Con Gas, Sin Hielo

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「マリッジストーリー」

2020年01月19日 16時34分46秒 | 映画(2020)
気付いたら、きりもみ回転。


チャーリーとニコールの夫妻が互いにパートナーの特徴を紹介する冒頭。相手は自分にないものを持っていて、それでとても助かっている、というナレーションの背景で、息子のヘンリーを入れた賑やかで幸せな家族の光景が流れる。

しかし現実に戻ると、それは離婚調停に向けての過程において弁護士に列挙させられた相手の長所に関する記述の下りだったということが分かる。

相手の長所を探してみれば結婚当初の気持ちを思い出して違う展開が訪れるかもしれないという弁護士の思惑は外れる。ニコールの感情は既に臨界点を越えていたのだ。

夫婦に限らず血縁者であっても他者と生活を共にするのであれば少しずつの我慢は必要だ。そして相手の気遣いを理解し、常に感謝の気持ちを忘れないことが共同生活の基本である。

チャーリーもニコールも頭では分かっているし、相手の配慮にまったく気付かなかったわけではない。だからこそニコールはまずは一旦離れてLAでヘンリーと生活させてほしいと申し入れたのだ。

しかし、LAで新たに敏腕の弁護士と話をする機会を持ったことから二人の、いや家族の関係はまったく計算していなかった方向へ動き出す。弁護士は冷徹に客観的にニコールの立場を捉え、彼女が有利になるよう徹底した策を練る。

少なからずチャーリーへの配慮の気持ちがあるニコールにはとてもできない戦術に最初は戸惑うが、それ以上に彼女は疲弊していた。とにかく任せることが最善だと言い聞かせる。

となると困惑するのはチャーリーである。個人で弁護士を雇うなんて聞いていなかった中で、いついつまでにこちらも弁護士を雇わないと欠席裁判でヘンリーの養育権をはく奪するといきなり脅しのような連絡が来たのだ。

適正な司法が存在する社会においては、客観的で公正な結果を求めるのであれば裁判がベストであることに疑いはない。それでも弁護士を介した夫婦の主張は、時に必要以上に鋭くお互いをえぐる。

手続きが進む間にも夫婦だけで会う時間は訪れる。会えばお互いの気持ちが分かる。傷つけ合うのは本望じゃない。「やっぱり私たちは話し合いが必要」と言って自分の気持ちを正しく伝えようと話し出すが、図らずも感情的な口論に発展してしまう。

どちらが悪いのか、ではない。何がきっかけでこうなってしまったのか、でもない。愛情も思いやりもあって、周りの人と良好な関係を築いていける人であっても、何かのタイミングで急速に関係が壊れていく様子は、もはや不条理でしかない。

脚本はどちらにも過度に肩入れすることなく、双方の良い面も悪い面もフラットに描いている。

ニコールがLAで弁護士を雇ったことが直接の契機だっただけに、はじめはニコールがもう少し我慢すればいいのにと見ていたものが、段々とチャーリーも良くないよねという面が見えてくる。

相手の弁護士に責められたこともあって、チャーリーはまったく余裕をなくしてしまう。その時彼は初めてニコールが感じていた息苦しさを体感することになる。NYへ戻った彼が夜のクラブで歌う姿の悲壮感は心に刺さる。

夫婦の関係に徹底して焦点を当てる中で、矢継ぎ早に訪れる悲しみと怒りとやるせなさをS.ヨハンソンA.ドライバーが全力で演じる。これだけの感情むき出しはアクション映画より疲れるのではないかと思うほどだ。

二人はオスカーの主演賞にもノミネートされている。ネット配信作の目玉となるか期待するところである。

(75点)
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