孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

財政緊縮策で行き詰る欧州各国の政治・経済 求められる成長戦略併用

2012-04-29 21:19:00 | 欧州情勢

(3月29日 スペイン 財政緊縮策に抗議するゼネストが一部暴徒化 25歳未満の若者世代の失業率が50%を超える状況では無理からぬところもあります。 “flickr”より By Ateak Ireki http://www.flickr.com/photos/58943551@N03/7027421569/

財政緊縮策で欧州政権交代ドミノ
EUは、財政緊縮を重視するメルケル独首相の強い意向と、これに協力するサルコジ仏大統領の“メルコジ”路線で、加盟27カ国中25カ国に財政規律強化を義務付ける協定を実現し、緊縮財政による財政再建を市場に約束する形で一応の信用不安をなだめたところですが、緊縮財政に伴う国民生活の“痛み”は大きく、EU内各国で修正を求める声が大きくなっています。

オランダではルッテ首相が緊縮策を進めるために内閣総辞職・総選挙に追い込まれています。
****オランダ首相が辞任 緊縮策で政権行き詰まり****
オランダのルッテ首相は23日、財政健全化をめぐる右翼・自由党との協議が不調に終わったことを受け、ベアトリックス女王に内閣総辞職を申し出て辞任した。地元メディアなどによると、9~10月にも総選挙となる見通しだ。

少数連立のルッテ政権が示した緊縮策に対し、閣外協力していた自由党が21日、協力を拒否。他野党も緊縮策への協力の条件として首相の辞任を挙げていたことから、緊縮策を進めるために辞任した。
オランダは2012年と13年の財政赤字が国内総生産(GDP)比4.6%と、欧州連合(EU)が求める3%を上回る見込み。ルッテ政権は10年10月に発足した。【4月24日 朝日】
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総選挙は9月12日に実施すると発表されています。
13年のオランダ財政赤字は現在、GDPの4.6%と予想されており、これをEU規定の上限である3%とするために政府は、歳出を少なくとも95億ユーロ追加削減する必要があります。社会党のエミール・ルーマー党首は、「緊縮パッケージは余りにも厳し過ぎ、経済にマイナスだ」と主張しています。【4月24日 Bloomberg.co.jp】

ルーマニアでは、緊縮財政を進めるウングレアーヌ政権への内閣不信任案が可決しています。
****ルーマニア:内閣不信任案を可決…緊縮財政批判受け****
ルーマニアの上下両院総会は27日、中道右派の民主自由党などから成るウングレアーヌ政権の内閣不信任案を可決した。バセスク大統領は同日、最大野党の中道左派、社会民主党のポンタ党首を新首相に指名した。政権交代が濃厚となった。

ウングレアーヌ政権の緊縮財政に反対する世論の高まりを背景に、社民党などが不信任案を提出していた。今年2月にも緊縮策を進めたボック政権が崩壊したばかり。欧州債務危機で喫緊の課題となった財政再建の困難さを示した形だ。

不信任案の採決では与党側議員の造反などもあり、賛成票が半数をわずかに上回った。可決後、与党側は新首相候補の擁立断念を表明。バセスク大統領から指名を受けた野党統一候補のポンタ氏は10日以内に組閣を終え、上下両院総会で承認を求める。

ウングレアーヌ政権は2月、公務員給与の大幅カットや付加価値税の引き上げなどを断行したボック政権を引き継ぎ、「改革の継続」を訴えたが、国民の不満を抑えることができなかった。ルーマニアでは今年11月に総選挙が予定されている。

債務危機に見舞われた欧州ではギリシャやイタリアなどで政権交代が続いてきた。
チェコでも27日に内閣信任案の投票が行われた。小差で可決されたものの、今後も不安定な政権運営を迫られそうだ。【4月28日 毎日】
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欧州信用不安の震源地ギリシャでは総選挙が行われていますが、国民に負担を強いる緊縮策への反発から、財政緊縮策を進める連立与党側が議席を減らすのは確実な情勢です。
連立与党自体が、緊縮策に反する公約を連発し、支持つなぎとめに必死の状況です。
危機回避のための国際公約は反故にされる可能性が高そうです。

****ギリシャ総選挙:連立与党、過半数保つか…5月6日投開票****
欧州債務危機の震源地となったギリシャの総選挙は、5月6日の投開票が1週間後に迫った。欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の巨額金融支援と引き換えに、財政緊縮策を進める連立与党側が議席を減らすのは確実な情勢。合計で過半数を維持するかどうかが危機対応の行方を左右しそうだ。

国民に負担を強いる緊縮策への反発から、右派・左派の小政党など32も政党が乱立する選挙戦になっている。議席を占めるには3%以上の得票率が必要で、2ケタ近い政党が議会に進出する勢い。政治不信から、浮動票が増えている。

