孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  スー・チーさんのNLD圧勝 注目される今後の議員活動

2012-04-05 21:24:38 | ミャンマー

(2日、ヤンゴンの国民民主連盟(NLD)本部で、演説中に花束を渡されたスー・チーさん 【ロイター】)

【「メー・スー(スーお母さん)」】
各紙で報道されているように、ミャンマーで1日に行われた補選で、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(66)率いる民主政党・国民民主連盟(NLD)が、議会補選の対象となった45議席中、43議席(下院37議席、上院4議席、地方議会2議席)を獲得、スー・チーさん自身も当選するという形で圧勝しました。
候補者44人を擁立し43議席獲得ということで、ほぼ全勝でしたが、政府職員が住民の大半を占める首都ネピドーでもNLDが4選挙区を独占しています。
なお、2010年の総選挙で圧勝した与党・連邦団結発展党(USDP)は、残る2議席のうち1議席を取っただけで、もう1議席は地元少数民族政党が確保しています。

NLD圧勝は大方が予想したところですが、実際に首都ネピドーを含めてほぼ全勝という結果に、改めてスー・チーさんへのミャンマー国民の熱い期待を感じます。

****国民の母」に民主化託す 不屈のスーチー氏に共感****
ミャンマーで1日にあった国会補欠選挙は、野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝し、党首アウンサンスーチー氏(66)の絶大な人気が改めて示された。軍事政権による長年の自宅軟禁にも屈せず民主化を訴え続けてきた姿に、同じように抑圧されてきた多くの国民が希望を託す。

補選の投票から一夜明けた2日、最大都市ヤンゴンのNLD党本部でスーチー氏は勝利に沸く支持者らにこう語りかけた。「民主主義では多数者が少数者の権利を守らなければなりません。(負けた)他の政党や候補者に嫌がらせはしないようにお願いします」
スーチー氏は演説で必ず民主主義の大切さを訴える。1962年以降、国軍中心の支配が続く祖国に民主主義をうち立てたいと願う信念からだ。民主化運動指導者は今回の下院選当選によって、ほぼ四半世紀に及ぶ政治人生でついに国政の舞台に上がる。

なぜスーチー氏を支持するのかを問うと、人々は口をそろえてこう言う。「自分の人生を犠牲にして私たちのために尽くしている。だから、私たちも応えなければならない」
ミャンマー史を海外で研究していたスーチー氏が母親の看病のため帰国した88年、民主化運動が起きた。同年8月に初めて演説に立ったスーチー氏は、建国の父アウンサン将軍の長女として人気を集め、9月に結成されたNLDの書記長に就任した。
だが、クーデターで権力を掌握した軍政は89年にスーチー氏を自宅軟禁に。以降、2010年11月まで計3回、15年にわたる軟禁生活が続いた。軟禁期間以外も行動は制限され、英国人の夫マイケル・アリス氏が99年に英国で死去した際も再入国を拒まれる可能性から出国できなかった。

自由を奪われてきたのは多くの国民も同じだ。人々はスーチー氏を最近、「メー・スー(スーお母さん)」と尊敬と親しみを込めて呼ぶ。「スーチー氏が自分たちと同じ側に立つ」という気持ちの表れだ。

冗談を交えて観衆を沸かす演説上手のスーチー氏だが、政治家としての手腕については疑問視する声もある。一昨年の軟禁解放直後の演説でも「正しい目標は正しい行動で実現されなければならない」との政治信条を強調した。駆け引きや妥協も必要な議会政治で結果が出せるかどうか、国民は見守ることになる。

■国の土台固め、スタート地点
NLDがここまで勝つとは誰もが予想していなかった。最も驚いているのが与党・連邦団結発展党(USDP)かもしれない。選挙結果を受け、首都ネピドーで3日午後、中央執行委員会を臨時招集した。
3年後には現憲法下での2度目の総選挙が実施される。国会の4分の1の議席が軍人枠とはいえ、この勢いが続けば、NLDが政権を担うのも、決して夢物語ではない。

