日々草

「つれづれなるままに・・」日々の事を記す。

美術館ミステリー 「信濃のコロンボ 失われた時を求めて-敦煌の砂埃と長野の霧に消えた女」

2023-09-27 | ギャラリー

ブログを書いていないが故に時系列がめちゃくちゃで、なんなら時空を飛び越える話で恐縮ではあるが、先だっての「ツタンカーメンの青春」展にいったときに長野県立美術館の新装開店(?)で行われた「スーパークローン文化財」展をおもいだしたのだった。

スーパークローン文化財
文化財の保護・保存・活用」という観点で文化財を周辺の環境までも含めて再現したもの。
流出や消失した世界中の文化財を最新のデジタル技術をつかって精密に復元する技術

 

劣化・損傷は経年という要因だけではなく、急激な気候の変化や戦争や紛争という要因もある。
その場にあってこそのものもあるし、物理的に動かせないものが圧倒的に多いなかで、保存・補修をスーパークローンという「技術」で補うことは本当に大切なことだ。
美術館の使命として保存・補修そして活用と、時に矛盾すらはらむ状況をいかに乗り越えて、この「財」を後世に正しく継承していくかが問われている。
本物より本物らしくすることによって得られる技術、ついには技術そのものを継承していくことになるわけで、偽物だといってしまえばそれまでだけど、偽物にも大義と思うのだ。
ツタンカーメン王墓の副葬品のレプリカもそれはそれは見事であったもの!
彼の者を「彼」とよばせる人間味と親近感そして王様とは権力のシンボルであり、やっぱり富は権力は同義だと納得させるものたち。
技術によって複製がオリジナルを超えて意義をもつ。
当初の意図や意匠をみることができるのはスーパークローンだからこそのもの。


さて、長野県立美術館のスーパークローン展示をさらに印象深くしたのが展示会開催の理由であった。
なぜにこけらおとしがスーパークローン展だったかということを知って、美術館にまつわる秘密にふれたようで、美術館という場所がいままで以上に興味深い場所となる。

 

 

 

それはまるで、美術館ミステリーシリーズ 「信濃のコロンボ 失われた時を求めて-敦煌の砂埃と長野の霧を消えた女」。


プロローグ
濃い霧がでてきた。視界はあっというまに白濁して隣にいるはずの人の姿もみえない。
霧はさらに濃くなり、周りの世界とどんどん切り離されていくなかで、空を見上げくっきりと浮かび漂う雲を食べたらどんな味がするだろうと夢見たころ、
頬を撫でていく風を感じながらわた菓子のようなふわふわの雲のうえで昼寝をしたいと願っていたころをおもいだしていた。

霧がうごき遠ざかる足音がきこえた。そしてうなり声のような一陣の風。
その風でわたしは霧ではなく、敦煌の砂埃に視界を奪われていたことに気が付いたのだった。
つつむような霧ではなく、なにもかもをのみこみ隠す砂。 

「そこにいるのは誰?」
風のやってきた方に顔をむけるとそこにはマメクロゴウチのワンピースに身を包んだ女が一人倒れていた。
手には食べかけのマドレーヌ・・・・・・・・みたいな。

 

 

新しい美術館の最先端の建築、すばらしい設備で最高のアートを提供するという理想を阻むゆゆしき事態、難問、大いなる事件がおこるのである。
それは誇るべき新しい美術館という箱の多くは鉄筋コンクリート造であり、つまりコンクリートが使われている。
躯体に打設したコンクリートや仕上材からアンモニアなどのガス成分で文化財や作品が変色をさせてしまうことがあるらしい
だからすぐには展示品搬入を避けるのだという。その時期約一年。
多くの人にすばらしい美術館を文化財や作品とすぐにでもとどけたいのに、一年間は枯らし期間として貴重な美術品等の展示ができないのである。
立派な美術館に美術品がないなんて事件以外なにものでもない!!

 

そこへ中村梅雀がコートをはためかしてさっそうと登場するかのごとくの救世主 スーパークローン。 


どんな難解な問題でもさらっと解決するコロンボのおでましである。
つまりスーパークローン展とは本物は展示できないが、本物以上の本物であり、美術館の使命を体現しうる展覧会となるということである。
美術館が本領を発揮できない不毛の時間をなくし、特別に企画された展覧会でアート界に爪痕をのこす展覧会。
何より、新しい美術館を早期開業させたいという思惑にもぴったり合致し、世界各地の至宝を集めた奇跡の展示ともなれば集客のネタもバッチリ!

とまあこんなあんなで記念すべき初めての展覧会としてスーパークローン展は開催されたのである(多分)
BGMは中島みゆきの「地上の星」ナレーションは田口トモロヲでお送りするドラマであり、
原田マハの小説のごとく。なんなら本家のコロンボも登場させとく?

 

すごいねーなんて赤子レベルの感想で展示をみてしまうけど、舞台裏やら準備段階を考えると展覧会ってなかなか壮大なプロジェクト。マドレーヌをたべなくても記憶と情景が解き放たれていくんだから。


行きたいと思った展覧会にはちゃんと行かないと後から後悔することになるのだよ。
日本全国各地にある立派な美術館をみて箱もの無駄遣いなんてことを1mmも思ってはいけないのだ。
最近アフター5に出かけるなんて、根性および体力がない夏バテ気味の自分に発破をかける必要あり。
ホックニー展は11/5 山口晃は11/19迄 ミヤケマイは今月中!

ちなみに文中に登場した霧は長野県立博物館アイコン作品である中谷芙二子の《霧の彫刻#47610》。
美術館の制服はマメクロゴウチのワンピース。

  マドレーヌは売っていない。

 


そして長野県立美術館は東山魁夷画伯の作品を展示している「東山魁夷館」を併設しており、こちでは真筆の幽玄に出会える。 
もうスーパー救世主となったクローン美術品には出会えないけど、本物に出会える場所になった長野県立美術館にまた行きたい!