これら自動車業界「二大激震」の波紋は、いかほどのものであろうか。まず、トヨタとスズキの提携交渉について、考察してみよう。
トヨタとスズキの提携の行方については、両社のグローバル市場戦略とエコカー環境・自動運転といった安全技術戦略の両面において、両社の思惑が合致するかどうかにかかっているだろう。
トヨタは、トヨタグループ(ダイハツ、日野含む)の2014年☆(2014年は間違い、正しくは2015年です。後述)の世界販売が1015万1000台となり、4年連続で首位となった。ただ、年間販売で1000万を超えたものの、前年比では0.8%減と4年ぶりに前年実績を割り込んだ。
結果的に、ライバルのVWが排ガス不正問題の影響で販売を減少させ、993万600台に留まって自滅したことによる首位確保であり、北米で好調な販売を示した反面、日本国内での低迷や新興国の減速が響いたのである。
このため、今後は新興国・小型車戦略強化に特に力を入れる方針を強めている。そこに、インドで圧倒的な販売シェアを確保しているスズキとの連携という線が出てくる。アジア圏ではトヨタがタイ、ダイハツがインドネシア、マレーシアで強い販売基盤を持つが、いずれも経済の落ち込みで厳しい情勢が続いている。
これに対し、中国に次ぐ人口を持つインドでは、スズキが強固な生産・販売体制を築いて高い収益力を確保しており、トヨタはインドやその周辺での突破口が喉から手が出るほど欲しい状況だろう。
スズキ首脳との懇親会で
筆者が聞いた鈴木修会長の胸の内
一方スズキは、インドやハンガリーなどで独自にグローバル戦略を進め、市場を開拓したカリスマ経営者、鈴木修会長が昨年6月末に長男の鈴木俊宏氏に社長を譲り、かつ懸案だった独VWとの資本提携解消は昨年9月に国際仲裁を経て「離婚」が成立した。「将来のことは慎重に考えたい」(鈴木修会長)とポスト修体制に踏み出したところだった。
筆者は、17日に鈴木修・スズキ会長らスズキ首脳との懇親会において、丸テーブルの隣の席で鈴木修会長と話す機会を持ったが、「年末から年始にかけて知恵熱が出てしまったよ」と冗談まじりに、珍しく体調を壊したことを語ってくれた。それでも「もう大丈夫。色々やらなきゃいかんからな。国内販売は一からやり直し、インドもさらに固めてパキスタンは660ccの軽自動車で供給できるようになるしね」と、意気軒昂な姿を見せていた。
「VWとの決着はタイミング的に良かったですね。で、次の方向はどうするんですか?」と水を向けてみると、「いやー、よく運がいいねと言われるんだが、結果的にはそういうことだな。VWは最初からピエヒ氏とヴィンターコーン氏が常にセットだったな。今後については何とも言えんが、トヨタさんやVWの1000万台クラスとウチのような300万台クラスとでは違うし、それなりに考えんと」と、禅問答のような答えが返ってきたのである。
トヨタとスズキの提携交渉は、水面下で展開されているのだろう。ただし問題は、ダイハツ工業との関係だ。スズキとダイハツは、日本国内で軽自動車販売における首位の座を争い続けているライバルだ。一方で、かつては排ガス規制で苦しんだスズキがダイハツからエンジン供給を受けたこともある。
トヨタは、ダイハツ工業に51.2%を出資して以来、グループにおいて軽自動車を主体とする小型車メーカーとしての位置づけを明確にしてきた。ダイハツ工業の現社長である三井正則氏はダイハツプロパーだが、トヨタ出身の白水宏典技監(元会長)が後ろ盾と言われる。白水氏はトヨタ副社長からダイハツ会長となり、今でもダイハツ内で「白水天皇」と言われるほど、豊田章男・トヨタ社長の信頼も厚いようだ。
その白水氏と鈴木修・スズキ会長は懇意であることから、今回のトヨタによるダイハツ工業の完全子会社化が、スズキとの提携の布石となるのか、注目される。「もっといいクルマづくりを進めるため、ダイハツの完全子会社化も含めた提携・事業再編について様々な検討をしている」と、トヨタもステートメントを出している。
いずれにしても、トヨタ・スズキの提携の行方は、昨年10月10日号の『週刊ダイヤモンド』が特集「スズキ・VWとの離婚でトヨタが注ぐ熱い視線」(ネット版はこちらhttp://diamond.jp/articles/-/79372)において鋭く予測するなど、注目されていたのである。おりしもスズキの鈴木修会長は、「怪物」と言われながらもこの1月30日で86歳を迎えるだけに、スズキの行く末を憂慮しその判断を急ぐゆえんでもあろう。
戦前から日本市場を牽引してきた
米フォードはなぜ撤退するのか?