ただNLDにとっても、補選参加は苦渋の決断だった。軍服を脱ぎ、昨年3月に発足したテインセイン政権は、半年余りで民主化や経済自由化、国民融和の方針を次々と打ち出した。党員の高齢化が進み、党勢が衰える懸念が広がるなか、NLDが長年訴えてきた主張が与党に取り込まれていくのを蚊帳の外で見ているわけにはいかなかった。

ヤンゴンのNLD本部は連日、支持者で沸き返る。だが高揚感がいつまでも続かないことを党首のアウンサンスーチー氏自身が一番分かっているはずだ。6月にも招集される国会で初登院する新議員の多くは「スーチー」の名で当選した未知数の人だ。一方でテインセイン大統領は、変化への希求を追い風にしようとするだろう。体制内の守旧派との駆け引きが活発になるかもしれない。

3日プノンペンで始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は4日発表する議長声明に制裁解除を求める文言を盛り込む。さほど遠くない将来、援助や投資が殺到するだろう。
だが大統領の主導する改革も、裏付けとなる法整備などが追いついていない。補選終了後、ヤンゴンでは計画停電が始まった。国の土台は固まらず、まだ揺れている。まさにこれから一歩ずつ踏み固めながら前に進んでいく。補選を経て、ようやくそのスタート地点に立った。【4月4日 朝日】
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【「彼女の個性や意思の強さは、一部の人々にとって諸刃の剣のようなものだ」】
今回補選によるNLD獲得議席は上下両院の1割にも満たず、NLDは少数勢力であること、また、議席の4分の1を軍人が占めるという憲法上の規制が存在している現実(664議席のうち与党USPDが388議席、軍人が166議席)もあります。

そうした制約の中で、スー・チーさん、NLDがどういう結果を示すことができるかは、文字どおりこれからの問題です。
“民主主義”の理念だけでなく、個々の政策における現実的対応が求められます。
対立勢力との“妥協”が求められる場面も多々あるでしょう。スー・チーさんがそうした現実的手腕を発揮できるのか、あるいは硬直した対立状態に陥るのか、逆に“現実的対応”が国民の一部からは“裏切り”“変節”と批判・失望されることはないのか・・・注目されます。

****連邦議員になるスー・チーさん、日常的課題に追われる?専門家****
1日に行われたミャンマー連邦議会の補欠選挙で当選した民主化運動の指導者、アウン・サン・スー・チーさん(66)に大きな期待が集まっている。しかし専門家たちは、スー・チーさんが大きな政治目標ではなく、もっと日常的な課題に取り組まざるを得なくなるかもしれないと語っている。

軍事政権に対する反体制派の精神的支柱であってきたスー・チーさんはこれから、農民を助け、投資を促進し、軍政の下で約50年に及んだ誤った経済政策からミャンマーを脱出させ、発展させるために、かつての敵ともテーブルに着かねばならないだろう。
香港大学のルノー・エグレトー准教授(政治学)は「大臣としてであれ、一般議員としてであれ、政治的な駆け引きをする余地は、在野の反対派だったときよりも小さくなるだろう」と語る。(中略)

タイのシンクタンク「Vahu Development Institute」のミャンマー専門家、アウン・ナイン・ウー氏は「USDPが支配する現在の議会は非常にエネルギッシュで、この1年で素晴らしい成果を上げてきた。だが議会が取り組む課題は、一般国民が心配するきわめて日常的な問題だ」と言う。そしてスー・チーさんは選挙運動中は民主主義や憲法改正などの大きなテーマをうたってきたが、それよりもむしろ毎日の問題に取り組まなければならないだろうと指摘する。「わが国にとって最も重要なのは経済だが、アウン・サン・スー・チーには経済の実績がない」

■入閣はありか?
スー・チーさんが政府の要職に就くのかどうかも大きな問題だ。1月、ナイ・ジン・ラット大統領顧問はAFPに対し、スー・チーさんが閣僚として指名される可能性はあると語っていた。しかしそうした可能性に言及した政府高官は他にいない上、スー・チーさん本人も3月30日、大臣就任を打診されても、それを受ければ法律上、議席をあきらめなければならないので入閣する意志はないと話している。

