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企業ファースト化する日本

2019-08-23 | 気になる本

竹信三恵子(2019)『企業ファースト化する日本―虚妄の「働き方改革」を問う』岩波書店

 トランプのアメリカファースト、小池知事の「都民ファースト」などファーストは流行したが、トランプは環境、貿易、軍縮など国際協調を無視し自国の利益優先であり、小池はオリンピックに待ったをかけたが結局歯止めなき事業費拡大(8000億円が3兆円。しかも暑い陸上協議、臭い東京湾)、築地の移転も都民ファーストとは遠い。本書では、「世界1企業が活躍しやすい国」を目指す安倍政権は、労働規制を大幅に緩和。いま「働き方改革」の名のもとに、働く者の権利も、労働環境も、セーフティネットであるはずの公共サービスも、企業のためのものへと変質させられようとしている。裁量労働制と高プロなど言葉巧みに打ち出す労働政策は、労働者の意見を聞かず財界の希望に沿った規制緩和である。国会論議や現場の声を取材し、改善策も提言している。丹念に経過を追いながら、政府の虚妄の改革案の本質に迫る視点とロジックは、なるほどと小気味よい。以下、そのエキスをメモ書きする。(  )内は私のコメント。

 プロローグのフェイクとしての「働き改革」で、森友学園をめぐる「文書改竄問題」で国会が揺れていたが、「安倍さんは雇用や経済で成果を上げてきたんだし」、と声をテレビで報じていた。北朝鮮や中国、韓国(徴用工、輸出規制など)への政権の強腰の対応は、経済の停滞によって失われた自信を回復したいと願う国威発揚志向層を癒す「日本が一番」キャンペーンとして効果を発揮する。フェイクの裂け目が生じたのは、「裁量労働制データ改変問題」(それから「毎月勤労統計調査」、年金不足報告書など続々と。予算委員会も開かず、参議院選挙を行った。)だった。有効求人倍率が高い水準だが、生産年齢人口が減れば、景気が良くならなくても、求職者数が減った分、求人倍率はあがることもある。(非正規も含まれている。ブラック企業もある。賃金はあがらないなど問題もある。)複数の短時間の求人を出す場合も増え、早期に辞める若者も目立ち、雇う側は求人を増やす。(3K職場では求人募集しても人が集まらない。だから文句が言いにくい外国人が欲しいとなった。で、19年4月外国人労働者拡大。豊田市もバスの運転手が集まらないというが、賃金など労働条件が悪いのではないか。)求人倍率など中身を確かめ、働き方の質を高める工夫をこらす労働政策が必要である。本命は「労働者保護」の大転換で、「企業ファースト」である。フェイクを見抜き、情報を共有し、有利な条件を生かし「あの手口」を押し返すネットワークを広げることである。

 1日を長時間働かせ、仕事量も人件費も変えずに「週休2日対策」に原点がある。企業の負担軽減を最優先し、労働者の社会的参加を失い組合活動などが弱体化した。労働法制改悪の根拠に、06年の「日米投資イニシアティブ」がある。15年派遣法の大改悪、解雇の金銭解決を高プロへと衣装替えした。オランダは働き手が労働時間を選ぶ権利を規定している。

 人件費を抑える経営手法が定着した中では、企業利益が上がっても、働き手には賃金は回りにくく、「トリクルダウン」はあり得ない。「残業の上限規制」は、生活時間を侵害してきた日本企業の労働時間への裁量権を、法で追認した。「日本型同一労働同一賃金」も、労働の対価というよりも「忠誠心」など会社(上司)の主観がものをいう賃金決定の仕組みを非正規も織り込んだ。(内閣人事局を政権が握り、国家公務員は「忖度」が進んだ。国民の利益よりデータを「改竄」し政権に取り入り、自己利益を優先している。森友で改竄の関与、指示者の責任は負わず、実行「主犯者」は栄転した。裁判所までが幕引きを図った。前川さんのようなまともな公務員は減り、官僚制度の終わりが始まった。地方公務員も成果主義賃金で同じようなゆがみがある。賃金格差、地域手当も格差を広げている。)