もう1つの激震である米フォードの日本市場撤退は、輸入車業界並びに国内販売業界に波紋を投げかけた。
フォードといえば、GMと共に20世紀の世界の自動車産業をリードしたビッグ2であったし、日本との関係も深い。しかし、近年では日本市場での販売が大きく低迷し、昨年のフォード車の販売は4968台にとどまった。輸入外国車に占めるシェアは1.7%にすぎない。
とは言え、フォードの日本進出は、第二次大戦前の1925年と古く、当時は横浜・子安工場でT型フォードのノックダウン(KD)生産・供給を展開した歴史を持ち、戦前はトヨタ、日産、いすゞの御三家やGMを凌ぐ日本国内最大のメーカーであった。1970年代(1979/11、Ford25%所有)以降は、マツダとの資本提携でマツダがフォード車販売のオートラマチャンネルを展開するなど、日本の自動車市場・自動車業界との関係が深かっただけに、フォードの日本市場からの撤退に驚く声は多い。
昨年、2015年の日本自動車市場における輸入車販売は、28万5496台、前年比1.6%減と6年ぶりに前年水準を下回った。それでも昨年の日本の新車市場全体は504万6511台、前年比9.3%減となっていることから、輸入車市場は30万台ラインに届かなかったものの、比較的健闘したと言える。特に長年、輸入車市場で首位を続けていた独フォルクスワーゲン(VW)が、排ガス不正問題の影響を受けて販売を大きく減少させ、首位の座をベンツに譲って陥落したことが、輸入車市場全体の減少につながる要因となった。
2015年の輸入車ランキングを見ても、1位メルセデス・ベンツ(6万5162台、7.1%増)、2位フォルクスワーゲン(5万4766台、18.8%減)、3位BMW(4万6299台、1.3%減)、4位アウディ(2万9414台、6.4%減)、5位ミニ(2万1083台、19.8%)とトップクラスはドイツ勢が独占しており、首位の座がベンツに移ったとはいえ、このトレンドはここ数年変わっておらず、特に米国車の低迷状況が続いていた。
日本の輸入車市場で存在感を
失いつつある米国メーカーの決断
日本の輸入車市場は、ドイツ車のブランド人気が圧倒的に高く、VW、ベンツ、BMWが三強と言われ、最近ではこれをVWグループのアウディが追い上げる構図となっている。
今回のフォードの撤退決断以前には、韓国の現代自動車が2010年に乗用車販売から撤退しており、現代自は観光バス販売のみ日本市場で事業を行っている。韓国・現代自動車に続く今回の米フォードの日本市場からの撤退は、日本の自動車市場における国産ブランドの激しい競合と、独車が圧倒的なブランド力を誇る輸入車市場の難しさを、物語るものと言えよう。
加えて、日本の少子高齢化や若者のクルマ離れトレンドの進行から、自動車市場全体が縮小するという先行き不透明感がフォードの決断の背景にもあったように、これらは少なからず自動車業界全体に影響を与えることにもなりそうだ。
かつて日本の自動車市場において輸入車は「外車」と呼ばれ、外車を牽引していたのは米国車であった。フォード、GM、クライスラーは世界のビッグ3でもあり、フォードはマツダ、GMはいすゞとスズキ、クライスラーは三菱自動車と資本提携していたことにより、それぞれの日本車販売店で外車が扱われていたこともある。
フォード車販売と言えば、1974年にはホンダが「HISCO」(ホンダ・インターナショナル・セールス)の社名で子会社を設立し、日本でのフォード車販売を手がけた時期がある。その後、資本提携先であったマツダがフォード車販売チャネルの「オートラマ」をセットアップ(1981年)した頃は勢いがあった。マツダがフォード車のフェスティバを、国内工場で生産・供給した時期もある。フォード車の日本での販売ピークは1996年で、2万5000台に迫るものだったが、それと比べると今や5分の1にまで落ち込んでいるわけだ。
