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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ふたつの鉄道  ラサから青蔵鉄道をネパールへ延伸 北朝鮮・羅津とロシア・ハサン間を結ぶ貨物運行

2012-04-04 23:01:33 | 東アジア

(4月3日朝日より)

中国:ネパールとの関係強化でチベットの分離・独立勢力を押さえ込む狙い
中国の温家宝首相が1月14日、中国首相としては11年ぶりにネパールを訪問し、バタライ首相らと会談しています。
中国側はこの訪問で、総額約1億2千万ドル(約92億円)の援助供与を約束したと報じられています。
歴史的にも、現在の政治経済的にもネパールはインドの強い影響下にありますが、近年、そのネパールでも中国が存在感を増しています。
中国としては、ライバル・インドを牽制すると同時に、チベットからインドへの亡命ルートを断つチベット問題対策の意味合いもあると指摘されています。

そうした中国のネパール支援の一環として、チベット自治区のラサから青蔵鉄道をネパールのコダリまで延伸する計画が中国・ネパールの間で協議されているそうです。

*****中国、ネパールとの関係強化 インド牽制、鉄道延伸も チベット独立運動を抑圧*****
中国がネパールとの経済関係の強化を進めている。3日付インド紙ヒンズーによると、両国は、中国チベット自治区の青蔵鉄道をネパールのコダリまで延伸する計画を協議した。貿易額も増加を続ける。中国にとって、ネパールは亡命チベット人の出国ルートになっているだけでなく、核武装国インドとの間に位置し、戦略的重要性が高いことが背景にある。

中国の温家宝首相は今年1月、中国の首相としては約11年ぶりにカトマンズを訪問し、バタライ首相らと会談。中国が資金援助を増やすことや、チベット独立運動を念頭に、ネパールが中国を分断しようとする動きに対して領土を使わせないことなどを約束した合意文書に調印した。
ヒンズー紙によれば会談の際、ラサと青海省西寧を結ぶ青蔵鉄道の延伸計画についても協議。駐ネパールの中国大使は先週、ネパール当局者に対し、中国国境の町コダリを通関地として整備するため支援することを明らかにした。

ネパールは貿易の6割弱をインドとの間で行っており、物流の多くをインドに頼る一方、中国との昨年の貿易額は前年比61%増の約12億ドルと拡大している。

また、チベット自治区から毎年数百人規模のチベット人がネパールを経由してチベット亡命政府があるインドへ渡っており、中国にはネパールとの関係強化でチベットの分離・独立勢力を押さえ込む狙いがある。

中国が国境を接する国には、南シナ海の領有権問題で対立するベトナム、民主化の進展で相対的に関係が後退したミャンマー、親日的な国王を持つブータンなどがあり、中国にとりネパールを自国側に引き寄せることは戦略的意味を持つ。

ネパールでは2008年に王制が崩壊し、反政府武力闘争を行ってきたネパール共産党毛沢東主義派が武装解除、毛派主導の政権が誕生した。王室と良好な関係を築いていた中国はかつて毛派をテロ集団とみなしていたが、民主化後は毛派を最重要政党とみて関係を構築してきた。毛派書記長のダハル元首相は首相就任後の初外遊先に慣例だったインドではなく中国を選び、インドを刺激した。
インドのジャワハルラール・ネルー大学のシリカン・コンダパリ教授は、「中国はネパール国境に19の検問所を築いている。開通済みは数カ所で、残りはネパールの合意待ちだ。インドは、中国が軍事的に攻撃的な動きをしているとみなしている」と話している。【4月4日 産経】
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カトマンズの街に中国商品・広告が溢れる日も、そう遠くなさそうです。
3月30日ブログ「スリランカ 内戦終結から3年 復興をアピールする政府 中国・インドの援助競争」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120330)では、ネパール同様に伝統党的にインドの影響が強いスリランカへの中国進出、インドとの援助競争を取り上げましたが、同様の事態がネパールでも起きています。
今のところは中国の勢いが強く、インドは防戦にまわっているように見えます。

