も、治安組織を中心にサレハ一族の影響力が残る。前大統領の長男で共和国防衛隊司令官のアフマド氏らはなお要職にとどまっており、影響力一掃までにはさらに時間がかかるとみられる。【4月7日 読売】
***************************

南部と東部で存在感強めるアルカイダ系武装勢力
サレハ前大統領と反大統領派の衝突以外に、イエメンは従来より、南部の分離独立派、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力、そして「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力という3つの内紛を抱えています。

アルカイダ系武装勢力は大統領派と反大統領派が衝突する混乱のなかで勢力を拡大しており、今年1月には首都サヌア南東約170キロの町ラッダを掌握しています。
ハディ新大統領は「アルカイダ対策」を最重要課題の一つに掲げており、3月4日には、南部ジンジバル近郊で政府軍とアルカイダ勢力の衝突で60人以上の死者がでたと報じられています。
また、3月31日には南部マラハでの衝突で、政府軍・アルカイダ勢力双方合わせて30人が死亡しています。
混乱は現在も続いており、4月9日にも激しい戦闘が起きています。

****イエメン南部で激しい戦闘、死者多数****
イエメン南部アビヤン州で9日未明、国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力が軍の兵舎を襲撃して激しい戦闘になり、少なくとも60人が死亡した。

軍は士官1人を含む14人の死者を出した。現地の政府職員は、軍の部隊は襲撃を受けた兵舎から撤退したが、部隊とともに武装勢力と戦っていた地元の部族は現場に残って戦闘を続けると語った。
ある部族長は、「軍はわれわれに武器を支援してくれた。われわれはアルカイダと戦う。やつらにわれわれの街を渡さない」と述べた。

イエメンの南部と東部では武装勢力が存在感を強めている。国防省とある部族長によれば、政府側は前週末にイエメン南部と東部のアルカイダ系武装勢力の拠点を空爆し、戦闘員24人を殺害している。【4月10日 AFP】
************************

地政学的な要衝「ソコトラ島」に集まる各国の関心
こうしたイエメン情勢のなかで、アデン湾の出口に位置し、「アフリカの角」ソマリアにも近い“ソコトラ島”が、その地政学的重要性からアメリカ、ロシア、中国などの強い関心を呼んでいるそうです。

****楽園の島に軍事化の風*****
インド洋西端に浮かぶ戦略的要衝ソコトラ 奇観とダイビングの島に米中露が触手を伸ばす

・・・・アデン湾の東、ソマリアの北東端から80ごに位置するソコトラ島は、地上の楽園とも呼ばれるイエメン領の小さな島。奇妙な樹木がっくり出す異世界のような風景で知られ、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されている。
首都サヌアから遠いソコトラ群島には、本土で吹き荒れる部族抗争の嵐は及んでいない。大陸から隔絶されているため、島の植物の3分の1は固有種だ。

シーレーン防衛の拠点
この群島は地政学的な要衝であり、古くから列強の支配下に置かれてきた。(中略)
群島はイエメン本土の混乱とおおむね無縁だったが、冷戦期にはソ連の基地があった。今もイエメン政府にとって重要な戦略的価値を持つ場所だ。

「アフリカの角」(ソマリア、エチオピアなどから或るアフリカ大陸東端部)とアラビア半島に近いソコトラ群島には、複数の国が触手を伸ばしている。報道によれば、米政府はサレハ前政権と米軍配備に関する交渉を進めていたようだ。

米政府がソコトラに目を付けたのは意外ではない。「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の動きが活発になった09年頃から、対テロ戦争の主な舞台は南アジアからアラビア半島とアフリカ東部へ移ってきた。
ソコトラ群島は、イエメンとソマリアの米政府関連施設を標的としたテロを防ぐための拠点となる。さらに、アジアとヨーロッパを結ぶシーレーン防衛のためにも重要な場所である。

群島の近海はインド洋からアデン湾に入り、紅海へ向かう航路の入り□に当たる。そのためアメリカや中国だけでなく、サウジアラビア、エジプト、イスラエルといった中東諸国も、この海域の安全確保に無関心ではいられないはずだ。
さらに、日本とインドに向かう原油タンカーがこの海域を盛んに航行する。そのため両国は中国と共に、海上貿易ルートの監視活動に参加している。

ヨーロッパからスエズ運河を通ってアジアに向かう船舶も、ソコトラ群島付近を航行する。アデン湾とインド洋の入り口は
海賊が横行している海域だ。被害が多発しているのはソマリア沖だが、一部はイエメン領海にも出没。イエメンの武器密輸組織とソマリアの海賊の結び付きも問題になっている。
国際海事局(IMB)の調べでは、今年1~2月の問にソマリア沖で20数隻余りの商船が海賊に襲われた。昨年1年間には300件を大きく上回る襲撃事件が起きている。アデン湾に出没する海賊はアジアの物流輸送網に莫大な被害を与えており、世界経済の損失は年間90値ドル以上という試算もある。

今は観光スポットだが
その被害は海運業以外の産業にも及ぶ。海賊の横行でこの海域の漁業は打撃を受け、周辺国は通商相手から敬遠されるようになる。さらには、観光業までがとばっちりを受けている。

米軍がソコトラ群島に基地を建設するかどうかは、アメリカの対イエメン戦略によって大きく左右される。すべては今後のイエメン情勢次第だ。
サレハと違って、イエメンの新政権はアメリカの言いなりにはならないだろう。しかも、ソコトラ群島に軍事拠点を置きたがっているのはアメリカだけではない。公式には否定しているが、ロシアも海軍基地の建設に関心を示しているようだ。

中国も同様だ。インド洋に面したパキスタンの港に莫大な投資をしてきた中国にとって、アジア向け海上輸送の安全確保は国家的利益が懸かる重大関心事だ。既にインド洋で海軍力の増強を進めており、今後もこの地域の戦略バランスを左右するキープレーヤーであり続けるだろう。
この地域に多額の投資をしている韓国も、関与を強めようとしているようだ。

今のところソコトラ群島はダイビングと奇観を楽しめる観光スポットとして人気を集めている。しかし将来的には、この楽園の島はイエメンがアメリカやアジア諸国と交渉を行う際の切り札になりそうだ。【4月11日号 Newsweek日本版】
***********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする