孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  プーチン新体制を前に、反政権派政治家や人権活動家への盗聴・盗撮が活発化

2012-04-01 22:01:35 | ロシア

(プーチン首相が当選した3月4日の大統領選をめぐり、不正があったと主張する野党勢力は5日夜、モスクワ中心部のプーシキン広場で1万人規模の抗議集会を開きました。しかし、こうした反プーチンの声は次第に下火となっているのが現状のようです。背景に描かれている威嚇するゴリラのような化け物はプーチン首相を表したものでしょうか?会場の広場にはヘルメットをかぶった警察官が数多く配置され、広場の外へ抗議行動が広がらないよう厳重に警備しています。 “flickr”より By picnicer http://www.flickr.com/photos/69921450@N04/6810621748/

春まだ遠いロシア政治改革
ロシアではプーチン首相の大統領復帰が確定し、下院選挙の不正疑惑を機に一時盛り上がりを見せた、汚職・腐敗を糾弾し社会的公正を求める反プーチンの抗議行動も下火となっています。

****ロシア:反プーチン運動に陰り、新戦略打ち出せず*****
今月4日の大統領選でプーチン首相が当選したロシアで、政権を批判する抗議運動が退潮傾向を強めている。運動を指導してきた反プーチン勢力の力量不足や、戦略欠如が原因。5月7日の大統領就任式に照準を絞った抗議活動が計画されているが、勢いを回復するのは容易でない状況だ。

抗議運動は昨年12月の下院選後に本格化し、下院に議席を持たない反プーチン派政党などが市民を取りまとめてきた。だが、インタファクス通信などによると、同派のネムツォフ元副首相らは17日、モスクワ中心部で無許可の集会を開き、政治犯の釈放などを訴えたが、参加者は200~300人にとどまった。モスクワで10日に開いた反政権集会でも、参加者は約2万5000人(主催者推計)で、10万人規模を集めた過去数回の集会を大幅に下回った。

反プーチン派は退陣要求を繰り返すだけで、新たな戦略を打ち出せていない。カーネギー国際平和財団モスクワセンターのシェフツォワ上級研究員は「大衆を引きつける指導者が出ておらず、政権に対抗する力を備えていない」と指摘する。

抗議運動の指導者は平和的な活動に専念することで一般国民が参加しやすい環境を整えてきた。だが、中心組織の一つ「左派前線」のウダリツォフ代表は5日の集会後、「座り込み」を強行し、拘束された。これに対し、「冒険に乗り出した」(リベラル系野党ヤブロコのミトロヒン党首)と批判が出ており、反プーチン派内部の足並みの乱れも目立ってきた。

反プーチン派は大統領就任式前の5月6日ごろにモスクワで数十万人が参加する集会と行進を計画し、勢いを盛り返したい考えだ。【3月19日 毎日】
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活気づくシロビキ(武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)】
そうした“プーチン復帰”の政治情勢のなかで、ソ連時代のKGBをほうふつさせる盗撮・盗聴が横行するようになっているとの指摘があります。
反政権派の政治家や人権活動家が標的とされており、日本大使館の公使も盗撮の被害にあっています。

****駐露日本公使も盗撮・盗聴被害 プーチン氏大統領就任控え特務系機関暗躍か****
ロシアで反政権派の政治家や人権活動家が盗撮・盗聴され、面会や電話の内容がインターネットや政府系メディアで暴露される事態が相次いでいる。在露日本大使館の公使も被害にあった。
ソ連時代をほうふつさせる盗撮・盗聴劇には治安・特務系機関の関与が疑われており、プーチン首相が次期大統領に就任するのを前に、反政権派の信用失墜や分断を図る狙いだとみられている。

日本大使館の公使は2月3日、モスクワ市内のレストランで著名な人権活動家、ポノマリョフ氏と面会しているところを盗撮された。計5分30秒にわたる2本の盗撮映像が動画投稿サイト「ユーチューブ」に掲載されており、一部は政府系テレビ局NTVの番組でも放映された。

この番組では諸外国が資金援助を通じて反政権派や人権活動家の糸を引いていると主張。
ポノマリョフ氏が北方領土の色丹、歯舞の「2島を(日本に)引き渡すべきだ」とする持論を展開している映像が使われ、氏が日本の政治的利益と引き換えに「助成金」を求めているとのナレーションが加えられていた。

こうした盗撮は昨年12月、モスクワで下院選の不正疑惑に抗議する大規模な反政権デモが行われるようになったのと軌を一にして相次いだ。
昨年末には、反政権派のネムツォフ元第1副首相が俗語を多用して“身内”のデモ組織関係者を批判した電話の会話を盗聴され、政権派のネットメディアが録音を暴露した。

NTVの前出番組では、欧米の外交官が人権擁護団体に出入りしたり、反政権デモを視察する模様も放映されている。ポノマリョフ氏は「盗撮が連邦保安局(FSB)などの治安・特務系機関によって行われたのは疑いない」と語り、連邦捜査委員会(SK)に調査を求める書簡を送ったことを明らかにした。

プーチン次期政権は一定の民主化改革を行って不満層の“ガス抜き”を図る姿勢を見せているが、ポノマリョフ氏は「政権のシロビキ(=武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)はプーチンの大統領復帰に活気づき、プーチンがさらに(反政権派に対して)厳しい態度を取るよう圧力をかけている」と指摘。一連の盗撮・盗聴には次期政権の方針をめぐる派閥抗争も絡んでいるとされ、ポノマリョフ氏は「(次期政権の)改革は楽観できない」と話している。

在露日本大使館の話「NTVに対しては抗議文書を送付した。大使館員が通常の外交活動として行った面会の映像と音声がわれわれの了解なく放映されたことは遺憾であり、北方領土問題について日本大使館が工作をしているかのように報じられたことも誤解を与えるとする内容だ」【3月27日 産経】
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また、アメリカの駐ロシア大使の電話がロシアの情報機関に盗聴された可能性も問題となっています。

****ロシア:駐露米大使の電話が盗聴の可能性 米政府が懸念****
1月にモスクワに着任した米国のマクフォール駐ロシア大使の電話が、ロシアの情報機関に盗聴された可能性が浮上し、米政府が懸念を強めている。盗聴を裏付ける証拠はないものの、米国務省が大使の安全に懸念を表明して事実関係の調査を求めるなど米露間の外交問題に発展しそうな気配だ。

発端はマクフォール大使が29日、簡易ブログ「ツイッター」で、ロシアの政府系テレビNTVの記者が大使の非公開の訪問先で必ず待ち構えている実態を暴露したこと。大使がロシアの人権活動家と電話で面会を約束した際には、NTV記者が面会場所で待ち構えていたという。
大使はツイッターで「記者が誰から私のスケジュール表を受け取っているかに関心がある」と述べ、NTVが電話を盗聴したロシア情報機関から情報を提供されている可能性を示唆した。

ロシアでは最近、日本大使館の公使が著名な人権活動家とモスクワ市内の飲食店で会談している様子が何者かに盗撮され、映像が動画投稿サイト「ユーチューブ」やNTVの番組で放映される騒ぎがあったばかり。
米国務省のトナー副報道官は30日の記者会見で「マクフォール氏の(1月の)着任以降続いている数々の事件は、大使の安全に懸念を抱かせるものだ」と述べた上で、ロシア政府に事実関係の調査を求めたことを明らかにした。【3月31日 毎日】
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プーチン流強権支配は、今後も台頭する中産階層を抑えきれるか?】
プーチン首相自身がかつてはKGBの一員として東ドイツで諜報活動を行い、また、ソ連崩壊後も、KGBの後身であるロシア連邦保安庁(FSB)の長官に就任したように、KGB・FSBの諜報活動とは深い関係があります。(プーチン首相が国民的支持を得たのは対チェチェン強硬策ですが、そのチェチェン攻撃のきっかけになったテロ事件にはFSBが関与している・・・といった噂もあります。)
「FSB以外の6~7の特殊機関も野党に対するスパイ活動を許可されている」(元FSB工作員)とも言われています。

「強い国家」を標榜するプーチン体制には、かねてより「国家至上主義」的強権支配の指摘がります。

****安定望む心理逆手に****
90年代には、ソ連崩壊とその後の急進改革による失政で国内総生産(GDP)がソ連末期の半分近くまで急落。98年には対外債務の支払い猶予まで宣言し、多くの庶民が、年26倍にも達したハイパー・インフレや通貨切り下げで、貯金が紙くずと化す悪夢を見た。

これに対し、前大統領期には石油価格が90年代の10倍に跳ね上がった追い風を受けてGDPが1・6倍に膨らんだ。南部チェチェン共和国の独立紛争は平定され、プーチン氏が打ち出した対外強硬路線も国民の自尊心をくすぐった。

プーチン氏はこの間、安定を望む国民心理を逆手にとり、議会や司法、報道など民主主義の根幹を骨抜きにして強権体制を構築。統治の根底には、「強い国家」を再興するために手段を選ばぬKGB仕込みの「国家至上主義」があった。
政権内ではKGB出身者などシロビキ(武闘派)が台頭。主要経済分野の国家統制も進められ、今やプーチン氏の側近集団がGDPの10~15%にあたる資産を掌握しているとの推計もある。【3月5日 産経】
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政治参加や経済活動の自由拡大を求めて、大都市部では中産階層が声を上げ始めており、こうした都市部中産階層にはプーチン流の強権体制に対する倦怠感が強まっているとの指摘【同上】もありますが、最近の「政権のシロビキ(=武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)はプーチンの大統領復帰に活気づき、プーチンがさらに(反政権派に対して)厳しい態度を取るよう圧力をかけている」という動きは、プーチン新体制がどのような性格の政権になるのかを示唆しています。

国内面だけでなく、国際的にもアメリカが主導する欧州のミサイル防衛(MD)への対応など、アメリカとの“リセット”が再リセットされ、新冷戦に戻りのでは・・・との懸念もあります。

ただ、台頭する都市部中産階層との力関係次第では、今後、プーチン流の強権支配体制は破綻をきたす可能性もあります。また、石油価格が低下した場合、原油に依存するロシア経済は困難に直面し、社会的不満が噴き出すこともありえます。
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