個人的には、チベットからヒマラヤを抜けてネパールへ至る鉄道というのは非常に魅力的で、開通したら是非旅行したいものです。

それにしても、改めて地図を眺めると、中国は北朝鮮、ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナムと陸上の国境線を有しており、ロシア、インド、ベトナムとは国境紛争で武力衝突・戦争も起きています。また、ミャンマーや北朝鮮国境も政治情勢絡みで不安定です。

こうした国境線を維持してくのは大変に神経・エネルギーを使うことでしょう。
多くの国と長い国境線を有し、実際に紛争も経験している中国と、日本のように周囲を海で囲まれた国では、国際問題・国家関係に対する考えも大きく異なることが容易に想像されます。

北朝鮮・羅津で開発を競うロシアと中国
もうひとつ、鉄道関連の記事がありました。
国境を隔てて向かい合う北朝鮮の羅津(ラジン)とロシアのハサンの間を結ぶ鉄道がロシア側の修復工事によって整備され、運行の見通しがたったようです。

****羅津―ハサン間の貨物列車「10月から」 北朝鮮報道****
朝鮮中央通信は2日、北朝鮮の羅津とロシアのハサン間を結ぶ貨物列車が、今年10月から運行するとの見通しを伝えた。正式に運行が始まれば、年間10万個の貨物が輸送されるとしている。

2001年に首脳会談で鉄道改修事業に合意し、08年に工事を開始。北朝鮮鉄道省とロシア鉄道会社が同年、合弁企業設立の契約を交わしていた。昨年10月には、試験運行された。
同通信は北朝鮮の鉄道省局長の話として、現在、レールの敷設とトンネル、信号の補修などにあたっていると報じた。また、正式に運行が始まれば「東北アジアとヨーロッパを結ぶ新たな国際鉄道貨物輸送ルートが築かれ、朝ロ両国の経済協力や関係発展に寄与する」と伝えた。【4月3日 朝日】
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“ロシアと北朝鮮の間の鉄道は、ソビエト連邦軍を輸送するために第二次世界大戦直後に建設された。豆満江駅より先は朝鮮総督府鉄道として日本統治時代に建設されたので、ロシア側が広軌(1,520mm)であるのに対して、北朝鮮は標準軌(1,435mm)なので、貨物の積み替え、客車の台車の付替えが必要である。架線を流れる電気の種類も、ロシア側が交流25,000V50Hz、北朝鮮が直流3,000Vと異なっている”【ウィキペディア】という状態で殆んど使われていなかったのを整備したもののようです。

ロシアは2008年、ハサンから羅津に通じる鉄道補修と羅津港3号埠頭開発の見返りに49年間の港湾使用権を獲得しています。これまでに鉄道の一部補修は行ってきましたが、埠頭開発はほとんど手付かずで北朝鮮側が不満を募らせていたとも報じられています。【11年8月23日 産経より】

羅津港は、北朝鮮が外資導入による経済開発を狙っている羅先(ラソン)特別市・自由経済貿易地帯にあります。
そして、北朝鮮の最大の後ろ盾、中国もこの地域への進出を早めています。
中国は北朝鮮・羅先にある羅津港に、ロシアとは別の埠頭の租借権を獲得し、貿易港として利用しています。
北朝鮮とロシアによって日本海から遮断されている中国にとっては、羅津港は日本海への出口として重要な意味合いがあります。

****中国、北の港利用 石炭輸送開始、協力加速へ****
中国の国際情報紙、環球時報などによると、北朝鮮との経済協力関係を強化している中国が、使用権を獲得している北朝鮮北東部の交易都市、羅先(ラソン)の羅津港を利用して、中国南東部に向けた石炭の輸送を開始していることが5日までに、明らかになった。

中国が石炭の輸送に使用しているのは同港の1号埠頭(ふとう)。昨年3月、中朝経済協力の窓口となっている遼寧省大連の企業が、最低10年間の使用権を獲得したことが公になっていた。同紙によると、埠頭はすでに石炭輸送用の改修が施され、石炭を積んだ輸送船が年明け早々、上海に向けて出港したという。

韓国の聯合ニュースは、石炭は吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春(こんしゅん)市で採掘されたもので、初回の輸送量は約2万トンだったと伝えている。韓国紙、朝鮮日報は「中国は北朝鮮の羅津港を借りることで、東北部の天然資源を南方へ輸送する“北煤南運”の新しい道を切り開くだろう」と分析している。

羅津は中国にとって、経済的にも戦略的にも重要な港だ。清時代の19世紀に日本海への出口を失った中国東北部は“陸封”され、経済発展が遅れた。これまでは700~900キロ離れた遼寧省の港まで陸送するほかなく、コスト高に悩まされていた。羅津港の運用開始は、東北部の経済発展に加え、日本や韓国、ロシアとの貿易促進につながると期待されている。

今後、中朝両国は羅津港を足がかりに経済協力をさらに加速させると予測されている。環球時報によると、中朝は羅先の経済区を含むハイレベルの協力開発機構を設立する見通しだ。現在の水深約9メートルの埠頭のほかに、同30メートル前後の埠頭を備えた大規模な国際港を建設するとの憶測もささやかれている。
同紙は「このような国際港は、すべての合法的な商業輸送船に開放される」と指摘。韓国メディアでは「北朝鮮が国内の経済困難を克服するために、さらに羅津港の使用権を開放する」との見方が広がっている。【11年1月6日 産経】
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中国の進出で、ロシア側も羅津港埠頭開発のペースを速めているようです。
北朝鮮としては、ロシア・中国を競わせて、出来るだけ多くの資本を引き出したい思惑でしょう。

大きな可能性を秘めた極東経済圏
北朝鮮、中国、ロシア、更には韓国などのそれぞれの思惑もあって、ここ数年、極東の要所を結ぶ回廊の建設、それにともなう経済活動の活性化が見られます。

****中国、悲願の日本海へ〈動く極東****
中国吉林省・延辺朝鮮族自治州の琿春。ロシアと北朝鮮に接する街だ。黒竜江省綏芬河と並んで極東の物流を担う、もう一つの有望ルートの中心にある。

琿春市の東端にある防川にタクシーで向かった。3カ国国境と約15キロ先の日本海を見るためだ。海に至るまでの土地はロシアと北朝鮮の領土だ。あとわずかで日本海への道をふさがれた形で、中国にとって、非常に悔しい15キロなのだ。(中略)

1990年代から国連開発計画が周辺国とともにこの地域を共同開発しようとしてきたが、大きな進展はなかった。核開発で国際社会と衝突するなど、まさに北朝鮮の不安定な情勢が大きな原因だ。中ロの微妙な関係も影を落としている。中国が日本海とつながるのをロシアが嫌っている、との見方が現地で聞かれた。

空気が変わったのは3年前からだ。中ロ首脳が、沿海州から東シベリアにかけての国境地帯で約200項目の事業を行うことで合意した。また、中国政府が吉林省都・長春から延辺自治州にかけての地域を国家プロジェクトとして重点的に開発することを決めた。

こんな中で、琿春とロシアのザルビノを結ぶルートと、琿春から北朝鮮の羅津港に出るルートが同時に開拓されている。
いま、地元で期待が高まってきているのが羅津ルートだ。中国企業が羅津港の埠頭(ふとう)の一つに10年間の使用権を得て、石炭を中国南方に輸送し始めたことが背景にある。限定的ではあるが、中国が日本海に悲願の出口を持った。
この出口をさらに拡大しようと、中国が使える埠頭の増設を北朝鮮側に働きかけているという。

延辺自治州・図們江区域開発弁公室の王秋菊主任は「南方の建材や北方の自動車なども運べる」と語り、物流ルートとしての本格化に期待する。
「綏芬河よりも、延辺の方がもっと将来性があると思う」。延辺大学経済管理学院の金華林院長は言い切る。朝鮮半島情勢が好転すれば、日韓も羅津港を活用すると見るからだ。協力の一環として、羅津などの経済管理にあたる北朝鮮の幹部や職員を1期20人ずつ、吉林大学で養成し、すでに2期を終えたという。