もっともスー・チーさんが、例えば国内の民族紛争などを担当する何らかの役割を引き受けようとする可能性はある。
アウン・ナイン・ウー氏は、どのような役割を選ぶにせよ、スー・チーさんは自分の名声や影響力を用いるだろうが、信念を変えようとしない不屈の性格が問題となる恐れもあると指摘する。「彼女の個性や意思の強さは、一部の人々にとって諸刃の剣のようなものだ。彼女自身が問題になる恐れもある。議会にせよ政府内にせよ、未知の大海の中でどのようにうまく自分らしさを出していくか、それが鍵になるだろう」

過去にはスー・チーさんが軍政に譲歩しなかったことが、野党と軍政の行き詰まりを招いたと批判されたこともあった。
しかし、スー・チーさんを政敵と捉えていたタン・シュエ前国家平和発展評議会(SPDC)議長は1年前にその地位を退き、新世代の指導部はスー・チーさんにより好意的な姿勢を取っている。

タイ・チュラロンコン大学の政治学者Thitinan Pongsudhirak氏は、「いかなる民主主義も1人の人間の周りに形作られるものではない」と言う。「スー・チーさん個人だけに焦点を合わせるところから、彼女の支持者や彼女を補佐する人たち、彼女の政党、そして与党や現政権を含めたミャンマーの民主主義機構へと考えを広げるところへシフトする必要がある」【4月4日 AFP】
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【「平和裏に、総じて秩序だって実施された」(国連の潘基文事務総長)】
国民の圧倒的支持を明確にしたNLDへ政権側が今後どのような対応をとるのかは未知数ですが、少なくとも今回補選に関しては、定数の一割未満ということもあって、政権側がこれまで進めてきた民主化努力が本物であることを国際社会にアピールし、ミャンマー経済の足かせとなっている経済制裁解除を進めるためには、「スー・チーさんとNLDに勝ってもらわないと困る」という皮肉な事情が政権側にはありました。

そうした政権上層部のそうした思惑もあって、選挙は概ね「自由、公正」に行われましたが、現場ではいろいろな不正・妨害もあったようです。

****ミャンマー補選 NLDは43議席 「妨害・不正」相次ぐ****
期日前投票を破棄/監視団にも規制
ミャンマーの選挙管理委員会は3日、連邦議会補欠選挙(1日投票、45議席)の最終集計結果を発表し、野党・国民民主連盟(NLD)はシャン州で1議席を落とし、43議席となった。他の2議席は同州の少数民族政党と、与党・連邦団結発展党(USDP)が獲得した。補選では「自由、公正」も問われた。「平和裏に、総じて秩序だって実施された」(国連の潘基文事務総長)という評価の一方で、数々の不正・妨害行為の事例が報告されている。

選挙結果について米政府は、ヌランド国務省報道官が2日、「不正行為の調査」に言及し、クリントン国務長官も、選挙制度を変える必要性を指摘しており、問題があるとの受け止め方を示唆している。

不正・妨害行為の事例として、接戦の末にNLDが落としたシャン州の選挙区では、地元の選管が期日前投票の全900票を破棄した。NLDはクレームをつけ、この問題が議席確定を遅らせる一要因となった。
投票用紙にも細工が施された。用紙には候補者・政党名が書かれ、その横の空欄にチェックを入れる。ヤンゴン郊外のコームー選挙区では、NLDの空欄にロウが塗られ、その上にチェックがなぞられた票は無効にされた。

選管のスタンプが押されていない投票用紙も無効となる。そうした投票用紙を、選管が故意に渡していた選挙区もあった。選管職員が、投票所の入り口で「どの政党に入れるのか」と聞き、「NLD」と答えた住民を追い返していたところもある。

選挙人名簿に自分の名前が記載されておらず、投票できなかった人も多い。コームー選挙区では、農業を営む男性(48)が「ここにずっと住んでるのに、おかしいだろう!」と、怒りをあらわにしていた。

一方、諸外国の選挙監視団には規制があった。例えば、要員は投票所の中に立ち入ることはできず、外から窓越しにチェックせざるを得なかった。
東南アジアの要員は「表面をなぞっただけだ」と吐露した。

