朝の散歩から帰ってくると、テーブルの上のテーブルクロスがビショビショになっていた。何かをこぼした記憶もなく、その辺にこぼれるような水が入ったものはない。一体何の水だということになり、考えられる唯一の可能性は、アンがオシッコしたのだろうということになった。
「散歩に連れて行ってもらえないから、怒ってテーブルクロスにオシッコしたんだよ」とタミちゃんは言う。そういうことは、犬の場合にはたまにあるということを聞くからだ。が、猫も同じようなことをするのだろうか。そもそもアンは、我が家に来た日から今まで、トイレで失敗したことは一度もなく、用を足した後はしつこいくらい丁寧に後始末をしている。
ともかくテーブルクロスを洗濯しなければならないので、脱衣場に持って行くと、そこも驚くほどビショビショになっていた。テーブルクロスから落ちた水の量にしては、明らかにおかしい。ふと風呂場をみると、普段はしっかりしまっている風呂の蓋が少しだけ開いているではないか。原因はこれか、と初めて合点がいった。
どうやらアンは、僕らが散歩に出た後、家の中をあちこち探検したらしい。時々まだ温かい風呂の蓋の上にいるアンの姿を目撃したことがあるが、今朝も風呂の蓋の上に飛び上がったのだろう。ところが、ちょっとだけ蓋が開いていたせいで、そこから残り湯の溜まった浴槽へと、ボチャンと落ちたに違いない。
アンの体に触ってみると、下半身が異常なくらいビショビショになっている。これはオシッコをしたくらいの濡れかたではない。僕らが出かけて留守になった家の中で、濡れネズミになったアンは、テーブルクロスの上で下半身の濡れたのを何とかしようとしたのである。
家の中でも朝は0度に近い我が家での留守番で、アンの体はすっかり冷たくなっていた。慌ててコタツに火を入れると、アンは真っ先に中に飛び込んで行った。
2時間ほど放っておいた後のぞいてみると、すっかり乾いてアツアツになったアンが、伸び伸びと長くなって眠っていた。