米フォードの現CEO(最高経営責任者)はマーク・フィールズ氏で、2002年までマツダの社長を務めた人物だ。「マツダ帰りのフォード本社は出世する」と言われる中で、トップに登りつめた。そのマーク・フィールズ・フォードCEOは、マツダ社長時代にマツダのブランド戦略「ZOOM−ZOOM」を打ち出したマーケティングのプロで日本市場にも精通している。その米フォードのトップがあえて日本撤退を決断したことは、日本市場でのフォード車販売の採算性を今後とも見切ったということだろう。
米国車の不人気は、特に日本経済のバブル崩壊後に、性能・品質面で日本の国産車やドイツ車に対してきめ細かさに欠ける、燃費が悪い、中古車のリセール価値が低いと批評され、ブランド力を落としていったことが背景にある。
世界5位の自動車販売を誇る韓国・現代自動車も、日本市場だけは食い込めなかった。現代自動車は2001年に日本市場に参入して、「ヒュンダイを知らないのは日本だけかもしれない」などのキャッチフレーズを駆使し、日本法人のトップをトヨタから引き抜いたりするなどしたが、結局乗用車販売から撤退し、日本事業では観光バスだけを残している。
グローバル戦略の選択と集中を
促す自動車市場の「二大激震」
今回のトヨタ・スズキの提携交渉と米フォードの日本市場撤退といった動きを見ると、各社がグローバル市場戦略における「選択と集中」を明確にしなければならない時期を迎えているように思える。
新興国を見ても、今や中国は世界最大の市場となって新興国の範疇ではなくなり、その伸長率も鈍化してきた。BRICsと呼ばれた地域も経済格差で明暗が分かれる状態になってきた。そんななか、自動車市場で「どこを攻めるか」という話になると、世界的に見ても日本の自動車市場は先行きが厳しいという見通しにある。
それでも、日本の自動車産業は母国市場、母国生産の確保によって、グローバルを睨んでいかねばならないのである。トヨタ・スズキ提携交渉、フォード日本撤退がもたらす「二大激震」の波紋を、注意深く見守りたい。
http://diamond.jp/articles/-/85384
☆トヨタ、世界販売1015万台 2015年 4年連続の世界首位
2016.1.27 14:01更新
トヨタ自動車が27日発表した2015年の世界のグループ販売台数(ダイハツ工業、日野自動車含む)は、前年比0・8%減の1015万1千台だった。ダイハツの軽自動車の不振などで前年割れとなったが、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)を上回り4年連続で世界首位を死守した。
トヨタのグループ販売が1千万台を超えるのは2年連続。VWは15年上期(1~6月)に首位だったが、排ガス規制逃れ問題などの影響で前年比2・0%減の993万600台。3位のGMは0・2%増の984万786台だった。
トヨタは16年も1011万4千台の販売を計画し、世界首位の座を維持する構えだ。
http://www.sankei.com/economy/news/160127/ecn1601270031-n1.html
Bセグメントに属するフォード・フィエスタは、日本のヴィッツやフィット、デミオなどのモデルと同じ範疇に属すると言う。ヨーロッパではVWポロやプジョー・208などがライバルとなっているが、それらを押さえてベストセラーとなっているとWikipediaに記載されている。きっとマツダを傘下に収めていた時に小型車の作り方を学んだ結果だったかもしれない。
(続く)
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