会計年度任用職員」(20年施行)は、官製ワーキングプアとされる臨時・非常勤職員の処遇改善に一定の前進が評価できるという意見もある。地公法では「一時的な職」としているが、常態化している。休みや一時金を少しつけて、1年職員を増やす危険が高い。特別職の労働基本権の制限や、公共サービスは安定した常勤が担うことからその質を確保する必要がなくなる。バブル崩壊後の90年代末に起きた民間企業の大リストラと、雇用の規制緩和の中で急増した働き手の非正規化だった。そんな中で、「安定した仕事」、「自分たちの金(税金)でいい思いをしている」など怨嗟の対象となり、公務員たたきへとつながったのでは。

 指定管理者制度は、「小さな政府」へ向けた新自由主義的改革を目指して、80年代に英国に登場した市場原理導入にならったものといわれた。

 官邸は、経産省・リフレ派有識者・財務省の3つのプレーヤーと連携し、「日本経済再生本部」と参加の「産業競争力会議」などの首相直属機関を拠点に、国家戦略特区を通じた議会外しの手法も活用しつつ、政策に疑問を抱く省庁や一部の企業人などの「抵抗勢力」を排除して「円滑に」物事を、「決める政治」を実現した。

 16年には、報道ステーション古館、NHKクローズアップ現代の国立、NEWS23の岸井など、政権に対して直言してきた主要キャスターの降板が続いた。視聴率の低迷というが、政府の圧力も関係ないといえない。14年衆院選では自民党から「公正な報道」を望む文書が出た。SNS「自民党ネットサポーターズクラブ」も立ち上がる。国境なき記者団の報道の自由ランキングは18年67位と低い。金融緩和で円安が進み、大手輸出企業は好調になる。原発事故の状況はコントロールされている、と発言し五輪も誘致された。「株高、円安、五輪」という日本の高度成長期を象徴する舞台背景が出来、安倍劇場での「日本の復活」劇となり、それが安倍政権の人気の支えとなった。労働政策への人材政策の浸透も急ピッチで進んでいる。見た目は変わらないまま、行政のさまざまな部門に営利企業が入り込んでいる。労政審も、労使、公益の3者以外の委員が増えている。

 人件費を上げたら日本は潰れるか?「賃金が上がらないから日本は潰れる」方向にきている。岡田知弘は、「日本は資源が少なく少子高齢化が進んでいるので輸出で稼ぐしかない」といった論に、「輸出それ自体では経済的価値は増えない」と述べる。国民所得の中で最大の比重を占めるのは雇用者報酬で、そちらに富が回らないと国民所得も伸びないと指摘する。

 イタリアの政治経済学者のバルトリーニは、①大企業からの献金への依存を減らすための政党への公的助成金の支給と、その上限の妥当な水準の検討、②政党の選挙への支出の厳格な上限設定、③政党が利用するコミュニケーション手段及び広告の利用の制限、④政党のブレイン集団と企業団体との間に流れる資金や人脈を規制する新しいルールの策定。経団連は18年、「主要政党の政策評価」を発表した。会員に「日本経済の次なる成長のステージに向けた政策を進める政党への政治寄付を実施するよう」呼びかけている。少ない資金力でも情報拡散に力を発揮できるSNSを、「働き手からの働き改革」のためにどのように取り返していくかは、課題だ。ソウル市政の取り組みで、「労働尊重都市」、「人間中心の交通政策」が注目されている。

 エピローグ 忘却を乗り越える。矢継ぎ早に、大量に政策案が繰り出されては、有権者の反応を見ては引っ込められ、すぐさま口当たり良く衣替えした案が再登場する。そんな事態が、この間続いた。こうした政策案の洪水に、私たちの記憶は次々と上書きされ、導入された政策も忘れられ、それが成功したのか失敗したのか、どのような効果を私たちにもたらしつつあるのかさえ、わからなくなっていく。最後に、18年に森岡孝二先生が急逝されたことが紹介されている。

 (*この本は、2時間ほどで読めた。句読点が短く読みやすい。だけでなく、現場を調査ヒアリングし、 文献もあたり分かりやすいロジックで構成されている。が、このメモをまとめるのに6~7時間は費やした。その価値はあると考える。労働者、年金者、立憲野党の支持者にお勧めである。)

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