そうした中でも、獲得予想議席を当初、44としたNLDの独自集計と、選管の最終集計結果の43議席に大きな差はなかった。
このため、南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院のジョウ・サン・ウイ研究員は「補選の結果は、政権が進める変革への支持を後押しする一助となる」と指摘する。【4月4日 産経】
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与党幹部「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」】
“勝ち過ぎ”への政権内保守派からの反動も懸念されますが、スー・チーさんやNLDとの今後の関係について、与党幹部であるキンアウンミン上院議長は、かなり柔軟な姿勢を語っています。
スー・チーさんの父であるアウンサン将軍を国民の父と例えて「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」との発言は、タンシェ前議長の軍事政権時代を考えると隔世の感がありますが、特に、軍人枠の変更の可能性について与党幹部が触れていることは注目されます。

****スーチー氏歓迎 ミャンマー上院議長に聞く****
ミャンマーのキンアウンミン上院議長が4日、訪問先のプノンペンで朝日新聞の単独取材に応じ、1日の国会補欠選挙で当選したアウンサンスーチー氏に対し、「(同氏が)国や国民の利益を最優先で考えているのであれば(我々は)必ず協力できる」と述べた。当選者を議員として認証するため、臨時国会の早期開会を検討しているという。

補選後、議長が取材に応じるのは国内外のメディアで初めて。上院、下院両議長は両院をあわせた連邦議会議長を交代で務める。元軍人で与党連邦団結発展党(USDP)幹部。野党国民民主連盟(NLD)の国会入りに歓迎を示し、「包括的な議会を政府も議会も望んでいる」とした。スーチー氏とは「これまで3回会っている。いずれも兄弟姉妹のように心を開いて率直に話し合った」という。

NLDが公約とする憲法改正については「どこの国の憲法も時期と条件が整えば変えることができる」。国会議員の4分の1を軍人から選ぶ条項についても「国軍枠も国民が望むならば、いつかはなくなるだろう」とし、軍人枠に知識人を代わりに入れることも検討中と明かした。
補選で政府職員が住民の大半を占める首都ネピドーでもNLDが4選挙区で全勝した理由を「軍と国家の創設者であるアウンサン将軍への敬愛がその娘のスーチー氏にも向けられるのは当然」とした。USDP内で保守派が急進的な改革にブレーキをかける可能性については「そのシナリオはない。(USDPでは)少数派は常に多数派の決定に従う」と否定した。

軍事政権時代、スーチー氏の父のアウンサン将軍の業績は、軍政からほとんど評価されることがなかったが、議長は将軍を国民の父と例えて「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」と語った。【4月5日 朝日】
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タンシュエ前議長が事態を静観している背景については、「アラブの春」による独裁者の末路を見たため・・・との指摘があります。
“タンシュエ氏は首都の邸宅で閣僚や軍幹部らの報告を受けているようだという。政治にあまり介入していない様子なのは「関心は自分や家族の命と資産に向いている。アラブの独裁者たちの末路を見て、改革路線を容認する方が安全と判断したのだろう」と、複数の情報源の話をまとめた。”(ミャンマーの民主化運動を支援する英国の人権活動家ベネディクト・ロジャーズ氏)【同上】

制裁緩和に向けて加速する国際社会
長くなったのではしょりますが、国外の反応も概ね好評で、経済制裁解除に向けた動きが加速しています。
もちろん、“民主化”の評価という面だけではなく、「最後の未開拓市場」と呼ばれるミャンマーへの投資拡大の思惑もあってのことです。

4日閉幕した東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、ミャンマーに経済制裁を科す欧米各国に対し、制裁解除を呼びかける声明を採択しました。
アメリカのクリントン国務長官は4日、米企業のミャンマー新規投資の一部解禁を含む制裁緩和を進める方針を示しています。
EUも制裁緩和拡大を検討しており、アシュトン代表(欧州委副委員長)が数週間以内にミャンマーを訪れ、改革の進展を確認する意向です。
コメント (1)
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