三春の図書館から借りてきていた冒険家・三浦雄一郎さんの「高く遠い夢ふたたび」を読む。「ふたたび」というのは、75歳のときに同じ題名の本を出しているのだが、どうしても同じタイトルでということで「ふたたび」をくっつけたらしい。
三浦さんが80歳でエベレストのてっぺんに立ったというのは、皆が「凄いなあ」とは言うが、どのくらい凄いことなのかほとんどの人がわからない。本に書いてあるが、エベレストのテッペンというのは、動作も脳の回転も20歳が90歳になるという。80歳でエベレストに登るというのは、150歳の人が運動しているのと同じようなものだ。
が、それでも僕らにはその凄さが今ひとつピンと来ない。スポンサーもマスコミもついているし、サポートしている人たちも凄い人ばかりだしで、それだったらなんとなく登れそうな気がする。本当はそんな甘っちょろいものではないのは、サポートについた人たちが最初は誰しもが絶対無理だと思っているのでもわかる。エベレストに登るというのは、運動能力の優れた選ばれた若者でも、五人にひとりは死ぬような世界である。80歳で登るというのは、最初から死にに行くようなものなのである。
けれども、冒険家・三浦雄一郎さんの凄さは、たとえ1%でも可能性があるならば、そこから一点突破で、1%を2%に、2%を5%にすることで少しでも可能性を見いだそうとすることだ。不整脈があり登山は無理だと医者に言われれば、何度でも手術を受ける、という具合に。
登頂後、30分で降りるところを50分滞在したため三浦さんは体力を失い、ギリギリの状態で下山する。山登りの事故は8割が下山時に起きる。結局ベースキャンプまでの下山は、三浦さん自身どころか同行者の命も危険にさらすことになるということで、途中でヘリコプターの救助を要請する。どれだけ死の瀬戸際まで行ったのかは僕らには想像できない。ただ、そういう場所に夢があるという凄さというのは、何となく感じることができる。