前回第1党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と第2党の中道右派・新民主主義党(ND)は昨年11月、財政危機乗り切りのため暫定的な与野党大連立を組んだが、選挙は個別に戦っている。

今回はNDが第1党になる見通しだが、分裂した右派小政党に票を奪われている。焦るサマラス党首は「経済再生に必要なのは成長だ。法人・消費税率を15%下げる。社会保障費は増やし、賃金は下げない」と緊縮路線に反する公約を連発するものの、単独過半数には届きそうにない。

一方、危機を回避できずに支持者を失望させたPASOKは、ベニゼロス党首が「我々はEUにとどまる」と訴え、右派との連立継続も明言する堅実路線。徐々に支持率回復の傾向も出ている。

情勢は複雑だが、いずれにせよ選挙後は、2大政党の再連立を軸に新政権を模索せざるを得ないとみられる。ただし、合計過半数に達しても、緊縮路線への修正圧力が強まることは避けられない。新首相も両党首以外から人選される可能性があり、不安定な政権運営が続くことになる。【4月29日 毎日】
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修正を迫られる“メルコジ”路線
ドイツ・メルケル首相とともに緊縮財政路線を敷いたサルコジ仏大統領の苦戦は、連日報じられているとおりです。
現段階でも社会党オランド候補との差は縮まっておらず、更に、リビアの旧カダフィ政権から不正資金が流れていた疑惑やストロスカーン前IMF専務理事の事件への関与などが取り沙汰されている状況では、形勢挽回はほぼ不可能でしょう。

****オランド氏優勢続く=決選投票まで1週間―仏大統領選****
フランス大統領選挙は5月6日の決選投票まで1週間に迫った。世論調査では17年ぶりのエリゼ宮(大統領府)奪還を狙う最大野党・社会党の候補オランド前第1書記(57)が、右派与党・国民運動連合から再選を目指すサルコジ大統領(57)をリード。31年ぶりに現職が敗北するかどうかに注目が集まっている。

26、27の両日に各世論調査会社が公表した投票意向調査結果によると、オランド氏の支持率は54~55%で、サルコジ氏に8~10ポイント差をつけた。22日の第1回投票直後に公表された調査と比べ、おおむねオランド氏が支持を伸ばしている。【4月28日 時事】
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オランド氏は、EUの新財政協定の再交渉を求めており、また、ドイツが反発するユーロ共同債の導入なども主張しています。オランド氏当選の場合、“メルコジ”路線は修正を求められることになりそうです。
もっとも、サルコジ大統領も苦戦の選挙戦対策として不評の緊縮策を引っ込め、移民制限や中国製品関税引き上げなど、反グローバル路線を押し出していますので、サルコジ再選でも今まで通りと言う訳にはいかない情勢です。

こうした状況にドイツ・メルケル首相側も、オランド勝利を睨んでの軌道修正を行いつつあるようです。
****独、「オランド」シフト 仏大統領選*****
「メルコジ」曲がり角 新財政協定再交渉に警戒
5月6日のフランス大統領選の決選投票まで29日で1週間となった。最大野党の社会党候補、オランド前第1書記に対するサルコジ大統領の劣勢が続く中、債務危機対応で「メルコジ」と称されるほどの信頼関係を築き、サルコジ氏支持を公言していたメルケル独首相も、「オランド政権」誕生に備えて微妙に立場を変えつつあるようだ。

メルケル首相の報道官は27日、「誰とでも首相はうまくやっていく。それが特別な独仏友好の本質だ」と強調。サルコジ、オランド両氏のどちらが大統領となっても良好な両国関係を維持していく考えを示した。
メルケル首相は欧州債務危機が深刻化した後、サルコジ氏と対応を主導する中で信頼関係を構築した。2月のパリ訪問では公然とサルコジ氏の再選支持を表明し、一緒にテレビのインタビューにも出演。選挙応援のためフランス入りする可能性も取り沙汰された。

しかし、22日の第1回投票でサルコジ氏は現職として初めて首位を逃し、世論調査によると決選投票でも苦戦している。独政府は首相が第1回投票後も引き続きサルコジ氏を支持しているとする一方、応援のための訪仏の予定はないとした。

ドイツにとり、オランド氏が勝利した場合の大きな懸念は、氏が求めている欧州連合(EU)の新財政協定の再交渉だ。加盟27カ国中25カ国に財政規律強化を義務付ける協定は、財政緊縮を重視するメルケル首相の強い意向で実現した。が、オランド氏は経済成長も重視すべきだという立場を取る。メルケル首相は27日、「新たな交渉はできない」と改めてはねつけた。

