暴風、吹き荒れる

　東北地方には、春一番は吹かないことになっている。なぜ吹かないかというと、「春一番です」と言った後に、ゴソッと大雪が降ったり積もったりするので、「春一番と言ったじゃないか。それなのに全然春らしくないどころか、まだまだ真冬だ」ということになることが多いからだ。だから、どんなに強い南風が吹こうが、春一番ではないということになっている。

　正確には、春一番が吹かないのは東北ばかりではなく、東北より寒い北海道、甲信地方、それから厳しい冬がない沖縄でも春一番という名前の風は吹かない。長い間「春一番」と聞くと、ああ春だなあと感じていたが、福島で暮らすようになって「春一番」はないと聞くと、なんだかとっても寂しいのである。

　もっともそうは言っても風の強い日はいくらでもある。この二日間、台風が来たんじゃないかというくらい強風が吹きまくった。風速25メートルというのは、まっすぐ立ってられないくらいの強さだ。ニュースではあちこちで転んでケガをした人がいると言っていた。

　今日はようやく風もおさまり、朝から穏やかな晴れ間が広がっている。預かっていたトイプードルも昨夜のうちに引き取りに来てくれたので、今朝はテオだけの散歩だ。強風で我が家は壊れそうだったが、家の周りを確認したところ、被害はまるでなかった。良かった良かったと歩いていると、一軒の庭先にあった倉庫が、風で横倒しになっているのに出くわした。地面にコンクリを流し、倉庫を金属の杭で止めてあったのに、そのコンクリごと地面から剥がされているのだ。おまけに倒れた倉庫が、エアコンの室外機を直撃し、押しつぶれているように見える。朝早いので、まだその家の人は起きていないかもしれない。外に出てこの惨状を見たら、ガッカリするだろうなあと同情しながらその場を後にした。

　風が止むと、顔を見せなかった野鳥が我が家にやって来る。裏の雑木林からはウグイスの声が聞こえてくる。スズメやシジュウカラが我が家の給餌台のひまわりの種を狙ってやって来る。







　天気予報では、再び明日から真冬に逆戻りだそうだ。春と冬が交互にやって来るが、こんなことが4月の下旬まで続くのが東北なのである。