朝、NHKのテレビ番組を予約録画して散歩に出た。散歩から帰って、ゆっくり朝飯でも食いながら見ようと思ったのだ。番組はNHKが長期にわたって密着取材したメジャーリーグの大谷くんの特集だった。
大谷くんの活躍は、今更説明もないほど日本どころか世界中の人が認めるところである。番組では身近にいるいろんな人にもインタビューしていた。「彼はなんでもできる怪物だ」、「昨日できなかったことが今日はできるようになっている」と、その才能について信じられないという話ばかりだったが、NHKは少年野球で教えている大谷くんの父親にもインタビューしていた。「どう育てたら、ああいう選手が生まれたのか」と、おそらく子育てをするすべての親が知りたいようなことを質問していた。
それに対して父親は、ほかの野球少年と同じだった。とりたてて才能もなかったと答えている。ただ、野球がうまくなるために息子にアドバイスしたのは、「全力で取り組め」というそのことだけだった。それ以来、大谷くんは毎日の反省をノートに記録する。試合で凡打した時に全力でベースまで走らなかったとか、もうちょっと全力を出せたのではないか、というようなことを書き残りして行くのである。
そしてそれは、大リーグに挑戦している今でも実施していることが、彼のインタビューからわかる。なぜできないかを考え、そのための努力をすることが楽しいと言う。他人にできることなら、きっと自分にでもできるに違いないと考えて、努力を怠らない。チームメイトの大リーグ選手が、インタビューでこう答えていた。「彼は今でもうまくなっている」と。
テレビを見ているうちに、大谷くんがやっていることは、その時その時に全力を出しているだけなんだな、と思うと、まさに目からウロコである。大谷くんの目標は、今でもうまくなりたいことだと彼自身が口にしている。野球がうまくなることが、人生で一番楽しいことなんだと思っている。有名になったり、他人に影響を与えたり、大金を稼いだり、といったようなことは、一番楽しいことではないのである。
さて、最近の風潮と言えば、「どうすれば楽ができるか」ということに重きが置かれ、なるべく面倒を避けようとする。他人が四苦八苦している時、出し抜いてでも自分が楽ができたとしたら、それはいいことだという考えが蔓延している。
なるべく楽をして結果を出すこと。なるべく簡単にゴールにたどり着くこと。こういうふうに大人が考えれば、その子供たちは必ず影響を受け、他人に迷惑をかけない程度ならサボったほうが得だと思い、手を抜いても良い結果を出ればそれが最善だ、というふうに考えるようになっても不思議ではない。
こうして育った子は、「些細なことでも全力でことに当たりなさい」と教えられた大谷くんとは、正反対の道を歩くことになるのだろうか。