だが、緊縮策一辺倒の危機対応はユーロ圏諸国の経済悪化を招いたとの批判も強く、成長を重視すべきだとの声が増加。25日には欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も同様の認識を示した。
メルケル首相もここにきて、ドイツにとっても成長政策が財政規律に続く「第2の柱だ」と述べ、成長重視の姿勢を強調。新財政協定の再交渉ではなく、妥協策として経済成長のための新たな協定をまとめる案も浮上してきた。

ただ、オランド氏は第1回投票後、協定の再交渉以外に、ドイツが反発するユーロ共同債の導入など4項目をEU諸国に求める考えを表明しており、オランド氏が大統領となれば関係構築に向けた両国の模索が当面、続きそうだ。【4月29日 産経】
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緊縮策だけでは抜け出せないスペイン経済情勢
“選挙”という民主主義システムにおいては、国民に痛みを強いる政策を維持することは困難です。
民主主義という政治システムの限界とも考えられます。

一方、政策的にみても、経済情勢が厳しいなかでの緊縮策一辺倒では、景気悪化、税収減少の悪循環を断ち切れないという問題もあります。財政カットと併せて成長戦略が求められています。

ギリシャと並ぶ信用不安震源地のスペインの経済状況も芳しくありません。
連日、スペイン経済の不調を報じる記事が続いています。

****スペインを2段階格下げ=景気悪化で債務リスク―米S&P****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は26日、スペインの景気悪化を受けて、同国の長期信用格付けをこれまでの「A」から「BBBプラス」に2段階引き下げたと発表した。見通しは「弱含み」で、追加格下げの可能性がある。

ユーロ圏で第4位の経済規模を持つスペインが危機に陥れば、巨額の国際支援は避けられず、小康状態だった欧州の信用不安が再燃する恐れがある。
S&Pは、スペイン経済の悪化で同国の政府債務に関するリスクが高まったと指摘。特に、(1)2011~15年の財政赤字見通しが、S&Pの従来予想よりも悪化した(2)政府が銀行部門に追加支援する可能性が高まった―としている。【4月27日 時事】
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****問題融資20兆円に拡大=昨年末、総資産の60%―スペイン****
イン中央銀行は27日、国内金融機関の2011年末時点の融資残高のうち、問題のある不動産融資が1840億ユーロ(約20兆円)と、同年6月末時点の1760億ユーロから増加したと発表した。AFP通信が報じた。

問題のある不動産融資は、回収できない恐れのある融資に差し押さえた土地や不動産を加えた額で、金融機関の総資産の約60%に上る。スペインの金融機関は08年の不動産バブル崩壊後、不動産関連の問題債権が増加の一途をたどっている。【4月28日 時事】
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****スペイン失業率、25%に迫る 1996年以降最悪に****
スペイン国家統計局は27日、今年第1四半期(1~3月)の失業率が24.4%にのぼったと発表した。AFP通信によると、現在の統計方式となった1996年以降で最悪の水準。前期(昨年10~12月)は、22.9%だった。

第1四半期の失業者数は564万人で、前期と比べ36万5900人増えた。スペインの失業率は欧州連合(EU)の中で最も高く、とくに25歳未満の若者世代では50%を超え、厳しい雇用状況が続いている。【4月28日 朝日】
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若者世代では50%を超える失業率という状況では、社会不安が爆発しないほうが不思議です。
ラホイ首相は3月末、財政赤字を約270億ユーロ(約3兆円)削減する2012年度予算案を閣議決定しましたが、これに反対するゼネストは一部暴徒化する騒動にもなっています。
スペイン政府は消費税増税については「景気回復を遅らせかねない」としてこれを見送り、失業手当や学生の教育費補助にも手をつけませんでしたが、前向きな成長戦略がないと今の状況から抜け出すのは難しそうです。

選挙を前提にした政治システムと実体経済動向の両方から見て、緊縮策だけでなく“プラスα”がないと欧州経済の危機は再び深刻化しそうです。
もちろん、具体的にどうするのか・・・というのが各国見つからないのが現状です。そうなると、嵐が襲うのも時間の問題ともなります。

翻って日本経済を見ると、政治の機能不全が言われ、巨額の財政赤字を垂れ流しながらも、また、低成長から抜け出せないとは言いつつも、失業率は低く抑えられており、また、所得格差の拡大も指摘はされますが、世界的に見ればそんなにひどくはなく、一応“安定した社会”を維持しています。
そんな妙な安心感にもとらわれますが、ただ、それも巨額の財政赤字の引き起こす問題が火を噴くまでの話でしょう。今の段階でなんらかの財政再建に向けた歯止めをかけないと、将来が危ぶまれるのは日本も同じです。
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