だが、羅津港だと、北朝鮮に経済制裁をかける日本や韓国は当面使えない。中国にとってザルビノとの連結も急ぐ必要がある。【4月3日 朝日】
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記事にあるように、日本にとっては北朝鮮問題が大きなネックになっており、また、中国の羅津進出についても「中国が日本海に進出してくる」という“脅威”としてのとらえ方が強くあります。

ただ、大きな流れとしては、極東経済圏とも言えるこの地域の経済・物流が活性化すれば、日本にはその中心になって大きな利益をあげられる可能性があります。国としての経済規模は日本を抜いた中国ですが、日本海を囲む極東エリアに関して見れば、日本の経済力・市場規模は他を引き離しています。

****回廊づくり、関心示す周辺国〈動く極東****
国章の「双頭の鷲」のごとく、ロシアが欧州だけでなく、アジアにも首を向けたことで、極東地域の物流ルートづくりが活発になってきた。
日中韓ロの政府関係者や専門家らが昨年末、黒竜江省ハルビン市に集まり、陸海一貫の輸送を進めていくことで合意した。物流ネットによる一体化でさらに成長を促すねらいだ。西のモンゴルも構想に入れる。

これまでロシアの効率の悪い通関手続きや様々な規制、行政の腐敗などの問題があり、関係国はロシアの経由に二の足を踏んでいた。だが、ロシア極東連邦大学のフジヤトフ教授は、中ロ両国が09年に国境地域の事業協力に合意したことや、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟の動きなどが、徐々にこうした懸念を払拭(ふっしょく)していく可能性を指摘する。

回廊づくりは中国が最も熱心だが、韓国も吉林省の延辺ルートに期待する。韓国政府関係者は「我々は吉林省との協力に関心がある」と語る。吉林省は朝鮮族自治州を抱え、1992年の中韓国交樹立以降、対韓貿易の窓口の役割を果たしてきた。

日本政府は最近、年1~2回のペースで、綏芬河市など現地に政府職員を派遣し、中ロ国境地帯の物流や共同開発を視察させている。中ロの接近は地域経済だけでなく安全保障にも影響を与える可能性があるからだ。日本から中国やロシアに至る物流ルートの構築には時間がかかるとみている。新潟県や鳥取県などは積極的だが、日本政府は静観する構えを崩していない。【4月3日 朝日】
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中国・琿春とロシアのザルビノを結ぶルート及び琿春から北朝鮮の羅津港に出るルートと並んで、極東の物流ルートとして注目されているのが、中国黒竜江省綏芬河(ソイフェンホー)とロシア・ウラジオストクを結ぶルートです。
このルートにしても、日本・韓国との結びつきを期待しています。

****海越え日韓へも ****
こうした(綏芬河)市の動きについて、黒竜江省社会科学院東北アジア研究所の●志剛所長(●は竹かんむりに旦)は「ロシア相手の貿易だけでは行き詰まるかもしれないから」と語る。急成長の勢いを保つには、その向こうにある日韓を巻き込む必要があるとの判断だ。ウラジオストク経由で日韓と結びつけば、綏芬河が極東の物流の中心にもなる。

課題は、中国の圧倒的な人口圧力を心配し、国境貿易の拡大にも慎重な意見が多いロシアとの協力をどう進めるかだ。
最近、中国の様々な働きかけで、ロシアにも変化の兆しが見える。市内の貿易仲介業者によれば、昨年11月、黒竜江省牡丹江市からウラジオストク港を経て鳥取県に至る貨物運送が10日間で実現した。これまでロシア側の効率の悪さなどから2カ月近くかかるとされたルートだ。税関書類の決裁にかかる時間も7日から2日に短縮されたという。
趙書記は語る。「ハルビンから綏芬河、ロシア極東、日本へと至る道は未来につながる道なのです」【同上】 
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